4/12~5/6に開催していたしていた千葉県市川市の公立美術館、芳澤ガーデンギャラリーでの個展会期中、地元のジャズ・ライヴハウス「h.s.trash」に3回通った。
市川という街は僕の生まれて育った故郷であり、途中東京で下宿などもしたけれど20代後半まで住んでいた。久々に個展の打ち合わせや個展会期に行ってみると「浦島太郎状態」でもあるのだが、実家があった場所や子供のころ遊んだ場所、母校などがとても懐かしく思われた。そして10代の後半からお酒とジャズにはまってからはいろいろなお店に通ったのだった。僕が通った1970年代の後半から1980年代の市川はジャズがさかんな街でもあり、往時、勢いのあった頃は13件以上のジャズ関係のお店があったのだった。それが現在では4軒程に激減してしまいライヴを行っている店は今回ご紹介する「h.s.trash」と、もう一軒のみ。まさに隔世の感ありと言ったところである。
最初にこの店に入ったのは今から実に40年前のことになる。当時、美大浪人をしていて、その浪人仲間と2人で重い店のドアを開けたのである。なぜかジャズ屋の扉と言うのはみんな分厚くて重たい。確か記憶では友人の下宿で一杯飲んできた勢いだったように思う(まだ未成年だったのにねぇ、もはや事項だろう)。その頃はライヴハウスではなくてカウンターのある「ジャズ・バー」的な雰囲気の店だった。カウンターに二人で座るなり当時、雇われ店長だったK氏に年齢と今何をしているのかを尋ねられ「浪人生のクセにこんな店に来るなーっ!!」と怒鳴られてしまった。この時にかかっていたLPが忘れもしないトランペットのテッド・カーソンのリーダーアルバム " ジュビラント・パワー " というアルバムだった。なんと形容したらよいか思いつかない、それまで聴いたことがないブリリアントな音だった。このK氏の一言とカーソンのLP、そして店内の「大人な雰囲気」が気に入ってしまい以後、不定期に通ったのだった。
そして何年か通う間に店長や店員の方々も入れ替わって行った。その都度に「本当のマスターはどこにいるの?」と尋ねると「今、インドからネパールを旅しています」とか「アフリカに取材旅行に行っています」とか「北欧に出かけています」といった答えが返ってきた。さらに「マスターはいったい何者なの?」と尋ねると「本人は旅人と自称しています」などと言う答えが返ってくるのだった。ここのマスターは変わり者である。まぁ、「ジャズ屋のオヤジ」というのは大概変わり者である。僕がこの店に通い始めてリアルマスターに会えたのは結構、時間が経過してからのことである。以来、僕は陰でこのマスターのことを「フーテンのクマさん(本名がオオクマさんだから)」と呼んでいるのである。
以前はシンプルに「trash・トラッシュ(がらくた)」という店名で場所も今とは異なりJRの駅をはさんで反対口にあった。このお店も今年で開店45周年を迎えたのだという。そういうこともあり先月と今月にお店に3回顔を出し、ライヴも2回聴きに行ったのである。
先月行った1度目はベテランのサックス奏者、佐藤達哉氏と若手の注目ピアニスト永武幹子さんのデュオ。ソニー・ロリンズの名曲からスタートしたライヴ演奏はテナーとソプラノという2種類のサックスを使い分ける佐藤氏の円熟したパワフルなプレーと、この店のマスターが「天才肌」と太鼓判を押す永武さんのバド・パウエルを連想する音がスリリングに絡み合い素晴らしい内容だった。永武さんの弾きながらメロディーを歌うところがまたパウエルっぽくてカッコいい。
今月初め2度目はヴォーカルの井手理夏さんとベテランのベース奏者、大西慎吾氏、ピアノの杉山美樹さんのライヴ。井手さんのハスキーなヴォイスは相変わらず心地よく素敵だった。最近ではジャズとロックの融合したヴォーカルを目指しているとのことでビートルズやエリック・クラプトンの曲のカヴァーなども聴かれて嬉しかった。大西氏のズシリと重く渋いベースと杉山さんのスインギーなピアノもとても心地よかった。
久々にかつて「古巣」だったお店に通って懐かしくもあり、まだ頑張って営業していることが嬉しくもあった。
東東京方面、千葉方面にお住まいのジャズ・ファン、音楽ファンのブロガーのみなさん、是非一度、週末のライヴに出かけてみてください。お店の詳細は以下のとおり。
ジャズ ライヴハウス " h.s.trash " 千葉県市川市市川 1-3-20 tel:047-323-5066 http://red.zero.jp/h.s.trash
画像はトップがお店の看板。下が向かって左からお店の看板、2回のライヴのようす、店内の僕とマスター等。