俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

病状と副作用

2016-05-13 09:28:52 | Weblog
 多くの薬は医原病を起こすだけではなく、病気の進行状況を分からなくさせるという困ったデメリットも併せ持っている。私は元々薬は殆んど使わなかったので自分の病状は自分で把握できた。風邪の熱が下がれば治癒しつつあると実感し薬の効果も副作用も考慮しなかった。今回初めて抗癌剤に振り回されることによって、薬がどれほど患者を惑わせるかを痛感した。
 2月に吐血して初めて病院に行った。11月に2度、12月に1度嘔吐していたが、どうせ自然治癒するものと高を括っていた。しかし日に何度も吐血と嘔吐を繰り返すようでは唯事ではない。胃カメラをを飲んで食道に腫瘍と潰瘍ができていることが確認されたから約20日に亘る絶食と精密検査を経て入院した。
 入院の時点では体調はかなり回復していたし、毎日プールで泳げるほど元気な病人だった。多分食べても大丈夫だと思いつつ入院まではと自粛していた。どうせ吐くなら病院で吐いたほうが病状を把握できると考えたからだ。入院後2日目の時点では、決して旨くない病院食を完食できる状態だった。
 ところが抗癌剤による副作用が起こり始めると状況は一変する。酷い吐き気のために食べられなくなった。この症状は退院後も1週間ほど続きその後徐々に回復したが思い掛けない味覚障害を患うことになった。
 退院から約3週間を経ての2度目の入院では2日目から激しい吐き気に襲われて食べられなくなった。退院後も10日間ほどその状態が続き、徐々に回復したものの3週目ぐらいから再び吐き気が強くなり現在の絶食状態に至る。
 私の吐き気の正体は何だったのだろうか。当初は病状だったがその後は4つの力が働いた。①病気の進行②自然治癒力による回復③抗癌剤による副作用④副作用からの回復。この4つが絡み合うから当事者の私でさえ病気の状況が分からなくなってしまった。味覚障害はほぼ確実に副作用だが嘔吐は病状なのか副作用なのか判別できない。医師は様々な薬を処方したが殆んど効かなかった。
 治療を受ける患者の殆んどが同じ思いをしているだろう。現在の症状の原因が病気なのか薬害なのか分からない。冗談のような話だが頭痛薬の最大の副作用は頭痛の悪化だと言われている。頭痛が酷くなった場合、より強い頭痛薬が処方され勝ちだが、これは麻薬の治療のためにより毒性の強い麻薬を使うような愚行であり、最も有効な治療方法は頭痛薬をやめることらしい。
 精神病患者に至ってはもっと悲惨だ。軽度の神経症の患者が抗精神病薬によってしばしば本物の精神病患者にされている。病状の悪化を医師は薬の副作用とは考えずにますます危険な薬を処方するから病状は更に悪化する。病気の悪化の原因が病気の進行ではなく副作用であることは決して珍しくない。薬の副作用が病気の重篤化や新たな病気(医原病)の原因になることが多い。