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生命の存在を期待させる液体の水の海に覆われた系外惑星は存在する? “K2-180b”の大気中に見つけた炭素を含む分子が示していること

2023年09月19日 | 系外惑星
しし座の方向約120光年彼方に位置する赤色矮星(※2)“K2-180”。
この赤色矮星のハビタブルゾーン(※1)を公転しているのが太陽系外惑星(系外惑星)“K2-180b”です。

“K2-180b”は地球と海王星の中間の大きさで、質量は地球の8.6倍ほど。
“サブネプチューン”や“ミニネプチューン”などと呼ばれるタイプの惑星です。

今回、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡から得られた新しいデータが示していたのは、液体の水の海に覆われた系外惑星が存在するかもしれないこと。
さらに、そこには生命が存在する可能性があるようです。

※1.“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。

※2.赤色矮星は、表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星。実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星になる。太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがある。

主星(恒星)“K2-180”を周回する系外惑星“K2-180b”のイメージ図。(Credit: NASA, CSA, ESA, J. Olmstead (STScI), N. Madhusudhan (Cambridge University))
主星(恒星)“K2-180”を周回する系外惑星“K2-180b”のイメージ図。(Credit: NASA, CSA, ESA, J. Olmstead (STScI), N. Madhusudhan (Cambridge University))

水素に富んだ大気の下に全球的な海洋を持つハイセアン惑星

“K2-180b”は、水素に富んだ大気の下に全球的な海洋を持つ“ハイセアン惑星”ではないかとする研究が2021年に発表されていました。

ハイセアン(Hycean)という名前は、水素(hydrogen)と海洋(ocean)を組み合わせた造語。
ハイセアン惑星は、ケンブリッジ大学の天文学者たちによって、生命が存在できる惑星の新たな分類として2021年にその概念が提唱されました。

そのうえでこの天文学者たちは、地球外生命の探索を続ける研究者に対し、このような惑星を調査してバイオシグニチャー(生命存在指標)を探すことを奨励しています。

これまで、系外惑星上の生命探索は、小さな岩石惑星に重点を置いてきました。

でも、大気を観測するには、もっと大きなハイセアン惑星の方がはるかに適していると、ケンブリッジ大学の天文学者で、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いた探索結果をまとめた論文の筆頭著者でもあるNikku Madhusudhanさんは考えていました。

生命の存在を期待させる液体の水の海に覆われた系外惑星

今回の探索は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の強力な観測機器が用い、ハッブル宇宙望遠鏡で行われた観測を基礎として進められました。

ハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測で発見していたのは、“K2-180b”の大気に水蒸気が存在すること。
今回、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測では、炭素を含む分子であるメタンと二酸化炭素が、“K2-180b”の大気に含まれていることを発見しています。

NASAでは、これらの分子が検出されたこととアンモニアが少ないという事実から、この惑星の大気の下に海が隠れているという可能性があると考えています。

また、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測からは、硫黄化合物の硫化ジメチルが検出された可能性も示されました。

硫化ジメチルは、地球上では海のプランクトンが生成に関係するなど、生命によってのみ生成される物質。
現時点でジェームズウェッブ宇宙望遠鏡から得られたデータは、液体の水の海に覆われた系外惑星に生命の存在を期待させるものでした。

でも、硫化ジメチルの存在については、今後のさらなる検証が必要となること。
さらに、このような惑星の海は生命が存在するには温度が高すぎる可能性があるようです。

今回の観測は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の“近赤外線撮像・スリットレス分光器(NIRISS)”と“近赤外線分光器(NIRSpec)”を用いて行われたもの。
今後、研究チームではジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の“中間赤外線観測装置(MIRI)”を用いて追観測を行うそうです。


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