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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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衝突地点は着陸予定地点から約400キロもずれていた… ロシアの月探査機“ルナ25号”の衝突現場をNASAの月探査機“ルナー・リコネサンス・オービター”が撮影

2023年09月02日 | 月の探査
2023年8月21日に、月の南極に位置するボグスラフスキー・クレーター(直径約95キロ)北部への着陸を目指していたロシアの月探査機“ルナ25号”。

ロシアの宇宙機関ロスコスモスによると、“ルナ25号”を月面着陸前の軌道に遷移させるためのエンジン噴射が実施されたのが、日本時間2023年8月19日20時10分のことでした。
エンジン噴射は飛行計画に従って実施されましたが、日本時間8月19日20時57分に通信が途絶してしまいます。

予備解析の結果、実行されたエンジン噴射のパラメータの値が計算上の値から逸脱していたために予定外の軌道に遷移してしまい、“ルナ25号”は月面に衝突して失われたと見られています。

その“ルナ25号”の衝突現場と見られる場所を、NASAの月探査機“ルナー・リコネサンス・オービター”がとらえたんですねー
NASAの月探査機“ルナー・リコネサンス・オービター”が2020年6月27日と2023年8月24日に撮影した2枚の画像を比較したもの。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Arizona State University)
NASAの月探査機“ルナー・リコネサンス・オービター”が2020年6月27日と2023年8月24日に撮影した2枚の画像を比較したもの。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Arizona State University)
ロスコスモスは8月21日に“ルナ25号”が衝突したと推定される地点を発表していました。
その発表された衝突地点周辺を“ルナー・リコネサンス・オービター”が撮影したわけです。

今回撮影された画像を、2022年6月に撮影された画像と比較してみると、確かに新しい小さなクレーターが映っていました。

その新しいクレーターは直径約10キロで、月の南緯57.865度、東経61.360度に位置しています。

“ルナ25号”の着陸予定地点は南緯69.545度、東経43.544度なので、約400キロも手前にズレたことになりますね。
衝突によってできたと見られる小クレーターの拡大画像。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Arizona State University)
衝突によってできたと見られる小クレーターの拡大画像。(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Arizona State University)



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“幽霊粒子”高エネルギーニュートリノの多くは天の川銀河に由来する? 電磁波以外では初めて描かれたニュートリノによる天の川銀河

2023年09月02日 | 宇宙 space
宇宙の最小単位になる素粒子の1つ“ニュートリノ”は、観測することが極めて難しいという特性を持っています。

特に、高いエネルギーの高エネルギーニュートリノがどこからやってくるのかは、宇宙物理学における大きな謎の一つでした。

今回の研究では、南極にあるニュートリノ観測所“IceCube”の10年分のデータを分析し、高エネルギーニュートリノの一部は、天の川銀河(銀河系)内部に由来する可能性が高いことを示しています。

この研究で作成された高エネルギーニュートリノの分布図は、電磁波以外の観測手法で初めて描かれた天の川銀河になったようです。

他の物質とはほとんど相互作用しない素粒子

ニュートリノは“幽霊粒子”とも呼ばれています。

それは、ニュートリノが、他の物質とはほとんど相互作用せずにすり抜けてしまうからです。

例えば、宇宙からは1平方メートルあたり毎秒100兆個ものニュートリノが地球に降り注いでいますが、その大半は地球を貫通して再び宇宙に逃げてしまいます(裏を返せば、地球の反対側から通過してくるニュートリノもあることになります)。

たとえ、厚さ1光年(10兆キロ)の鉛を用意しても、半分以上のニュートリノは貫通してしまうことになります。
それでも、一部のニュートリノは原子核と衝突することがあるはずなんですねー

この時に生じる微弱な光(チェレンコフ光)をとらえることで、衝突したニュートリノのエネルギーやその数を推定することができます。

もちろん、そのような反応はめったに生じませんし、観測データには多くのノイズも含まれているので、巨大な検出器を用意しないとニュートリノを観測することはできません。
図1.ニュートリノ観測所“IceCube”は、南極点にほど近いアムンゼン・スコット基地の地下に建造されている。(Credit: Josh Veitch-Michaelis, IceCube/NSF)
図1.ニュートリノ観測所“IceCube”は、南極点にほど近いアムンゼン・スコット基地の地下に建造されている。(Credit: Josh Veitch-Michaelis, IceCube/NSF)

ニュートリノを観測することに特化した観測装置

南極点のアムンゼン・スコット基地の地下に建造された“IceCube”は、体積3立方メートルにもなる南極の氷床そのものをニュートリノをとらえる“的(まと)”として使用する、世界最大のニュートリノ観測装置です。

この“IceCube”に搭載された5160個のセンサーが、ニュートリノが氷を構成する原子核に衝突した時に発する光をとらえるわけです。

そう、宇宙物理学における大きな謎の一つになる高エネルギーニュートリノを観測することに特化した観測装置、それが“IceCube”なんですねー

日本の“スーパーカミオカンデ”など、他にもニュートリノ観測装置はあります。
でも、高エネルギーニュートリノを観測できる装置は世界中で“IceCube”のみです。

高エネルギーニュートリノの発生源

ニュートリノは核反応によって生成される素粒子です。

なので、ニュートリノの持つエネルギーが大きいということは、それだけ激しい現象が宇宙で起こっていることを示しています。

これまで、高エネルギーニュートリノの発生源は“天の川銀河の中にある”という説と、“天の川銀河の外にある”という説が対立していて、天の川銀河の外に発生源を求める説でも、地球からの距離を巡って様々な議論がありました。

可能性が高いとみられていたのは天の川銀河の外にあるとする説で、実際に2018年には57億光年離れた活動銀河“TXS 0506+056”から、また2022年には4700万光年離れた“M77(メシエ77)”から、それぞれ飛来した銀河系外ニュートリノ(高エネルギーニュートリノの1種)の観測に成功しています。

とはいえ、これらの結果は、全天の広さと比べれば、点に等しい大きさの天体に由来するものです。

高エネルギーニュートリノは、
このように空間的に限られた発生源に由来するのでしょうか?
それとも、他の場所からも広く降り注いでいるのでしょうか?
このことは謎のままになっていました。

特に、天の川銀河に由来する高エネルギーニュートリノの存在は、銀河系外ニュートリノの発見後も指摘され続けてきました。

その理由は、高エネルギーニュートリノが発生するような現場では、同時にガンマ線も生じる可能性が高いこと。
そう、そのようなガンマ線は天の川銀河でもとらえられていたんですねー

高エネルギーニュートリノの多くが天の川銀河に由来する

そこで、今回の研究では、天の川銀河に由来する高エネルギーニュートリノの有無について調査を実施。
研究には、10年に渡る観測期間で“IceCube”がとらえた6万個以上もの高エネルギーニュートリノのデータが含まれていました。
この研究は、南極にあるニュートリノ観測所“IceCube”を利用してニュートリノの観測と研究を行っている国際研究チーム“IceCubeコラボレーション”が進めています。
これまでに観測された2例の銀河系外ニュートリノとは異なり、大半の高エネルギーニュートリノは、飛来してきた方向を探るのが非常に困難でした。

でも、10年分の膨大なデータに基づく機械学習が構築できたおかげで、ニュートリノが飛来してきた方向を高い精度で導くことができたんですねー
図2.上からニュートリノ、ガンマ線、可視光線で観測された天の川。高エネルギーニュートリノの分布は、ガンマ線で明るく観測される場所と一致している。(Credit: IceCube Collaboration, U.S. National Science Foundation, Lily Le & Shawn Johnson (ニュートリノ) / NASA, DOE & Fermi LAT Collaboration (ガンマ線) / ESO & S. Brunier (可視光線))
図2.上からニュートリノ、ガンマ線、可視光線で観測された天の川。高エネルギーニュートリノの分布は、ガンマ線で明るく観測される場所と一致している。(Credit: IceCube Collaboration, U.S. National Science Foundation, Lily Le & Shawn Johnson (ニュートリノ) / NASA, DOE & Fermi LAT Collaboration (ガンマ線) / ESO & S. Brunier (可視光線))
分析の結果、明らかになったのは、高エネルギーニュートリノの飛来する方向が、天の川銀河のある方向に有意に偏っていることでした。

さらに、ニュートリノの数が多い場所は、NASAのガンマ線天文衛星“フェルミ”などの観測で示されているガンマ線で明るく観測されている場所と一致。
このことからも、高エネルギーニュートリノの多くが天の川銀河に由来する可能性が高いことが分かりました。

ニュートリノによる天の川銀河の地図

これまで天の川銀河の写真は、可視光線やガンマ線、電波など様々な波長の電磁波で撮影されてきました。
でも、今回の研究は、電磁波以外では初めてニュートリノによる天の川銀河を描いたことになります。
図3.夜空にニュートリノによる天の川を重ね合わせたイメージ図。もしも人間がニュートリノを見る“目”を持っていれば、天の川はこのように見えるはず。(Credit: IceCube Collaboration (Yuya Makino)/U.S. National Science Foundation)
図3.夜空にニュートリノによる天の川を重ね合わせたイメージ図。もしも人間がニュートリノを見る“目”を持っていれば、天の川はこのように見えるはず。(Credit: IceCube Collaboration (Yuya Makino)/U.S. National Science Foundation)
今回の研究により、高エネルギーニュートリノの一部は、天の川銀河の中に起源を持つ可能性が高いことが分かりました。

天の川銀河から飛来する高エネルギーニュートリノは、天の川銀河の外からやってきた高エネルギーの原子核が、天の川銀河に存在する星間ガスの原子核と衝突することで生じたものだと考えられます。

このような情報は、高エネルギー原子核の起源になる活動銀河やブラックホールのような天体が宇宙にどの程度存在するのかなど、宇宙全体の特性を知る上で役立つ情報になります。

一方で、高エネルギーニュートリノが飛来する方向を絞り込むにのには限界もあります。
そのため、地図には不鮮明な部分もありました。

ニュートリノが多く飛来する方向は、この地図の通りに薄く広く分布しているのでしょうか?
それとも、天の川銀河の内部やその近くにある小さな点から集中して放出されているのでしょうか?
今の段階では、そこまでは分かっていません。

高エネルギーニュートリノのより正確な飛来方向や発生源は、今後の観測を通してさらに多くのデータを集めない限り解くことのできない謎なのかもしれません。

“IceCube”は、数年後にアップグレードが予定されています。
なので、近い将来、さらに鮮明な“ニュートリノの天の川”が作成される可能性は十分にあるはずです。

また、何でもすり抜けてしまう“幽霊”のようなニュートリノの特性を活かせば、活動銀河の中心部や超新星爆発の内部といった、電磁波では決して見通すことのできない超高密度な場の情報をそのまま提供してくるはずです。

“IceCube”のようなニュートリノ観測施設が、今回のように宇宙に関する他の謎も解決してくれるのかもしれませんね。


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