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初期の宇宙に予想よりも早く進化した銀河や銀河団は存在していなかった? 1つの銀河に匹敵する明るさを持つ天体“暗黒星”が謎を解決する

2023年09月21日 | 宇宙のはじまり?
天文学の進歩によって、誕生から間もない頃の宇宙を観測できるようになると、これまでの宇宙論との間には様々な矛盾があることが分かってきました。

その1つは、観測されている初期の銀河が、理論上の予想に反して進化し過ぎているという問題です。

今回、発表された研究成果は、“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”で観測した初期の銀河の一部は“暗黒星(Dark Star)”と呼ばれる巨大な天体ではないかとするもの。
このことが正しい場合、“進化し過ぎた初期銀河”という存在そのものが幻だったことになり、矛盾が解消される可能性があるようです。
この研究は、コルゲート大学のCosmin IlieさんとJillian Paulinさん、テキサス大学オースティン校のKatherine Freeseさんたちのチームが進めています。

予想以上に進化した初期宇宙の銀河や銀河団

現在最も支持されている宇宙論では、宇宙が誕生した初期の段階では、薄いガスしか存在していなかったと考えられています。

そのガスが重力によって高密度に集まって恒星や銀河が形成されるまでには、数億年の時間がかかったはずです。

でも、実際に初期宇宙を観測してみると、宇宙論の予測よりも早く進化した銀河や銀河団が発見されているんですねー

最近のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測では、宇宙誕生から3億年後の時点で、すでにかなり進化していた銀河が見つかっています。

さらに、観測を進めれば、より遡った時代にも進化した銀河が見つかる可能性もあると考えられています。

ただ、現代の宇宙論は、宇宙誕生からこれほど短い時間で、このように進化した銀河や銀河団が形成・成長する理由を説明できず…
大きな謎になっています。

1つの銀河に匹敵する明るさを持つ天体

この謎を解明するために、今回の研究ではジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された初期の銀河のいくつかが、実際には“暗黒星”という天体ではないかと推定しています。
図1.暗黒星のイメージ図。暗黒星本体の大部分は非常に巨大な水素とヘリウムの雲でできていて、恒星のような一塊の天体のように見えない。(Credit: University of Utah)
図1.暗黒星のイメージ図。暗黒星本体の大部分は非常に巨大な水素とヘリウムの雲でできていて、恒星のような一塊の天体のように見えない。(Credit: University of Utah)
暗黒星は、研究チームが2007年に提唱した仮説上の天体。
“暗黒”と言っても真っ暗な星というわけではなく、非常に明るく輝くそうです。

驚くべきことは、暗黒星は直径が約30億キロ(※1)にも達し、大きなものでは太陽の100万倍以上の質量と100億倍以上の明るさを持つと推定されていること。
これは、1個の暗黒星だけで、1つの銀河に匹敵する明るさになり得ます。
※1.約30億キロは約20天文単位に相当する。これは太陽の直径の2000倍、地球の公転軌道の10倍であり、土星の公転軌道とほぼ同じになる。
研究チームでは、大きな暗黒星であればジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で十分に観測可能だと考えています。

暗黒星の大部分は、薄い水素とヘリウムの雲でできていますが、0.1%の暗黒物質(ダークマター)(※2)を含んでいます。
※2.“ダークマター”は暗黒物質とも呼ばれ、銀河の性質を説明するために考案された仮設上の物質。宇宙の全質量・エネルギーの約27%を占めていると考えられている。ただ、ダークマターは質量を持っているものの、光をはじめとする電磁波と相互作用しないので、直接観測することはできない。銀河を構成する星がバラバラにならず形をとどめている原因を、光を放射しない物質の重力効果に求めたのが“ダークマター説”の始まりになっている。
暗黒星は暗黒物質の崩壊(※3)による熱で輝くと同時に、水素の核融合反応が起こる小さな塊、すなわち恒星になることが防がれていると考えられています。
※3.研究チームは、暗黒星に含まれる暗黒物質は、マヨラナ粒子であるニュートラリーノ(自身が反粒子な性質を持つ、ニュートリノとペアな存在である非常に重たい仮説上の粒子)だと仮定し、ニュートラリーノ同士の対消滅によって熱が発生するとしている。
このため、暗黒星は放射量こそ非常に大きいものの、表面温度は約1万℃と、その巨大なサイズにしては低い温度に留まると推定されています。

初期宇宙の銀河候補天体から暗黒星を探す

研究チームは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された初期の宇宙に存在すると見られる数百の銀河候補天体の中に、暗黒星が含まれているのではないかと予想。
特に詳細な観測データが揃っている4つの天体“JADES-GS-z13-0”、“JADES-GS-z12-0”、“JADES-GS-z11-0”、“JADES-GS-z10-0”について分析を実施しています。

これらの天体は、宇宙誕生から3億2000万年~4億年の時代に存在していたと推定されています。
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した初期の銀河とされる天体。上から“JADES-GS-z11-0”、“JADES-GS-z12-0”、“JADES-GS-z13-0”。今回の研究が正しい場合、これは銀河ではなく暗黒星の画像になる。(Credit: NASA & ESA)
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した初期の銀河とされる天体。上から“JADES-GS-z11-0”、“JADES-GS-z12-0”、“JADES-GS-z13-0”。今回の研究が正しい場合、これは銀河ではなく暗黒星の画像になる。(Credit: NASA & ESA)
分析の結果、4つのうち“JADES-GS-z13-0”、“JADES-GS-z12-0”、“JADES-GS-z11-0”の3つについては、暗黒星と考えても矛盾しないことが分かります。

例えば、暗黒星からの放射で予測されるスペクトルデータは、今回分析された3つの銀河のスペクトルデータとよく一致していました。
また、“JADES-GS-z12-0”の分析結果は、表面温度が約1万7000℃の暗黒星で予想される観測データと一致します。

さらに、今回の研究で明らかになったのは、3つの天体が点状に見える、つまり銀河と比べて非常に小さな天体から光が放射されていると考えても矛盾しないことです。

地球から観測した初期の銀河は、ある程度の広がりを持つ天体として見えるはずですが、暗黒星であれば点にしか見えないはずです。
それは、暗黒星は普通の恒星と比べれば巨大とはいえ、銀河に比べればはるかに小さな天体だからです。

以上の結果を根拠に研究チームでは、“JADES-GS-z13-0”、“JADES-GS-z12-0”、“JADES-GS-z11-0”の観測データは、3つの天体が銀河ではなく暗黒星だと考えても矛盾しないことを示していると考えています。

このことが正しい場合、3つの暗黒星は太陽の50万倍から100万倍の質量を持ち、太陽の数十億倍もの明るさで輝いていると推定されます。

いまのところ、暗黒星を構成する物質の一部であり、活動のエネルギー源でもある暗黒物質は未発見です。
暗黒物質が暗黒星を形成できるような性質を持っているかどうかも判明してません。
なので、暗黒星が実在するかどうかは、はっきりと分かっているわけではないんですねー

でも、研究チームでは、今回見つかった暗黒星の候補が本当に暗黒星なのか、それとも初期の銀河なのかを観測で判別することができると考えています。

暗黒星には、初期の銀河では見られない特徴が、スペクトル線として現れると考えられます。
なので分光観測を行うことで、もしもそのような観測データが得られれば、暗黒星が実在する可能性は高まります。
スペクトルは、光の波長ごとの強度分布。スペクトルに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。個々の元素は決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質がある。その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れる。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
誕生したばかりの宇宙に、なぜ進化した銀河が存在しているのでしょうか?

この理由は現代宇宙論の大きな謎になっています。

でも、仮に暗黒星が実在したとすれば、そのような銀河は存在しないことになり、大きな謎が解決されることになります。
さらに、謎に包まれている暗黒物質の正体に迫ることにもなるので、これからの研究が期待されますね。


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