長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

323. 出水平野、ツル類取材旅行 その二

2018-02-24 18:20:08 | 野鳥・自然
2/10(土)。鹿児島県出水市でのツル類取材旅行2日目である。今日も五時に起床するがあいにく天気はよくない。ホテルの窓から外を見ると道路が濡れていて小雨が降っている。天気だけはどうすることもできない。

昨日は千葉のT先輩に紹介して頂いた地元出水のベテラン・バーダーのM氏に生息地をご案内いただいて、こちらで観察しておきたい種類のほとんどの種を観ることができた。そして今日から連れ合いと2人だけでフィールドを巡回するポイントも抑えていただいたので後は現地に向かうだけである。野鳥たちの朝は早い。6:29車に観察用具とカメラ一式を積み込んでにホテルを出発した。

<西干拓のツル類の塒と給餌場>

まず初めに昨日の予習どうりに向かったのは「ツル展望所」に近い西干拓の広い水田にあるツル類の塒と給餌場だ。道すがらまだ小雨が降っているが外に出られないほどでもない。昨日、M氏には「まぁ、自然な状況というわけではないですが、西干拓の給餌場でのツル達の飛翔と群がるようすは一見の価値がありますよ」とアドバイスしていただいていた。6:50干拓地の道路脇のポイントに到着。一般道のため場所、停車する場所や対向車には最新の注意をしながら止める。周囲はまだ青暗く思いの外、寒い。南九州の冬の朝がこんなに寒いものだとは想像していなかった。車の中で連れ合いと2人、じっと待っているとすでに周囲からはナベヅルのクルルーッやマナヅルのやや強いヴァルルーッという声が、あちらこちらから聴こえてくる。そして幼鳥のピィー、ピィーという声も入る。
地元ボランティアの人たちによる給餌は7:00から7:20頃ということだが、この寒さが厳しい中での10~20分の待ち時間はとても長く感じた。そうこうしているうちに給餌の軽トラックが近づいてきた。ツルたちがザワザワとし始め、一際強く鳴き声を放っている。
そしてまだ薄暗い中、ツル達の群れが、方々から飛んで来始めるといよいよツルたちの騒ぐ声で車の中のお互いの声が聴こえなくなるほどである。軽トラックに用意してあった餌を放り出し始めるとその強烈なエネルギーはピークに達した。「凄いねぇ…」「いったい何羽ぐらいいるんだろうか…」どのくらい時間が経ったのかも忘れるほど興奮し、夢中でカメラのシャッターを押し続けたり、スマホで動画を撮ったりしているうちに辺りが明るくなってきた。「そろそろ宿の朝食の時間だから一端戻りましょう」という相棒の声で、はっと我に帰ったほどである。

<雨の干拓地と「ぶんちゃんラーメン」>

一端ホテルに戻って朝食を済ませ部屋で少しだけ仮眠をとる。10:05から再び取材スタート。と思いきや雨が本降りとなってきた。仕方ないので雨の上がった時のことを想定し東西の広大な干拓地のポイントを確認しながらグルグルと巡回した後、ツル展望所へ避難した。ここで館内から雨の中のツル類の群れの写真や動画を撮影したり館内のテレビで放映している出水のツル達のドキュメンタリー映画を観賞したりしてしばらく過ごした。
正午も過ぎた頃、小腹が空いてきたのでT先輩ご推薦の「ぶんちゃんラーメン」という地元で評判の九州ラーメンを食べに車で移動する。道路に面した小さなお店は周りに何もない場所なのですぐに見つけることができた。午後1時を過ぎているというのに店の外まで人が並んでいる。なんとか席に着き、このお店の名物である「もやしラーメン」を注文するとすぐに出てきた。それは、もやしというよりは細かく刻んだ長ネギがまるで、かき氷のようにラーメンの上高く盛り上がったものだった。「えっ、これがラーメン!?」割り箸でほじくるのだが、肝心の麺がなかなか出てこない。ラーメンを食べているというよりも中華味の長ネギを食べているような妙な感じであった。これもご当地ならでは経験ということだろう。店を出るやいなやクサシギが1羽、目の前を鋭く飛んだ。

<東干拓・憧れのカナダヅルとの出会い>

ここから東干拓のポイントに移動する。途中、ニュウナイスズメの群れが電線にとまっていたり、タゲリが車の窓からすぐ近くまで近づいてきたりして天気は悪いがそれなりに楽しい。昨日の夕刻、M氏の案内で訪れたツル類の塒近くに到着する。昨日はナベヅル、マナヅルの外、近い距離でクロヅルやナベクロヅル(ナべヅルとクロヅルの自然交雑種)、距離は遠いがカナダヅルも観察できた場所である。しばらくここで腰を据えて観察することにする。水田上を低くミヤマガラスの150羽以上の群れが飛び、アトリの1000羽強の大群が右へ左へ飛ぶ様子は見事であり、しばし見惚れてしまった。そうこうしているうちに午後も遅くなって雨が上がってきた。昨日比較的近くでツル類の群れが観られた水田近くまで移動、エンジンを止めてここでしばらく待つことにする。1-2枚先の水田にいたツルたちが餌を食べながら移動しどんどんこちらに近づいてきた。もうじき繁殖地へと向かう渡りが始まる季節である。ツル達は四六時中餌を食べてエネルギーを蓄えている。時々何かの音に驚いて群れで、わっっと飛び立つこともあり落ち着かないようすである。ここではじっくりとカメラと動画の撮影をすることができた。そろそろ宿に帰る時間も近づいてきた。もう一度、昨日、クロヅルを観たところに立ち寄ってみようと移動する。現場に着くと今日もツルの群れは車道から遠い。車から降りて双眼鏡で端から観察していると、後にいた連れ合いが押し殺した声で「あなたの後っ、…ほら、カナダヅルが6羽!」と言った。「えっ(まさか)」と言って振り返ったすぐ後ろの水田に佇んでいたのだった。カナダヅルは英語名をSandhill Craneといい、北アメリカ北部とシベリア北東部で繁殖し、北アメリカ中部、南部で越冬するツル類で日本では稀な冬鳥として記録されるが、ここ出水平野では毎年数羽が越冬している。25年ぐらい前に千葉県にも1羽が渡来したが僕は観に行っていない。
そして幸運にもツルの保護用に水田脇に据え付けられた黒いネットの下がこの水田だけ切れていた。憧れのツルとの至近距離での出会い、夕方でシャッタースピードがかせげないのと、逸る気持ちを抑えつつ、大興奮でシャッターを押し続けたのが今回の画像である。めでたしめでたし。今日の取材はここまでで終了。今晩は予約しておいたお店で地元名物の刺身と黒毛和牛のステーキ、それから薩摩の芋焼酎で、カナダヅルとの出会いに祝杯をあげることにしよう。

※取材旅行記はあと1日分、つづきます。

画像はトップが憧れのカナダヅル。下が向かって左から同じくカナダヅル、朝の西干拓の給餌場のようす2カット、東干拓の塒周辺でのツル達のようす2カット。



            


322. 出水平野、ツル類取材旅行 その一

2018-02-18 17:20:48 | 野鳥・自然
今月の9日から二泊三日で鹿児島県出水市のツル類の越冬地に「野鳥版画」の取材旅行に行ってきた。当工房で恒例となった冬季の遠出取材である。

と、いうわけで9日の早朝5時に起床。朝食はスープだけで済ませ、スタッフでもある連れ合いと2人で成田空港へ向かった。当工房は成田市に近く飛行機に搭乗するには、とても便利なのである。電車に乗り空港第二ビル駅で下車、徒歩で第三ターミナルまで行く。ここで荷物を預ける手続きなどを済ませ、しばらく寛いでから8:40発、熊本行のジェットスター便に乗り込んだ。国内便は北から南までどこへ行くのでも搭乗してしまえばフライト時間はあっと言う間である。小さな車窓から本州の山岳地帯の雪に覆われた山稜や雲海を眺めているうちに10:54、熊本空港に到着。天気はまずまずである。ここからはレンタカーを借り九州道を南に向かってまっしぐらである。

久々の九州。高速に乗ってしばらく走ると穏やかな曲線の九州らしい山並が見えてきた。朝からロクに食事をしていなかったので宮原SEという所で休憩。弁当を買って車中でほおばる。鳥影はまだ見えない。再び高速に乗り、しばらく進むと右手には八代海越しに天草諸島がやや霞んで浮かび上がってきた。とても美しい風景だ。これから向かう目的地を想像しながら良い兆しも見えてきた。八代市を過ぎてインターを降り、水俣市を通過すると出水はもうすぐである。ここで千葉の鳥の世界のT先輩に事前にご紹介いただいた地元バーダーのM氏に連絡をとり合流場所などを決めた。

出水市に入ると「ツル渡来地」を示す看板がいくつも出てきた。その誘導通りに進んで行くと、一際大きな看板が登場。左折して水田の中の道を行くと車のすぐ脇の水田にツルのペアを発見。徐行して観察すると「マナヅル」だった。九州初のツルとの出会いは案外あっけなかったのだ。さらに農道を進むと、いくつものツルの家族が降りている。双眼鏡で観察すると「ナベヅル」のファミリーだった。これまたあっけなかった。
14:32、「ツル展望所」前の駐車場に到着。ここで再びM氏に連絡。しばらくして小柄だがガッチリしていて温厚そうな笑顔の紳士がこちらに向かってやって来た。簡単な自己紹介と名刺交換をする。M氏は地元出水市にお住まいのベテラン・バーダーで、長く教員生活をされてきた。そしてこの渡来地のツル類の調査、保護活動を長く続けてこられた方でもある。

「まず初めに展望所の3階の屋上に上がって干拓地の給餌場のツルたちを観察しましょう」M氏のアドバイスに従い観察用具とカメラを担いで展望所に入館して行った。屋上への重い扉を開けると風が強く、南九州とは言ってもこの時期はけっこう寒い。頬に吹き付ける冷たい風を堪えながら屋上にポッカリと出た。グルリと視界が開け眼下の給餌場に目を移すとナベヅル、マナヅルの混群がビッシリと降りていた。コサギやアオサギも混じっているが、かなり少数派で居心地が悪そうである。「クッ、クルルー、クッ、クルルー」寒風にのってツル類特有の心地よい鳴き声が聞こえてくる。少し遠方に双眼鏡を向けると美しい模様のカモ科の「ツクシガモ」の小群が冬水田んぼを歩いていたり、その先の電線や人家の屋根にはカラス科の「ミヤマガラス」の大群がビッシリととまっていたりした。その中に小型の「コクマルガラス」も混ざっていた。どの種も九州など西南日本に多く渡来する種類である。寒さを堪えてしばらく観察してからM氏が「今回、どんな種類の野鳥を観たいのですか?そしてどんな場面を取材したいのですか?」と尋ねられたので、おおよその種類や観たい場面を説明した。すると自作の出水干拓の白地図をザックから取り出し僕らに説明し始めた。ツル類が多く観られる場所にはマーカーで色が塗ってあり、地図上のいたるところに最近観察できた鳥の種類が書き込んであった。「これは…」と聞き返すと「事前に用意しておきました。取材に活用してください」とのこと。とてもありがたい。感謝。

ツル展望所を出てから、駐車場で簡単な打ち合わせ。「これから地図どおりに巡回していきます。1回線のレシーバーを渡しますのでこれでやりとりしましょう」とM氏。2台の車に分かれM氏のジープを先導にフィールドに向かって出発した。広大な干拓地の中の農道をゆっくりと進んで行く。ときおりレシーバーを通して連絡が入り「この辺りはツルの家族がよく休んでいる場所で自然な写真が撮り易いです」とか「この水田にはニュウナイスズメの大群が入っていることがあるので注意してください」などと適切なアドバイスを送ってくれる。西干拓~古浜~野田と移動して行って野田川の脇の道に出た時、レシーバーから「水路にヘラサギが入っています」との声。「了解しました」といってしばらく止めてもらい観察してから撮影を済ませた。「ヘラサギ」も西南日本に多いトキ科の冬鳥である。それにしてもこのレシーバーでのやりとりはまるでカナダの森林公園のレンジャー(自然観察員)にでもなったようである。

この後、「カラムクドリ」や「ギンムクドリ」といったムクドリ科の珍鳥が出現するという場所や夕刻にフクロウ科の「コミミズク」が飛ぶという場所などを通過して東干拓のツル類の塒に移動する。広大な干拓地の中央の真っ直ぐな車道をゆっくりと走って行くと再びレシーバーから「右手の奥にナベとマナの大きな混群が入っています」と案内があった。車を止めて車中から双眼鏡で観察する。水田が真っ黒に観えるぐらい数千羽のツルたちが休息していた。ここで車道の脇に車を止めてさらに高倍率のフィールドスコープ(望遠鏡)を三脚にセットしてジックリと観察することにする。狙いは数が少ない珍重のツルたち。しばらくしてM氏が「クロヅルとカナダヅル…それからナベクロヅル(ナベヅルとクロヅルの自然交雑種)も混ざって入っていますよ」、さすがに地元バーダー、見つけるのが早い。M氏のスコープでおおよその位置を確認し自分のスコープでもしっかりと観察した。

さらに移動しツルの姿を探す。途中、「ヘラサギ」と「クロツラヘラサギ」の混群を発見、カメラに収める。しばらくしてM氏の車のスピードが上がりレシーバーに強い口調で連絡が入る。「クロとナベクロが車道から近い水田に入っている」というのだ。急いで追いつき双眼鏡で確認。ドアの音がしないようにゆっくりと車を降り、脅かさないようにして写真を撮影させてもらった。ここでそろそろ日没の時間が近づいてきた。今日の締めくくりは干拓地から近いM氏の自宅近くの神社ポイント。ムクドリの大きな塒となっている竹藪がありその手前の電線に「ホシムクドリ」が出現するのだという。「ホシムクドリ」はムクドリ科の野鳥で数少ない冬鳥として日本に渡来し、西南日本での記録が多い。現場に到着するとすでに周囲は暗くなりかけていた。M氏が「今日はもう遅いかなぁ…塒に入ってしまったかなぁ」と呟いたその直後、40羽ほどのムクドリの群れが飛んで来て目前の電線にとまった。はやる気持ちを抑えながら端から双眼鏡で1羽1羽観察して行くと「いたいた、ホシムクドリっ!」ムクドリより小型でかなり黒っぽい羽色の姿をしっかり観られた。かなり暗くなってからなので撮影はできなかったが印象に強く残った鳥となった。

ここでタイムオーバー。「今日は一日貴重な時間をいただき本当にありがとうございました」M氏に丁寧にお礼を言ってから再会を約束した。M氏と分かれて道すがら今日の鳥見がかなり幸運続きだったことや明日からの計画などを2人で話し合いながら宿へと向かったのでした。連載はさらに次回へと続く。

画像はトップがナベヅルの群れ。下が向かって左から西干拓のツル類の給餌場、ツル展望台、マナヅル、ヘラサギ、クロツラヘラサギ、クロヅル、ナベクロヅル。



                         

321. ローカルTV 『画家・版画家 長島充』に出演しました。

2018-02-03 18:59:01 | 日記・日常
1/29、今週の月曜日から地元ケーブルテレビのローカルチャンネルに出演している。20分強の放送時間。番組名は『-佐倉市立美術館収蔵作品シリーズ- 画家・版画家 長島充 』。作家のしての僕に焦点を絞った構成となっている。憶えているブロガーの方がいらっしゃるだろうか。ちょうど一年前に同じチャンネルの、冬のバード・ウォッチングを紹介する番組に解説者として出演した。その時も少し画家・版画家としての姿も紹介されたのだが、今回はそちらの顔がメインとなっている。

僕が暮らす千葉県佐倉市の広報課が制作している番組なのだが、出演依頼は昨年の春ごろにいただき、昨年末から数度にわたるインタビューと撮影が行われた。そして前回同様、番組放送前に確認用のDVDを受け取った。取材中、思いつくままに喋った内容をどのようにまとめられるのかとても不安だったが、そんな心配は無用となった。番組は地元の佐倉市立美術館の収蔵作品から始まり、作家紹介、幼少の頃、画家になろうと思ったきっかけ、美術学校時代、版画の師との出会い、幻想的主題による連作、神話・伝説と言うテーマとの出会い、写実的な版画作品について、ライフワークとしての野鳥観察のこと、今後の作家としてのビジョン、と順を追ってとても解り易く構成されている。これは前回もそうだったが取材と構成を担当するT女史のなせる技なのである。ここまできちんとテレビ画面を通して、作家としての姿勢やテーマについて自ら語ったり、制作状況を公開したりしたのは初めてである。

ただし、この番組はあくまでもケーブルテレビを契約している一般市民の方々を対象とするものなので取材の初めから言葉の表現には注意するように言われ、カタカナ表現や難解な専門用語はなるべく避けたつもりである。パブリックな電波というものには、そうした細心の注意が必要となるのである。

そして前回同様にケーブルテレビの放送後、You Tube jp.に公開される。放送中は地域の限られた方々しか観ることができないが、You Tube に公開されれば検索すれば誰でも観ることができる全国区のデジタル映像となるのである。時代は変わった…ありがたいことでもある。来週あたりにはデジタル・デビューをするので、その時にはまたフェイスブックやインスタグラム、ツイッッターなどSNSで友人となっている方々にも観ていただけるように投稿して行こうと思っている。どうかお付き合いをよろしくお願いします。

今回、たいへん貴重な機会をいただいた佐倉市広報課の担当者の方々、ご協力いただいた佐倉市立美術館の方々、そして僕の版画の師である故・堀井英男先生の貴重な資料の使用を許可していただいた堀井京子夫人にこの場をお借りして感謝いたします。ありがとうございました。

※地元ケーブルテレビでの放送は1/29(月)~2/4(日)までの期間限定の1週間で終了しましたが、動画は2/5(月)~ You Tube jp.にアップされていますので、検索によりどなたでも観られるようになりました。「佐倉市チャンネルさくら 長島充」と文字を打ち込んで検索して頂ければ動画が出てきます。ご興味のある方は是非、ご視聴ください。よろしくお願いします。


画像はトップが番組中でインタビューに答える僕。下が番組内に映ったさまざまな場面。