俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

好戦

2016-05-02 09:39:11 | Weblog
 「民主主義が国際平和の妨げになる」などと書けば多くの人は驚くだろう。中には反民主主義者による言い掛かりだと怒る人もいるだろう。
 平和と民主主義に関する古典的名著はカントの「永久平和のために」だろう。正確な引用でなくて申し訳ないが、カントは国王などの権力者の邪まな欲が戦争を起こすと考えた。権力者は自ら戦う訳ではないから安易に戦争を仕掛ける。しかし住民は兵士として徴収され命懸けで戦わされる。民主的な社会になって市民の権利が拡張すれば権力者は容易に戦争を起こせなくなる。
 職業軍人の無い時代であればこんな牧歌的な理屈が可能だった。古代の傭兵の時代を除けば職業軍人の歴史は意外と短い。傭兵と職業軍人の線引は難しいが、本格的な職業軍人制度を始めたのは西洋ではフランス革命以来の国民軍で日本では織田信長だと言われている。それ以前は歩兵の大半が民兵で市民や農民が兵士として駆り出されていた。武士という身分は平安時代の末期から登場するが鎌倉時代を経て戦国時代に至っても末端の兵士の多くは農民であり農閑期にしか大規模な戦争は行えなかったと言う。戦に手を取られて農業生産が激減すれば、たとえ戦争に勝っても国が亡ぶからだ。職業軍人制度が可能になったのは技術革新によって食糧の生産性が高まり大勢の非生産的労働者を抱えることが可能になったからだろう。
 職業軍人が主役になって市民が戦争の最前線の駆り出されなくなればカントが指摘した動機が薄らぐ。赤紙を恐れずに済む市民は好戦的になる。また職業軍人は自らの地位を高めるために事あるごとに軍事力の重要性をアピールしようとする。
 その一方で妙な愛国心も強まる。領土・領海の拡大が国益でありそれが国民全体の利益に繋がるのであれば反対し難い。尖閣・竹島・北方領土を日本領と考える日本人は圧倒的に多い。私は自分なりの意見を持っているが軽率には発言できない。「愛国者」に吊し上げられかねないからだ。
 政治家は国民に迎合する。国民が領土・領海の拡大を望みそれが国益に叶うならこぞって領土拡張策を支持する。相手の国においても事情は同じだからお互いに権利を主張するばかりで解決は極めて困難だ。
 現代世界で好戦的な国の代表はアメリカと中国と北朝鮮だろう。この3国は2つのグループに分けられる。中国と北朝鮮は中世の王国と同様の独裁国であり、アメリカはポピュリズムの国だ。トランプ旋風に象徴されるようにアメリカ人の政治意識は必ずしも高くない。徴兵制が廃止されて以来、戦うのは職業軍人だけになっており、軍事力において圧倒的優位に立つアメリカ人は相手の国から反撃されることさえ殆んど考慮しない。彼らにとっての戦争とはバーチャルな世界での出来事のようなものだ。こんな国が覇権を握っている限り、世界平和という理想が簡単に叶うことはあるまい。