今月21日。東京の明治神宮 御苑に『野鳥版画』制作の取材のため越冬の小鳥類を観察に訪れた。
明治神宮の森には20代からこれまでに、ちょくちょくと野鳥観察に訪れている。ここはJRの原宿駅を下車し1-2分の便利な場所であることから大抵は都内に何かの用事で出たついでに立ち寄っている。気軽に立ち寄れるというのが最大の魅力である。それから都会の樹木の多い公園に生息する野鳥は人の存在に慣れていて、あまり人を恐れないために観察や撮影がし易いのである。朝ゆっくり目に家を出る。この日も銀座界隈で知人や関連画廊での企画展が重なっており、それらの個展を観に行く前に立ち寄ることにしたのである。
11:26、JR原宿駅に到着。南鳥居から神宮の森に入る。ここから南参道を北方へと歩いて行くのだが、このあたり背の高い常緑樹が多く、とても都心の真ん中とは思えない雰囲気の場所である。実は僕は神宮には野鳥観察以外の目的で来たのは数回しかない。わずかに友人と初詣などに来た程度である。これまでもほとんどが秋冬の野鳥の観やすい季節に来ている。大鳥居をくぐって左手に小さな門が見えてくる。ここから入苑料を払って入ると今日の目的の『御苑・ぎょえん』となる。
この御苑の始まりは江戸時代、大名の庭園として整備されたことから始まる。明治になって明治天皇と昭憲皇太后にゆかりの深い由緒ある名苑となった。明治天皇は静寂なこの地をとても愛され、「うつせみの代々木の里はしずかにて 都のほかのここちこそすれ」という有名な歌を詠まれている。森の広さは83,000㎡あり、小道には熊笹が覆い、園内には樹木が多く「南池」と呼ばれる池もあり、大都会にあって小鳥や水鳥のオアシスとなっている。特に秋冬のシーズンは落葉広葉樹の葉が散って空間ができ、野鳥観察がし易くなるのである。
入り口から入ると御多分に漏れず、ここも外国人観光客が多い。比較的空いている左手の小道を歩いて行く。しばらくして道のすぐ近くまでヤマガラやアオジが出てきて出迎えてくれた。特にヤマガラは人懐っこくて、すぐ近くまで移動してくる。しばらく進むと、とても小さな橋がかかる水路に出る。ダイサギが1羽鬱蒼と茂った林の中の水路で餌を探して歩いている。時々、パッと嘴を水の中に突っ込み小魚を捕えていた。南池沿いに歩き開けた芝地に出る。「隔雲亭」と呼ばれる昔の休憩所を右に観てから林の中の道に入った辺りで再びアオジが近くに出てくる。さらに先に進むと" タッ、タッ、タタ… "というヒタキ科特有の地鳴きが聴こえてきた。しばらくその場でじっとしてると林の奥から低い場所に小鳥が1羽出てきた。双眼鏡でじっくり観るとルリビタキの雌だった。人を全く恐れずに僕の周囲をウロウロしてくれたので写真も撮影することができた。なかなかチャーミングな美人である。
ここからさらに道に沿って進み「清正井・きよまさのいど」と言われるパワー・スポットまで行ってみた。印象としては越冬の小鳥類がとても少ない。それでもウグイスやシロハラ、そして留鳥のメジロやコゲラ、シジュウカラ等が観察できた。頭上から、" キイーッ、キイ、キイ、キイ… " という甲高く空間を引き裂くような声が降ってきた。するとグリーンの大きなシルエットが飛翔する姿が観えた。外来種のワカケホンセイインコだった。近年、東京などの都会を中心に生息域を広げている鳥である。
途中、数人のバーダーと出会ってこの場所の鳥の情報を尋ねてみた。御苑を出て参道を代々木方面に向かって歩く途中に「北池」という小さな池がある。以前はここに毎年、秋冬になると数十羽のオシドリの群れが越冬していたのだが、行政による「鳥インフルエンザ予防対策」として餌やりが禁止されてからはまったく渡来しなくなってしまい、3年前からはオシドリが来なくなったので、とうとう池の水を抜いてしまったのだと言う。現在、北池はカラカラに乾燥してしまっているようだ。事情はいろいろとあるだろうが、神宮の森のオシドリは晩秋から冬の名物だったのに、とても残念なことである。
あまり大きな収穫はなかったが、合計14種の野鳥が観察できた。最後に南池まで戻り、持参したお茶を飲みながら何も鳥がいない池の水面をボウッと眺めていた。" キィーッ、キキキキキ… " と鋭い声がしたので、そちらに目を移すとカワセミが1羽、杭の上にコバルト・ブルーの美しい姿を見せてとまっていた。あまり距離は近くなかったが証拠写真を撮ってここでお開き。元来た道を原宿駅まで戻り、地下鉄に乗って銀座の画廊巡りへと向かった。
画像はトップがルリビタキの雌。下が南池のカワセミ、御苑内の風景、ヤマガラ、アオジ、ダイサギ、明治神宮の大鳥居、JR原宿駅の屋根。