普通のおっさんの溜め息

戦前派から若い世代の人たちへの申し送りです。政治、社会、教育など批判だけでなく、「前向きの提案」も聞いて下さい。

元陸将の田母神論文批判

2009-04-08 10:24:19 | 政策、社会情勢

 7日の読売新聞に元陸将の村松栄一さんの「田母神論文批判」が掲載されていました。
 それで彼の主張の概要の概要と私の感想を書いて見たいと思います。
(田母神さんは)自衛官が命を捨てる国防の根拠を「侵略の過去を持たない良い日本の歴史」に求めているが、交戦国は互いに異なった正義があるのは世界の常識で、日本の主張だけを正義としするのは客観性に欠いている。
   戦争裁判は戦勝国の正義に基づく敗戦国への裁判であることを暗に認めている?
 そして敗戦国の正義は少なくとも自国内でさえ永久にいつまでも認められないのだろうか

・太平洋戦争はさておき、満州事変などは侵略を完全に否定できるだろうか。
 私も前にも「満州事変から中国侵攻は侵略ではないとも言えないが、他の戦争は侵略ではない」と書いたが、村松さんも太平洋戦争・日清・日露戦争はは侵略戦争ではないことを暗に認めている
 詰まり村山談話の日本がやったことは何もかも侵略戦争だと取られかねない発言を批判している?

・自衛官の決意の前提(文のまま)を「良い日本の歴史」とするならば、歴史の評価が定まるまで自衛官の国防の決意は存在しないことになろう。
 今の日本の異常なまでの米国、中国、韓国への配慮している現状では、そして村松さんの言う様に交戦国にそれぞれの正義があるという考えによれば歴史の評価は永久に定まらない

・今の日本を見れば、政治も道徳も決して良い日本とは言えない。それでは「良い日本」が存在しないから、自衛官は命を捨てる国防の決意を持たないことになるのだろうか。
 確かに村松さんの言うように、日本は政治も道徳にも首を捻ることはあるが、政治家も(自衛官を含む)国民もそれで仕方がないと言わずに、自衛官に頑張って貰う様に「良い日本」にすべきだ

・自衛官が国防を決意する根源は歴史でなくて、「自分の国は自分の手で守る。主権者には国防の義務がある」と言う民主国家の原理であると信じている。
 その様な理屈を説得するだけで、自衛官が命を賭けて戦うだろうか。
 少なくとも田母神さんの言う様に「日本を愛してなければ戦えない」と思う。

(航空自衛隊の現役トップが所信を公表した責任に就いては中略します。何故ならその責任を問われて田母神さんは処分されましたし、私もそれは致し方ないと思っているからです。)

・私も在職中に政治決定への反論を考えたことがある。だがその都度、先輩から「軍人は所詮職人だよ」と諭されて受け入れてきた。
 
組織のトップがこのルール破れば、部下はそれに倣って勝手放題の行動を取るかもしれない。己の所信に忠実ならんとして、組織を省みないのはトップではない。
 軍国主義華やかなりしころの軍人は今の自衛官に比べて遥かに自由であつたことと思われる。だが一部の現役将校たちは、専門外の軍事以外の分野に発言を求めだし、クーデターも純粋な青年将校の行為と主張したのではなかったか。

[ロボットや理屈だけでは命を賭けて戦えない] (*注記)
 私が村松さんの論文で一番心に引っ掛かったのは、「軍人は所詮職人だよ」の言葉です。
 何と言う自虐的な発言でしょう。
  この言葉を職人が聞いたら怒るのは間違いありません。
 職人は自分の腕を磨いておれば良いので、あとは自分の意見など言わずに、会社の指示どおりに人形のように黙って働けと村松さんの上司は自虐的に言っている のだと私は思います。
 これではまるでロボットです。
 現在の日本では、企業では(職人を含む)従業員のモチベーションを高めるために、従業員の意見をどんどん採用しています。
 その最たるものは、自主管理活動や改善活動です。
 自衛官の意見を何らかの形で取り上げないで、今の時代でその士気をいかにして高めるのでしょうか。
 「自分の国は自分の手で守る。主権者には国防の義務がある」と言う民主国家の原理を幾ら叩き込まれても、それで自衛官の士気が上がり、いざと言うときには命を賭けて戦う気持ちになるでしょうか。
 少なくとも日本は良い国ではないにしても(私は政治はだめでも日本は良い国と思っています)、日本を愛していなくては戦えないと思います

 まして日本は専守防衛が国是ですから、最終的には沖縄戦のように敵軍を目の前にして戦う陸上戦になります。
 それこそ命を賭けての戦いです。
 今のご時世ですから、いざとなっては降服するのも止むを得ないことになるのでしょうが、その状態になるまでの戦いにはやはり命の危険が伴います。
 それで、もう少し頑張れば勝てる状況でも、やや形勢が危うくなれば直ぐ白旗を上げては戦いに成りません。
 私は村松さんと同年代ですから、彼も満州事変から大戦にかけて、政府や軍が如何にして国民の士気や戦意を高めてきたか(悪く言えば洗脳してきたか)を知っている筈で、多分、「自分の国は自分の手で守る。主権者には国防の義務がある」の理屈だけでは戦えないことを知っていながら、自分の本意を抑えた論文のような気がしてなりません。

[政治の責任]
・勿論、村松さんが言う様に、自衛官が勝手なことを言い出すのは問題と思いますが、自衛官の気持ちも何らかの方法で汲んでやること で士気を高めるのは政治の責任です。
・彼が指摘した、そして政治家を含む国民が皆思っている、党利党略のおかしな政治は直すべきです
 村松さんが最後に触れた5.15事件などのクーデターも、政治の腐敗を嘆いた青年将校の決起でした。
・前にも書きましたが、日本の歴史の記述に問題があるのなら、日本の良い所、悪い所も入れた決定版に近い歴史を編纂するのも政治の責任です。
・それともう一つ、文民統制を正しく機能させるためには、文官と軍人の考え方が完全一致は無理としても、少なくとも全くばらばにならないように対策を取るのも政治家の仕事と思います。

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*注記:もし宜しかったら田母神論文と政治家の責任他08年の11月5日、7日、10日、12日、17日、12月の1日の田母神論文に関するエントリーをご参照下さい。
  


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1 コメント

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Unknown (さいもん)
2009-04-11 16:47:54
「軍人は所詮職人だよ」
ってのが実にいいじゃないですか。
政府が「やれ」と言った事は粛々とこなす。まさに民主国家が理想とする軍隊像を具現化してる言葉ではないですか。

田母神氏の「日本はよい国だと言わなければ自衛官は命を賭けて戦わない」という言葉が幼稚と思えるくらい、大人で成熟した考え方だと思います。
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