2/10(土)。鹿児島県出水市でのツル類取材旅行2日目である。今日も五時に起床するがあいにく天気はよくない。ホテルの窓から外を見ると道路が濡れていて小雨が降っている。天気だけはどうすることもできない。
昨日は千葉のT先輩に紹介して頂いた地元出水のベテラン・バーダーのM氏に生息地をご案内いただいて、こちらで観察しておきたい種類のほとんどの種を観ることができた。そして今日から連れ合いと2人だけでフィールドを巡回するポイントも抑えていただいたので後は現地に向かうだけである。野鳥たちの朝は早い。6:29車に観察用具とカメラ一式を積み込んでにホテルを出発した。
<西干拓のツル類の塒と給餌場>
まず初めに昨日の予習どうりに向かったのは「ツル展望所」に近い西干拓の広い水田にあるツル類の塒と給餌場だ。道すがらまだ小雨が降っているが外に出られないほどでもない。昨日、M氏には「まぁ、自然な状況というわけではないですが、西干拓の給餌場でのツル達の飛翔と群がるようすは一見の価値がありますよ」とアドバイスしていただいていた。6:50干拓地の道路脇のポイントに到着。一般道のため場所、停車する場所や対向車には最新の注意をしながら止める。周囲はまだ青暗く思いの外、寒い。南九州の冬の朝がこんなに寒いものだとは想像していなかった。車の中で連れ合いと2人、じっと待っているとすでに周囲からはナベヅルのクルルーッやマナヅルのやや強いヴァルルーッという声が、あちらこちらから聴こえてくる。そして幼鳥のピィー、ピィーという声も入る。
地元ボランティアの人たちによる給餌は7:00から7:20頃ということだが、この寒さが厳しい中での10~20分の待ち時間はとても長く感じた。そうこうしているうちに給餌の軽トラックが近づいてきた。ツルたちがザワザワとし始め、一際強く鳴き声を放っている。
そしてまだ薄暗い中、ツル達の群れが、方々から飛んで来始めるといよいよツルたちの騒ぐ声で車の中のお互いの声が聴こえなくなるほどである。軽トラックに用意してあった餌を放り出し始めるとその強烈なエネルギーはピークに達した。「凄いねぇ…」「いったい何羽ぐらいいるんだろうか…」どのくらい時間が経ったのかも忘れるほど興奮し、夢中でカメラのシャッターを押し続けたり、スマホで動画を撮ったりしているうちに辺りが明るくなってきた。「そろそろ宿の朝食の時間だから一端戻りましょう」という相棒の声で、はっと我に帰ったほどである。
<雨の干拓地と「ぶんちゃんラーメン」>
一端ホテルに戻って朝食を済ませ部屋で少しだけ仮眠をとる。10:05から再び取材スタート。と思いきや雨が本降りとなってきた。仕方ないので雨の上がった時のことを想定し東西の広大な干拓地のポイントを確認しながらグルグルと巡回した後、ツル展望所へ避難した。ここで館内から雨の中のツル類の群れの写真や動画を撮影したり館内のテレビで放映している出水のツル達のドキュメンタリー映画を観賞したりしてしばらく過ごした。
正午も過ぎた頃、小腹が空いてきたのでT先輩ご推薦の「ぶんちゃんラーメン」という地元で評判の九州ラーメンを食べに車で移動する。道路に面した小さなお店は周りに何もない場所なのですぐに見つけることができた。午後1時を過ぎているというのに店の外まで人が並んでいる。なんとか席に着き、このお店の名物である「もやしラーメン」を注文するとすぐに出てきた。それは、もやしというよりは細かく刻んだ長ネギがまるで、かき氷のようにラーメンの上高く盛り上がったものだった。「えっ、これがラーメン!?」割り箸でほじくるのだが、肝心の麺がなかなか出てこない。ラーメンを食べているというよりも中華味の長ネギを食べているような妙な感じであった。これもご当地ならでは経験ということだろう。店を出るやいなやクサシギが1羽、目の前を鋭く飛んだ。
<東干拓・憧れのカナダヅルとの出会い>
ここから東干拓のポイントに移動する。途中、ニュウナイスズメの群れが電線にとまっていたり、タゲリが車の窓からすぐ近くまで近づいてきたりして天気は悪いがそれなりに楽しい。昨日の夕刻、M氏の案内で訪れたツル類の塒近くに到着する。昨日はナベヅル、マナヅルの外、近い距離でクロヅルやナベクロヅル(ナべヅルとクロヅルの自然交雑種)、距離は遠いがカナダヅルも観察できた場所である。しばらくここで腰を据えて観察することにする。水田上を低くミヤマガラスの150羽以上の群れが飛び、アトリの1000羽強の大群が右へ左へ飛ぶ様子は見事であり、しばし見惚れてしまった。そうこうしているうちに午後も遅くなって雨が上がってきた。昨日比較的近くでツル類の群れが観られた水田近くまで移動、エンジンを止めてここでしばらく待つことにする。1-2枚先の水田にいたツルたちが餌を食べながら移動しどんどんこちらに近づいてきた。もうじき繁殖地へと向かう渡りが始まる季節である。ツル達は四六時中餌を食べてエネルギーを蓄えている。時々何かの音に驚いて群れで、わっっと飛び立つこともあり落ち着かないようすである。ここではじっくりとカメラと動画の撮影をすることができた。そろそろ宿に帰る時間も近づいてきた。もう一度、昨日、クロヅルを観たところに立ち寄ってみようと移動する。現場に着くと今日もツルの群れは車道から遠い。車から降りて双眼鏡で端から観察していると、後にいた連れ合いが押し殺した声で「あなたの後っ、…ほら、カナダヅルが6羽!」と言った。「えっ(まさか)」と言って振り返ったすぐ後ろの水田に佇んでいたのだった。カナダヅルは英語名をSandhill Craneといい、北アメリカ北部とシベリア北東部で繁殖し、北アメリカ中部、南部で越冬するツル類で日本では稀な冬鳥として記録されるが、ここ出水平野では毎年数羽が越冬している。25年ぐらい前に千葉県にも1羽が渡来したが僕は観に行っていない。
そして幸運にもツルの保護用に水田脇に据え付けられた黒いネットの下がこの水田だけ切れていた。憧れのツルとの至近距離での出会い、夕方でシャッタースピードがかせげないのと、逸る気持ちを抑えつつ、大興奮でシャッターを押し続けたのが今回の画像である。めでたしめでたし。今日の取材はここまでで終了。今晩は予約しておいたお店で地元名物の刺身と黒毛和牛のステーキ、それから薩摩の芋焼酎で、カナダヅルとの出会いに祝杯をあげることにしよう。
※取材旅行記はあと1日分、つづきます。
画像はトップが憧れのカナダヅル。下が向かって左から同じくカナダヅル、朝の西干拓の給餌場のようす2カット、東干拓の塒周辺でのツル達のようす2カット。
昨日は千葉のT先輩に紹介して頂いた地元出水のベテラン・バーダーのM氏に生息地をご案内いただいて、こちらで観察しておきたい種類のほとんどの種を観ることができた。そして今日から連れ合いと2人だけでフィールドを巡回するポイントも抑えていただいたので後は現地に向かうだけである。野鳥たちの朝は早い。6:29車に観察用具とカメラ一式を積み込んでにホテルを出発した。
<西干拓のツル類の塒と給餌場>
まず初めに昨日の予習どうりに向かったのは「ツル展望所」に近い西干拓の広い水田にあるツル類の塒と給餌場だ。道すがらまだ小雨が降っているが外に出られないほどでもない。昨日、M氏には「まぁ、自然な状況というわけではないですが、西干拓の給餌場でのツル達の飛翔と群がるようすは一見の価値がありますよ」とアドバイスしていただいていた。6:50干拓地の道路脇のポイントに到着。一般道のため場所、停車する場所や対向車には最新の注意をしながら止める。周囲はまだ青暗く思いの外、寒い。南九州の冬の朝がこんなに寒いものだとは想像していなかった。車の中で連れ合いと2人、じっと待っているとすでに周囲からはナベヅルのクルルーッやマナヅルのやや強いヴァルルーッという声が、あちらこちらから聴こえてくる。そして幼鳥のピィー、ピィーという声も入る。
地元ボランティアの人たちによる給餌は7:00から7:20頃ということだが、この寒さが厳しい中での10~20分の待ち時間はとても長く感じた。そうこうしているうちに給餌の軽トラックが近づいてきた。ツルたちがザワザワとし始め、一際強く鳴き声を放っている。
そしてまだ薄暗い中、ツル達の群れが、方々から飛んで来始めるといよいよツルたちの騒ぐ声で車の中のお互いの声が聴こえなくなるほどである。軽トラックに用意してあった餌を放り出し始めるとその強烈なエネルギーはピークに達した。「凄いねぇ…」「いったい何羽ぐらいいるんだろうか…」どのくらい時間が経ったのかも忘れるほど興奮し、夢中でカメラのシャッターを押し続けたり、スマホで動画を撮ったりしているうちに辺りが明るくなってきた。「そろそろ宿の朝食の時間だから一端戻りましょう」という相棒の声で、はっと我に帰ったほどである。
<雨の干拓地と「ぶんちゃんラーメン」>
一端ホテルに戻って朝食を済ませ部屋で少しだけ仮眠をとる。10:05から再び取材スタート。と思いきや雨が本降りとなってきた。仕方ないので雨の上がった時のことを想定し東西の広大な干拓地のポイントを確認しながらグルグルと巡回した後、ツル展望所へ避難した。ここで館内から雨の中のツル類の群れの写真や動画を撮影したり館内のテレビで放映している出水のツル達のドキュメンタリー映画を観賞したりしてしばらく過ごした。
正午も過ぎた頃、小腹が空いてきたのでT先輩ご推薦の「ぶんちゃんラーメン」という地元で評判の九州ラーメンを食べに車で移動する。道路に面した小さなお店は周りに何もない場所なのですぐに見つけることができた。午後1時を過ぎているというのに店の外まで人が並んでいる。なんとか席に着き、このお店の名物である「もやしラーメン」を注文するとすぐに出てきた。それは、もやしというよりは細かく刻んだ長ネギがまるで、かき氷のようにラーメンの上高く盛り上がったものだった。「えっ、これがラーメン!?」割り箸でほじくるのだが、肝心の麺がなかなか出てこない。ラーメンを食べているというよりも中華味の長ネギを食べているような妙な感じであった。これもご当地ならでは経験ということだろう。店を出るやいなやクサシギが1羽、目の前を鋭く飛んだ。
<東干拓・憧れのカナダヅルとの出会い>
ここから東干拓のポイントに移動する。途中、ニュウナイスズメの群れが電線にとまっていたり、タゲリが車の窓からすぐ近くまで近づいてきたりして天気は悪いがそれなりに楽しい。昨日の夕刻、M氏の案内で訪れたツル類の塒近くに到着する。昨日はナベヅル、マナヅルの外、近い距離でクロヅルやナベクロヅル(ナべヅルとクロヅルの自然交雑種)、距離は遠いがカナダヅルも観察できた場所である。しばらくここで腰を据えて観察することにする。水田上を低くミヤマガラスの150羽以上の群れが飛び、アトリの1000羽強の大群が右へ左へ飛ぶ様子は見事であり、しばし見惚れてしまった。そうこうしているうちに午後も遅くなって雨が上がってきた。昨日比較的近くでツル類の群れが観られた水田近くまで移動、エンジンを止めてここでしばらく待つことにする。1-2枚先の水田にいたツルたちが餌を食べながら移動しどんどんこちらに近づいてきた。もうじき繁殖地へと向かう渡りが始まる季節である。ツル達は四六時中餌を食べてエネルギーを蓄えている。時々何かの音に驚いて群れで、わっっと飛び立つこともあり落ち着かないようすである。ここではじっくりとカメラと動画の撮影をすることができた。そろそろ宿に帰る時間も近づいてきた。もう一度、昨日、クロヅルを観たところに立ち寄ってみようと移動する。現場に着くと今日もツルの群れは車道から遠い。車から降りて双眼鏡で端から観察していると、後にいた連れ合いが押し殺した声で「あなたの後っ、…ほら、カナダヅルが6羽!」と言った。「えっ(まさか)」と言って振り返ったすぐ後ろの水田に佇んでいたのだった。カナダヅルは英語名をSandhill Craneといい、北アメリカ北部とシベリア北東部で繁殖し、北アメリカ中部、南部で越冬するツル類で日本では稀な冬鳥として記録されるが、ここ出水平野では毎年数羽が越冬している。25年ぐらい前に千葉県にも1羽が渡来したが僕は観に行っていない。
そして幸運にもツルの保護用に水田脇に据え付けられた黒いネットの下がこの水田だけ切れていた。憧れのツルとの至近距離での出会い、夕方でシャッタースピードがかせげないのと、逸る気持ちを抑えつつ、大興奮でシャッターを押し続けたのが今回の画像である。めでたしめでたし。今日の取材はここまでで終了。今晩は予約しておいたお店で地元名物の刺身と黒毛和牛のステーキ、それから薩摩の芋焼酎で、カナダヅルとの出会いに祝杯をあげることにしよう。
※取材旅行記はあと1日分、つづきます。
画像はトップが憧れのカナダヅル。下が向かって左から同じくカナダヅル、朝の西干拓の給餌場のようす2カット、東干拓の塒周辺でのツル達のようす2カット。