俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

結果重視

2016-05-14 10:53:04 | Weblog
 結果主義は嫌われる。結果論にせよ勝てば官軍にせよ結果オーライにせよ、良い意味で使われることは滅多に無い。結果よりも、どれほど努力したかを評価するプロセス重視が日本人の心情には適っているようだ。努力したが報われなかった人々に注がれる眼差しは暖かい。しかしこんなナイーブな心が結果軽視という重大な問題を招いているのではないだろうか?
 科学では結果を重視する。結果が悪ければプロセスも悪かったと見なす。良い結果を導けないのは決して不運のせいではなく手法に問題があると考える。
 trial and errorや試行錯誤において人は様々な手法を試みる。失敗すれば諦めて、成功すれば拡充や改善を図る。これが正しい結果主義だろう。
 政策の良し悪しはその時点では分からない。良かれと思ってやってもとんでもない結果を招くことはしばしばある。政策は結果によって評価される。池田首相による所得倍増計画は戦後の最も優れた経済政策だったと今では評価されているがこれは結果を伴ったからだ。失敗していればただの大ボラだ。
 天気予報は難しい。無数の要素が絡み実験することも不可能だ。これは科学が最も苦手とする対象の条件をほぼ完璧に満たしている。それにも拘わらずこれほどまでに高い精度を獲得できたのは、気象衛星等の新しい科学技術に負う所もあろうが、常に結果に晒されているからだろう。
 天気予報ほど頻繁に見直される予想は無かろう。日ごと時間ごとに修正されるばかりか直前になっても見直されている。彼らは恥知らずなのだろうか。そうではない。彼らこそ最も誠実だ。それは、誠実にならねばならない立場に立たされているからだ。彼らは常に結果によって検証される。間違えれば批判される。だからこそ最善の予報のために全力を尽くさざるを得ない。小さなプライドなどに構っていられない。意地を張れば恥をかく。直近になればなるほど正確な予想が可能になるのだから直前まで見直し続けることは科学者の使命だ。彼らこそ科学者の鑑だ。
 こう考えれば結果重視が素晴らしい手法だと分かる。ビジネスであれスポーツであれ、良い結果を出すために頑張る。結果が伴わなければ負け惜しみであり負け犬の遠吠えにしかならない。良い結果を招いたプロセスこそ正しいプロセスだ。
 進歩のために重要なことは結果を白日の元に晒すことだ。労り合いや傷の舐め合いが問題点を放置させる。結果を明らかにするのは戦犯探しによって過去を咎めるためではなく問題点を解消して今以上の未来を築くために行われる。
 弱者を無条件に賛美したがる人がいる。ハンディを抱えて頑張っている人はそれだけで素晴らしいと主張する。こんな甘やかしは有害だ。たとえ弱者に対してでも是々非々が貫かれるべきだ。そうしなければ彼らの進歩の芽を摘んでしまう。信賞必罰は当事者にとっては大きな励みだ。子供も弱者も甘やかしてはならない。
 試験されることを嫌う人がいる。プライドの高い人は他人による評価を好まない。しかし試験とはテストであり、テストとは実験に他ならない。自信があるなら進んで検証されるべきだろう。
 進歩する学問と進歩しない学問がある。結果の検証に積極的な学問は進歩し検証を欠く学問は停滞する。医学がいつまでもオカルトに留まっている最大の原因は、結果の検証が不充分だからだ。失敗した治療こそ宝の山だ。失敗から学ばない限り科学たり得ない。