長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

406. 美術学校のリモート授業が始まった。

2020-05-30 18:18:16 | カルチャー・学校
相変わらず工房での自粛生活が続いている。今年3月からの個展やグループ展、イベントなどが全て中止や延期となってしまったので制作の記事を中心としているこのブログにも投稿することがあまりなく月ごとの回数もめっきり減ってしまった。5月はこれが2回目の投稿となる。

そんな中、僕が非常勤講師としていくつかの実習を担当している東京のA美術学院がとうとう今月から「リモート授業に踏み切った」。A美術学院は東京でも3番目ぐらいに新型コロナウィルスの感染者数が多い地区に在るため、4月からの授業開始日を数回に亘って延期したりしてこの問題に対応してきたが、なかなか収束の見込みが立たず、そうこうしているうちに政府から『非常事態宣言』が発令されたりして常勤の先生方も会議を重ねる中で頭を悩まされてきた。
そんな中、多くの教育機関が取り入れ始めたデジタル機器による「リモート授業」を採用し、授業開始に踏み切ったのである。

今更だが「リモート授業」とは、例えば学校関係以外でもこのコロナウィルス発症から多くのジャンルでコミュニケーション・ツールとして取り入れられてきたのだが、具体的な例を挙げれば「Meet」などというツールを使用して音楽関係の「リモートライヴ・コンサート」、アート関係で言えば「リモート個展・グループ展」、それから若い年齢層が行っている「リモートコンパ(飲み会)」等、見たり、聞いたりしたことがある人は多いだろう。またコロナ以前にも中学・高校の英会話授業などにも取り入れていた学校もあった。有名なところでは我が国の首相が行った「リモートライヴ」で自粛生活を促すものはたいへん話題にもなったので覚えていることだろう。

つまり授業となるとどのようになるかというと予め美術学校からプログラミングされたパソコンが講師に送られてきて他の講師や学校スタッフによって数回のレクチャーと練習を行う。あとは実際に授業の日に「クラスルーム」や「Meet」を使用してリアルの授業と同じように講師と学生たちの顔合わせや出席をとるところからスタートし、パソコン画面上にあがった多くの学生の顔を観ながら授業を進めて行くのである。美術学校の実技実習なのでどうだろう?と不安に思っていたが、ラフスケッチや絵の途中経過の画像を個人個人がスマホのカメラで撮影し、パソコン内のボックスに送信してくる。これを観ながらチエックし指導すればリアルでのものと変わらずに進められるというものだ。僕も学生も自室に居ながらにして行えるのである。

もちろん、僕は初めての経験であり不慣れなことでもあるのだが、学校側も初めて、学生も初めてということなのである。まぁ、このパンデミック自体が世界中の人間が初めての経験なのであるからどのようなことが起こるかは予想もできないということである。

授業内容は以前にもこのブログでご紹介したが『変容』というタイトルで西洋マニエリスムの画家、ジョゼッペ・アルチンボルトの表現を例題としながら、さまざまな生物を組み合わせて新たな生物を創造してみるというものである。とりあえず先週1クラス目の授業が途中システム上のトラブル等が少しあったが、なんとか終了した。7月の末まで、あと5クラスの授業がある。その頃にはコロナが収束していき、リアルで学生たちの元気な表情を見ながら指導できる日が来ることを願っている。

※今回使用した画像は全て実際の授業中のものではなく準備、調整中のものとなっている。


        

405. 大判木版画 『 コクガン(仮)』 制作中。

2020-05-02 18:39:28 | 版画
先月から2021年に展示会に出品する予定の大きなサイズのモノクロ板目木版画を制作している。画題としているのはコクガンという名前の野鳥である。

このブログを読んでいただいている方々はピンと来たと思うが昨年の12月に宮城県の南三陸町に取材した野鳥である。冬に取材した野鳥を春に木版画に彫っているのである。僕の場合は取材を行って工房に帰ってからすぐに制作にかかるということは少ない。少し「なます」というのか、時間を置く。その時間の中でああでもない、こうでもないと画面構成や表現方法を考えたりするのが常である。遠回りをしているようで、このほうが画面に対する考え方が整理されてくるし、制作の方向性も見えてくるのである。それから失敗が少なくて済む。

版木の寸法は60,5 × 90㎝で絵画で言えば30号ぐらいのサイズである。筆と絵具で描く絵画であれば30号だが細かい彫りで制作を進めていく版画では、その倍の50号~60号ぐらいのサイズに感じる。同サイズの下絵を版木にトレースし、さぁこれから彫って行こうとする時にこのサイズがとても広く見えることがあり、そんな時には気が遠くなりさえする。

現地で取材していた時にコクガンという鳥も美しいと思ったが、生息地である三陸のターコイズブルーの深い色の海が美しく、海面に反射する水紋が目に入り、まるで抽象絵画を観ているようだと感じた。「なんとかこれを表現したい」そう思いながら帰宅し、ずっとこの感覚を温めてきた。「そうだ野鳥を画面で小さく入れて水紋の形をクローズアップしていく構図をとってみよう」そう決定した。
版木を彫り始めた頃、ちょうど新型コロナウィルスが世界中に拡散していくこととが重なり、彫り進めている水紋の点刻の1点1点を祈るような気持ちで彫りこみ、画面の中にのめり込んで制作していた。この海も2011年の大震災で津波に襲われた地域である。

先月末、ようやく第1回の試し摺りが上がった。予定よりかなり彫り進んでいる。ここからは明部や細部を中心として大事に仕上げていかなければならない。この作品が仕上がる頃には新型コロナウィルスの猛威が収束していくことを祈りながらジックリと彫り進める毎日である。

画像はトップが制作中の版木と僕の手。下が向かって左から第1回目の試し摺りの部分2点、制作中の版木等と手、彫りに使用中の各種彫刻刀。