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強力な磁場を持つ褐色矮星は珍しい存在なのか? 木星のような巨大惑星と軽い褐色矮星は同じ性質を持っているのかもしれない

2023年09月17日 | 褐色矮星
恒星と巨大ガス惑星の中間的な天体“褐色矮星”の一部は、強力な磁場を持つことが知られていますが、その正確な起源は分かっていません。

今回、シドニー大学のKovi Roseさんの研究チームは、表面温度426℃の褐色矮星“WISE J062309.94-045624.6”が強力な磁場を持つことを電波観測によって明らかにしています。

これは電波で観測された中でもっとも低温の褐色矮星でした。
検出された電波は、磁場に由来するオーロラが発生源ではないかと考えられています。
図1.強力な磁場とオーロラを持つ褐色矮星のイメージ図。(Credit: NRAO/AUI/NSF)
図1.強力な磁場とオーロラを持つ褐色矮星のイメージ図。(Credit: NRAO/AUI/NSF)

強力な磁場を持つ褐色矮星

太陽を含む“恒星”には強力な磁場が存在しています。

恒星の磁場は、星の内部で発生する複数の小さな磁場の渦が、まるで糸巻きのように1つの磁場に巻き上げられることによって発生すると考えられています。

ただ、このような磁場が発生する理由は複雑なんですねー
主な理由の1つは、恒星の内部が複数の層に分かれていることにあると考えられています。

その一方で、“褐色矮星”(※1)の内部は恒星とは異なり層に分かれていないので、磁場を巻き上げる作用が起こる条件を満たしていません。
なので、強力な磁場は発生しないと考えられています。
※1.“褐色矮星”は恒星と惑星の中間の質量を持つ、太陽系には存在しない種類の天体。褐色矮星の定義は複数存在するが、一般には木星のおよそ13倍~80倍の質量を持つ天体を褐色矮星とみなされている。そのような質量の天体では、(恒星と異なり)水素の核融合が起こらず、(惑星と異なり)重水素の核融合が起こる。一方、質量以外では、重い惑星と軽い褐色矮星は、ほとんど同じ性質を示すと考えられている。
でも、観測から分かっているのは、実際に褐色矮星の10%未満がかなり強力な磁場を持っていること…(※2)
※2.“褐色矮星の10%未満”という値は、正確には褐色矮星の中でも温度が比較的高い“超低温矮星(UCD;Ultra cool dwarf)”に対する値。超低温矮星よりもさらに低温の褐色矮星も存在するので、“褐色矮星の”と表記するのは厳密には正しくないが、超低温矮星はあまり使用されない用語なので、このような表現としている。
それでは、なぜ一部の褐色矮星だけが、このような強力な磁場を持っているのでしょうか?

このことは長年の謎になっていました。

磁場に由来する電波の放出を観測

天体の磁場を直接測定することはできませんが、磁場に由来する電波の放出を観測することは可能です。

電波の周波数や強度の変化には、磁場の性質や状態変化が含まれているので、電波観測を行うことで磁場の起源を間接的に推定することができます。

でも、褐色矮星から放射される電波は非常に弱いので、電波で観測できていない褐色矮星も多数存在しているんですねー
このことが、褐色矮星における磁場の研究の妨げになってきました。

今回の研究では、一部の褐色矮星だけが強力な磁場を持つ謎を解くため、電波望遠鏡で得られた観測データを分析。
用いられたのは、オランダ電波天文学研究所(ASTRON)の電波望遠鏡“LOFAR”と、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の電波望遠鏡“ASKAP”でした。
図2.“WISE J062309.94-045624.6”は、電波で観測された最も低温の褐色矮星になった(中央の赤い点)。(Credit: Kovi Rose, et.al.)
図2.“WISE J062309.94-045624.6”は、電波で観測された最も低温の褐色矮星になった(中央の赤い点)。(Credit: Kovi Rose, et.al.)
対象になった褐色矮星は、約37光年彼方に位置する“WISE J062309.94-045624.6”。
“WISE J062309.94-045624.6”の推定表面温度は426℃で、質量は褐色矮星の下限に近い木星の約13.2倍でした。

分析の結果、研究チームは“WISE J062309.94-045624.6”に由来する電波を見つけ出すことに成功。
最低でも350ガウス以上の磁場(磁束密度)が存在することが分かりました。

この数値から単純に計算すると、“WISE J062309.94-045624.6”は地球の約90万倍、木星の約40倍も強力な“磁石”ということになります。

なお、“WISE J062309.94-045624.6”は電波観測に成功した最も低温の褐色矮星でもあります。

巨大ガス惑星に見られるオーロラ由来の電波

今回の研究では“WISE J062309.94-045624.6”が、どのようにして強力な電波を生み出しているのかは十分に判明しませんでした。

でも、電波観測のデータは、“WISE J062309.94-045624.6”の電波の特徴が、巨大ガス惑星に見られるオーロラ由来の電波に似ていることを示していたんですねー
このようなオーロラは、天体の磁場の自転速度と大気上層部の循環速度が異なる場合に発生します。

今回の観測で判明した“WISE J062309.94-045624.6”の自転周期は、褐色矮星の平均値(5時間)よりもかなり短い約1.9時間なので、検出された電波の源がオーロラにある可能性は十分にあります。

また、オーロラ由来の電波は放出される範囲が狭く、地球に届くタイミングは限られていると予想されます。

強力な磁場を持つように見える褐色矮星は全体の10%未満ですが、実際にそれしか強力な磁場を持っていないのではなく、大半は地球に届く方向へオーロラ由来の電波が放出されておらず、単純に見逃されているだけの可能性もあります。

そうだとすれば、強力な磁場を持つ褐色矮星は珍しくないのかもしれません。

強力な磁場を持つ褐色矮星は珍しい存在なのでしょうか? それとも一般的な存在なのでしょうか?

このことを知ることは褐色矮星の研究において重要なことになります。

今回の研究に使われた電波望遠鏡の1つ“ASKAP”は、褐色矮星に由来する電波の観測に適していると考えられています。
このため、“ASKAP”で追加の観測を行えば、強力な磁場を持つ褐色矮星がさらに見つかるかもしれません。

また、“ASKAP”は非常に感度が高く、非常に低温な褐色矮星である“Y型褐色矮星”からの電波を検出できる可能性があります。

“ASKAP”での観測が継続できれば、“WISE J062309.94-045624.6”よりも低温で電波放射の弱い、“ほとんど惑星”と言えるY型褐色矮星の磁場を発見する可能性は多いあります。

褐色矮星は、惑星と呼ぶには大きすぎて、恒星と呼ぶには小さすぎる、中間的な性質を持つと考えられています。

さらに、木星のような巨大惑星と軽い褐色矮星は、ほとんど同じ性質を持つと期待されていて、巨大惑星の進化や大気を調べる上でも褐色矮星は重要な存在になります。

まだまだ謎が多い天体で、ちょうど惑星と恒星の中間にあるミッシングリンクとも言えます。
これから多くの褐色矮星の観測が期待されますね。


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