長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

149.『BIRDER』誌7月号の特集記事に掲載される。

2014-06-26 20:55:01 | 書籍・出版

BIRDER(バーダー)という月刊誌がある。BIRDERとは米英語で野鳥観察者のことで、国内で唯一のバードウォッチング専門誌となっている。この雑誌、14年前から連載や挿画、特集記事などでお世話になっている。

先々月、編集部のT女史よりメールが入った。「7月号の特集記事に『至極の鳥見旅行ガイド』という企画をたてています。今までとちょっと変わった特集記事にしたいのですが、何かいいアイディアはないですか」ということで、さらに「長島さんはパワースポットとか詳しいですか、そういう場所で夏鳥を見たことはないですか」ということだった。現在、この誌面に『伝説の翼』というタイトルで連載されているページに神話や伝説に登場する鳥や翼の絵を描いているということでの依頼だろうか? それとも、理科系(生物系)、写真派のバーダーが主流の中で、普段から自称「文科系バーダー」と」名乗っているので依頼されたのだろうか? どちらにしても興味もあり引き受けたいと思ったので「内容了解しました。少し考えてみます」と返信した。

「…パワースポットねぇ。都内の〇〇神宮ではバーダー界であまりにもポピュラー過ぎるし、近所の〇〇寺では、平地で夏鳥の種類が少ないし…うーむ」 返事をしたのは良いが悩んでいるうちに強力なパワースポットを思い出した。2年前の5月に司馬遼太郎の歴史小説『空海の風景』を読了後、思い立って和歌山県の高野山を旅行した。確か高野山は恐山、比叡山と並び『日本三大霊場』と言われている。そして深い山地に位置することもあり、野鳥も多かった。というわけで、さっそく、T女史にメールを打ち内容を伝えると 「ぜひ、その内容でお願いします」という返事が返ってきた。ひさびさの特集記事ということもあって、ページ割、文章量などを確認してから、すぐに構想に取り掛かった。

先日、楽しみにしていた7月号が手元に届いた。僕の「パワースポットで鳥見旅」以外にも、鉄道での旅の途中、車窓から見る野鳥の話や全国通津浦々、珍鳥を探し求めての旅などなど、盛り沢山な特集となっている。野鳥好き旅行好きのみなさん、この機会にぜひ書店にて見てください。画像のトップはBIRDER7月号の表紙。下が担当した特集ページとカットとして描いたオオルリの水彩画。

 

     


148.今月は誕生月

2014-06-18 21:53:56 | 日記・日常

今年は梅雨に入ってから不安定な天候が続く。雨ばかりではなく、雷雨だ竜巻だと住宅地のスピーカーからは頻繁に注意報が流れる。昔はこんなことはなかったなぁ。

6月は僕の誕生月。21日に〇5歳となる。この10年ぐらいは1年間がほんとうに短く感じる。どころか振り返ると3年、5年があっという間である。頭の中身は20代後半からあまり進歩していないんだけど。梅雨に生まれたせいか雨は嫌いではない。ザンザン降りはともかく、シトシトと降る分には風情さえ感じてしまうし、ジトジトとした気候の中、なぜか元気になってしまうのだ。

僕が生まれた〇5年前はちょうど日本が東京五輪に向かう、高度経済成長の真っただ中だった。世の中、高景気に湧いていて活気があり、それまでにない新しい事がたくさん生まれた時代でもある。父親たちは大忙しで仕事に追われ、一緒に外出した覚えがない。そういう慌ただしい時代の梅雨に生まれた。難産の逆子だったようで『カンシブンベン』という方法で大きなヤットコのような器具で頭から取り出されたそうだ。3年前に他界した母親が「とにかく、とってもたいへんだったのよ」と時々思い出してはこぼしていた。あまり、生まれてくるのに時間がかかったので実家で待機していた父方の祖母と母方の祖父母も待ちくたびれてしまったらしい。よくぞまぁ無事、五体満足で生まれてきたものである。両親には感謝しなければいけない。

先月、母方の祖母が91歳で大往生し、その時のことを覚えている大人も父親だけになってしまった。なんとも寂しいことである。トップ画像に使用した僕のモノクロ写真は生後5か月ぐらいの時に自宅で祖父により撮影されたもの。カメラは父が安月給をはたいて購入した『キャノネット』という当時の最新機種である。まだ一眼レフカメラが出るかどうかという時代だった(こう書くと年齢がばれてしまうが)。やや後ピン気味だが、表情がよく撮れている。21日はアルバムを開きながら当時のことを思い出すことにしよう。画像はトップが自宅で眠る生後5か月の僕。下は梅雨の中、庭に咲く満開のガクアジサイ。

 

     

 

 


147.『バルテュス展』

2014-06-13 20:47:04 | 美術館企画展

今月6日の午後から大雨の中、東京都美術館で開催中の『バルテュス展』を観に行ってきた。雨の平日は美術館が空いていてねらい目でもある。おかげで靴の中までグズグズになったが、我慢して会場に入った。

バルテュス(1908-2001)と言えば、20世紀美術のいずれの流派にも属さず、西洋絵画の伝統に触れながら全くの独学により独自の具象世界を築き上げたことで良く知られている。そしてあのピカソをして「20世紀最後の巨匠」と言わしめた作風は神秘的で緊張感があり、どこか懐かしい印象を持つ。風景を描けばどこかセザンヌの構成を思わせ、褐色系の落ち着いた画面からはバルビゾン派の匂いもしてくる。パリで生まれ、芸術家の両親を持った彼はやはりフランスを代表する画家ということなのだろう。

僕がまだ油絵を描き始めたばかりの二十歳の頃、通っていた絵画研究所にヨーロッパの留学から帰国したばかりのSという先生がいた。その先生が油彩画の魅力について語り始めると留学先で購入してきたバルテュスの画集を開きながら「バルテュスの絵肌がいいんだよ」と繰り返し言っていた。この頃からこの画家は僕にとって、雲の上にいるあこがれの存在であった。

今回の展示は代表的な大作も多くかなり見応えがある。作品の間隔もゆとりを持って掛けられていてとても観易い。そして大雨のため入場者が少なく、ゆっくりと納得いくまで見ることができた。どれもが傑作でベストを決めかねるが個人的にはブルゴーニュ地方のシャシー城館時代に風景画に目覚めた頃に描かれた『樹のある大きな風景』が印象に強く残っている。色彩もイタリアルネサンスのフレスコ画を連想させる明るいものだ。得意の少女をモチーフとした作品では『美しい日々』 『猫と裸婦』 などに見られる対角線を強く意識した構図をとったものが魅力的だった。そして最も目をひいたのは節子夫人の全面的な協力で実現したという最晩年のアトリエを再現した展示である。使い込まれた絵筆や絵の具類、そしてたばこの吸い殻まで。画室での厳しい制作の中、画家の息遣いが伝わって来そうな雰囲気が再現されていた。

最後に会場でのビデオ上映で心に残ったバルテュスの言葉を2点ご紹介しよう。1つ目は何故、少女をモチーフに選ぶかという問いに対してのもので「自分にとって少女は不可侵な存在で、神聖なものに接する思いしかない…そしてそれこそがインスピレーションの源である」 2つ目は僕が座右の銘にしていきたいと思うもので、生涯自身を芸術家だと言わなかったバルテュスが常日頃語っていた言葉。「絵を描くことは職人技なのだ。今の画家はみんなそのことを忘れている。だから私は芸術家ではなく、職人としての画家だと考えている」 展覧会は今月22日まで。7月5日から9月7日まで京都市美術館に巡回する。美術ファンならばこの展覧会を見ない手はない。まだという方は必ず行きましょう。画像はトップが会場入り口の看板。下が向って左から『樹のある大きな風景(部分)』 『猫と裸婦(部分)』 『晩年のアトリエ風景の写真コラージュ』 いずれも展覧会図録から複写。

 

      


146.美術学校で『変容・Metamorphosis』の授業を講義中。

2014-06-05 21:04:56 | カルチャー・学校

4月から東京の美術学校、A美術学院で『変容・Metamorphosis』という新授業が始まった。

この学校は3年制の専門学校でデザインとファインアートの専門課程があるが、僕が担当するのは1年生の基礎学年の授業である。描写表現実習として自然物の細密描写や心の中の世界を描くイメージ・ドローイングなど、いくつかの授業とリンクして行われている。昨年までは野外での自然物描写(スケッチ)を担当してきたのだが、年末に専任のF先生より「学生の質が変化してきているので、野外スケッチ授業は今年限りとして新学期から教室内の授業を担当してほしいのだけど、物を描写することを根底とする何か良い授業のアイディアはないですか」という依頼があった。少し考える時間をおいて「アニメやゲームなどサブカルチャーが日常化している若い学生たちに『変容・Metamorphosis』という課題ではいかがでしょうか?たとえばテキストにマニエリスムの画家、アルチンボルドなどを見せたりしてはと思っているのですが」というアイディアを出したところ即答で「それはおもしろい!今日的なテーマでもあるし学生も興味を持つと思う。その方向でいきましょう」と2つ返事をいただいた。

ジョゼッペ・アルチンボルド (Giuseppe Arcimboldo, 1527-1593)はイタリア・ミラノ出身の16世紀マニエリスムを代表する画家で植物や動物などで構成、変容された肖像画が代表作として知られている。この時代特異な画風で一世を風靡した。時のヨーロッパの王族の目に留まり宮廷画家となった。その中でもルドルフ2世は最大のパトロンで多くの作品がコレクションされている。わが国でも少し前に文学者などが紹介したことでブームとなり、最近では変容表現の代名詞的な存在となりつつある。実は僕自身30代に『変容・Metamorphosis』と題した銅版画の連作を50点以上制作している。

「この課題内容はたして今の学生たちの心に伝わるだろうか…」寸前まで不安が残った。ところが心配など吹き飛んでしまった。ガイダンスでアルチンボルドの作品を投影し、課題内容の説明をしてアイディアスケッチが始まるとあれよあれよという速さで自然物などで構成された未知の生物が生み出されていくではないか。「飲み込みが速い!」 最初の授業の昼休みF先生と顔を見合わせて「うまくはまったねぇ」と言い合った。こちらの小さな心配などどこ吹く風、今の学生にはこうしたファンタジー的な想像力を膨らませることなど日常の感覚になりつつあるのだろう。逆に指導するこちら側が毎回どんな作品が生まれるのか楽しみになってきている。画像はトップがアルチンボルドの代表作『春』の部分。下が同じく『夏』の部分と美術学校内の風景。

 

        

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


145.産業祭で消しゴム版画のワークショップ

2014-06-01 12:47:10 | イベント・ワークショップ

4月から5月にかけて締切り仕事やレクチャーが集中してしまいブログの更新が遅れ気味になっている。今回も先月の17日、18日の2日間にわたって参加した地元フェスでのワークショップの話題である。

当工房のある千葉県佐倉市で毎年開催されている『佐倉市産業祭-モノづくりフェスタ』という地域密着型のフェスがある。市内に工場を持つ企業や地元産業関係者が中心となってブースを出店し、展示や販売を行うという内容となっている。このフェスは以前開催されていたものが一時中断されていて3年前から再開された。当工房は地元公立美術館で銅版画のワークショップを行ったことがきっかけで、再開された初回から参加している。今年で3回目。おかげさまで毎年大勢の方に参加いただき好評を得ている。

内容は老若男女どなたにでも手軽に制作できる「消しゴム版画」。こちらであらかじめ用意した下絵を元に小さな版画を1点制作してもらう。これに合わせて僕も1点制作するというものである。下絵の図柄は佐倉市で見られる動植物をモチーフとしたもので花や鳥、昆虫の中から好きなものを1点選んで彫っていく。

一日目の朝、会場設営のためスタッフと現場に着くと、すでに参加希望者が並んでいる。ほとんどが親子連れだが、大人の参加者もチラホラと混ざっている。午前、午後と定員を決めて募集するのだが、今年も満員御礼で参加できない方々が出てしまった。こちらとしてはうれしい悲鳴だが、たいへん申し訳ないとも思っている。このワークショップをいろんな場所で始めてから6-7年経ったので、手順はほぼ決まっていて、スムーズに制作工程が進む。実演で下絵の転写方法、彫り方を行い、全体の進行具合に注意しながら、お次はインクの付け方、ハガキへの摺り方を指導、あとは各自納得のいくまで版画作品として仕上げてもらうといった段取りである。最終的には子供たちよりも父兄の方が夢中になっていることが多い。きっと、子供の頃の図画工作の授業を思い出しているんだろう。

募集にあたって、「カッターや彫刻刀など刃物を使用するため小3以下の場合は父兄が手伝い制作してください」と一言注意をして年齢制限をしているのだが、子供たちの方がどうしてもやりたいということで、かなり年少の子が参加することも多い。たいてい彫刻刀を使用する段階で手がとまってしまうので、こういう場合この後の工程はほとんど僕が手伝ってしまう。と、いうよりあまりにもかわいいので、ほおってはおけない。「うちの二十歳を超えた娘たちも、ついこの間までこんなだったのになぁ…」

今年も2日間、ありがたいことに『満員御礼』。こちらも楽しませていただいた。毎年声をかけていただく、佐倉市産業振興課の担当者の方々、会場で手伝っていただくスタッフの方々、そして多くの参加者のみなさんに感謝いたします。画像はトップ、下共、ワークショップ指導風景。