2021年10月1日のこと、JAXAがヨーロッパ宇宙機関と共同で推進する水星探査ミッション“ベピコロンボ”が、第一回水星スイングバイ観測を実施しました。
観測データは国際研究チームによって詳細に解析され、磁気圏中で加速された電子が惑星へ降り込む瞬間を初めてとらえていたことが分かっています。
太陽風の変化によって、様相が変化する磁気圏内では、様々な物理過程が生じていて、プラズマの加速や輸送が観測されます。
これらのプラズマの加速や輸送によって引き起こされる現象の代表例がオーロラです。
これまでの研究から、水星磁気圏は地球磁気圏と比べて、はるかに速く磁気圏が太陽風の変化に応答・変化することが分かっています。
でも、その中でプラズマ、特に電子の振る舞いは過去にほとんど観測例がなく、あまり理解が進んでいませんでした。
今回のスイングバイでは、これら電子を惑星近傍で直接観測することに成功。
さらに、磁気圏内で加速された電子が水星の表面に降り込み、地表面がX線で発光する現象“X線オーロラ”を引き起こすことが示唆されました。
この結果は、太陽系内における各惑星の磁気圏構造や環境の違いがあるにもかかわらず、オーロラを励起するプラズマの降り込みが普遍的に存在することを示しているようです。
惑星が地球のように全球的な固有磁場を持つか否か、また厚い大気を有するか否かは、太陽風と惑星環境間の相互作用を決定づける大事な指標になります。
水星は地球のように岩石惑星で、弱いながらも固有磁場を持つ惑星として知られています。
また、太陽風と相互作用することで形成される水星磁気圏は地球磁気圏と似た振る舞いをしていることが、過去の研究から示唆されてきました。
一方、水星の固有磁場は地球と比べて100分の1程度と弱いので、磁気圏のサイズが小さく、水星近傍での物理現象は地球のものと比べて速く、また小さいスケールで起こると考えられています。
そのような中で、どのようにプラズマが加速され輸送されるかの詳細は、これまで分かっていませんでした。
水星磁気圏は、太陽系で唯一地球磁気圏と直接比較できる絶好の環境を持っています。
なので、私たちが良く知る地球近傍でのプラズマの加速および輸送が、水星でどのように変化するのか? 一方で共通点は何か?
これらを理解するために、水星は非常に重要な惑星といえるんですねー
特に、地球の夜側磁気圏尾部における磁力線の繋ぎ替わり現象“磁気リコネクション”や、それらによって加速・輸送されるプラズマの振る舞いは大きな研究テーマになっています。
地球では、これらのプラズマが降り込んだ際には、大気と衝突してオーロラを励起することが良く知られています。
一方で水星磁気圏は、過去に水星を訪れた“マリナー10号”や周回観測を行った“メッセンジャー”のミッションによって、磁場の中心が惑星中心から北にズレているものの、その構造は地球磁気圏と非常に似通っていること、また磁気圏尾部では地球と同様に磁気リコネクションやタイポラリゼーション(磁気圏磁力線形状の急激な変化)などが起き、プラズマが加速されていることが明らかになっています。
水星磁気圏は地球と比べて小さく、太陽風の変化に敏感に応答することが分かっています。
でも、このような環境下で、どのようにどれだけ加速が起き、どれほどプラズマが磁気圏内で輸送されるのかは分かっていませんでした。
特に、加速されて惑星に向かって降り込むプラズマは、地球においては大気と衝突してオーロラを引き起こします。
一方、水星はごく薄い大気しか持たないので、プラズマが惑星に降り込む場合、大気と衝突することなく地表まで到達し、水星表面の物質と衝突して蛍光X線を出すことが予測されています。
この水星における発光現象は、しばしばX線オーロラと呼ばれています。
過去の観測からX線オーロラを励起する電子の降り込みの存在が、間接的には議論されてきました。
でも、“マリナー10号”および“メッセンジャー”では直接的な観測ができていないので、どのように加速された電子がどのように輸送されその場に降り込むのか、そしてどれくらいのエネルギーで降り込むのかは分かっていませんでした。
2018年10月にフランス領ギアナより打ち上げられ、2025年12月の水星周回軌道投入に向けて、現在惑星間空間を減速するように航行しています。
これは、地球よりも内側の惑星に行くには、加速ではなく減速が必要なため。
水星の周回軌道に入るのに必要なエネルギーを、もし地球の外側にに向けて使ったとすると、太陽の重力圏を脱出できてしまうぐらいになってしまいます。
そう、距離としては近い地球と水星ですが、到達するためのエネルギー的には遠い存在になります。
このため用いられるのが、燃料消費の無いスイングバイという飛行方式です。
探査は、日本の水星磁気圏探査機“みお(MMO : Mercury Magnetospheric Orbiter)”とヨーロッパ宇宙機関の水星表面探査機“MPO(Mercury Planetary Orbiter)”の2機で行われる予定。
史上初めて地球以外の惑星に2つの周回探査機を同時に送り込むという画期的なミッションになります。
ただ、“みお”は太陽光シールドによって覆われてしまうので、視野が限られるなど科学観測には大きな制約を受けてしまうことに…
でも、惑星スイングバイ中には搭載装置の多くを立ち上げて観測を試みるんですねー
第1回水星スイングバイでは、最接近高度200キロの距離まで探査機が水星に近づき、磁気圏のプラズマ観測に成功しています。
これまでの“マリナー10号”や“メッセンジャー”では、その軌道制約から水星磁気圏の南半球を低高度から観測できませんでした。
なので、今回の“ベピコロンボ”による観測が史上初めての試みになっています。
観測で用いられたのは、“みお”に搭載された電子観測器“MEA”、イオン観測器“MIA”、中性大気観測器“ENA”。
これらの装置により、水星では史上初めて電子とイオンの同時観測が行われました。
データ解析の補助として磁気圏モデル(KT17)が用いられ、加速された電子が南半球磁気圏の朝側で惑星表面へと降り込む様子が直接観測されました。
このスイングバイでは、様々な運用上の制約によりデータに時間的な空白が生じているものの、“みお”は磁気圏の構造を示す境界(磁気圏界面およびバウショック)をとらえることに成功。
スイングバイ当時の水星磁気圏は、平均よりも圧縮されてコンパクトな状態であったことが確認されました。
この圧縮された磁気圏内において観測されたのが、様々な物理過程です。
特に、最接近後に朝側の磁気圏で、高エネルギー電子(1~10keV;キロ電子ボルト)のフラックスの増強が準周期的(30~40秒程度の周期)に観測されています。(図2)
これらは“マリナー10号”および“メッセンジャー”によって測定された、高エネルギー(10~100keV)の電子バーストと呼ばれる現象に類似していました。
でも、詳細な解析によって1~10keVの電子フラックス増強の周期が過去報告されたものと一致しないこと、また電子フラックスの増強が高エネルギーから始まり低エネルギーに移行する挙動(図2(B)、(D)中の黒い線)を示していることが分かりました。
これらの結果から示されたのは、この観測がとらえたのが過去に観測されていたものとは異なる現象であること。
また、磁気圏モデルを用いて電子がどこから輸送されてきたかを調べることにより、今回の電子の挙動は特に、朝方の磁気圏尾部で起こるプラズマ過程(磁気リコネクションやタイポラリゼーションなど)に起因する電子の加速・輸送によって引き起こされたものである可能性が高いことを発見しています。
この場所は、“メッセンジャー”によって観測された水星表面からのX線オーロラの発生位置と一致しています。
準周期的に変化するフラックスの増強とエネルギー依存を持った電子の特徴は、電子観測機“MEA”が磁気圏尾部で起こる磁気リコネクションやタイポラリゼーションによる加速・輸送を経て、最終的には惑星表面に降下する電子を観測したことを示唆しています。
地球では、磁気圏尾部におけるプラズマの加速・輸送は、地球大気への降り込みを起こしオーロラを生成します。
“ベピコロンボ”の観測結果は、地球と比べて小さい水星磁気圏においても、地球と非常に良く似た機構で電子が加速・輸送され、惑星に降り込むこと、そして地表からX線オーロラを生成しうることを示していました。
この研究によって分かったのは、水星の小さな磁気圏において電子は惑星に近い位置の磁気圏朝方側尾部で加速され、それらが惑星近傍まで輸送されること。
さらに、太陽系内の磁化惑星(海王星を除く)は各固有地場の強度や大気の有無、放射線帯の有無などに違いはあれど、どの惑星においても加速された電子は惑星近傍まで輸送され、降り込むことが可能であり、これらがオーロラ生成過程として普遍的なメカニズムであることを証明しました。
水星磁気圏における電子の振る舞いの解明は、該当する観測機器を初めて搭載する“みお”が担う重要な科学課題の一つになります。
長らく水星環境において議論されてきた物理過程について、大きな制約があるスイングバイ中の観測にもかかわらず一つの結果を出せたことは、水星周回軌道投入後の本格観測への期待を大きくするものになりました。
各スイングバイ時には、様々な科学観測が実施され、チームによって鋭意解析が進められています。
これまでになかった科学観測機器パッケージとスイングバイ軌道を併せて、これまでの“マリナー10号”や“メッセンジャー”では得られなかった新しい成果が生まれつつあるんですねー
2025年12月に予定される水星周回軌道投入後には、2機の探査機でそれぞ観測を行いますが、例えば“みお”が太陽風を観測する間“MPO”が水星環境を観測するといった、2機協働観測計画も綿密に検討されています。
加えて、ヨーロッパ宇宙機関の太陽探査機“ソーラーオービター”やNASAの太陽探査機“パーカー・ソーラー・プローブ”といった内部太陽圏を探査する探査機との協働観測も多く議論されていて、広く太陽圏と惑星圏・惑星磁気圏観測をつなぐ太陽圏システム探査の推進が期待されています。
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観測データは国際研究チームによって詳細に解析され、磁気圏中で加速された電子が惑星へ降り込む瞬間を初めてとらえていたことが分かっています。
太陽風の変化によって、様相が変化する磁気圏内では、様々な物理過程が生じていて、プラズマの加速や輸送が観測されます。
これらのプラズマの加速や輸送によって引き起こされる現象の代表例がオーロラです。
これまでの研究から、水星磁気圏は地球磁気圏と比べて、はるかに速く磁気圏が太陽風の変化に応答・変化することが分かっています。
でも、その中でプラズマ、特に電子の振る舞いは過去にほとんど観測例がなく、あまり理解が進んでいませんでした。
今回のスイングバイでは、これら電子を惑星近傍で直接観測することに成功。
さらに、磁気圏内で加速された電子が水星の表面に降り込み、地表面がX線で発光する現象“X線オーロラ”を引き起こすことが示唆されました。
この結果は、太陽系内における各惑星の磁気圏構造や環境の違いがあるにもかかわらず、オーロラを励起するプラズマの降り込みが普遍的に存在することを示しているようです。
この研究は、JAXA宇宙科学研究所をはじめ、フランス宇宙物理惑星科学研究所、プラズマ物理学研究所(フランス)、マックスプランク太陽系研究所(ドイツ)、スウェーデン宇宙物理学研究所、京都大学、大阪大学、金沢大学、東海大学からなる国際研究チームが進めています。
(Credit: 相澤紗絵) |
岩石惑星で弱いながらも固有磁場を持つ惑星
太陽系内の惑星は、太陽から吹き付ける太陽風と呼ばれる高速のプラズマ流にさらされています。惑星が地球のように全球的な固有磁場を持つか否か、また厚い大気を有するか否かは、太陽風と惑星環境間の相互作用を決定づける大事な指標になります。
水星は地球のように岩石惑星で、弱いながらも固有磁場を持つ惑星として知られています。
また、太陽風と相互作用することで形成される水星磁気圏は地球磁気圏と似た振る舞いをしていることが、過去の研究から示唆されてきました。
一方、水星の固有磁場は地球と比べて100分の1程度と弱いので、磁気圏のサイズが小さく、水星近傍での物理現象は地球のものと比べて速く、また小さいスケールで起こると考えられています。
そのような中で、どのようにプラズマが加速され輸送されるかの詳細は、これまで分かっていませんでした。
水星磁気圏は、太陽系で唯一地球磁気圏と直接比較できる絶好の環境を持っています。
なので、私たちが良く知る地球近傍でのプラズマの加速および輸送が、水星でどのように変化するのか? 一方で共通点は何か?
これらを理解するために、水星は非常に重要な惑星といえるんですねー
水星磁気圏における電子の振る舞い
太陽風と磁気圏の相互作用、そして太陽風の変動に伴う磁気圏環境の変化は、地球において長い間様々な手法を用いて研究されてきました。特に、地球の夜側磁気圏尾部における磁力線の繋ぎ替わり現象“磁気リコネクション”や、それらによって加速・輸送されるプラズマの振る舞いは大きな研究テーマになっています。
地球では、これらのプラズマが降り込んだ際には、大気と衝突してオーロラを励起することが良く知られています。
一方で水星磁気圏は、過去に水星を訪れた“マリナー10号”や周回観測を行った“メッセンジャー”のミッションによって、磁場の中心が惑星中心から北にズレているものの、その構造は地球磁気圏と非常に似通っていること、また磁気圏尾部では地球と同様に磁気リコネクションやタイポラリゼーション(磁気圏磁力線形状の急激な変化)などが起き、プラズマが加速されていることが明らかになっています。
水星磁気圏は地球と比べて小さく、太陽風の変化に敏感に応答することが分かっています。
でも、このような環境下で、どのようにどれだけ加速が起き、どれほどプラズマが磁気圏内で輸送されるのかは分かっていませんでした。
特に、加速されて惑星に向かって降り込むプラズマは、地球においては大気と衝突してオーロラを引き起こします。
一方、水星はごく薄い大気しか持たないので、プラズマが惑星に降り込む場合、大気と衝突することなく地表まで到達し、水星表面の物質と衝突して蛍光X線を出すことが予測されています。
この水星における発光現象は、しばしばX線オーロラと呼ばれています。
過去の観測からX線オーロラを励起する電子の降り込みの存在が、間接的には議論されてきました。
でも、“マリナー10号”および“メッセンジャー”では直接的な観測ができていないので、どのように加速された電子がどのように輸送されその場に降り込むのか、そしてどれくらいのエネルギーで降り込むのかは分かっていませんでした。
2つの周回探査機を同時に送り込む画期的なミッション
国際水星探査計画“ベピコロンボ”は、JAXAとヨーロッパ宇宙機関のそれぞれの周回探査機で、水星の総合的な観測を行う日欧協力の大型ミッションです。2018年10月にフランス領ギアナより打ち上げられ、2025年12月の水星周回軌道投入に向けて、現在惑星間空間を減速するように航行しています。
これは、地球よりも内側の惑星に行くには、加速ではなく減速が必要なため。
水星の周回軌道に入るのに必要なエネルギーを、もし地球の外側にに向けて使ったとすると、太陽の重力圏を脱出できてしまうぐらいになってしまいます。
そう、距離としては近い地球と水星ですが、到達するためのエネルギー的には遠い存在になります。
このため用いられるのが、燃料消費の無いスイングバイという飛行方式です。
探査機が、惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式。燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行える。積極的に軌道や速度を変更する場合をスイングバイ、観測に重点が置かれる場合をフライバイと言い、使い分けている。
水星までの航行には、探査機の軌道を変える惑星スイングバイが全9回予定されていて(地球1回、金星2回、水星6回)、2021年10月1日に“ベピコロンボ”は1回目の水星スイングバイを実施し、その最中に搭載装置による科学観測を実施しました。探査は、日本の水星磁気圏探査機“みお(MMO : Mercury Magnetospheric Orbiter)”とヨーロッパ宇宙機関の水星表面探査機“MPO(Mercury Planetary Orbiter)”の2機で行われる予定。
史上初めて地球以外の惑星に2つの周回探査機を同時に送り込むという画期的なミッションになります。
水星では史上初めて行われた電子とイオンの同時観測
この2機の探査機は、水星周回軌道投入までの飛行を担当するヨーロッパ宇宙機関の電気推進モジュール“MTM(Mercury Transfer Module)”に積み重なった状態になっています。ただ、“みお”は太陽光シールドによって覆われてしまうので、視野が限られるなど科学観測には大きな制約を受けてしまうことに…
でも、惑星スイングバイ中には搭載装置の多くを立ち上げて観測を試みるんですねー
第1回水星スイングバイでは、最接近高度200キロの距離まで探査機が水星に近づき、磁気圏のプラズマ観測に成功しています。
これまでの“マリナー10号”や“メッセンジャー”では、その軌道制約から水星磁気圏の南半球を低高度から観測できませんでした。
なので、今回の“ベピコロンボ”による観測が史上初めての試みになっています。
観測で用いられたのは、“みお”に搭載された電子観測器“MEA”、イオン観測器“MIA”、中性大気観測器“ENA”。
これらの装置により、水星では史上初めて電子とイオンの同時観測が行われました。
データ解析の補助として磁気圏モデル(KT17)が用いられ、加速された電子が南半球磁気圏の朝側で惑星表面へと降り込む様子が直接観測されました。
過去に観測されていたものとは異なる現象
水星スイングバイ中、“ベピコロンボ”は水星の夜側北半球から接近し、南半球朝方付近で水星に最接近したのちに南半球昼側磁気圏を観測して、太陽風へと抜けていく軌道をとっています(図1は、軌道と“みお”によるプラズマ観測結果になる)。図1.“ベピコロンボ”の軌道(北から見下ろした図)及び“MPPE”センサーによる観測結果。マグネトポーズ(MP:ピンクのマークおよび線)およびバウショック(BS:青のマークおよび線)通過が同定されている。(Credit: Aizawa et al., 2023) |
スイングバイ当時の水星磁気圏は、平均よりも圧縮されてコンパクトな状態であったことが確認されました。
この圧縮された磁気圏内において観測されたのが、様々な物理過程です。
特に、最接近後に朝側の磁気圏で、高エネルギー電子(1~10keV;キロ電子ボルト)のフラックスの増強が準周期的(30~40秒程度の周期)に観測されています。(図2)
これらは“マリナー10号”および“メッセンジャー”によって測定された、高エネルギー(10~100keV)の電子バーストと呼ばれる現象に類似していました。
でも、詳細な解析によって1~10keVの電子フラックス増強の周期が過去報告されたものと一致しないこと、また電子フラックスの増強が高エネルギーから始まり低エネルギーに移行する挙動(図2(B)、(D)中の黒い線)を示していることが分かりました。
これらの結果から示されたのは、この観測がとらえたのが過去に観測されていたものとは異なる現象であること。
また、磁気圏モデルを用いて電子がどこから輸送されてきたかを調べることにより、今回の電子の挙動は特に、朝方の磁気圏尾部で起こるプラズマ過程(磁気リコネクションやタイポラリゼーションなど)に起因する電子の加速・輸送によって引き起こされたものである可能性が高いことを発見しています。
オーロラ生成過程として普遍的なメカニズム
今回のスイングバイでは、水星における磁気圏尾部のプラズマ過程に起因しうる、高エネルギー電子(1~10keV)フラックスの増強が確認されました。この場所は、“メッセンジャー”によって観測された水星表面からのX線オーロラの発生位置と一致しています。
準周期的に変化するフラックスの増強とエネルギー依存を持った電子の特徴は、電子観測機“MEA”が磁気圏尾部で起こる磁気リコネクションやタイポラリゼーションによる加速・輸送を経て、最終的には惑星表面に降下する電子を観測したことを示唆しています。
地球では、磁気圏尾部におけるプラズマの加速・輸送は、地球大気への降り込みを起こしオーロラを生成します。
“ベピコロンボ”の観測結果は、地球と比べて小さい水星磁気圏においても、地球と非常に良く似た機構で電子が加速・輸送され、惑星に降り込むこと、そして地表からX線オーロラを生成しうることを示していました。
この研究によって分かったのは、水星の小さな磁気圏において電子は惑星に近い位置の磁気圏朝方側尾部で加速され、それらが惑星近傍まで輸送されること。
さらに、太陽系内の磁化惑星(海王星を除く)は各固有地場の強度や大気の有無、放射線帯の有無などに違いはあれど、どの惑星においても加速された電子は惑星近傍まで輸送され、降り込むことが可能であり、これらがオーロラ生成過程として普遍的なメカニズムであることを証明しました。
水星磁気圏における電子の振る舞いの解明は、該当する観測機器を初めて搭載する“みお”が担う重要な科学課題の一つになります。
長らく水星環境において議論されてきた物理過程について、大きな制約があるスイングバイ中の観測にもかかわらず一つの結果を出せたことは、水星周回軌道投入後の本格観測への期待を大きくするものになりました。
今後のスインバイから水星周回軌道への投入へ
今回の研究で取り上げた水星スイングバイを終えた“ベピコロンボ”は、2022年6月と2023年6月にすでに2回目と3回目の水星スイングバイを実施しています。各スイングバイ時には、様々な科学観測が実施され、チームによって鋭意解析が進められています。
これまでになかった科学観測機器パッケージとスイングバイ軌道を併せて、これまでの“マリナー10号”や“メッセンジャー”では得られなかった新しい成果が生まれつつあるんですねー
2025年12月に予定される水星周回軌道投入後には、2機の探査機でそれぞ観測を行いますが、例えば“みお”が太陽風を観測する間“MPO”が水星環境を観測するといった、2機協働観測計画も綿密に検討されています。
加えて、ヨーロッパ宇宙機関の太陽探査機“ソーラーオービター”やNASAの太陽探査機“パーカー・ソーラー・プローブ”といった内部太陽圏を探査する探査機との協働観測も多く議論されていて、広く太陽圏と惑星圏・惑星磁気圏観測をつなぐ太陽圏システム探査の推進が期待されています。
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