俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

奴隷

2016-05-30 09:42:04 | Weblog
 古代ギリシの社会は奴隷が支えていた。市民の数倍の奴隷が働き市民は殆んど働かなかった。市民は毎日、政治や芸術や哲学談義に時間を費やしていた。だからこそ優れた芸術や哲学などが生まれてヨーロッパ文明の礎となっている。
 奴隷と言っても現代人がイメージする奴隷とは随分異なる。市長などの公務まで奴隷の仕事だった。奴隷は市民によって所有されるがかなりの自由が認められていた。奴隷と市民というよりも、中世の庶民と王侯貴族の関係に近いかも知れない。奴隷と庶民が働き、市民と王侯貴族が搾取するという役割分担と考えたほうが理解し易いかも知れない。
 かつて「猿の惑星」(1968年・米)という映画が大ヒットした。シリーズ化やリメイク、あるいはテレビドラマ化やアニメ化までされたから様々なバリエーションがあるが、最も完成度の高い第1作はこんな話だ。
 宇宙船が到着した星の支配者は猿だった。猿のような姿の動物が地球とそっくりの文明を築いており、人類によく似た野生動物も住んでいた。実はこの星は核戦争後の地球であり、人類が退化する一方で猿が急激に進化したためにこの奇妙な世界が作られていた。
 この作品には原作があり重要な点で映画とは異なっている。猿が進化したのは核戦争後ではなく人為的なものだ。人類は猿を品種改良して奴隷として使っていたが賢くなり過ぎた猿が革命を起こして文明を乗っ取ったという筋書きだ。
 中国に似た民話があり私のブログで「猫の惑星」として紹介したことがある。この民話に拠ると、かつて世界の支配者はネコだった。ネコは不快な労働から免れるために魔法を使うことに決めた。当時の世界にはヒトという野生動物がいた。ヒトは体が大きく手先も器用だったがどうしようもない怠け者でネコが目を離すと忽ち飲食や交尾を始めるから家畜としては全く役に立たなかった。その一方でアリという野生動物もいた。アリは体が小さいが勤勉で死ぬまで働き続けることも厭わなかった。ネコは魔法を使ってアリにヒトの体を与えた。こうして作られたアリ人間はネコの期待通りに身を粉にして働いたからネコは働くことをやめて毎日大好きな日向ぼっこをして暮らした。現代社会に勤勉な人と怠け者がいるのは、前者が魔法によって作られたアリ人間で、後者が本来のヒト族の子孫だからだ。
 これらの話に共通することは、労働を奴隷に任せることによって支配者層は豊かで自由な生活を満喫できるということだ。
 ロボットに仕事を奪われると騒ぐ人がいる。しかしロボットこそ理想的な奴隷だ。賃金が不要であるだけではなく24時間働かせても文句を言わないし家族サービスのための休暇も生理休暇も要求しない。たとえ過剰労働を強いたために障害が発生しても管理責任が問われることも無い。仮に人一人当たり1台の奴隷ロボットを所有すれば現状を遥かに凌ぐ労働力が世界に満ち溢れる。
 個人も豊かになる。奴隷であれ労働者であれ相手が人である限り搾取には限度がある。彼らにそれなりの見返りを与えなければ死んでしまう。ロボットであればメンテナンスとエネルギー補給さえしていれば24時間働き続ける。ロボットの生産性は人の3倍以上になるだろう。ロボットから思う存分搾取をすれば所有者は貴族のような暮らしができる。
 労働などロボットに任せて人間は皆、失業すれば良い。技術革新だけはロボットには難しかろうから研究者だけが働けば充分だろう。
 1つだけ問題がある。70億の人類とその数倍のロボットが住むことになれば土地が足りなくなる。この問題を解決するためには人口減少が必須となる。人類が数億人程度まで減りロボットに頼り切った時、この世が理想郷に変わる。