長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

329. 房総の秘境、裏清澄・四方木を歩く。

2018-04-05 18:02:17 | アウトドア
先月26日。前回ブログで投稿した鴨川市の私設美術館『房総郷土美術館』での版画個展の翌日、せっかく家から車で3時間以上もかけて来たのだから美術館周辺の四方木(よもぎ)の集落のあたりを連れ合いと2人で歩いてみようということになった。昨晩は美術館からさらに山間にある鉱泉の温泉宿「白岩館」に宿泊。なかなか山深い中にある宿で、月夜と山桜咲く露天風呂を堪能し、夕食の猪鍋に舌鼓を打った。

カラスがカァ~で夜が明けて朝食とチェックアウトを済ませ歩くコースの確認などをしてから、10時過ぎゆっくり目に宿を出発した。昨夜の露天風呂がとても気持ち良かったのでもう一度入りたいと思ったが、さすがに朝風呂は我慢した。林道を車で10分ほど南下すると「四方木ふれあい館」という近隣の人々の集会所兼、観光案内所の駐車場に到着。駐車はフリーなのでザックの荷造りをしてからここに車を置き今日のコースとなる「不動の滝コース」に向けて出発した。このあたりは昔から「房総半島の秘境」などと言われあまりハイカーが歩いていない地域なのである。車道から林道に入るとウグイスが囀り、満開のヤマザクラや春植物の咲くのどかな山村風景が目前に広がっている。最近観察にはまっているコケ植物も多い。蝶々の仲間のテングチョウが1頭飛んだ。そういえば蝶々好きの人には解ると思うがここは清澄山系の一部であり、この周辺は日本で奈良県の一部とここにのみ生息すると言われるルーミスシジミという小さな蝶々で有名な場所でもある。集落が切れると薄暗い山林に入る。ふと右手の斜面林を見ると林床に白っぽい花がたくさん咲いているのが見えた。カメラに収めようと近づくとミツマタの花だった。樹皮を手漉き和紙の原料として使う低木だが、こんなにまとまってたくさん花が咲いているのを観たのは初めてだった。白っぽい黄色のなんとも繊細な色彩の花である(画像参照)。

このミツマタの斜面からしばらく進むと不動堂に到着。お不動様に手を合わせてから小休止。ここまで来て連れ合いはコケ観察に夢中になり遅れ気味な僕にあきれてドンドン先に進んで行ってしまった。「不動の滝自然観察園」という看板があり滝への誘導標識も付いていた。下方にある沢からは滝の音が聴こえてくる。今日のメインスポットの「不動の滝」はもうすぐである。一気に下り坂を下りると木製ベンチのある休憩所で連れ合いが休んでいた。その先には不動の滝の「雄滝」がザァーッ、ザァーッ、と音をたてて水を落としている。まだ3月で水量は少ない。落差9m、幅5m、とさほど大きくはないがなかなか雰囲気の良い滝だった。滝壺の水がまた美しく深いエメラルドグリーンをしていた。この雄滝の右岸にもう1つ別の水流が落下していて、これが「雌滝」である。落差6m、幅2~3mとさらに小さい滝である。この滝を見ながら持参したコンロで湯を沸かしコーヒー休憩とした。こうした環境で飲むコーヒーはまた格別である。滝の近くまで降りてしばらく写真を撮影したり動画を撮影したりしてのんびりしてからこの先のコースを地図で確認する。

滝から先はちょっとした冒険が待っていた。沢筋の周囲に山道は付いていないので「沢歩き」をすることととなった。まだ水量が少ないということも幸いして頭を出している川石をピョンピョンと飛んで渡ったり、石のない場所では少しジャブジャブと水に入って歩いたり、沢歩きというよりは気分的には「水遊び」といったところである。春まだ早く少しひんやりとした深い谷あいの沢で子供の頃の水遊びをひさびさに想い出していた。しばらく進んで振り返ると周囲の森林からこぼれる午後の木漏れ日に照らし出された沢床の黄色っぽい滑石が美しく浮かび上がって見えた。贅沢な時間である。沢の奥からはヤマアカガエルの大合唱が響いていた。

コンクリートの小橋の下の「延命水」というポイントに到着、ちょっとした沢の冒険もここで終了。ここからは山の斜面につけられた山道を登って行く。再びテングチョウが飛ぶ。ぬかった道のあちこちにホンシュウジカの足跡がついていた。林の中からはモリアオガエルの「カララ、カララ…コロコロ」という声が聞こえてくる。野鳥はウグイスの外、森林性のカラ類やホオジロの囀りぐらい、越冬の冬鳥はもう移動しているし夏鳥の渡来にはまだ早いので中途半端な時期である。さらにコースを進むと集落の跡地に出た。廃屋となった住居や錆びついた農機具がいくつも残されていて少し寂しい気分となる。村はずれにある「見星院・けんせいいん」という素敵な名前の小さな寺院に到着。ここも雨戸が全てしまっていて住職がいる気配はない。敷地内に残された石仏たちが静かに迎えてくれた。すぐ隣には産土様を祀る「熊野神社」が苔むす石段の上に建っていた。門前には大人が3人以上かかえられる槇の巨木があり、この廃村となってしまった集落の歴史の古さを物語っていた。

この先にはさらに廃屋やかつて使われていた畑の跡地があって、その先からは杉林の山をジグザグに下って行く。すぐにポッカリと開けた空間に出て丈夫そうなコンクリートの橋を渡ると個展を開いている私設美術館の裏手に出た。この日は休館日。ここから里の集落を抜けると出発時に車を止めておいた「四方木ふれあい館」に到る。スマホを見ると14:43。
かなりゆっくり歩いて4時間半ほどのウォーキング。途中、生物観察などしなければ半分ぐらいの時間だろう。早春の好天の日。房総半島に残された秘境歩きを楽しめたのでした。心地よい良い疲れの中、房総の海辺の長い距離の道に帰路を取って帰宅した。

画像はトップが房総の名瀑「不動の滝・雄滝」、下が向かって左から「不動の滝・雌滝、雄滝」、四方木の山村風景、斜面林に咲いたミツマタの群落、美しいコケ植物、沢の滑石、沢の風景、壊れた木橋、見星院の石仏、熊野神社、槇の巨木、廃屋、切り株に生えたコケ植物。


                                     






243. 房総の山中にて加藤登紀子さんと遭遇する。

2016-04-26 06:10:11 | アウトドア

23日。房総の山と自然を歩く会、『BOSSO CLUB』のメンバーで鴨川市、南房総市に含まれる大山千枚田と愛宕山周辺の山域を訪れた。この会も故郷に帰ってきたK氏と地元の自然を見直して歩いてみようと始めてから今回で5年目、18回目の山行となった。いつものようにJR内房線の君津駅に集合。地元のK氏が車で迎えに来てくれている。今回、「大山千枚田の棚田が見たい」と目的地をリクエストしていたM氏が体調不良で参加できなかったので、K氏、Y氏と3人で現地に向かう。

君津の街を抜け、県道沿いに進んで行くと外の山村の風景はすっかり初夏の色合いとなっていた。「北総地域より、ずいぶん木の葉の生長が早いなぁ、やっぱり房総は暖かいんだなぁ」などと会話をしながら進んでいくと一時間強で出発地点の「大山千枚田」の駐車場に到着。千葉県で唯一の棚田風景。この棚田、東京近郊までエリアを広げてみても数少ないもののようだ。車を降りて山行の身支度をしてから、しばらくこの特異な景色を楽しんだ。まだこの時期、棚田は田植え前でちょうど水を張ったところ。うねるような畦に仕切られた水鏡の中に空や周辺の山々が映し出されて美しい。背景には千葉県、最高峰の低山?愛宕山(408m)がどっしりと佇んでいた。メンバー全員しばし無言で写真撮影などをする。

大山千枚田を後にして、ここからは林道沿いに「二ツ山」という山を目指す。コースが進むにつれ樹林が鬱蒼として来て山深さが増す。登山者にもほとんど会わない。時折、渡って来たばかりの夏鳥のオオルリ、キビタキ、ヤブサメなどの囀りが谷から聞こえてくる。これに留鳥のウグイス、メジロ、ホオジロ、シジュウカラなどの歌声が加わり心地よいBGMとなる。この林道では野鳥以外にもさまざまな初夏の生きものに出会えた。春一番に登場するトンボのシオヤトンボが飛び交い、きれいな清流に生息し飴色の羽が美しいヒガシカワトンボ、蝶ではジャコウアゲハやクロアゲハなどアゲハ類の姿が目立った。

さらに進むと里山特有の山仕事の道が複雑に入り組んだ地域に入った。周囲に指導標は見当たらない。ここで国土地理院の地図をザックから出して現在地を確認する…が、よくわからない。房総の低山などではよくあることなのだが、「オリエンテーリング」に近い感覚がある。「また道に迷った」 だが、会の方針としてはよほどのことがない限り「前進あるのみ」なのである(一度だけエスケープの経験がある)。感をたよりにしばらく進むとY字路に出た。そこに「鴨川自然王国」という小さな看板が出ていた。「なんとなく公共施設のような名称だから安全な気がする」ということで看板が示す側のルートを進んでいくと下り坂となりポッカリと林を切り開いた別荘地のような空間に出た。そこにもまた「鴨川自然王国・cafe En」という木製の大きな看板が出ている。「昼にはまだ早いし、ここでコーヒーでも飲んで、じっくりコースを立て直そう」ということで意見がまとまり、敷地内のcafeに向かった。

野外にセットされた円形のテーブルに腰掛け、アイスコーヒーを注文する。自家焙煎で天然の植物などが入ったおいしいコーヒーである。cafeの本館はパーティーまでできそうなウッデイな雰囲気のある建物だ。「こんな房総の山の真ん中にしてはオシャレな店だねぇ」口々に似たようなことを言ってから、またテーブルに地図を広げてコースを確認し始める。林の中の静かな時間が流れる。しばらくすると女性たちの賑やかな声がして隣のテーブル席に着いたかと思ったら、一人の上品な出で立ちの女性が近づいて来て「おや、登山姿の人は久しぶりだわ?」と言ったかと思うと近くに放り出されていた作業用リヤカーを片づけ始めた。Cafeの関係者かと思っていたら、ここでK氏が気が付いた。小声で「カトウトキコさんだよ」 全員、たまげてビックリポンである!

加藤登紀子さんと言えばいまさらだが、日本を代表するシンガーソングライターで歌手、女優、声優である。僕らの世代は少年時代からテレビなどで見ているし僕らより若い世代ならジブリアニメの「紅の豚」の主人公の恋人役の声と挿入歌を歌っていた人。と、言えばピンとくるだろうか。他にお客さんもいなかったので、気さくに僕らに話しかけてきてくれた。山登りのことに興味を持たれたようで、房総のどんなところを歩いているのかを尋ねられたりした。ご自分から名刺を差し出されたり、現在の里山での有機農法活動や音楽活動のパンフレットまでいただき短いが楽しい時間を過ごした。トップ画像のスナップはその時に撮らせていただいたものである。

加藤さんは現在、鴨川市に家族全員で移住し有機農法による農作業をしながら半農半芸能活動のスローライフをされている。たまたま立ち寄ったこのcafaは長女の方がオーナーを務め、やはり自然食中心によるレストランとなっている。自然の中でのスローライフと言えば2月に行った山梨県で「八ヶ岳倶楽部」を運営する俳優の柳生博さんにライフスタイルがとても似ている。お話を伺うとお二人はとても親しいようだ。楽しい時間は常にあっという間に過ぎて行く。お名残惜しいが再会を約束し加藤さんと硬い握手をしてから山行のコースにもどった。こんな出来事はめったにない。この後の行程はほとんど加藤さんの話題となった。

今回の第一の目的の二ツ山(376m)へはcafeのスタッフの方の助言もあり、すんなりとピークまでたどり着くことができた。スマホを見ると13:11、ここで遅い昼食をとる。南西方向の展望が素晴らしい。手前には深い樹林の房総丘陵がつらなり、遠景には冨山、伊予ガ岳、鋸山、鹿野山など房総半島の東京湾側を代表する山々が一望でき、その先には海が広がっている。”ボボッ、ボボッ”とホトトギスの仲間の夏鳥のツツドリの声が谷間から響いてきた。ここで時間をさいてゆっくりと大休止。あとは元来たトレイルを一気に大山千枚田までもどり、車利用でコース上にある大山不動尊をお参り、御堂の上にある2峰目の高蔵山のピークを踏んでから、また元来た道を車で移動、愛宕山の南面の林道を移動し下山、「酪農のさと」と呼ばれる県立の施設に立ち寄って小休止。乳牛から作った名物の大きなソフトクリームをたいらげて帰路に着いた。

今回はいつもと違った山行、いつもと違った人との出会いもあり、とても濃い内容となったのでした。加藤登紀子さん、cafe・Enのスタッフのみなさん、素敵な出会いと時間をありがとうございました。画像はトップが加藤登紀子さんとのスナップ。下が向かって左からスナップもう一枚、cafe・Enのようす、山里で見つけた石仏、山道で出会った美しいヘビのジムグリ、樹木の芽吹き、ヤブレガサの葉、二ツ山ピークからの眺望、大山千枚田の風景。

 

               


221. 師走の紅葉狩り

2015-12-17 21:03:25 | アウトドア

12日の夜、千葉県富津市にある10代からの友人、K氏の新築アトリエにお祝いがてら出かけた。内房線JR君津駅で18:30に待ち合わせ車で来たK氏と合流。そのまま富津市内にあるアトリエに向かった。道すがら「今夜は、ひさびさにキムチ鍋で一杯やるか」ということになり、スーパーに立ち寄って買い出しをしてからアトリエに到着する。

一戸建ての大きなアトリエである。ドアを開けて中に入ると天井が高く、大きめの窓は外からの採光がよく考慮された設計となっていた。まだできたてのホヤホヤの画室には物も少なく、最近ネットで購入したという、どっしりとした黒い薪ストーブが一際目立っていた。オープンなキッチンでさっそくK氏が鍋の準備を始めた。BGMは新築祝いの吟醸酒といっしょに持ってきたJAZZのCD。K氏のリクエストにより渋めのベースのリーダーもの。ポール・チェンバースの「ベース・オン・トップ」をかけた。お互い18ぐらいからJAZZ喫茶通いをしていたのですぐに空気が盛り上がってきた。

ここからは熱い鍋を囲みながら熱い昔話に花が咲いた。きりがない。こういう時は5-6時間があっという間に経ってしまう。実は明日は朝からこれもひさびさの山登りの予定である。このブログでも何度も更新した千葉の山と自然を歩く会「BOSSO CLUB」の定例山行である。これもひさびさにメンバー4人、全員が揃うことになっている。予報ではあいにく降水確率60%となっている。「まぁ、雨が降ったらドライブに変更することにしよう」ということで寝床に着く。

カラス、「カーッ」で13日の朝となる。予報どおり空には暗い雲が広がり小雨が降っている。朝食を軽く済ませ、集合場所であるJR君津駅へと車で向かう。駅前のロータリーに到着するとM氏、Y氏が傘をさして待っていた。こういう時は誰言うことでもなく開口一番「雨男はいったい誰なんだ」である。もちろんお互い自分ではないという顔をしているのだが。車に乗り込むとさっそくどこに行くかという相談。地元K氏の提案で富津市志駒という地域にある「もみじの里」という渓谷に行くことに決定した。駅前を出て、街中をはずれ山間部に入っていく。しばらく走ると車窓から見える風景が秋景色へと変わってくる。高山地帯の真っ赤な色彩とは違って黄色から赤茶色のグラデーションで微妙ではあるが里山の紅葉も美しい。温暖な房総の紅葉は遅い。今がちょうど真っ盛りである。志駒川添いの山道に入るとさらに紅葉が多く目立つようになる。ここで「もみじの里」の看板が見えた。上空には寒くなって山間部から降りてきた鷹の仲間のノスリが2羽出現してくれた。

楓がいい色になっている場所を見つけては車を降りて撮影する。雨の曇り日が逆に幸いして色彩がシットリと良く出てくれる。「地蔵堂の滝」という落差の小さな千葉らしい滝を観てから次のポイントに出発となる。雨が止まないので休憩所のある鹿野山の「九十九谷展望台」で昼食をとろうということになった。

展望台に着くと、いつもなら遠方まで視界がきき絶景の場所のはずだが、濃霧で覆われていて視界が0の状態。しょうがないのでここでティータイムとし、K氏のアトリエに戻って昼食をとることにする。アトリエに着き早めの昼食を済ませてからは音楽を聴いたり地形図を広げて次回、2月の定例山行の場所を選んだり、昼寝をしたりしてマッタリとした時間を過ごした。たまにはこういう室内例会もいいものである。楽しい話はつきないのだが、今日は早めに切り上げてお開きとなった。画像はトップが「もみじの里」の楓の紅葉。下が同じく紅葉のカット3枚、「地蔵堂の滝」、2階から撮ったK氏のアトリエと最新作の鏡に描いた平面作品。

 

            

 

 

 


142. 新緑の高宕山山行記

2014-05-09 21:32:13 | アウトドア

ひさびさの更新である。ゴールデン・ウィークは仕事三昧となった。その中で一日だけスケジュールが空いたので先月の29日、房総の高宕山に登ってきた。

同行は房総の低山を登る会『Bosso Club』のメンバー、僕とK氏、Y氏の3名である。昨年秋から春にかけて僕が展覧会のはしご状態だったので、空気の澄んだ展望のいい季節に行くことができなかった。こちらの方もかなりひさびさということになる。

登山口である高宕トンネルに着くと新緑が美しい。夏鳥のキビタキが、ピッコロのように美しい囀りで出迎えてくれた。このコースは幾度か登っているが新緑の季節は初めてである。いつものようにいきなりの急登で一汗かく。谷筋が見下ろせる高さまで来た時、夏鳥のオオルリの”ピールーリ、ポピーリ…”という囀りが近い。みんなで声のする方向に双眼鏡を向けて探すと落葉樹の枝先にとまっていた。真っ白い腹部と背中のブルーのコントラストがはっきりと認められた。ここから尾根に出る。『石射太郎』という山のピークまで行くと、足元に青紫色のホタルカズラの花がたくさん咲いていた。ここで小休止。水分などを補給して次のポイントである通称「モミの木テラス」まで急ぐ。いつものようにここで一回目の大休止。コーヒー・タイムとなった。正面にはこれから目指す高宕山がどっしりとした山容を見せている。断崖絶壁から見下ろす谷は眩しいほどの新緑が輝いて見え感動的でさえある。「いつもは冬だったけど、季節を替えて新緑の時期も、ようすが変わっていいなぁ」とK氏がコンロでお湯を沸かしながらつぶやいた。ここは位置的に房総半島のほぼ中央にあたり山が深い。ゆっくりと周囲の絶景を堪能してから一路、高宕山を目指す。ここからは尾根歩き。参道の脇に鮮やかなピンク色の満開のヤマツツジを見つける。K氏もY氏も歩きなれていてグングンと目的地との距離を縮めて行った。今日はピッチがかなり速い。

あっという間に昼食の予定地である頂上直下の高宕観音に到着した。ここは断崖に作られた寺院だが、昔は住職もいて参拝者も多く賑わっていたようである。先着の登山グループや逆コースから来た登山者もここで昼食をとっていた。冬の空気の澄んだ日ならば富士山がくっきりと見える場所でもあるが、さすがにこの季節。ガスっていて遠目はきかない。重たくなった腰を上げて頂上へと向かう。ここからは岩場にちょっとした鎖場やロープがあって、少しスリリングな気分を味わうことができる。周囲の斜面林からはヤブサメやセンダイムシクイといった夏鳥の囀りが聞こえてくる。

頂上に到着すると、360°の絶景。各々、スマホやデジカメで風景の動画や画像を撮影しているうちにポツポツと雨が降ってきた。ここまで天気がもってくれたのに…。 「帰りを急ごうっ!」K氏の一声で下山開始。元来た尾根を走るように下っていく。だんだん雨が強くなってきた。おそらく、Bosso Club 開設以来の新記録ではないかと思われるぐらいの速さで一気に登山口までたどり着いた。仕上げは駐車場の木陰で雨をよけながらのティー・タイム。相変わらず行きにもいたキビタキがさかんに囀っていた。輝くばかりの新緑の中、印象深い山行となった。メンバーに感謝。画像はトップが「モミの木テラス」から見た新緑の山々。下が向って左から高宕山遠景、ホタルカズラの花、ヤマツツジの花。

 

      


139. 鋸山・車力道コース山行記

2014-04-11 18:19:44 | アウトドア

先月、今月と締切仕事などが重なりブログの更新がとても遅れてしまった。と、いうわけで先月21日に登った房総の山の話題。

今回はいつもの房総の低山を登る会『Bosso Club』のメンバーではなく、日頃、絵画作品の個展やグループ展でお世話になっているA画廊のメンバー4名と当工房のメンバー2名の合計6名による山行となった。A画廊のメンバーは最近、低山歩きにはまっていて、これまでに筑波山、奥多摩、丹沢などを登ってきたということだ。「長島さんの地元の山でコースはおまかせします」とのことだったので、東京から電車の便が良い鋸山に決定した。

JR内房線、浜金谷駅に朝10時集合。駅からトボトボと登山口まで歩き始めた。この日の前日まで天候が悪く心配したのだが、雨が止んで空には青空、絶好の登山日和となった。このメンバー、どうやら雨男、雨女はいないようである。歩き始めて20分ほどすると登山口に到着、上半身が汗ばんできて各々、寒いと思って着てきたパーカーなどを脱ぐことになった。ウグイスの囀り、カラ類など森林性の野鳥の声がそこかしこから聞こえてくる。A女史が登山道脇に変わった野草をみつけた。近づいてよく観察してみると、サトイモ科のヒガンマムシグサの花だった。この花はこの地域の特産種だが、ちょうど春のお彼岸の頃に花を咲かせるのでこの名前がついている。周囲をよく探すと数多く咲いていた。その他にもキフジやタチツボスミレ、フキノトウそれからチラホラとサクラの花も咲いていた。房総の春は早い。道が山道となり少し登りがきつくなってきたところで苔むしたレールのような敷石が目立つようになった。このコースは名前が表すように、かつて鋸山の天然石を切り出して降ろすことに使われていた仕事道である。石を切り出すのは男の仕事、それを運ぶのは女の仕事だったらしい。「昔の房総の女性は逞しかったんだなぁ」

12時前に新展望台と呼ばれる開けた場所に到着した。ここでランチにすることとなった。ここからの風景は房総の山屈指の絶景である。南に太平洋に浮かぶ伊豆大島、西に天城山、三浦半島、丹沢と並び、その遠景に真っ白に雪をかぶった富士山が見える。東京湾越しのこの富士山は江戸時代の絵師、葛飾北斎が連作『富嶽三十六景』で描いた『上総富士』である。この冬は積雪量が多かったので裾野近くまで真っ白である。さらに北西に視線を移すと東京の街が見えてくる。葛西臨海公園や新宿副都心など双眼鏡で追って見ていくと、ついにスカイツリーを発見。一同、感動したのでした。そこでH女子が一言「東京って狭いねぇ」。東京湾越しに箱庭のように見えるこの絶景を見ながらのランチは最高に贅沢なのでした。時折、トビが「ピーヒョロロロ…」と鳴きながら低空飛翔で弁当を狙ってくるのだけは閉口した。隣のベンチではA画廊のメンバーがコンロでシシャモやスルメを焼き始めたかと思ったら、焼酎を勧められた。絶景を前にしての一杯もなかなかおつなものだった。

昼食を済ませると鋸山のピークに向かう。アップダウンを繰り返し進んで行くと一等三角点のある329.5mの狭い頂上に到着。展望は良くない。早々に切り上げて石切り場に向かう。石切り場の断崖が目の前に開けてくると一同再び感動。このあたりの断崖下で当工房スタッフと二人、アトリ科の冬鳥ハギマシコの♂2羽と♀1羽を間近で観察。県内での観察記録が少ない野鳥である。羽衣に混じるバラ色が美しかった。さらに進むと奈良時代に創建された古刹、日本寺に到着。入場料を払って境内に入る。ここから地獄覗きと呼ばれる断崖絶壁まで一気に登ると空を暗い雲が覆ってきて、冷たい風が吹き始めたかと思うとポツポツと雨が降り始めた。下山を急いで大仏広場までまっしぐら。広場に到着する頃には雨もほぼ止んだので四阿で大休止をとる。水分補給をしたり、大仏様の前で記念撮影をしたりしてから、電車の時間を気にしつつ、一面のナノハナ畑やツクシ摘みを楽しみながら帰りの駅であるJR内房線保田駅に向かった。暖かい南房総の早春の一日、楽しい山行にしてくれた同行のみなさんに感謝します。画像はトップが新展望台から見た館山・伊豆大島方面。下が石切り場の断崖絶壁とモミジの芽吹き。

 

   

 

 

 


96.高宕山・お茶立場コース山行記

2013-07-26 20:43:20 | アウトドア

6月にあまりブログを更新できなかった関係でネタだけはたまっている。と、いう訳で前回に引き続き先月の話題。

先月末日、房総の山と自然を歩く会『Bosso Club』のメンバー3人で『高宕山・お茶立場コース』を登ってきた。今まで高宕山はさまざまなコースから登りこれで4回目となるが、これまではいずれも君津市側から登っていたのが今回初めて富津市側から登ることになった。そしてロングコース、ガイドブックにも健脚向きのマークが付いている。さらにコース上には源頼朝伝説が伝わる。伝説によると頼朝率いる東方遠征軍が休憩のためお茶を立てたという窪地が残っていると言う。それで『お茶立場』というのだそうだ。うーん、古のロマンを感じる土地。登る前から興味津々である。

K氏の車で現地に到着するが登山口がなかなか見つからない。あまり登られてないコースのようだ。途中、車道を若いニホンザルが横切った。このあたり野生のサルの生息地として天然記念物に指定されている。ようやく溜池に隣接した小さな登山口を発見し、3人で登り始めた。道がところどころ荒れていて普段人が入山していないことが想像できる。例によって低山の夏鳥であるキビタキやヤブサメの囀りがあちこちから聞こえてくる。一汗かいたところで大きな分岐に出る。さらに進むと北側が開けて見晴らしが良くなり、目指す高宕山の頂上や崖に作られた観音堂が見えてくる。このあたりから同じく夏鳥のオオルリの、のどかで美しい声が聞こえて来た。コースが長いので途中の広場で大休止。各自昼食をとった。

昼食後、単調な登りを繰り返し、さらに進むとポッカリと『白い崖のテラス』と呼ばれる大岩の上に出た。ここまでは、順調だった。この先がまた荒れたコースとなる。尾根上の道から足元に注意しつつグングン高度を下げていくと沢の窪地に出た。このあたりが例の『お茶立場』付近のはずである。さて、ここからの取り付きを見失ってしまう。地元山岳会の取り付けた、たよりのテーピングによるマークもなくなっていた。M氏を残し、僕とK氏で左右に分かれて沢からの出口を探すが途中から道が途絶えていてギブアップ。M氏の待つ場所まで戻ると斜面をに登っていたK氏も戻って来ていて3人でしばし途方にくれていた。すると突然、”フィフィフィフィフィフィフィ…”と美しい声が周囲から聞こえて来た。「カジカガエルだ!以前、丹沢の渓流で聞いたことがある」よく見ると足元でもピョンピョン飛び跳ねていた。とても、標高300m前後の山の沢とは思えない。深山幽谷の響である。しばらくの間、あーでもないこーでもないと意見を言い合っていたが、ここで決断。「元来たコースを引き返そう、またいつか季節を変えてリベンジしよう」Bosso Club設立以来、13回目にして初の記念すべきエスケープとなった。

がっくりと肩を落としつつ急斜面を登り始めると足元に大きなニホンマムシを見つけた。「くわばら、くわばら…」ロングコースを引き返しながら改めて低山の難しさを噛み締めたのだった。本日の教訓。「ルートを見失ったら、思い切ってエスケープする勇気を持つ」 画像はトップがお茶立場付近と思われるカジカガエルの生息する沢。コース途中から見た高宕山方面風景、登山道でみつけたキノコの1種。

 

  

 

 


88.元清澄山・金山ダムコース山行記

2013-05-14 12:20:45 | アウトドア

今月始め、GWの3日の日に鴨川市元清澄山の金山ダムコースに行って来た。メンバーはいつものとおり『房総の山と自然を歩く会 BOSSO CLUB』のメンバーである。今回は仕事の都合でなかなか参加することができないY氏も加わり4名フルメンバーでの山行となった。最近は土日,祝祭日も絵画や版画の制作に追われレジャーというものに縁遠くなったが、この会の定例山行だけはなんとか参加している。僕のGW中、唯一のレジャーとなった。

この会での元清澄山の山行は昨年の4月末以来ということになる。昨年は君津市側からの三石山コースを南下して、頂上にたどり着いたが、今回は正反対の鴨川市側に位置する金山ダムコースを北上し頂上を目指すことになった。10:17いつもより遅めに登山口に到着。スタート地点となる金山ダムは人造湖だが、静かで美しい景観の場所である。この日は風も弱く、たっぷりと水をたたえた水面にコバルブルーの空が映りこんで美しい。車を降りて身支度をしているとヒタキ科の野鳥オオルリがきれいな声で囀っている。どうやらここはバス・フィッシングのメッカらしく東京や神奈川ナンバーの車が多い。

ダムにかかる赤い橋を渡って出発。Y氏が橋の上から青く澄んだ水面近くに大きなブラックバスの姿を発見した。このコースは一部ガレ場や鎖場を除き『関東ふれあいの道』に含まれ、コース全域が良く整備されていて登り易いのだが、擬木のステップが多く、これが苦手な僕は苦労させられた。それから昨年のコースがなだらかな尾根上のものだったのに比べて以外に高低差がありアップダウンが延々と続くのも特徴だった。それでも新緑の季節、輝くようなリーフグリーンと次々に美声を聴かせる夏鳥たちに励まされながらの山行となった。オオルリを始め、キビタキ、センダイムシクイ、ヤブサメなど低山を代表する野鳥たちの声が奥深い谷筋に響き渡っていた。

コース上の広場で昼食、14:15にモミなどの原生林に囲まれた元清澄山の山頂にたどり着いた。展望はないがロングコースを進んで来たせいか達成感がある。ほぼ一年ぶりの山頂で大休止のティータイムとした。この山はいくつかの登山コースがあるが山が深いためどこから登ってもアプローチが長い。下山は車利用なので元来た道をもどる形となる。帰りはさすがに足取りが軽くなるのかK氏、Y氏はトレランでもするかのようにハイピッチで進んで行く。マイペースの僕とM氏はゆっくりとついて行ったが、17:35にはもとの赤い橋にたどり着いた。低山ウォーキングにはベストシーズン。陽光をたっぷりと浴び風景、植物、野鳥を堪能して下界に帰って来た。画像はトップが金山ダム風景。下が山道付近に咲いていたヤマツツジとコース途中からの眺望。