長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

123. 2013年1年間ありがとうございました。 

2013-12-31 13:28:59 | 日記・日常

2013年もとうとう大晦日を迎えました。ブロガーのみなさん、FB,ミクシィ関係のみなさん、その他大勢のみなさん、今年一年間、当ブログ『長島充 工房通信』にお立ち寄りいただきありがとうございました。さらに、いいね!やコメントをご丁寧にいただいた方々、感謝いたします。

一年間を振り返ると新年の名古屋での版画個展を皮切りに版画や絵画の個展、グループ展が続き、追われるように発表していた年でもありました。特に梅雨期から秋にかけては外出もせず工房に籠り制作する毎日でしたので、毎年、行ってきた秋の渡りのシギ、チドリや小鳥類の観察もできない状態でした。来年はもう少し心にゆとりを持って、じっくりと制作したいとも思っていますが、忙しさは年々加速度を増している感じがしています。カテゴリー別にブログに更新する内容にも偏りがあり、来年はもう少し幅を持たせてみなさんが楽しめる内容にしたいと思っています。

我が国は相変わらずの不景気、不安定が続き、美術の世界も御多分にもれず厳しい状況が続いています。年齢的にもすでにターニング・ポイントを超えましたが、まだまだ作品制作の上でするべき事、したい事は山積みのまんまです。ここ数年、40代で風呂敷を広げた内容をそろそろテーマを絞り深めて行く方向に向かいつつあります。自分自身が目指す理想的な空間、表現世界を求め、新年も引き続き精進、努力してまいりますので変わらずお付き合いください。

最後になりましたが、みなさんにとって2014年が良い一年間となりますようお祈りいたします。では、「良いお年を」。画像は上下共、昨年、友人との登山の帰りに立ち寄った千葉県富津市の『新舞子海岸』で見た東京湾越しの日没。

 

 


122.『版画芸術 No.162 冬号』の特集記事に掲載されました。

2013-12-25 17:48:02 | 書籍・出版

国内唯一の版画専門誌『版画芸術 No.162冬号』の特集記事「日本の現代版画 1990-2013」に文章と作品画像が掲載された。前号No.161 秋号に引き続き掲載ということで、とてもありがたい。

編集部から依頼された内容は「1990年代から2013年までの版画家と版画作品の特集ということで、長島さんには90年代の作家自身が代表作と思う作品画像と文章(その当時考えていたこと他)をお願いします」ということだった。今までも版画芸術誌では「現代版画 1968-1992」、「現代版画の先駆者たち」という巻頭特集を組んできたようだが、その第三弾となるとのこと。1970年代に「現代版画ブーム」というものがあって、多くの版画家、版画技法が世に登場した。僕らの世代は70年代末から80年代にかけて美術学校などで版画を学んだので、このブームの世代に影響を強く受け、後を追った形となった。まぁ、今日の美術界で『現代版画』という言葉自体が死語になりつつあるのだが…。

僕が大きな銅版画を発表し始めた90年代初頭と言えば、ちょうどバブル経済の終盤の頃にあたる。世の中は好景気に湧き上がり賑やかだった。そしてしばらくしてバブルの崩壊、経済が不安になるにつれ社会の方向性や価値観が大きく変わっていく時代でもあった。その世の中の状況と自分の内面との落差のようなことを文章に書いた。創作とか表現というものは結局、世の中の動きを無視できないと常日頃考えているからだ。作品画像もその時期とリンクする『新博物誌シリーズ』の中の1点を選んだ。「早いものであれから約20年、経ったんだねぇ」掲載された作家、作品の中、90年代のものは記憶に残っていて当時を思い起こすものが多い。作家にしてもグループ展などで親交のあった人が多くいて、誌面をめくりながら感慨にふけってしまった。今後、版画表現というものが存続されていったとして2020年代、2030年代にはどんな状況になっているんだろう。誰にも想像はつかない。興味のある方は阿部出版ホームページか、大手書店にてご覧になってください。画像はトップが『版画芸術No.162冬号』の表紙、下が掲載されたページ。

 

 

 

 

 


121.新潟県福島潟 探鳥記

2013-12-22 17:15:42 | 野鳥・自然

今月13日。2つの個展のため新潟入りしたおり14日午前、15日終日とフリーの時間ができたので、展覧会会場の目前に広がる福島潟に、今後の版画制作の取材も兼ね野鳥を求めて訪れた。『水の公園 福島潟』は新潟市北区に含まれる広大な国営干拓地と湖沼である。現在までに220種類の野鳥や450種類以上の植物が確認されている自然の宝庫。中でも直径2mの葉を持つ巨大な水生植物「オニバス」の日本北限の自生地である他、国の天然記念物「オオヒシクイ」の越冬数は日本一を誇り、シーズン最盛期には5000羽以上が越冬している。

特に今の季節はなんといっても冬鳥のシーズン。雁類や白鳥類との出会いを期待したい。14日の早朝、寒波の到来で雪がちらつく中、連れ合いと2人、朝食前に宿を出た。放水路に架けられた「雁かけ橋」を渡ると夕べから降り続く雪で白銀の世界と化した福島潟が目前に姿を現した。「寒いっ!!」 家を出発してくる時、千葉も寒くなっていたが、なんと言うのか寒さの質が違う。ちょっと湿気をおびていて体の芯まで冷える寒さである。ポケットに手を突っ込んで固まっていると、僕よりベテランバーダーである連れ合いに「厳寒期の釧路湿原はこんなもんじゃないわよっ!!」と、しかられた。曇り空の下、南側のヨシ原の上を雁類のすごい群れが西の方向に飛んで行くのが見えた。双眼鏡で見るとほとんどがオオヒシクイのようだ。ざっと目算で、800羽以上。こんな数のオオヒシクイの飛翔を見るのは初めてである。よく追って見ていくと白鳥類の群れもかなりの数が飛んでいる。ほんとんどがコハクチョウのようだ。「ここをねぐらにしている群れが周囲の餌場にちょうど、出ていくところだね」と話しかけると「もたもたしていると観察小屋にたどり着く前に全部出て行っちゃうわよ!」と、連れ合い。

しばらく観察路を歩いていくとヨシ原の奥から一つ、また一つと雁のファミリーが次々に餌場を目指し頭上を飛翔して行く。「ガハァン、ガハハーン」と太く濁った低い声で鳴くのはオオヒシクイ、その中に「クワハン、クワハハン」と高めのかわいらしい声が聞こえた。はっと、気が付いて上を見上げるとオオヒシクイの家族の後を一回り小さいマガンが5羽ついて飛んで行った。ここでは少数派である。そして「コォー、コォー」と良く通る声で鳴くのはコハクチョウ。だいぶ賑やかになってきた。30分弱ぐらいだろうか、屋根付きの2階建て観察舎「雁晴舎(がんばれしゃ)」に到着。見晴らしいの良い二階にあがると3人の地元バーダーが来ていた。僕らもさっそく双眼鏡と施設にセットされている望遠鏡で水鳥の観察を始めた。

沼の水面にはまだオオヒシクイやコハクチョウの群れが残っている。数えきれないぐらい浮かんでいるカモ類の多くはマガモとコガモが優先種。丁寧に望遠鏡で水面を追って観ていくとオナガガモ、ヨシガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、ハシビロガモ、ミコアイサ、そして日本海側に多いトモエガモやコガモ郡中に1羽のみ発見したアメリカコガモの♂(15日)などが観察できた。それからカイツブリ類はカイツブリ、ハジロカイツブリ、ミミカイツブリ、カンムリカイツブリが観られた。寒さをこらえてじっと観察していると猛禽類が時々飛翔する。オオタカ幼鳥、ノスリ、チュウヒ、僕は観られなかったがハイイロチュウヒの♂も出たらしい。タカの仲間が飛ぶとカモ類が落ち着かず騒がしい。正面の泥地にチドリ科の冬鳥、タゲリが20羽ほど飛んできた。沼中央のカモ類がザザーッと一斉に飛び立った時、遠方を双眼鏡で追っていた地元バーダーの一人が叫んだ「オジロワシだっ!!」みんないっせいに指差す方向に双眼鏡を向けると黒い大きなシルエットがカモの群れの上方をゆったりと飛んでいる。北日本や日本海側に冬鳥として渡ってくる大型のワシで翼開長は2mを超える。「大きいなぁ、畳一畳が飛んでるみたいだ」 その姿はバックが雪化粧した越後の山並だったので、一際雄大に見えた。モノクロームの世界、一幅の墨絵のようでもある。 2日間で42種の野鳥を観察することができた。寒さは厳しかったが、ほっこりとした気分で千葉に帰ってきたのでした。 画像はトップが吹雪の中、水面を泳ぐオオヒシクイとコハクチョウ。下が『ビュー福島潟』から見下ろした一面雪化粧の福島潟、雪の中を飛翔するオオヒシクイとコハクチョウ、観察路の風景。

 

            

 

 


120.ワークショップ『消しゴムで作ろう!福島潟版画教室』

2013-12-20 18:35:54 | イベント・ワークショップ

14日、新潟滞在2日目。早朝は吹雪の中、福島潟を散策し、10時頃から 『ビュー福島潟』 のイベント会場に準備のために入った。

午後から『消しゴムで作ろう!福島潟版画教室』というタイトルで野鳥版画の個展と絡めて消しゴム版画のワークショップを行う。施設の外はこの週末に到来した寒波のため雪が降っている。担当者から「この雪で道路事情も良くないようです」と連絡があった。天候を気にかけながら会場をセッティングしていると、一人、二人と参加者が到着する。中には電車とバスを乗り継いで3時間以上もかけて来てくださった女性もいた。コートの雪を払いながら「この展覧会とワークショップに来たいと、とても楽しみにしていました」と言われた。「ありがたい」 人数が少なくても頑張ってみよう。

そうこうしているうちに、この悪天候の中20名定員のところ15名の方が出そろった。館長のオープニングの挨拶と僕の自己紹介を終えると、いつものように制作手順を説明し、実際に自分でも制作しながらワークショップとして進行していく。こうしたネイチャーセンターでの版画のレクチャーもいろいろな場所で開催してきたが、いつも熱心な参加者の方々に支えられて続けてきている。版画のモチーフはこれも毎度のことだが野鳥、昆虫、植物などの自然界の生物を対象としたもので、制作を通じて自然の大切さを感じてもらおうというもの。あらかじめ僕が用意した下絵を写しても良いし、自分で絵柄を考えても良いということにしている今回は冬鳥のシーズンなので下絵の方は冬に観察できる野鳥を多くしている。次に版をカッターや彫刻刀などいろんな用具を使用して彫っていき、インクを付けてハガキに摺るという手順。今回は大人の参加者が多く、みなさんかなり集中して黙々と制作していた。手のひらに乗る程度の小さな版だが2時間というタイムスケジュールは目いっぱいかかり、結局30分ほどオーバーして終了。机の上には力作がズラリと並んだ。最後に担当者のS氏が一人一人に感想を聞いたのだが「理屈抜きで楽しかった」「時間の経つのも忘れて夢中で作れた」など、楽しんでいただけたようだ。

新潟の参加者の熱意にすっかり寒さも忘れていたが、外は相変わらずシンシンと雪が降っている。施設のガラス越しに広がる眼下の干拓地には餌を採るためにたくさんのコハクチョウとオオヒシクイが集まっているのが肉眼でも見えた。担当者と参加者のみなさん全員に感謝します。画像はトップがワークショップ会場風景(窓の外は雪景色)。下は会場のようすと机の上の力作の数々。

 

      


119.新潟の個展会場に行ってきました。 その2

2013-12-18 16:13:11 | 個展・グループ展

13日。新潟市の中心街の個展会場に立ち寄り、新潟市美術館で偶然開催中だった『ルドン展』を見終わると午後遅くなっていた。あわててタクシーを拾い新潟駅から次の個展会場である豊栄(とよさか)駅へと向かった。駅からさらにタクシーで約20分、閉館間際の公共施設『水の駅・ビュー福島潟』に到着。周囲は真っ暗である。事務所に寄って担当者のN氏とT館長に手短に挨拶を済ませ、この日は近くの宿へチェックインした。

翌14日。6時に起床。雪の降る中、橋を渡って福島潟の周回路を散策する。数多くの渡り鳥と出会えた(詳しい探鳥記は後日、別のブログに更新します)。一旦、宿に戻って朝食を済ませてからN氏、T館長との約束の時間に『水の駅・ビュー福島潟』へと向かう。昨晩は周囲が真っ暗だったので施設の全体像がおぼろげだったのだが、今日はその特異な姿が良く見える。カップ麺の容器のような頭でっかちのシルエット、スチール製のフレームに全面強化ガラス張りというものである。まるでアニメにでも登場しそうなイメージである。ポストモダン風建築というのだろうか、1997年に完成したこの建物は周囲の広大な湿地と干拓地の中でランドマークとして一際目立つ存在となっている。

事務所に入って、2人とお茶を飲みながら、施設のこと、この地域の自然や歴史のことなど多くの情報をお聞きする。T館長はさまざまなジャンルに知識がとても豊富で飽きることがない。しばらくしてから館内を上から案内してくれると言うので後にしたがった。まずは屋上からの絶景を見ようと最上階のドアを開けた。外は寒風が吹きチラホラと雪も降っている。2人共、ポケットに手を突っ込んで「寒い!」を連発していた。地元の人が寒いというのだからかなわない。こちらは関東地方とは質の違う身に染みる寒さに震えあがってしまった。「ベルビューッ!!」それにしてもここからの眺めは素晴らしい。『福島潟』のウェットランド(低湿地)が全貌を表し、東西には広大な米所、越後平野の干拓地が広がる。その平野を囲む遠景の雪化粧をした山並み。寒さも忘れてしばし見入ってしまった。

エレベーターで移動しながら順番に移動していく。明日の版画のワークショップの会場を下見してから(ワークショップの模様は次回のブログに更新します)福嶋潟の自然や生物の詳しい展示物を見ていく。館長の説明つきなのでとても解り易い。各フロアー内は徒歩で移動するのだが、この建築ちょうど巨大な巻貝の内部のような構造になっているので、周囲をグルグルと回っているような感じである。「お年寄りなどは目が回るようだという方もいらっしゃるんですよ」と、館長。ようやく個展会場『日本の野鳥-The Birds of JAPAN』に到着。50点の野鳥版画作品が整然と展示されていた。地元ギャラリストM氏の提案もあって中央のマガンの飛翔を主題とした大判木版画を中心に四季を追っての種類となるように並べられてる。これはグッド・アイディアだ。野鳥を知る人も知らない人も楽しめる展示内容となった。自然関係の公共施設での個展は今回が初めてではないが、なかなかしようと思ってもできるものではない環境で開催できたことにとても感謝している。担当のN氏、T館長、ギャラリストのM氏その他多くのスタッフの方々、ありがとうございました。この場をお借りしてお礼申し上げます。 

展覧会は今月23日(月・祝)まで、1階ミュージアムショップでは今回出品の版画作品の中から数点を選び特別販売もしています。まだいらしてない新潟周辺のみなさん、この機会にぜひご高覧ください。詳細は『水の駅・ビュー福島潟』ホームページにてご確認ください。http://www.pavc.ne.jp/~hishikui/

画像はトップが『ビュー・福島潟』全景。下が屋上から見た福島潟、個展会場風景。

 

    

 


118.新潟の個展会場に行ってきました。 その1

2013-12-16 20:09:32 | 個展・グループ展

13日。新潟で開催中の2つの個展会場を訪れるため、朝から電車に乗って出かけた。

上野駅で乗り換えて新幹線の『MAX TOKI 新潟行』 に乗換えていざ、出発。最近の新幹線は速い速い、大宮、高崎と過ぎてどんどん北へ向かっていく。うっかりしていると昼食として買った駅弁を食べるタイミングをはずしてしまいそうな勢いだ。8時20分に千葉の自宅を出て、12時26分に新潟駅に到着した。ホームに降りるとひんやりとした空気。とても寒い!東京や千葉の寒さとはちょっと違う。大きな1羽のハシボソガラスがホームで出迎えてくれた。「密閉されたような駅の構内にどうやって入ってきたんだろう?不思議だ。

出口を出ていつものようにタクシーを拾う。ここから大きな信濃川を越えて、新潟の街の中心街まで15分ほどだろうか。画廊の近所で降ろしてもらう。会場となるKaede Galleryは昔ながらの町屋にある画廊で大通りから路地に入った静かな場所にある。ガラガラと木製の古い扉を開けるとストーブで温められた会場にオーナーのM氏が笑顔で出迎えてくれた。この会場での個展は2回目となる。築200年は過ぎているという古民家を再利用した会場は柱や床板が黒光りしていて、独特な雰囲気がある。普段は絵画や版画、陶芸などアート作品の個展意外に音楽の小コンサートも開いていると聞く。まずは中央のイスに座って世間話から始めた。

前回は野鳥をモチーフとした『日本の野鳥シリーズ』の版画作品を展示していただいたが、今回は『神話・伝説シリーズ』の幻想的な版画作品の展示である。麒麟や八咫烏をモチーフとした日本的な伝説の作品も中にはあるが、ほとんどが西洋的な神話・伝説の主題による作品だ。展示状況を見るまで少し心配していたが、これが予想外に会場の雰囲気にマッチしていて安心した。午後から用事があるというM氏が若い女性スタッフと交代してしばらくたった頃、冷えた体もすっかり温まり元気も出てきたので、同じ市内の新潟市美術館で開催中の『ルドン展』に足を延ばしてから次の個展会場に移動することにした。画像はトップが個展会場の中心から撮影した室内風景。下は版画作品展示のようす。

※展覧会は今月21日(土)まで。新潟方面の版画ファン、幻想ファンの方、ぜひこの機会にご高覧ください。

 

   

 

 


117.ターナー展

2013-12-10 20:31:52 | 美術館企画展

先月の23日、東京芸術大学美術館で『興福寺仏頭展』を見たその足で、同じ上野の山の東京都美術館で開催中の『ターナー展』を頑張って観てきた。

フリーランスと言えば聞こえが良いが盆も正月も土日もなくバタバタと仕事をしている身なのでフッ、と時間ができた合間にしたいことを一気に済ませておかなければならない。印象が薄れるので大きな展覧会はなるべく一日一つと決めているのだが、展覧会のはしごというのはひさびさである。芸大の企画展が比較的空いていたのに対して、こちらは某国営放送の美術番組で紹介されたせいかかなり混んでいた。我も我もと野次馬的に押しかけるのもどうかと思うのだが、見たい気持ちはみんな一緒なのでこれもしょうがないことだろう。人の頭越しに絵を見る覚悟で会場に入った。

ターナーと言えば19世紀イギリスを代表する風景画家として我が国でも知られている。最近、たまたまイギリス生活の体験のある知人から聞いた話だが、「…イギリス人はほんとうにターナーが好きで美術館や公共施設はもちろん、ロンドンのメインストリートの画廊街のウインドーにも必ずと言っていいほどターナーの風景画がかかっている」と言っていた。まぁ、国民的画家ということなんだろう。僕はロンドンに行ったことはないが、絵を描き始めてから今までさまざまな企画展や印刷物でこの画家の作品を観てきた。企画展が多いということは日本人もターナー好きなんだろうな。展覧会は初期の古典的表現の風景画~ナポレオン率いるフランス軍との戦時下に描かれた牧歌的風景~平和をとりもどした英国の風景~イタリア、ドイツ、オランダなどヨーロッパ大陸への旅行のおりに描かれた風景~後期の海景画と時系列ごとに展示室が分かれていて順を追って観られるように構成されている。

初期のカッチリとした古典的風景や抒情性を感じるヴェネツィアの連作なども魅力的だが、個人的には後期の海景画に観られる朦朧とした絵画に強く惹かれる。近づいてよーく観ると群衆やら遠景の建物やらを油彩画の荒々しいタッチの中に見出すことができるのだが、少し離れて観るとボワーッとして何が描かれているのか解らない。確認しようともっと距離を離れてみると広がりのある空間が浮かび上がってくるから不思議である。具体的な風景を描いているというよりも大気中の水蒸気や光を描いているである。実はこの展覧会でぜひ観たいと思っていた作品がある。おそらく後期のものだろうが、ターナーの作品の中に幻想的主題のものがいくつかある。それはこの朦朧とした光や空気の中に幻獣や空想上の生物が登場する一連の作品である。この数点があるのでターナーは『フアンタスティック・アート(幻想美術)』のカテゴリーに分類されることがしばしばある…残念ながら今展には来ていなかった。また次の機会に期待することにしよう。

日本での最大規模のターナー展ということもあり、こちらもかなり充実した内容だった。興福寺展と合わせ精神的に満腹状態になって外に出るといつの間にか日が傾きかけていて、少し黄色味がかった午後の光にイチョウなどの街路樹の紅葉が何とも言えず美しく光り輝いていた。「この光と色彩、ターナーが今ここにいたらどんな風に描いただろうか」と、ふと想像してしまった。東京での展覧会は今月18日まで、来年1月からは神戸市立博物館に巡回する。まだ観ていないアート好きの方はこの機会をお見逃しなく。画像はトップがターナー展の看板。下がターナー24歳の自画像を元にした銅版画と後期の風景画作品2点(いずれも展覧会図録より部分複写)、斜光を受ける上野公園の樹木の紅葉。

 

         

 


116.興福寺仏頭展 

2013-12-08 14:01:47 | 美術館企画展

少し前の話題ですが先月の23日、上野の東京芸術大学美術館で開催されていた『興福寺創建1300年記念 国宝興福寺仏頭展』を見に行ってきた。

奈良の興福寺は『南都六宗』と呼ばれる仏教宗派のうち「外界のものはみな空(くう)であり、一切の存在は唯、自己の心(識)の表れに過ぎない」とみる唯識思想を中心におく法相宗の古刹である。4世紀のインドに起源を持つ仏教思想だが、『法相八祖』と呼ばれる8人の歴代祖師の中に『西遊記』の三蔵法師のモデルとして有名な玄奘(603-664)の名前も見られた。

週末で最終日前ということで心配していたが、想像していたほど混んではいない。比較的ゆったりと見ることができた。興福寺ゆかりの絵画、彫刻、書など全体的にかなり充実した展示となっているが、その中で特に印象に残ったのは仏法の護法神とされる2種類の『十二神将像』だった。一つめは東金堂の周囲に装飾されていたという『国宝板彫十二神将像』で我が国浮彫彫刻(レリーフ)の傑作とされている。平安時代の作だが、レリーフ表現ということで写実性がおさえられているということもあってか、プリミティブでユーモラスな表情を持っていた。今までさまざまな十二神将像を見てきたが、このような像は初めてである。二つめは別の階に今展のメインとなる仏頭とともに展示されていた『国宝木造十二神将立像』でこちらは鎌倉時代に制作された立体像である。僕は学生時代から鎌倉彫刻のリアリズム表現が好きで魅かれ続けているのだが、この像は傑作である。力強い動きと迫力のある顔の表情に圧倒されてしまった。溜め息交じりに何周かしているうちに何故か像の足元が気になり見ていくと、一見すると似ている12体の履物がすべて異なることに気が付いた。ブーツ型、サンダル型等、それぞれがとても凝った形に彫られている。これも一つの発見であった。

振り返って部屋全体をボーッとながめていると存在感のある仏頭がj慈悲深い表情でみつめていた。おなごり惜しいが、この日はもう一つ美術展を見る予定で出てきたので、会場を後にした。2018年、興福寺中金堂が再建、落慶予定となっている。機会があったら再建されたお堂の採光の中で仏像群に再会してみたい。画像がトップが美術館入り口の展覧会看板。下が左から仏頭、板彫り十二神将の中・波夷羅大将、木造十二神将立像の中・伐折羅大将(いずれも展覧会図録より部分複写)。

※展覧会は先月、24日で終了しています。

 

      

 


115. 『長島 充展 -神話と伝説-』 in 新潟

2013-12-06 21:54:38 | 個展・グループ展

明日から始まる新潟市での個展のご案内です。

・タイトル/ 『長島 充展 -神話と伝説-』

・内容/東西世界に分布する神話や伝説を主題とした版画作品25点を展示する。銅版画、木版画、木口木版画など、さまざまな版画技法で制作された幻想表現となっている。

・会期/2013年12月7日(土)-12月21日(土) 11:00am~6:00pm 水曜休廊

・会場/ Kaede Gallery + full moon 新潟市中央区東堀通 4-453 Tel 025-229-6792 http://www.kaede-g.com/

・入場料/無料

※前回ブログでご紹介した、同市内の公共施設 『水の駅 ビュー福島潟』で開催中の 『長島 充 版画展 -日本の野鳥- 』 とは一味違った表現の幻想的・長島ワールドをお楽しみください。2か所の個展を合わせて観て異なる表現を比較できる機会でもあります。新潟方面の美術」ファン、版画ファンの方々、ぜひご高覧ください。画像はトップが今回出品の大判木版画 『麒麟図・2012』、下が個展DM。