長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

341. スペシャル講座 『小さな木版画 - 木口木版画の魅力』

2018-08-27 18:10:27 | イベント・ワークショップ
8/19(日)。千葉県千葉市にある千葉市美術館に於いて開催中の『木版画の神様 平塚運一展』の関連イベント・スペシャル講座に講師として出かけて来た。講座のタイトルは『小さな木版画 - 木口木版画の魅力』というもの。展覧会の版画家である平塚運一氏が若い頃から憧れていた西洋の木版画技法である「木口木版画」について彫り、摺りの実演も交えながら一般の参加者に解説するという内容である。

話は今年の春に遡る。以前、銅版画の制作と作品展示によるワークショップを開催した東京の町田市立国際版画美術館の担当学芸員の方から連絡をいただき「千葉市美術館の平塚運一展の担当学芸員の方が地元千葉県在住で木口木版画技法の解説ができる版画家を探しているのですが長島さん、お引き受け願えないでしょうか?」と尋ねられた。今までにいくつかの美術館や公共施設でこうした解説は行ってきたのでその場で「いいですよ、前向きに考えます」とお返事した。しばらくしてから千葉市美術館の担当学芸員のN女史からメールをいただいたり、工房に来ていただいたりして内容を詰めていったのだが「一般の方にはなじみの薄い版画技法であり、解説だけではなかなか理解しずらいので彫りや摺りの実演も行いましょう」ということに決定した。

その後、講座に向け当日までに平塚運一展を2回観て、僕の祖父母の年代にあたる、この偉大な木版画家の木口木版画作品を中心にじっくり観て彫り方や画面構成を分析した。やはりこの人は大正時代から昭和の初期に起こった「創作版画運動」の中心的な版画家なので木口木版画の彫り方も西洋の伝統を踏まえつつも自由自在な表現となっていた。この創作版画の人たちが唱えたのは「自画(自身で原画を描き)、自刻(自身で版を彫り)、自摺り(自身で摺りあげる)」ということと「彫刻刀を絵筆のように使い絵画を描くように自由に版を彫る(表現する)」ということがその精神であった。

この分析結果から、自分自身が講座で話す内容がほぼ決まった。「では、平塚氏が憧れた原点となった西洋の木口木版画の歴史、伝統まで遡ってこの魅力を浮き彫りにしてみよう」

展覧会案内には、講座への申し込みは美術館への事前申し込みとなっていて定員は40名。応募多数の場合は抽選とする、とされている。ただ、どちらかと言えば地味でマニアックな内容である。当日まで「5人から10人ぐらいの申し込みだったらどうしよう…」と不安だったが、当日の昼、N女史から「定員の倍、80名以上の応募があり半分の希望者が抽選に外れました」と聞いた時、自分でも意外な感じがして内心、ビックリした。

講座は午後の2時から約2時間ほど。途中休憩を入れて前半と後半に分けて解説と実演内容を変えて行った。各内容は以下の通り。

<前半 木口木版画の発祥と歴史・彫版の実演>

・18C末、イギリスの版画家、トマス・ビューイックからこの技法が始まり、19世紀にヨーロッパ中で木口木版画入り挿画本が大流行となったこと。その中心の超人気画家、フランスの画家ギュスターヴ・ドレの作品コピーを用いて描かれている物語の内容と共に技法を解説。引き続きその流行が飛び火してアメリカでもさかんに制作されるようになったことを作品の資料と合わせて解説。そして何故この技法が流行となったか?発祥した原因、必然性まで分析し解説した。さらに日本に伝わった明治期のことや平塚運一の技法についても分析し解説する。
そして、各種ビュランを用いた彫版の実演。僕が15年程前に出会った昭和30年代まで木口木版画の仕事をしていた彫り師のH氏から口伝され譲り受けたビュランによる彫り方なども実演してみせた。

ここで休憩と摺り場の準備。

<後半 木口木版画の摺りの実演>

・板目木版画との摺り用具、摺り方の違いを説明し、実際の版を使用しての摺りの実演を時間いっぱい行った。この時使用した版は僕自身の作品と合わせて彫りのところでも話した彫り師H氏が昭和30年代に新聞などのコマーシャル分野で制作した版(譲り受けたもの)の摺りも行った。

前半、後半と夢中になって話し実演、2時間という持ち時間を30分ほどオーバーしてしまったが、講座中、終了後も参加者から数多くの質問をいただき盛会のうちに終了することができた。

今回、貴重な機会の橋渡しをしていただいた町田市立国際版画美術館の学芸員の方、そして講座の事前打ち合わせや会場設営などでお世話になった千葉市美術館の担当学芸員の方々、そして酷暑の中、ご応募、ご参加いただいた参加者のみなさんにこの場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。 

※千葉市美術館の『木版画の神様 平塚運一展』は9/9(日)まで開催しています。初期の浮世絵版画に学んだ色彩木版画、小さく繊細な木口木版画、晩年の力強い白黒板目木版画等、たいへん見応えのある良い展覧会です。まだご覧になっていない版画ファン、アートファンの皆様、この機会をお見逃しなく。


画像はトップがスペシャル講座の会場のようす。下が向かって左から講座風景、平塚運一展ポスター、千葉市美術館外観など。



                           









340. 『日本の野鳥 in 駿河台』 長島充 野鳥版画展も終盤となりました。 

2018-08-25 16:52:05 | 個展・グループ展
東京・駿河台の三井住友海上のエコロジー・コミュニケーションスペース『ECOM駿河台』に於いて7/17から始まったロング・ランの野鳥版画個展も残すところ5日間とラスト・スパートに入りました。お盆休み辺りからまたご来場いただく方々も増えてきてSNSなどを通じて展覧会の感想や励ましのお言葉をいただいております。

今年は梅雨開けが6月中という速さで盛夏となってからは本当に猛暑が続き、特に都会の暑さは尋常ではありませんでした。この暑さの中、ご来場くださった友人・知人、版画ファン、野鳥ファンの方々にはとても感謝しております。

残りがわずかではありますが、これからご来場いただくという方々に、ここで周囲のオススメ・スポットをいくつかご紹介しておきます。個展会場は御茶ノ水駅から2-3分の『ECOM駿河台』の1F(大判木版画)と2F(銅版画、板目木版画、木口木版画、各種版画道具)となっております。入場は無料なのでどなたでも開館時間内にご覧になることができます。
また、1F奥のカフェ&レストランではお食事、コーヒー、ワインなども注文することができます。

それから道路を隔てた南側の三井住友海上駿河台新館の低層階屋上(3階)にあります屋上庭園(緑地)がオススメです。ヤマモモや楠が植えられ休憩用のデッキ・チェアなども配置されていてとても大都会の真ん中とは思えない緑地となっています。珍しいのは「ニュートンのリンゴ」と呼ばれる林檎の木で、あの万有引力を発見したアイザック・ニュートン(1643-1727)の生家に生えていた林檎の木から造られたクローン植物だということです。展覧会を観た後の木蔭の休憩場所としてはいかがでしょうか。1階のエレベーター入り口から時間内にどなたでも入園することができます。入園無料。また、庭園から新館ビルディングの最上階あたりを見上げると、都会では珍しいアマツバメ科の野鳥、ヒメアマツバメの乱舞も観察できます。朝と午後遅い時間が狙い時です。

それから近隣を散歩すれば、これまで数多くの風景画家たちに描かれてきた正教会の大聖堂「ニコライ堂」がすぐの場所に建っています。緑青色に変化した独特のドーム構造の屋根がたいへん美しい聖堂ですので1度訪れてみることをオススメします。

土日は会場は休館ですが8/27(月)~最終日の8/31(金)午前 10:00~17:00までご覧いただけます。長島は最終日8/31の午後1時から会場にいる予定です。まだご覧になられていない野鳥ファン、版画ファンの方々、この機会に是非、ご来場いただきご高覧ください。

『ECOM駿河台』 東京都千代田区神田駿河台3-11-1(三井住友海上駿河台新館よこ) tel:03-3259-3135 公式 Facebookページ「ECOM駿河台 Facebook」で検索。

画像はトップが個展会場1階入り口にある看板。下が会場内の展示のようす3カットと隣接する新館の屋上庭園風景6カット。ニコライ堂のドーム。



                                    

339.月刊 BIRDER誌 8月号 特集記事『概説 空想鳥類学』に寄稿しました。 

2018-08-21 19:31:39 | 書籍・出版
国内唯一のバードウォッチングの月刊誌『BIRDER・バーダー』(文一総合出版)の8月号特集記事『概説 空想鳥類学』に「世界幻鳥図鑑」と題して寄稿した。文章は連載でもタッグを組んでいたS女史。僕は絵の方を担当した。

このBIRDER誌、ふだんは硬派でマニアックな野鳥観察者のための雑誌で、野鳥の生態や観察地、野鳥写真の撮影方法などを紹介している。僕がこの雑誌に連載などで関わり始めてから早いもので18年が経った。この間に特集への寄稿も5回ほどあった。最近では毎年8月号の特集記事だけは編集部で冒険をすると決めているとのことである。今回、編集担当のT女史からの依頼内容は「古から世界中に伝承される幻鳥をカラー6ページの中に図鑑風に構成してほしい」というものだった。

以前、文章のS女史とは、こうした内容で同誌に「伝説の翼」という連載を3年程続けた。絵は元々、イラストレーションとしてではなく画廊などで新作として発表する絵画作品として制作していたもので、この時のものと今秋の新作絵画個展に向けて制作している作品を合わせた形で寄稿している。合計で東西世界に分布する「幻鳥」を13種類載せてもらった(詳細は8月号誌面をご覧ください)。元々、世界中の人々が空想で伝えてきた「幻鳥」である。S女史の文章の方は「図鑑風の構成」ということに苦労していたようだが、何とかうまくまとめてくれた。

たとえばハリーポッター・シリーズに登場する「グリフォン」であれば分類の表記を「キメラ目・獣鳥科」、東洋を代表する「鳳凰」であれば「神鳥目・不死鳥科」という風に創作しているのである。そして13種それぞれに、起源、生息地、形態、生態、モデルとなった鳥、類似種などの解説を付けている。こちらも全て創作によるものである。さすがに、慶応大学野鳥学部出身と自称するだけのことはある。

ありそうでない特集内容。発売後の読者反応も結構ご好評をいただいているようである。BIRDER8月号は大手書店、Amazon、文一総合出版のネットショップなどから購入することができる。ご興味のある方は是非お手に取ってご覧いただきたい。


画像はトップが特集記事の「世界幻鳥図鑑」トップページ。下が向かって左から同じく記事の別ページ、BIRDER8月号の表紙(部分)。


   

338. ワークショップ 『消しゴム版画で東京の生きものを彫ろう!』

2018-08-02 18:22:52 | イベント・ワークショップ
1日。東京は記録的な猛暑日となった。街を歩いていてもヒートアイランド現象と言うのか頭がボーッとして思考回路がストップしてしまう。

その猛暑の中、千代田区駿河台にある企業の三井住友海上が持つ、エコロジーのコミュニケーション施設『ECOM・駿河台』に於いて『消しゴム版画で東京の生き物を彫ろう!』というワークショップに出演してきた。現在、会場となった施設内では、僕の野鳥版画による個展『日本の野鳥 in 駿河台』が8/31まで開催中である。そのロングランの個展の関連イベントとして企画されたものである。

今までこの消しゴム版画によるワークショップは東京を始め関東各地で開催してきた。その都度、参加者にその地域で観察される野生生物をモチーフとして制作していただいている。今回は東京都千代田区の大都会のど真ん中であるが、緑地や公園で観察される野鳥、動物、昆虫、花(園芸種も含む)等をモチーフに講師制作の下絵を事前支給し消しゴムを彫っていただいた。

早朝から車に荷物を積み込み相棒の連れ合いと高速道路を乗り継いで都内に向かう。途中、事故渋滞に巻き込まれヒヤヒヤしたが何とか遅刻せずに会場に到着できた。敷地内の緑地にあるベンチで朝食を済ませ、ECOMスタッフの方々と会場の設営。午前の部の開始時間前から参加者の方々が来場してきた。今回、夏休みということで小学校中学年以上の子供たちの参加が多い。参加予定者が揃ったところで、さっそく消しゴム版画とその彫り方の説明に入り各自が制作に入る。ワークショップなので講師も自分のゴム版を順を追って彫って見せる。

今回はみなさん優秀で失敗などほとんど見られなかった。彫りが終了するとインキングと摺り。コピーの裏紙で練習してから専用はがきに摺ってもらった。色のグラデーションや部分的な色付けなど実演したが、これもみなさん、飲み込みが早く難なく摺りあげていた。やはり都会の子供たちは情報も多くてよく理解もしているようだ。

昼食の休憩は小川町まで歩いてお気に入りのジャズ喫茶でタモリ氏ご推薦の「特製チキンカレー」を食べる。行き帰りの路上は猛暑によるアスフェルトの照り返しと熱気が物凄くて閉口してしまった。仕方がないのでなるべく日陰を歩くようにしていた。

午後の部は午前と参加者も入れ替わる。こちらのグループも呑み込みが早くスムーズに制作が進んで行った。参加者の中には「娘が版画と野鳥が大好きで先生の作品をどうしても見てみたいと言って参加しました」という母娘や「僕は版画制作が得意で図工の時間に作った紙版画が千代田区で賞をもらい区役所に展示されました」という少年もいた。
摺りの場所は彫る場所とは別テーブルとしていたのだが続々と力作、傑作が生みだされ指導した僕も自分のことのように嬉しくなって摺り上がる度に言葉にならない歓声を上げていた。そしていつの間にか窓の向こうに見える都会のビルの谷間では、午後遅くの低い陽光へと変化していた。

楽しい時間というものは、いつもあっと言う間に過ぎて行く。熱心な参加者と力作の数々に囲まれて満たされた時を過ごすことができた。

このイベントを主催、企画していただいたECOM駿河台の担当スタッフの方々と猛暑の中、参加していただいた素敵な参加者のみなさんに感謝いたします。ありがとうございました。

画像はトップが今回のイベントのフライヤー。下が向かって左からイベント会場のようす、参考に彫ったヒメアマツバメとアサガオの消しゴム版画、EKOM駿河台内部の風景等。