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電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

バルトーク「ルーマニア民俗舞曲」を聴く

2008年03月28日 20時08分33秒 | -独奏曲
ラフマニノフ交響曲というメランコリックで濃厚な音楽をしばらく聴いた後では、素朴で生命力あふれる音楽を聴きたくなります。ここ数日、通勤の音楽に聴いているのは、バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」Sz.56です。全部で6曲からなる魅力的な小品は、作曲者34歳の1915年、トランシルヴァニア地方のルーマニア人の民族音楽を素材とした作品なのだとか。

I. ジョク・ク・バータ (1'03")
II. プラウル (0'29")
III. ぺ・ロック (1'01")
IV. ブチュメアーナ (1'23")
V. ルーマニア風ポルカ (0'27")
VI. マヌンツェル (0'48")
total=5'11"

出だしの音楽は、「のだめカンタービレ」あたりで取り上げられてはいないのかな?作曲当時から人気があったとのことですが、さもありなん。ゾルターン・コチシュのピアノ、1975年10月に荒川区民会館でデジタル(PCM)録音されており、制作はDENONの川口義晴、録音は林正夫、とクレジットされております。ごく初期のデジタル録音らしく、高域は硬質ですが、ピアノの低音の抜けが良いのがわかります。



とにかく、ジャケット写真のコチシュが若い!まるで少年のようです。そういえば、ハンガリーの若手三羽烏と言われていた頃は、もう30年以上も前になるのですね。
コチシュが弾くバルトーク、「アレグロ・バルバロ」や「古い踊りの歌」など、他の収録曲も魅力的です。
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プロコフィエフ「ピアノソナタ第5番Op.38」を聴く

2008年02月03日 07時08分00秒 | -独奏曲
プロコフィエフのピアノ・ソナタ第5番ハ長調は、Op.38(第1版:1923年)と、Op.135(第2版:1953年)の2種類があるのだそうで、この三枚組CD(SONY SB3K87747)でイェフィム・ブロンフマンが演奏するのは、作品38のほうです。

解説書には、次のように記載されています。

There are two versions of Sonata No.5 in C major. The first, Op.38, was written in 1923 and premiered in Paris to unfavourable reviews. The revision, Op.135, was completed in 1953 and is often described as "an old man's versions of a young man's masterpiece." In keeping with the style of the times, Op.38 makes use of dissonance and chromaticism. It features sharpner contrasts between the lyrical and percussive passages than the later version. The simple and thoroughly pianistic opening is followed by Andantino, which is reminiscent of the Second Sonata in mood, conception, and third and last movement, Un poco allegretto, is different from the later version in that it is far less classical and more idiosyncratic in style and manner.

例によって、下手ですが意訳を試みてみました。

ソナタ第5番ハ長調には2つの版がある。一つ目は作品38で、1923年に書かれ、パリで初演されたが、評判は芳しいものではなかった。改訂版である作品135は、しばしば「若者の名作の老人バージョン」と言われるものである。作品38は、時代のスタイルが保持され、不協和音と半音階主義が用いられている。また、後の作品よりも叙情性と衝撃的なパッセージとの間の鋭い対比が特徴的である。シンプルで徹底的にピアニスティックな開始に、雰囲気や着想の点で第二ソナタを思わせるアンダンティーノが続き、ウン・ポコ・アレグレットの終楽章は、より古典性から遠ざかり、スタイルと作法の面から特有の表現となっている点で、後の版とは異なっている。

と、こんな感じでしょうか。なるほど、これなら、少しわかるような気がします。

第1楽章、アレグロ・トランクィロ。始まりはラヴェルのような響きですが、じきにセンチメンタルな期待は裏切られ、スクリャービンの神秘主義の影響を受けたと言われるロシア・モダニズムの音楽に変わって行きます。ラヴェルのような音楽を期待した聴衆がとまどい、初演時に不評だったのは、よく理解できます。でも、今となってはこれが若いプロコフィエフの個性、特徴なのですね。
第2楽章、アンダンティーノ。おもちゃ箱の中の人形が動き出すような、あるいはマリオネットの伴奏音楽に使えそうな、そんな不思議な雰囲気を持った音楽です。この楽章はあまり荒々しい要素はなく、古典派ピアノソナタならば、さしずめ緩徐楽章に相当するのでしょう。
第3楽章、ウン・ポコ・アレグレット。出だしからして、20世紀の音楽だとすぐわかります。でも、力強く荒々しくデフォルメされてはいても、ちゃんと主題は生きている。ソナタ形式の骨組みは保っていると言うべきでしょうか。ピアニスティックな表現力は、見事です。

1920年代のパリを感じさせるしゃれた響きの旋律と、不協和音を伴う荒々しいリズムが、すぱっと転換して対比される、若いプロコフィエフの音楽。甘い砂糖菓子と苦いコーヒーを交互に楽しむような、そんな音楽です。イェフィム・ブロンフマンの演奏は、私はこれ以外の演奏を知らないけれど、素晴らしいものだと思います。残念ながら、英文の解説書には、録音時期、場所等のデータは掲載されておりません。

■イェフィム・ブロンフマン(Pf)
I=6'06 II=4'10 III=5'41" total=15'57"
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ラヴェルの初期ピアノ作品「パレード」を聴く

2008年01月24日 06時41分21秒 | -独奏曲
ラヴェル(1875ー1937)のピアノ曲は、若い頃に、FM放送でペルルミュテールの「水の戯れ」や「夜のガスパール」を聴いて、すっかり気に入りました。このラヴェルのピアノ音楽全集第1巻「鐘、パレード」のCD(Naxos:8.550683)の冒頭に収録されている曲「パレード」は、初期の珍しい作品だそうで、Wikipedia の「モーリス・ラヴェル」にも記述がありません。どうも、フランソワ=ジョエル・ティオリエによる世界初録音らしいです。

この曲について、添付のリーフレットでは、次のように解説しています。

The piano piece La parade is a work of historical interest, rather than of any particular significance among Ravel's music for piano. It was written about the year 1898 for Antonine Meuniere of the Paris Opera, designed for interpretive dancing at home. Ravel was accustomed to inprovise at the piano for the dancing of Isadora Duncan, and La parade may be considered a surviving example of this activity. It consists of a number of dances, including two marches, two waltzes and a mazurka.

下手ながら、意訳を試みてみました。こんなふうでしょうか。

ピアノ小品「パレード」は、ラヴェルのピアノ音楽の中で何か特別な意味を持つものというよりは、音楽史的に興味ある作品です。本作品は、1898年頃に、パリ・オペラ座の Antonine Meuniere のために書かれました。ラヴェルは、イサドラ・ダンカンのためにピアノを即興演奏することに慣れており、「パレード」はこうした活動から今に残った実例であると考えられます。この曲はいくつかの舞曲からなり、2つの行進曲、2つのワルツとマズルカを1つ含んでいます。

ただし、家庭での interpretive dance というのがよくわかりません。コンピュータの世界でインタープリタといえば、人間がプログラミング言語で記述したソースコードを、コンピュータが実行できる形式に逐次変換しながら、そのプログラムを実行するソフトウェアのことをいいます。すると、インタープリティブ・ダンスというのは、ラヴェルが弾いた音楽を逐次解釈して踊るダンス、ということか。「即興ダンス」とか「解釈バレエ」といったものかもしれません。すると、「家庭での即興的なダンスのため」となるのでしょうか。

実際には、イサドラ・ダンカンの名前から想像されるような前衛的なものではなく、現代ならばむしろ街角で演奏されていてもおかしくない、少しモダンな、楽しい音楽といった雰囲気。「パレード」という題名が実にぴったりです。

しかし、こういう音楽を聴いて、その場で即興で踊るなんて、信じられない!木偶の坊の踊りなら、いささか自信がありますが(^o^;)>poripori

■フランソワ=ジョエル・ティオリエ盤 12'36"
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シューマン「ピアノ・ソナタ第1番」を聴く

2007年12月29日 10時21分04秒 | -独奏曲
クリスマスにいただいた(*)シューマンのピアノ・ソナタ、嬉しくてずっと聴いておりました。嬰ヘ短調、作品11、エレーヌ・グリモーのピアノです。CDは、33CO-1786 という型番のレギュラー盤で、1987年8月に、ライデンのシュタットヘホールザールでPCM(デジタル)録音されています。解説は平野昭氏です。

思えばこの作品、若い頃にマウリツィオ・ポリーニの演奏するLP(G MG-2415)で、実によく聴いたものでした。1833年に着手され、1835年に完成した作品ですので、1810年生まれのR.シューマンは、23歳から25歳、本作品を献呈されたとき、クララは16歳でした。私がこの曲を好んで聴いていたのは、作曲者が同世代であるという親近感だけではなく、当時置かれていた個人的な状況から、ソナタ形式の枠におさまりきれない、たたきつけるような音楽に魅力を感じていたためでしょう。それにつけても、このCDの録音当時、エレーヌ・グリモーは18歳!本当にピアノを弾くために生まれて来たようなお嬢さんです。

第1楽章、崩れ落ちるように下降する音型と、問いかけるように上昇する短い旋律。暗い響きの、ウン・ポコ・アダージョの序奏部は魅力的です。深い沈黙のあと、再起する音楽はスピードと熱を増して来ます。主部はアレグロ・ヴィヴァーチェ。
第2楽章、短く簡潔で、美しいアリアです。惚れっぽいシューマンの自作歌曲「アンナに寄せて」によるアリアだそうで、アンナって誰?
第3楽章、スケルツォと間奏曲、アレグリッシモ。生き生きとした符点リズムが面白い効果を出しています。
第4楽章、フィナーレ:アレグロ・ウン・ポコ・マエストーソ。ソナタ形式という容れ物に対する青年シューマンの率直な解答がこの楽章かと思います。噴出するロマンティックな情熱と、多彩な転調やリズムを自在に展開しながら、なんとか理知的な形式を保っている音楽、とでも言えば良いのでしょうか。

エレーヌ・グリモーの演奏は、ポリーニ以上の快速テンポですが、ほんとにみずみずしい、伸び盛りのシューマンです。彼女の演奏を通じて、今はやや遠くなった若い時代を思い出すのは、懐かしくもあり、ほろ苦くもあり。1976年9月と書き込みのあるポリーニのLPを聴くのは、大きく方向転換せざるを得なかった当時の個人的事情から、甘さよりも苦さが勝ってしまうようで(^_^;)>poripori

参考までに、演奏データを示します。
■エレーヌ・グリモー盤
I=11'24" II=2'53" III=4'51" IV=11'13" total=30'21"
■ポリーニ盤
I=11'53" II=3'06" III=5'08" IV=11'39" total=31'46"

(*):さえないクリスマスが一転して~「電網郊外散歩道」
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プロコフィエフ「ピアノソナタ第8番」を聴く

2007年12月23日 08時14分33秒 | -独奏曲
通勤の音楽、ここしばらくは、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第8番と第9番を聴いておりました。特に、第8番、Op.84。もともと好きな曲ですが、今回はかなり長い間カーステレオのCDプレイヤーを占領しておりました。ピアノは、イェフィム・ブロンフマン。SONYのSB3K87747 という型番の3枚組CDで、プロコフィエフのピアノ・ソナタ全9曲を収録しています。CDケースの裏面に、
www.essentialclassics.co.uk
と表示がありますので、イギリスからの輸入盤でしょうか。数年前に、某新☆堂で購入したものではなかったかと思います。

第1楽章、アンダンテ・ドルチェ。静かで神秘的な雰囲気を持った始まり。叙情的な長い楽章ですが、ダイナミクスの幅が大きく、訴えかけてくる音楽に聞こえます。
第2楽章、アンダンテ・ソニャンド。まるでシューマンのピアノ曲のような、夢見るような音楽ですが、響きはまぎれもないプロコフィエフの音楽です。
第3楽章、ヴィヴァーチェ。途中で、初心者のための練習曲のようなところがあり、さらにドビュッシーやラヴェルのようなところもあり、最後は荒れ狂うように終わります。音楽史的なものというよりも、作曲者の個人的な音楽生活の回想なのでしょうか。だとしたら、最後の荒れ狂う終わり方は?素人音楽愛好家である私には、専門的なことはわかりませんが、技巧的にたいへん難しいものを持つ音楽なのだとか。充実した、見事な音楽としか言いようがありません。

1939年に着手、1944年に初演されたこの曲は、交響曲第5番と同時期に作曲され、3曲の「戦争ソナタ」のうち最後の、叙情性に特徴を持つ音楽です。初演は、エミール・ギレリスが担当、妻ミーラ・メンデリソンに捧げられ、スターリン賞を受賞した作品とのこと。後の、官僚が芸術を規制しようとした「ジダーノフ批判」以前には、ソ連国内で、しかるべき人がきちんと評価していたということなのでしょうか。

そういえば、20世紀の作曲家の中で、ソナタ形式で書かれた作品をピアノ・ソナタと銘打って発表し続けた人は少ないのかも。1人で9曲も書いたプロコフィエフにとっては、ピアノは最も親しい楽器であり、ソナタ形式は必ずしも古い形式ではなかったのかもしれません。

■ブロンフマン(Pf)
I=14'31" II=4'09" III=10'17" total=28'57"
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リスト「エステ荘の噴水」を聴く

2007年08月05日 08時18分03秒 | -独奏曲
リストの音楽は、積極的に集めて来なかったこともあり、あまり多くを聴いておりません。ピアノ協奏曲の第1番と第2番、ハンガリー狂詩曲、それにロ短調のピアノソナタくらいでしょうか。

そのロ短調ソナタのCDに併録されたこの曲は、「巡礼の年」第3年に含まれている曲だそうです。若い頃は華麗なヴィルトゥオーゾ・ピアニストとして有名だったリストも、ヴァイマールに落ち着いた1950年頃から、某侯爵夫人と恋をして、作曲に勤しむようになり、多くの代表的な作品はこの時代に生まれたのだとか。1860年頃以降、晩年はむしろ病気に悩む生活を送ったようで、作品がシンプルになり、宗教的な内容が多くなっていった、とされています。

「エステ荘の噴水」は、作曲者66歳の年(1877年)に作曲された晩年の作品のせいか、「ドビュッシーのように近代的」と形容したいほどの新鮮な響きを持った、好ましい音楽に感じます。この種の音楽は、やはり自宅のステレオ装置で、音量を大きめにして楽しむに限ります。

イェネ・ヤンドーのピアノ独奏、1990年12月にブダペストのリフォームド教会でデジタル録音されたCDで、型番はナクソスの8.550510です。録音はたいへん鮮明です。
参考のために、演奏データを示します。
■イェネ・ヤンドー盤
total=7'05"

台風ですが、日本海上を通過し青森県に再上陸、太平洋に抜けたようです。お天気も回復し、雲の切れ間からの穏やかな陽射しを背景に、泉のようなピアノの美音の噴水を堪能しました。

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J.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲第1番」を聴く

2007年07月08日 05時36分05秒 | -独奏曲
チェロの音色が大好きなので、チェロの作品はたいていお気に入りです。ドヴォルザークのチェロ協奏曲を筆頭に、ベートーヴェンのチェロソナタ、ショスタコーヴィチやプロコフィエフのチェロ・ソナタ、最近はエルガーのチェロ協奏曲なども仲間入りしました。ピエール・フルニエがヴァイオリン・ソナタを編曲したフランクの「チェロ・ソナタ」なども本ブログの記事にしております。

しかし、チェロといえばなんといってもバッハの無伴奏。FM放送等では何度も耳にしながら、当時、全曲のLPレコードは三枚組(OX-7289-91)で、なかなか高嶺の花でしたので、購入はずっと後回しになっておりました。で、藤原真理さんの演奏が、DENONのクレスト1000シリーズに2枚組で登場したとき、思わず喝采しましたですよ(^o^)/
いわば、遅れて来た本命。大事に大事に聴いています。そして、リズミカルなこの演奏、自然なテンポで、明瞭な録音ともに、期待を裏切りません。

第1番、ト長調。テレビのコマーシャルでも使われたり、けっこう有名になっているのでしょうか。ある宇宙飛行士が、船外活動で真っ暗な宇宙を遊泳し、青い地球を見たとき、このバッハの無伴奏チェロ組曲を思い出した、と語っていたのが印象的でした。

(1) プレリュード。この出だしが魅力的。多彩な音色を引き出し、チェロの魅力が横溢しています。なんとも言えません。
(2) アルマンド。この曲中では、一番演奏時間が長いです。ほんとに充実した音楽です。
(3) クーラント。軽やかでリズミカルな曲です。こういう明るさも、バッハの音楽にはあります。
(4) サラバンド。重音で始まり、いかにもバッハ!という感じ。しっとりと落ち着いた、どこか瞑想的な雰囲気の曲です。
(5) メヌエット I & II。中間に、ちょっと雰囲気が違う、憂いをおびたような箇所があります。
(6) ジーグ。速いテンポの短い曲です。

第1番は、1982年7月21日~22日、東京の聖グレゴリオの家でデジタル録音されています。COCO-70533-4という型番を持つ、2枚組1500円のCDです。

参考までに、演奏データを示します。
■I=2'44" II=4'40" III=2'42" IV=2'45" V=3'16" VI=1'56" total=18'03"

パブロ・カザルスが発見し、その価値を認識させた、と言われていますが、カザルス以前のチェリストたちの目が節穴だったとは、必ずしも思えません。むしろカザルスの功績は、1930年代末~40年代、レコードの普及に媒介された面も大きいのでは、と思います。
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ベートーヴェンのピアノソナタ第17番「テンペスト」を聴く

2007年05月09日 06時16分19秒 | -独奏曲
なんとなく、ベートーヴェンのピアノソナタが聴きたくなり、ブルーノ・レオナルド・ゲルバーのピアノで、ベートーヴェンのピアノソナタ第17番ニ短調、「テンペスト」を聴きました。以前は、コロムビアの廉価盤LP、ダイヤモンド1000シリーズに入っていた、アルフレッド・ブレンデルの演奏(C MS-1053-VX)で聴いていましたが、先日ゲルバーがピアノを弾いたCD(DENON COCO-70751)を見つけ、購入したものです。素晴らしい演奏、見事な録音!これは大ヒットでした。

第1楽章、ラルゴ~アレグロ。やわらかなアルペジオで始まり、せきこむような急速な主題が奏されます。ゲルバーのピアノは、強くて深い低音を響かせながら、すっと力を抜いた柔らかい音を対比させます。レチタティーヴォでは、ペダルを使っているのでしょうか、打鍵のあと減衰するまでの「間」が絶妙です。速いパッセージでの、粒立ちのそろった音が、実にきれい!
第2楽章、アダージョ。みかけ上は穏やかで平和な音楽。主題も変奏も美しいのですが、遠くに聞こえる雷の音のようなフレーズが、終始つきまといます。気になり出すと気になる、憂いの種でしょうか。
第3楽章、アレグレット。不安感と緊迫感が、疾走感を伴って展開される音楽です。でも、その中にも美しい旋律が隠されています。

1801年から1802年にかけて作曲された、30代初頭の作品ですから、かろうじて「若いベートーヴェン」の範疇に入るのでは。今聴いても、じゅうぶんにインパクトがありますから、当時としてはかなり実験的・野心的な作品であろうと思います。「ハイリゲンシュタットの遺書」が書かれた時期の作品ではありますが、どうもこれで音楽を説明できるとは思えません。それよりも、形式の中にありながら、形式に収まり切れない感情や音楽的な内容を盛りこむことを恐れなくなった、たんに若々しくフレッシュなだけではない、作曲家ベートーヴェンの自立と円熟の始まりを感じます。

ブレンデル盤は、アメリカVOX原盤で、1960年頃の録音でしょうか。最初のベートーヴェンのピアノソナタ全集だったそうです。「月光・悲愴・熱情」「ワルトシュタイン・告別・テンペスト」「後期三大ソナタ集」の三枚のLPをダイヤモンド1000シリーズで集めることができ、ずっと親しむことができたことを、幸せに思います。
ゲルバー盤は、1992年9月、DENONによるスイスのヴヴェイでのたいへんに鮮明なデジタル録音。堂々としたテンポの、こういう演奏・録音であればこそ、長く親しんだブレンデルの旧盤にとって代わることができます。

■ブルーノ=レオナルド・ゲルバー盤
I=8'01" II=8'02" III=6'49" total=22'52"
■アルフレッド・ブレンデル盤
I=7'40" II=7'40" III=5'45" total=21'05"
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グリーグ「叙情小曲集」を聴く

2007年05月01日 06時49分39秒 | -独奏曲
春爛漫の季節です。今朝も、早朝からコーヒーをいれ、グリーグの「叙情小曲集」を聴きました。エミール・ギレリスのピアノ演奏、1970年代にずいぶん評判になった録音です。

エミール・ギレリスというピアニストは、「鋼鉄の」という形容詞がついた時期もあったらしいですが、廉価盤には縁の薄い演奏家でしたので、近年までほとんど接する機会がありませんでした。この「叙情小曲集」というレコードを出して、たいへん好評だったことは承知していましたが、なんとなく手を出しかねておりました。

ところが、30年も経った頃、輸入盤と思われるCDを発見、興味をひかれて購入し、聴きました。名前のとおり静かで叙情的なピアノ曲集、ちょっと北欧の「無言歌集」といった感じです。

演奏されている曲は、以下のとおり。

(1) アリエッタ、(第1集、作品12の1)
(2) 子守歌、(第2集、作品38の1)
(3) 蝶々、(第3集、作品43の1)
(4) 故郷にて、(同上、作品43の2)
(5) アルバムの綴り、(第4集、作品47の2)
(6) メロディ、(同上、作品47の3)
(7) ハリング、(同上、作品47の4)
(8) 夜想曲、(第5集、作品54の4)
(9) スケルツォ、(同上、作品54の5)
(10)郷愁、(第6集、作品57の6)
(11)小川、(第7集、作品62の4)
(12)家路、(同上、作品62の6)
(13)バラード調で、(第8集、作品65の5)
(14)おばあさんのメヌエット、(第9集、作品68の2)
(15)あなたのそばに、(同上、作品68の3)
(16)ゆりかごの歌、(同上、作品68の5)
(17)昔々、(第10集、作品71の1)
(18)小妖精、(同上、作品71の3)
(19)過去、(同上、作品71の6)
(20)余韻、(同上、作品71の7)

ギレリスというピアニストは、本当はこんなすてきな演奏をしてくれる人だったのですね。「鋼鉄」とかいうキャッチフレーズのせいで、あやうく誤解したまま食わず嫌いになるところでした。(^_^;)>poripori

写真は、裏の畑で撮影した青い花。正しい名前は不明ですが、ラナンキュラスの仲間でしょうか。青い色が印象的できれいです。老父母は、最近花に凝っております。
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シューマン「交響的練習曲」を聴く

2007年02月28日 06時37分04秒 | -独奏曲
R.シューマンの「交響的練習曲」を初めて聞いたのは、おそらく学生時代だろうと思います。NHK-FM「大作曲家の時間」で、かなり長期間、R.シューマンを特集したことがありました。そのときのテーマ音楽が、この「交響的練習曲」の冒頭の旋律でした。シューマンの手紙や評論の文章や様々なエピソードとともに、年代を追って作品を紹介する構成のあの番組を監修したのは、たぶん吉田秀和氏ではなかったかと思います。毎週欠かさず聞いたものでした。今、もう一度聞けるなら、ぜひ聞いてみたいラジオ番組のトップに位置する名番組だったと思います。

LPを購入したのは、1970年代の後半かと思いますが、スヴィャトスラフ・リヒテルがスケールの大きな演奏を展開するレコードでした。「クレスハイム宮のリヒテル」と題された3枚からなるシリーズの一つで、1971年の9月にザルツブルグのクレスハイム宮で録音されたものです。ベーゼンドルファーを用いたベートーヴェンのピアノソナタ第27番がA面に収録され、A面の続きとB面に、スタインウェイを用いたシューマンの「交響的練習曲」が収録されていますので、シューマンだけを聴きたいときには、LPの中ほどの溝に針を降ろす、緊張の一瞬がありました。

先にショパンの「12の練習曲」作品12が出版され、大いに刺激を受けたシューマン、1834年にこの「交響的練習曲」を作曲します。実はこの主題を作ったのがフォン・フリッケン男爵で、その娘のエルネスティーネにのぼせたシューマンが、お父さんの御機嫌伺いの思惑を秘めた動機もあっての作曲のようです。しかし、わずか18歳の少女エルネスティーネが、美貌とは裏腹に意外に教養が低いことに失望したとされていますが、なに、惚れっぽいシューマン(24歳)は女性を見る目がないだけの話。あまり他人のことは言えませんが、この後はクララひとすじになるわけなので、まあいいでしょう(^o^)/

今、CDで聴いているのは、エフゲニー・キーシンの演奏です。キーシンが、若々しい感性で、とにかく速く活きのいいテンポで弾いています。1989年の2月のアナログ・ライブ録音です。

曲は、魅力的な旋律と和声で始まり、これを主題として多彩に変奏されていきます。ピアノ音楽の魅力を存分に味わうことができます。残念ながらせっかくのCDが全曲インデックスなしで収録されており、こまかくこの変奏曲だけを聴きたい、というワザは使えません。けれども、幻想的なスタイルを明瞭に示す第1練習曲から、最後の第12練習曲まで、主題から遠ざかったり近付いたりしながら見事な変奏を展開していく様が、よくわかります。遺作変奏の挿入位置は、中間部にまとめて演奏するリヒテルとは少し違うようです。

演奏データは、次のとおりです。
■エフゲニー・キーシン(Pf)
total=27'10"
(遺作変奏1~5は、別々に挿入されている模様。)
■スヴィャトスラフ・リヒテル(Pf, LP:Victor MKX-2002)
I=10'05" II=24'00" total=34'05"
(Iは第1練習曲から第5練習曲、IIは遺作変奏1~5に続き、第6~第12練習曲)
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R.シューマン(リスト編曲)「君に捧ぐ」

2007年02月24日 20時51分23秒 | -独奏曲
珍しく、ピアノの小品です。ローベルト・シューマンの歌曲集「ミルテの花」は、恋人を熱烈に賛美する「君に捧ぐ」という曲で始まります。恋人とは、もちろん後にシューマン夫人になるクララ・ヴィークのこと。詩はリュッケルトのもので、
Widmung~君に捧ぐ(献呈)
とまあ、こういう内容だそうです。

で、これをリストがピアノ曲に編曲しています。ちょっと気恥ずかしくなるような歌詞を割愛して、ピアノの音だけで、見事に原曲の雰囲気を再現しています。演奏は、若きキーシン。ブリリアントの廉価4枚組のうちの1枚、リストとシューマンの曲を集めた1枚の最後に、さりげなく収録されています。演奏会のアンコール・ピースなのかな。これが、実にチャーミングです。

写真は、二人目のおめでたらしい娘が一時的に入院した産院のベンチ。たいしたことはなかったようで、先日退院いたしました。「君に捧ぐ」という歌にぽぅっとなっている間はいいけれど、お産は命がけですからね(^o^)/
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モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 KV.310」を聞く

2006年12月31日 06時47分13秒 | -独奏曲
昨日、餅つきも終わってほっと一息。年末の慌ただしさも一段落し、モーツァルトのピアノソナタを聞いています。マリア・ジョアオ・ピリスのピアノで、1974年1月~2月にかけてデジタル録音された日本コロムビアのCD(COCO-6790)です。

「トルコ行進曲つき」とよばれる作品(イ長調、KV.331)ならば、私の中学生当時、音楽の「文部省指定鑑賞曲」でした。さすがに高校入試では音楽が試験科目ではなくなっておりましたが、定期試験では「ミファミソーソ レミレファーファ」と階名唱が課題になり、音符とにらめっこした記憶があります(^_^;)>poripori
でも、実はお気に入りはその少し前の、KV.310というケッヘル番号を持つイ短調のソナタ。

第1楽章、アレグロ・マエストーソ。maestoso(荘重に) と指定された楽章ですが、荘重というよりはつんのめるような緊迫感を感じさせる音楽、といったほうが適切なように感じます。
第2楽章、アンダンテ、カンタービレ・コン・エスプレッシオーネ。表情豊かに歌うように、という意味でしょうか。コロコロ駆け回るモーツァルトではない、誰に訴えたらよいのかわからない悲哀を、ストレートに、しかし美しく歌います。
第3楽章、プレスト。再び速いテンポでめまぐるしく駆け回る音楽です。

ピアニストのマリア・ジョアオ・ピリスは、この録音当時はほんとに若かった。ボーイッシュな感じの、キュートなお嬢さんでした。デンオンのデジタル録音の最初期、東京イイノホールで行われた録音は、彼女の清潔な演奏とともに、当時絶賛されたものでした。今から考えると、ほとんど手作りに近いD/Aコンバータを用いたデジタル化であり、比喩的に言えば、PC8001を使って音声信号処理をするようなものでしょう。それにしては、スタインウェイの響きをよくとらえていることと感心させられます。倍音成分を多く含む弦楽器とは異なり、ピアノの場合は初期デジタル録音でも、けっこうメリットがあったということでしょう。

このソナタの番号ですが、The Classics 1300 というシリーズの中の一枚として1990年に発売された本CDでは、磯山雅氏が担当した解説でも、「第9番」と表示されています。しかし、Linux 上で CDDA データベースを検索すると「第8番」と表示されますし、Wikipedia でも「第8番」として解説されています。International Music Score Library Project (IMSLP*) から入手した楽譜では、Sonata XVIと表示されています。このへんは、なにか音楽学的な理由で、新旧の番号の移動があるのでしょうか。

参考までに、演奏データを示します。
■マリア・ジョアオ・ピリス盤
I=5'27" II=6'55" III=2'41" total=15"01"

(*):IMSLP~International Music Score Library Project~ Main Page (英文)
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ベートーヴェン「ピアノソナタ第31番変イ長調Op.110」を聴く

2006年11月09日 06時00分22秒 | -独奏曲
ベートーヴェンの後期のピアノソナタの中で、若い頃に一番好きでよく聴いたのがこの曲だろうと思います。当時はむろんLPレコードで、日本コロムビアのダイヤモンド1000シリーズに含まれた、アルフレート・ブレンデルの演奏でした。まだ若いブレンデルが初めて全集に挑戦したこの録音、ヴォックス原盤によるものだそうですが、曲間の無音溝の時間の長さを曲に合わせて変更するようにブレンデルが主張し、エンジニアを困らせたのだとか。奇矯な人だなと思いましたが、演奏はどれも説得力があり、特にこの31番のソナタに魅了されました。

1821年に作曲され、結局誰にも献呈されなかった、自分のための音楽。ここしばらくは、アルフレッド・ブレンデルの演奏で、Philipsの 412 789-2 というCDで聴いています。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番に併録されたもので、1973年の10月にロンドンで録音されたものです。

第1楽章、モデラート・カンタービレ・モルト・エスプレッシーヴォ。親密で優しい主題です。歌うように何度も何度も現れます。
第2楽章、アレグロ・モルト。軽やかで速い楽想が駆け回る導入、そしてアダージョ・マ・ノン・トロッポのゆっくりした呟きに似て、やがて「嘆きの歌」がつむぎだされてきます。続いてアレグロ・マ・ノン・トロッポでフーガが続きます。論理的なフーガが、再び繰り返される嘆きの歌を鎮めていきます。終結部では速度を増し、分散和音を連続して、これでもか、これでもかと力強く終わります。

うーむ。この曲を聞くと、何事も裏目に出てうまくいかなかった若い頃を思い出してしまいます。中年以降は仕事も順調でしたし、幸いに病気もせず、うちひしがれてこの曲に慰めを見出すようなつらいこともなく過ごしてきました。幸せなことです。できれば嘆きの歌をたびたび聴いて心臓に血の涙を流すような事態は、今後とも避けたいところです。

■アルフレッド・ブレンデル (Philips,1973)
I=6'50" II-a=1'44" II-b=10'38" total=19'12"
■アルフレッド・ブレンデル (Vox,1960年代)
total=18'02"

写真は高校生でしょうか、文翔館・議場ホール前の広場でフルートとクラリネットの練習。吹奏楽のメンバーのようです。大きな樹木の下で、短い秋の日を惜しんでおります。
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大瀧実花ピアノリサイタル

2006年10月31日 20時04分19秒 | -独奏曲
この日曜日、文翔館議場ホールで、大瀧実花ピアノリサイタルを聞きました。大瀧実花さんは、藤沢周平と同じ鶴岡市の出身だそうで、武蔵野高校、武蔵野音大ピアノ科を卒業して渡仏し、J.M.ダレ、P.サンカン、D.メルレ、ジャック・ルヴィエ各氏の下で学び、フランス音楽を得意とし、プーランク(*)のCDを出されているようです。
当日は、わずかに緑がかったすてきな青いドレスで、次の曲目を演奏しました。

(1) J.S.バッハ イタリア協奏曲 BWV971
(2) ドビュッシー ベルガマスク組曲
(3) プーランク 組曲「ナポリ」より、「イタリア奇想曲」
~休憩~
(4) ショパン 「12のエチュード」作品10、第1番~第12番

観客はどちらかといえば年配の方が多かったように思います。定員が百人程度の小さなホールですので、ピアノの音がすみずみまで響きます。バッハのイタリア協奏曲における強弱の対比や、ドビュッシーの音色もニュアンスもよくわかります。
プーランクの「イタリア奇想曲」は、初めて聞く曲です。とても面白かった。解説によれば、これは1925年に作曲された作品で、作曲家プーランクは「人生を愛し」「茶目っ気があり」「お坊ちゃま育ち」で「人当たりが良くてしかもぶっきらぼう」で、「憂鬱質で穏やかな信仰の持ち主」しかも「僧侶を思わせるところもあれば不良っぽいところもある」人だったといいます。実際の曲の印象も、なんだか育ちのいい上機嫌な青年が威勢良く演奏しているピアノ曲を思わせます。
後半の前奏曲は、ショパンの激しさも充分に表現した演奏で、各曲の性格が描き分けられ、堪能しました。

この日の最大の収穫は、プーランクの曲を初めてナマで聴けた、ということでしょうか。幸せな、いい演奏会でした。帰りにケーキ屋さんに寄り、久々に家内とケーキを食べました。

(*):フランシス・プーランク~Wikipediaより
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福田進一「19世紀ギター・デビュー!」を聞く

2006年10月22日 07時10分32秒 | -独奏曲
夏場にラジカセで目覚し音楽として使っていたCDです。はじめは、普通の現代ギターを使って19世紀のギター名曲集を演奏したものかな、と思っていましたが、部屋に持ってきてステレオで聞くと、ちょっと響きが違う。実は現代ギター以前に用いられていた、やや小ぶりのギターである「19世紀ギター」の魅力をたっぷりと味わえる曲集であり、録音でした。
「ラコート」という1840年頃の19世紀ギターを演奏しているのは、福田進一さん。1840年と言うと、R.シューマンがクララ・ヴィークと結婚し、交響曲第一番を作曲し、数々の歌曲を生み出していた頃。いわば、当時の古楽器を用いた演奏です。

(1)ナポレオン・コスト、「夢」Op.53の1
(2)~(5)フェルナンド・ソル、「エチュード」Op.6-12, Op.29-17,Op.35-22, Op.31-23
(6)同、モーツァルト「魔笛」の主題による変奏曲 Op.9
(7)同、「ワルツ」Op.32-2
(8)ディオニシオ・アグアド、「華麗なロンド」Op.2-2
(9)ナポレオン・コスト、「交響的幻想曲」~アンダンテ Op.38-14
(10)同、スペインの歌「カチューシャ」によるカプリス Op.13
(11)ヨハン・カスパル・メルツ、「ハンガリー風幻想曲」Op.65-1
(12)同、夕べの歌「吟遊詩人の調べ」 Op.13 より

聞きなれたソルのロ短調のエチュードOp.35-22や、「魔笛」の主題による変奏曲などが、爪を伸ばしてはじくのでなく、指頭を使って、共鳴をやや抑えぎみに響く音色で演奏されると、これはまた、なんともチャーミングです。

1994年11月、埼玉県の秩父ミューズパーク音楽堂にてデジタル録音された、DENON COCO-70452 という型番。クレスト1000シリーズの価値ある1枚です。
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