長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

128. 新年の彫り初め(ほりぞめ)。

2014-01-30 17:26:19 | 版画

平成26年、絵画作品の描き初め(かきぞめ)が水彩画なら、版画の彫り初め(ほりぞめ)は昨年同様、木口木版画となった。昨年末より、いくつかの版画のオーダー作品を制作していて年が明けてからも、それらを継続制作している。

以前にもブログに書いたが、僕の場合、現在版画作品はイメージサイズによって技法を変えている。公募展などの大きな会場に出品するものは板目木版画、中間の大きさは銅版画、小作品、ミニアチュールは木口木版画と意識的に使い分けているのだ。版画家によっていろんな考えがあると思うが、僕自身はそもそも版画技法というものは潜在的にイメージサイズを持っていると思っている。今回、受けた仕事のうち蔵書票が1点含まれる。西洋では蔵書票を木口木版画で彫ることは、ごく一般的なことである。それは、ビュランと呼ばれる細い彫刻刀で彫り上げるこの技法の持つ緻密な線表現が蔵書票のイメージサイズに合っているのだろう。

コレクターからの希望で「モチーフは中国の伝説に登場する馬の幻獣でお願いしたい」と言うことだった。いろいろ迷った挙句「一角獣」に決定した。『一角獣』のイメージはシルクロード文化圏に広く分布している。どうやら大元となるのはオリエント地域のようである。これが西へヨーロッパまで伝わると『ユニコーン』となり、東に中国まで伝わると『ジ(漢字変換ができない)』という一角獣となる。その姿は犀のようなもの、獅子の体を持つもの、有翼のものなど変化に富んでいて、古より多くの図像が残されている。

この2週間ほど、朝から夕方まで集中力を絶やさないように彫版の作業を進めているのだが、ルーペを使った細かい彫りを強いられるので目の疲れからくるのだろう、首や肩をはじめ上半身がアチコチ痛い。五十肩も加わっているようだ。今の所、良いペースで作業が進んでいるので、来月末まで目や肩を労わりながら制作を続けようと思う。画像はトップが木口木版画の蔵書票を彫る手、下が左から一角獣『ジ』の複写図像、各種版木と使用中のビュラン(彫刻刀)。

 

       

 


127. オディロン・ルドン -夢の起源- 展

2014-01-22 21:12:20 | 美術館企画展

このルドン展が良かった!! 先月の13日、新潟市美術館で開催されていた『オディロン・ルドン-夢の起源-』展を観てきた。たまたま新潟市内2か所での個展開催中に知った展覧会だった。画廊に置かれていたチラシを見ると絵画作品が多く出品されていそうである。こんな近くに敬愛するルドンが来ているのだから観て行かない手はない。と、言うわけで個展会場にしばらく在廊してから新潟市美術館に向かった。

絵を描き始めてから今までに、いったいいくつの「ルドン展」を観てきたか憶えていない。特に好きな画家ということもあるが、企画展が多いということは、それだけ日本でも根強い人気のある画家なのだろう。ルドンは印象派と同時代にあって、特異な存在の画家である。同時代の画家たちがひたすら外光と色彩の科学的分析をしていた頃、物語性と自己の内面世界を追求した人であった。今まで観てきた企画展ではだいたい初期から晩年までの作品を時系列に並べているのが常だった。初期の風景や樹木を写実的に描いた絵画・素描作品から始まって、ボルドーの版画家ロドルフ・ブレスダンとの出会い、ポーやボードレールなど同時代の文学者からインスピレーションを得て制作を始めたモノクロームの石版画作品集の数々…そして晩年、色彩に開眼してからのパステル画や油彩画の大作と、追って行く。今展も御多分にもれずこの方法をとっていたが、普段よりも絵画作品が多い。それもルドンの故郷であるボルドー美術館のコレクションと日本で屈指のルドン・コレクションを誇る岐阜県美術館の収蔵作品が出品されていた。僕、個人初めて観る絵画が多くうれしくなってしまった。特に岐阜県美術館はいつかはルドン作品を観に訪れたいとも思っていた。

その中に数点、『アポロンの戦車』や『オルフェウスの死』、『スフィンクス』など神話世界を題材とした比較的大きな作品に見応えのあるものがあった。ルドンの絵画は不思議な魅力に満ちている。近づいて見るとかなり粗い筆のタッチなのだが、光と闇、明暗の構成がしっかりと仕上がっている。長いモノクロームの版画制作時代に会得した技なのだと思う。地方都市での企画展ということもあって会場も空いていて、1点1点ゆったりと贅沢に観ることができた。東京ではこうはいかない。これだけの内容であれば間違いなく他人の頭越しに観ることになる。「偶然とはいえ、こんな展覧会との出会いというのも、たまにはあるんだなぁ」 ひさびさにかなり得をした気分になって会場を後にした。画像はトップが絵画作品『アポロンの戦車』の部分、下が会場入り口の看板、絵画作品『オルフェウスの死』、『花の中の少女の横顔』の部分(いずれも展覧会図録から複写。

※展覧会は昨年、12月23日で終了しています。

 

      

 

 


126. 新年の描き初め(かきぞめ)

2014-01-10 20:25:57 | 絵画・素描

新年の書初めと言えば一般的には書道である。子供の頃、癖字で書が苦手だった僕は冬休みの宿題として家族の見つめる中、額に汗して何枚も書き直した記憶がある。そして今でも書道が得意な人にはあこがれのような気持ちを持っている。

今回の話題は絵画作品のお話し。一応、絵画や版画制作を30年以上も続けてきた僕の新年の描き初め(かきぞめ)はやはり絵の制作である。今年の描染め作品は水彩画。お題は昨年暮れよりラフスケッチをあたためていた『オイディプスとスフィンクス』。ギリシャ神話をテーマとした西洋絵画に定番として描かれる物語場面を描いた。近世フランスの画家、アングルやモローの油彩画は特にその傑作として有名である。スフィンクスは上半身が人間の女性で下半身がライオン、背中には鷲の羽が生えた魔性を持つ幻獣である。スフィンクスが住む岩山を通る人に謎かけをし、それに答えられなかったり、間違った回答をすると連れ去って食べてしまうという恐ろしい性質を持っている。物語はザックリ書くと、スフィンクスの恐怖に悩まされる市民を正義感の強い王家の青年オイディプスが救おうと立ち向かい、謎かけの難問に正解しスフィンクスが身を投げて死ぬという筋書きである…その両者の出会いの場面を4号大の紙に描いた。

手法は昨年の個展から試みているネパールの手漉き紙に水彩とアクリルを併用したもの。吸い込みの強い紙だが、日本画家の知人に新しく開発されたドーサ液(にじみ止めの画溶液)を進められ使い始めてから紙の扱いや描画が楽になった。物語性が強くなったので両者の関係を表現するのに苦労したがなんとか仕上げることができた。描き初めも無事終了!2014年もこれに弾みをつけて制作に精進して行こう。画像はトップが僕の左手と制作途中の水彩画、下が制作途中の部分図と固形水彩絵の具。

 

   

 


125.初グルメ

2014-01-06 15:34:55 | グルメ

今回は初グルメブログである。ある意味でブログ界の定番ではあるが、実はこれだけはなかなか抵抗があって書けないでいた。しかし、カテゴリーの中に組み込まれてしまっているので更新しないわけにはいかない。

前置きはともかくとして『鰻』の話。師走に地元名刹である『成田山新勝寺』をお参りした。工房から近いということもあり、一年に何回かはお参りをする。美しく整備された日本庭園を散策してから大本堂での護摩修法に参列し、帰り際に表参道の老舗鰻店『川豊』で鰻重を食べるのが定番となっている。はっきり言ってここの蒲焼は絶品である。成田周辺に鰻屋は数多くあるが、一度ここで食べてしまうとなかなか他では食べられない。タレ、焼き具合、米と三拍子そろっている。それに肝吸いとシンプルな漬物が付けばもう言うことはない。この店はここ数年のウナギの高値の中、値段をあげないでいることも特筆である。お昼時は一年中、行列ができている。特に新年1月15日までの初詣のシーズンは混雑していて長時間並ぶことになるだろう。お勧めは普段の2時過ぎ頃をねらって行くのが良い。

鰻重でお腹がふくれたら、参道の物産展をのぞいて行こう。いろいろと地域の名物はあるが、その中で特にお勧めなのが『つくだ煮』。成田は印旛沼という内陸水面の湖沼が近い。県外の人にはあまり知られていないが印旛沼漁協があって、昔から内陸水面漁業がさかんである。フナ、ザコ、アミ、クチボソ、テナガエビなどがスタンダードだが、魚系ではないイナゴもうまい。『茂平』という銘柄のものがTVのグルメ・レポ番組でも紹介されて有名だが、他のものもあまり味に変わりはない。歌舞伎の佐倉惣五郎で有名な新勝寺に近い宗吾霊堂というお寺の門前にも小売店がある。東京や神奈川に住む食通の知人におみやげとして持たせたところとても好評で「酒の肴としても晩御飯のおかずとしてもおいしかった」と喜ばれた。まだ初詣に行かれてない方は新勝寺を訪れてから鰻重を召しあがり、お土産にはつくだ煮をどうぞ。画像はトップが『川豊』の鰻重、下が『茂平』のつくだ煮と新年の準備を終えた成田山新勝寺境内。

 

   

 


124. 2014年あけましておめでとうございます。

2014-01-01 01:42:21 | 日記・日常

ブロガーのみなさん、新年あけましておめでとうございます。旧年中はご訪問いただきありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて今年の僕の目標ですが、『一に健康、二に制作、三、四はなくて五に制作』です。昨年大晦日のブログにも書きましたが、今まで自分自身の中で表現の幅を広げよう広げようとあがいてきて少し光明が見えてきたことがあり、そのことをさらに深め、豊かな内容にして行こうと思っています。今年というよりはこれから先何年か長い時間がかかりそうです。どんな仕事でも簡単にはいきません。生きている限り勉強であり精進努力です。特にアートの道は長く険しいのです。時に辛くもありますが、そのことを楽しむ心の余裕を持とうとも思っています。また機会がありましたら個展、グループ展会場に成果としての作品を見に来てください。

みなさんは年頭にどんな目標や願いを掲げましたか。良い一年となりますようお祈りいたします。 画像は上下共に毎年、工房から近い水田に飛来するハクチョウ類。