長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

360. 明治神宮 御苑 ・探鳥記

2019-02-28 17:47:09 | 野鳥・自然
              

今月21日。東京の明治神宮 御苑に『野鳥版画』制作の取材のため越冬の小鳥類を観察に訪れた。

明治神宮の森には20代からこれまでに、ちょくちょくと野鳥観察に訪れている。ここはJRの原宿駅を下車し1-2分の便利な場所であることから大抵は都内に何かの用事で出たついでに立ち寄っている。気軽に立ち寄れるというのが最大の魅力である。それから都会の樹木の多い公園に生息する野鳥は人の存在に慣れていて、あまり人を恐れないために観察や撮影がし易いのである。朝ゆっくり目に家を出る。この日も銀座界隈で知人や関連画廊での企画展が重なっており、それらの個展を観に行く前に立ち寄ることにしたのである。

11:26、JR原宿駅に到着。南鳥居から神宮の森に入る。ここから南参道を北方へと歩いて行くのだが、このあたり背の高い常緑樹が多く、とても都心の真ん中とは思えない雰囲気の場所である。実は僕は神宮には野鳥観察以外の目的で来たのは数回しかない。わずかに友人と初詣などに来た程度である。これまでもほとんどが秋冬の野鳥の観やすい季節に来ている。大鳥居をくぐって左手に小さな門が見えてくる。ここから入苑料を払って入ると今日の目的の『御苑・ぎょえん』となる。

この御苑の始まりは江戸時代、大名の庭園として整備されたことから始まる。明治になって明治天皇と昭憲皇太后にゆかりの深い由緒ある名苑となった。明治天皇は静寂なこの地をとても愛され、「うつせみの代々木の里はしずかにて 都のほかのここちこそすれ」という有名な歌を詠まれている。森の広さは83,000㎡あり、小道には熊笹が覆い、園内には樹木が多く「南池」と呼ばれる池もあり、大都会にあって小鳥や水鳥のオアシスとなっている。特に秋冬のシーズンは落葉広葉樹の葉が散って空間ができ、野鳥観察がし易くなるのである。

入り口から入ると御多分に漏れず、ここも外国人観光客が多い。比較的空いている左手の小道を歩いて行く。しばらくして道のすぐ近くまでヤマガラやアオジが出てきて出迎えてくれた。特にヤマガラは人懐っこくて、すぐ近くまで移動してくる。しばらく進むと、とても小さな橋がかかる水路に出る。ダイサギが1羽鬱蒼と茂った林の中の水路で餌を探して歩いている。時々、パッと嘴を水の中に突っ込み小魚を捕えていた。南池沿いに歩き開けた芝地に出る。「隔雲亭」と呼ばれる昔の休憩所を右に観てから林の中の道に入った辺りで再びアオジが近くに出てくる。さらに先に進むと" タッ、タッ、タタ… "というヒタキ科特有の地鳴きが聴こえてきた。しばらくその場でじっとしてると林の奥から低い場所に小鳥が1羽出てきた。双眼鏡でじっくり観るとルリビタキの雌だった。人を全く恐れずに僕の周囲をウロウロしてくれたので写真も撮影することができた。なかなかチャーミングな美人である。

ここからさらに道に沿って進み「清正井・きよまさのいど」と言われるパワー・スポットまで行ってみた。印象としては越冬の小鳥類がとても少ない。それでもウグイスやシロハラ、そして留鳥のメジロやコゲラ、シジュウカラ等が観察できた。頭上から、" キイーッ、キイ、キイ、キイ… " という甲高く空間を引き裂くような声が降ってきた。するとグリーンの大きなシルエットが飛翔する姿が観えた。外来種のワカケホンセイインコだった。近年、東京などの都会を中心に生息域を広げている鳥である。

途中、数人のバーダーと出会ってこの場所の鳥の情報を尋ねてみた。御苑を出て参道を代々木方面に向かって歩く途中に「北池」という小さな池がある。以前はここに毎年、秋冬になると数十羽のオシドリの群れが越冬していたのだが、行政による「鳥インフルエンザ予防対策」として餌やりが禁止されてからはまったく渡来しなくなってしまい、3年前からはオシドリが来なくなったので、とうとう池の水を抜いてしまったのだと言う。現在、北池はカラカラに乾燥してしまっているようだ。事情はいろいろとあるだろうが、神宮の森のオシドリは晩秋から冬の名物だったのに、とても残念なことである。

あまり大きな収穫はなかったが、合計14種の野鳥が観察できた。最後に南池まで戻り、持参したお茶を飲みながら何も鳥がいない池の水面をボウッと眺めていた。" キィーッ、キキキキキ… " と鋭い声がしたので、そちらに目を移すとカワセミが1羽、杭の上にコバルト・ブルーの美しい姿を見せてとまっていた。あまり距離は近くなかったが証拠写真を撮ってここでお開き。元来た道を原宿駅まで戻り、地下鉄に乗って銀座の画廊巡りへと向かった。

画像はトップがルリビタキの雌。下が南池のカワセミ、御苑内の風景、ヤマガラ、アオジ、ダイサギ、明治神宮の大鳥居、JR原宿駅の屋根。























 





359. 絵画作品 『仏法僧・ぶっぽうそう』を制作する。

2019-02-09 18:09:00 | 絵画・素描
絵画作品の新作『仏法僧・ぶっぽうそう』を制作している。例によって手漉きの和紙に顔料やアクリル絵の具を併用した手法で描いている。

今回のテーマは『仏法僧・ぶっぽうそう』。ブッポウソウはフクロウ科の夏鳥であるコノハズクの鳴き声。コノハズクはマレー半島等で越冬し、日本では九州以北の山地に夏鳥として訪れるムクドリより小さい小型のかわいいミミズクである。
夜行性で繁殖期には" キョッ、キョッ、コォー、キョッ、キョッ、コォー" と繰り返しよく通る声で鳴き、聞きなしとしては「仏法僧・ぶっぽうそう」と言われる。

この鳥に関しては古くから野鳥関係者の間で「声のブッポウソウ、姿のブッポウソウ」などと言われてきた。今でこそ声の主が判明したのでコノハズクの声だということが判っているのだが、昔の人はこの声の主をブッポウソウ科のブッポウソウだと勘違いしていたらしい。ブッポウソウ科のブッポウソウはコノハズクとは全く異なる野鳥である。
東南アジアやオーストラリア等で越冬し、日本では本州、四国、九州に夏鳥として渡来する。青緑色の美しい羽衣で嘴と足が真っ赤という、とても美しい鳥である。昼間に活動し、声は飛びながら" ゲッ、ゲッ、ゲッ、ゲッ、ゲゲゲーッ、ゲゲゲッ"などと姿の美しさからは想像できない濁ったダミ声で鳴くのである。
この両種の声と姿がどこでどう入れ違って混乱してしまったのだろうか?確かに繁殖期の夏には類似した環境に生息はしているのだが…。まるで何かのパラドックスのようでもある。

そして、この聞きなしとなっている『仏法僧・ぶっぽうそう』という言葉の語源は仏教用語に由来しているのだ。仏教には「三宝・さんぼう」という言葉がある。これは仏(ブッダ)と、法(ブッダが説いた教え)と、僧(僧侶や仏教徒が集まる場所)を示す言葉で仏教徒は出家者、在家者を問わず、これを敬わなくてはならないとされているのだ。

このコノハズクとその鳴き声、そして仏教用語をストレートに表す古の有名な句がある。

閑林に独坐す草堂の暁

三宝の声一鳥に聞く

一鳥声有り人に心有り

声心雲水俱に了々


<現代語訳>

のどかな林間の草堂に独坐して暁を迎える。

仏法僧と三宝を呼ぶ声を一羽の鳥の声に聞く。

一羽の鳥がその声を発し人に心の在り処が自覚される。

その声とその心、雲と水、相共に了々と明らかである。

「後夜聞仏法僧鳥」 沙門 空海


平安時代に和歌山県高野山に真言宗の修行道場を開いた弘法大師・空海の七言絶句である。高野山の深い山中の草堂で夜明け前まで瞑想修行をしていた空海和尚が1人明けゆく空を観ているとコノハズクの "ブッポウソーッ" のよく通る鮮やかな鳴き声がした。その声を聞いて自分の心もさわやかに晴れ渡ったという。状況がリアルに浮かび上がってくる写実的で見事な句だと思う。

作品はまさにこの句の状況のように深山の夜間に両目をキラキラと輝かせるコノハズクの姿を中心に描いている。少し幻想味を出したいと思い、星空や夜間に飛ぶ蛾の姿も描き入れてみた。今月に入ってようやく画面全体に絵の具ものってきたので、後は細部をどこまで描き詰められるかという段階に入った。

画像はトップが制作中の『仏法僧・ぶっぽうそう』の部分。下が同じく作品の部分、使用中の固形水彩絵の具、水彩用とアクリル用の筆。



















358. Saint - Valentin 小さな花束・様々な版画小品展

2019-02-02 18:19:14 | 個展・グループ展
今日から始まる版画のグループ展のお知らせです。以下、ご覧ください。

・展覧会名;Saint - Valentin 小さな花束・様々な版画小品展

・会期:2019年2月2日(土)~2月14日(木)/ 月曜日休廊 / 10:00~13:00、15:30~18:30 

・会場:ATELIER PETITE USINE(アトリエ・プテトゥ・ウジンヌ)
 群馬県館林市緑町 1-3-1 館林倉庫敷地内 / http://petiteusine.blogspot.com 

・連絡先:080-6506-9049(代表:亀山)

・出品作家:上田靖之、大川みゆき、岡田まりゑ、亀山知英、木村真由美、齋藤悠紀、白木ゆり、スミダヒロミ、為金義勝、辻元子、長島充、野瀬昌樹、菱田俊子、平瀬恵子、広沢  仁、広瀬ひかり、溝上幾久子 

・内容:地元を活動拠点とする版画家・造形作家の亀山知英氏の個人アトリエでの企画展第三弾。亀山氏セレクションの17名の版画家によるA4サイズ以内の作品、様々な表現、様々な 版種による小宇宙が一堂に展示される。長島は木口木版画作品5点を出品している。

・入場料:無料

・関連イベント:①『バロック音楽の夕べ』:相場皓一(フルート)、大西維津子(チェンバロ)/ 2月3日(日)16時~17時
 ②『スウィート・クラシック音楽の夕べ』:大槻八重子(フルート)、中村美穂(フルート)、飯野景子(ピアノ)/ 2月10日(日)16時~17時 入場料各回共:一般700円
 (小学生以下無料)、要予約(当日迄受け付け)

※詳細な情報に関しては上記、HPアドレスで検索してみてください。

企画者の亀山氏は長島の学んだ美術学校版画科の後輩でもあります。彼は卒業後に渡仏し、パリを創作活動の拠点として銅版画作品を制作発表していましたが、帰国。故郷である館林市に作ったアトリエで作家活動を続けています。元々、繊細な作品を制作する彼とパリで知り合ったフランス人のセンスの豊かな奥様と二人三脚でアトリエを運営しています。きっと素敵な展示空間が設営されていることでしょう。

美術ファン、版画ファン、クラシックファン、そして群馬県内をはじめ北関東方面にお住いの方々でご興味のある方、是非この機会にご来場、ご高覧ください。

画像はトップが展覧会のDM・表面と下が展覧会DM・裏面。