近年の初期宇宙の観測により、誕生から数億年後の宇宙にはすでに大規模な銀河や銀河団が存在していたことが分かってきました。
でも、「銀河がそこまで進化するには時間が足りない」っという、新たな問題も浮上しているんですねー
この問題を解決するために、オタワ大学のRajendra Guptaさんが提唱したのが“CCC+TLハイブリッドモデル(CCC + TL hybrid model)”。
もし、このモデルが正しければ、宇宙は今から約267億年前に誕生したことになります。
この推定年齢は、過去から現在に至る様々な観測モデルを積み重ねた結果で、その集大成は宇宙モデル“Λ(ラムダ)-CDMモデル”として確立されています。
でも、初期宇宙の観測が進むにつれて、当時の宇宙の様子と宇宙の推定年齢には大きな食い違いがあることも判明しています。
“Λ-CDMモデル”に基づけば、宇宙が誕生した初期の段階では薄いガスしか存在しておらず、ガスが重力によって高密度に集まって恒星や銀河ができるまでには数億年の時間がかかことになります。
でも、“ハッブル宇宙望遠鏡”や“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”の観測では、予想以上に進化した初期宇宙の銀河や銀河団が発見されているんですねー
現在では、宇宙誕生から3億年後の時点で存在していたかなり進化した銀河が見つかっていますが、もっと遡った時代にも進化した銀河が存在する可能性もあると考えられています。
現在の“Λ-CDMモデル”による宇宙論では、これほど進化した銀河や銀河団が宇宙誕生からわずかな時間で形成される理由を説明できず…
そのため大きな謎になっているわけです。
また、推定年齢が宇宙の年齢そのものを超える“メトシェラ星(HD 140283)”(※1)のような恒星も見つかっています。
これらの天体は、推定年齢の下限値が宇宙の年齢以下になるので、天体単独では矛盾を起こしていません。
それでも、極端に古い年齢を持つ恒星の存在には注目してしまいますよね。
Guptaさんは今回、“疲れた光モデル(TL:Tired Light model)”と“共変動結合定数(CCC:Covarying Coupling Constants)仮説”という2つの仮説を盛り込んだ新しい宇宙モデル“CCC+TLハイブリッドモデル”を作成することで、“Λ-CDMモデル”における矛盾の解決を試みています。
“疲れた光モデル”とは、遠くの宇宙を観測したときに銀河が赤方偏移している(※2)状況を説明する理論の一つとして、1929年にフリッツ・ツビッキーによって提唱されました。
これに対し“疲れた光モデル”では、光は遠距離を移動するうちに少しずつ散乱されることで、エネルギーを失うと仮定しています。
光のエネルギーは波長で定義されていて、エネルギーが低い状態になるということは、波長が長い光になることを意味するので、赤方偏移と同じような状況が観察される、ということになります。
でも、“疲れた光モデル”には大きな矛盾があるんですねー
例えば、遠くの宇宙を観察すると、まるでスローモーションのように天体現象が遅く見えます。
これは実際に天文現象が遅く進行しているのではなく、相対性理論の効果によるものと考えられています。
相対性理論では、運動する物体の時間は静止している物体の時間に対して遅く進みます。
遠くの天体が宇宙の膨張によって高速で運動しているからだと考えれば、現象がスローモーションに見えることをうまく説明できます。
これに対し“疲れた光モデル”では、このような現象を説明できていません。
実際に、遠方宇宙のIa型超新星やクエーサーの研究では、“Λ-CDMモデル”が予測する範囲でスローモーションに見える様子が観測されています。
他にも、宇宙最初の光である宇宙マイクロ波背景放射の性質についても、“ラムダ-CDMモデル”はうまく適合する一方で、“疲れた光モデル”が適合する確率は非常に低く、一部の予測では“地球が正確に宇宙の中心になければならない”という前提が必要になることが知られています。
“共変動結合定数仮説”とは、電磁相互作用(※3)の重要な結合定数である“微細構造定数”が、実際には定数ではなく時間とともに変化する変数だとするものです。
もし、“共変動結合定数仮説”が正しい場合、“疲れた光モデル”が抱える矛盾を解決できると考えられます。
微細構造定数が変化すると、光の波長や散乱度合い、電磁相互作用で成り立つ原子や原子核の反応といった、電磁相互作用で成立する様々な性質が変化します。
そのため、遠くの宇宙がスローモーションに見えたり、宇宙マイクロ波背景放射などの性質を変化させることが考えられるわけです。
Guptaさんが“疲れた光モデル”と“共変動結合定数仮説”を組み合わせて考案した“CCC+TLハイブリッドモデル”では、宇宙誕生の時期が現在推定されている時期よりも早くなるので、発達した銀河などが誕生するための時間的余裕が生まれると考えられます。
Guptaさんは、同モデルに基づいて宇宙が今から約267億年前に誕生したと推定していますが、これは現在の推定年齢の2倍近い値になります。
それは、このモデルの根幹となる“疲れた光モデル”や“共変動結合定数仮説”には、まだ実証されていない謎が多く残されているからです。
大きな問題の1つは、“疲れた光モデル”や“共変動結合定数仮説”が正しいとしても、なぜそのような現象が起こるのかという理論的な説明がほとんどされていないことです。
例えば、“疲れた光モデル”では“光は長い距離を進めば進むほどエネルギーを失う”とされています。
でも、そのような現象が起こるのかは説明されていません。
宇宙に薄く存在する物質の作用は検討が済んでいるので、現在の物理学では説明されていない正体不明の相互作用を、新たに仮定しなければなりません。
もう1つの“共変動結合定数仮説”は、重要な物理定数である微細構造定数が変化することを前提とした大胆な仮説です。
微細構造定数は光の速度やプランク定数(※4)といった、複数の重要な物理定数の組み合わせで成り立っているので、それが変化するということは、他の重要な物理定数のうち少なくとも1つが変化しなければなりません。
でも、地球に存在する古い時代に形成された物質の調査や、かなり初期の宇宙に遡った観測を行っても、微細構造定数に限らず、あらゆる物理定数に変化の兆しは見つかっていません。
未知の暗黒エネルギー(ダークエネルギー)が支配的な現在の宇宙では、観測不可能なほど変化が小さいものの、そうではなかった初期の宇宙では、大きく値が変化していたという説もありますが、これについても否定的な研究結果が多数存在しています。
このように、“疲れた光モデル”や“共変動結合定数仮説”には、物理学の枠組みを大幅に変えてしまう点が多いので、オッカムの剃刀(※5)的に支持されていない、という状況もあります。
今回の研究の前提となった早すぎる初期銀河の進化は、“Λ-CDMモデル”における大きな問題の一つです。
他にも“Λ-CDMモデル”では、光では観測できない暗黒物質(ダークマター)や、宇宙の膨張の原動力である暗黒エネルギーが存在するとしていますが、どちらも現時点では正体不明です。
でも、今のところ“Λ-CDMモデル”は現状の宇宙を概ね説明している一方で、“疲れた光モデル”や“共変動結合定数仮説”は大きな矛盾や未知の物理現象を多数抱えています。
今回の研究で提唱している“CCC+TLハイブリッドモデル”は、それぞれの仮説が抱える大きな矛盾を仮説の組み合わせによって解決し、“Λ-CDMモデル”を置き換える可能性はあります。
ただ、評価が定まるまでにはまだまだ時間が掛かりそうですね。
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でも、「銀河がそこまで進化するには時間が足りない」っという、新たな問題も浮上しているんですねー
この問題を解決するために、オタワ大学のRajendra Guptaさんが提唱したのが“CCC+TLハイブリッドモデル(CCC + TL hybrid model)”。
もし、このモデルが正しければ、宇宙は今から約267億年前に誕生したことになります。
予想以上に進化した初期宇宙の銀河や銀河団
現在の宇宙は、誕生してから137億8700万年(±2000万年)が経過していると考えられています。この推定年齢は、過去から現在に至る様々な観測モデルを積み重ねた結果で、その集大成は宇宙モデル“Λ(ラムダ)-CDMモデル”として確立されています。
でも、初期宇宙の観測が進むにつれて、当時の宇宙の様子と宇宙の推定年齢には大きな食い違いがあることも判明しています。
図1.“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”が観測した、通称“ユニバース・ブレイカーズ”と呼ばれる6個の初期宇宙の銀河。この通称は、誕生から間もない宇宙にある銀河にしては重すぎることに因んでいる。(Credit: NASA, ESA, CSA & I. Labbe (Swinburne University of Technology) 、IDは加筆)) |
でも、“ハッブル宇宙望遠鏡”や“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”の観測では、予想以上に進化した初期宇宙の銀河や銀河団が発見されているんですねー
現在では、宇宙誕生から3億年後の時点で存在していたかなり進化した銀河が見つかっていますが、もっと遡った時代にも進化した銀河が存在する可能性もあると考えられています。
現在の“Λ-CDMモデル”による宇宙論では、これほど進化した銀河や銀河団が宇宙誕生からわずかな時間で形成される理由を説明できず…
そのため大きな謎になっているわけです。
また、推定年齢が宇宙の年齢そのものを超える“メトシェラ星(HD 140283)”(※1)のような恒星も見つかっています。
これらの天体は、推定年齢の下限値が宇宙の年齢以下になるので、天体単独では矛盾を起こしていません。
それでも、極端に古い年齢を持つ恒星の存在には注目してしまいますよね。
※1 発見時に(そして現時点でも)最も長寿な恒星なので、旧約聖書に登場する最も長寿な人物に因んで“メトシェラ”と名付けられている。
疲れた光モデル
宇宙の年齢と銀河の進化度合いの矛盾を説明する研究は世界中で行われていて、オタワ大学のRajendra Guptaさんもそんな研究者の一人です。Guptaさんは今回、“疲れた光モデル(TL:Tired Light model)”と“共変動結合定数(CCC:Covarying Coupling Constants)仮説”という2つの仮説を盛り込んだ新しい宇宙モデル“CCC+TLハイブリッドモデル”を作成することで、“Λ-CDMモデル”における矛盾の解決を試みています。
図2.遠い宇宙からやってくる光は、近い宇宙からやってくる光と比べて波長が長くなる。これまでの宇宙論では、空間の膨張によって光の波長が引き延ばされると説明している。これに対し“疲れた光モデル”では、光は長い距離を移動するうちに散乱でエネルギーを失うためだと説明している。(Credit: 彩恵りり) |
※2 膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
“Λ-CDMモデル”では、遠くの銀河からの光が赤方偏移するのは、宇宙空間の膨張とともに波長が引き延ばされているためだと説明しています。これに対し“疲れた光モデル”では、光は遠距離を移動するうちに少しずつ散乱されることで、エネルギーを失うと仮定しています。
光のエネルギーは波長で定義されていて、エネルギーが低い状態になるということは、波長が長い光になることを意味するので、赤方偏移と同じような状況が観察される、ということになります。
でも、“疲れた光モデル”には大きな矛盾があるんですねー
例えば、遠くの宇宙を観察すると、まるでスローモーションのように天体現象が遅く見えます。
これは実際に天文現象が遅く進行しているのではなく、相対性理論の効果によるものと考えられています。
相対性理論では、運動する物体の時間は静止している物体の時間に対して遅く進みます。
遠くの天体が宇宙の膨張によって高速で運動しているからだと考えれば、現象がスローモーションに見えることをうまく説明できます。
これに対し“疲れた光モデル”では、このような現象を説明できていません。
実際に、遠方宇宙のIa型超新星やクエーサーの研究では、“Λ-CDMモデル”が予測する範囲でスローモーションに見える様子が観測されています。
他にも、宇宙最初の光である宇宙マイクロ波背景放射の性質についても、“ラムダ-CDMモデル”はうまく適合する一方で、“疲れた光モデル”が適合する確率は非常に低く、一部の予測では“地球が正確に宇宙の中心になければならない”という前提が必要になることが知られています。
図3.これまでの物理学では、基本的な物理定数は変化しない不変の値であるとしている。これに対し“共変動結合定数仮説”では、微細構造定数が変化すると仮定している。この場合、他の物理定数も変化することになる。(Credit: 彩恵りり) |
宇宙は今から約267億年前に誕生した
そこで、今回の研究では、単独では実際の観測結果をうまく説明できない“疲れた光モデル”に、“共変動結合定数仮説”を組み合わせることで、この矛盾の解決に挑んでいます。“共変動結合定数仮説”とは、電磁相互作用(※3)の重要な結合定数である“微細構造定数”が、実際には定数ではなく時間とともに変化する変数だとするものです。
※3 光、電機、時期などの性質は全て電磁気力だと説明され、これを電磁相互作用と呼ぶ。電磁相互作用は光の素粒子、つまり光子がやり取りをする。
このような考えは、1937年にポール・ディラックによって提唱されて以降、形を変えて何度も提唱されています。もし、“共変動結合定数仮説”が正しい場合、“疲れた光モデル”が抱える矛盾を解決できると考えられます。
微細構造定数が変化すると、光の波長や散乱度合い、電磁相互作用で成り立つ原子や原子核の反応といった、電磁相互作用で成立する様々な性質が変化します。
そのため、遠くの宇宙がスローモーションに見えたり、宇宙マイクロ波背景放射などの性質を変化させることが考えられるわけです。
Guptaさんが“疲れた光モデル”と“共変動結合定数仮説”を組み合わせて考案した“CCC+TLハイブリッドモデル”では、宇宙誕生の時期が現在推定されている時期よりも早くなるので、発達した銀河などが誕生するための時間的余裕が生まれると考えられます。
Guptaさんは、同モデルに基づいて宇宙が今から約267億年前に誕生したと推定していますが、これは現在の推定年齢の2倍近い値になります。
大きな矛盾や未知の物理現象を多数抱えるモデル
ただ、“CCC+TLハイブリッドモデル”が“Λ-CDMモデル”を置き換えるかどうかは、まだ現時点では不明なんですねーそれは、このモデルの根幹となる“疲れた光モデル”や“共変動結合定数仮説”には、まだ実証されていない謎が多く残されているからです。
大きな問題の1つは、“疲れた光モデル”や“共変動結合定数仮説”が正しいとしても、なぜそのような現象が起こるのかという理論的な説明がほとんどされていないことです。
例えば、“疲れた光モデル”では“光は長い距離を進めば進むほどエネルギーを失う”とされています。
でも、そのような現象が起こるのかは説明されていません。
宇宙に薄く存在する物質の作用は検討が済んでいるので、現在の物理学では説明されていない正体不明の相互作用を、新たに仮定しなければなりません。
もう1つの“共変動結合定数仮説”は、重要な物理定数である微細構造定数が変化することを前提とした大胆な仮説です。
微細構造定数は光の速度やプランク定数(※4)といった、複数の重要な物理定数の組み合わせで成り立っているので、それが変化するということは、他の重要な物理定数のうち少なくとも1つが変化しなければなりません。
※4 光子のエネルギーと振動数の関係を示す物理定数。2019年からはキログラムの定義にも使用されている。
もし、“共変動結合定数仮説”が正しいとすれば、天文学だけでなく自然科学全般に大きな影響を与える結果になるはずです。でも、地球に存在する古い時代に形成された物質の調査や、かなり初期の宇宙に遡った観測を行っても、微細構造定数に限らず、あらゆる物理定数に変化の兆しは見つかっていません。
未知の暗黒エネルギー(ダークエネルギー)が支配的な現在の宇宙では、観測不可能なほど変化が小さいものの、そうではなかった初期の宇宙では、大きく値が変化していたという説もありますが、これについても否定的な研究結果が多数存在しています。
このように、“疲れた光モデル”や“共変動結合定数仮説”には、物理学の枠組みを大幅に変えてしまう点が多いので、オッカムの剃刀(※5)的に支持されていない、という状況もあります。
※5 ある事柄を説明するのに、必要以上に多くを仮定するべきではない、っという考え。大元は哲学的思想だが、自然科学を始めとした多くの学問でも同様の考え方が共有されている。仮定が少ない説は正しく、仮定が多い説は正しくないことを必ずしも意味するものではない。ある事柄を完璧とは言えないものの概ねうまく説明できている説を、仮定が多い別の説で置き換えるには説得力が不足することを意味する。
もちろん、現状で広く信じられている“Λ-CDMモデル”も完璧とは言えません。今回の研究の前提となった早すぎる初期銀河の進化は、“Λ-CDMモデル”における大きな問題の一つです。
他にも“Λ-CDMモデル”では、光では観測できない暗黒物質(ダークマター)や、宇宙の膨張の原動力である暗黒エネルギーが存在するとしていますが、どちらも現時点では正体不明です。
でも、今のところ“Λ-CDMモデル”は現状の宇宙を概ね説明している一方で、“疲れた光モデル”や“共変動結合定数仮説”は大きな矛盾や未知の物理現象を多数抱えています。
今回の研究で提唱している“CCC+TLハイブリッドモデル”は、それぞれの仮説が抱える大きな矛盾を仮説の組み合わせによって解決し、“Λ-CDMモデル”を置き換える可能性はあります。
ただ、評価が定まるまでにはまだまだ時間が掛かりそうですね。
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