先の週末、雨降りのお天気により室内生活となりましたので、しばらく前に入手していたDVDで、映画「バベットの晩餐会」(*1)を観ました。この作品は、1987(昭和62)年に公開されたデンマーク映画で、イサク・ディーネセンの小説を原作として映画化されたものだそうです。
19世紀、デンマークの辺境に一人の老牧師と二人の娘が生活しています。牧師は清貧の中に信念を持って生活していますが、それは姉妹が娘らしいロマンスを頑なに拒絶する生き方をもたらすことになります。姉のマチーヌに求愛した若い士官ローレンスは村を去り、軍務に没頭することとなりますし、賛美歌を歌う妹フィリッパに歌の才能を見出したフランス人歌手アシーユ・パパンもまた、歌のレッスンを通して誘惑のような求愛をしますが、これまた突然の拒絶にあって故国に帰ります。
人生の春を信仰と奉仕に捧げたまま、父である老牧師を亡くし、年老いてゆく姉妹のもとに、パリ・コミューンの際に革命政府側にいた夫と息子を失った女性バベットが亡命してきます。それは、フィリッパに縁があった歌手アシーユ・パパンの紹介によるものでした。バベットは、老姉妹のもとで家政婦として料理や家事を担うようになりますが、それはあまり家事が得意ではなかった姉妹にとってプラスであっただけでなく、信仰の集会に集う村人たちにとっても、歓迎すべき変化でした。
やがて、14年の年月が流れます。マンネリ化による信仰心の衰えからか、村人の中に小さな諍いが表面化してきて、姉妹は心を痛めます。二人は、「天国に持っていけるものは、与えたものだけ」と説いた父・牧師の生誕百周年を記念したささやかな食事会を企画し、村人を招くことを思いつきます。バベットは、フランスの友人に頼んで買ってもらっていた富くじが当たって、一万フランの賞金を得ていましたが、おそらくはフランスに帰国するのだろうという予想に反して、自分のお金で祝いの晩餐会の料理を作らせて欲しいと願い出ます。八日間の休暇の後にやってきたのは、甥と二人で生きた海亀やウズラや牛の頭などを含む多量の食材を運んできたバベットでした。
生きた海亀を火であぶる悪夢を見てうなされた姉マチーヌは、村人に懸念を伝えます。魔女の饗宴に心を奪われないようにと、心を一つにした村人たちは、料理や食事について一切話題にしないことを申し合わせます。
一方、牧師を尊敬していたかつての士官ローレンスは、今は将軍となっていますが、人生の虚しさに悩んでおり、叔母とともに牧師の生誕百周年の晩餐会に参加することとなりますが、ワインや料理のあまりの美味しさに驚嘆します。それも当然で、バベットは実は……というお話です。
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うーむ、実に観ごたえのあるいい話でした。大人の映画、ドラマです。こういう良質の映画を観ていると、思わず時間を忘れます。それなのに今のテレビドラマは…などという愚痴は言いますまい。キリストの最後の晩餐と同じ12人の来客に供する最高のフランス料理の数々を作るという奮闘の時間を終えたバベットが疲れ果ててうずくまる場面の矜持と孤独は、「芸術家は貧しくなることなどないのです」との言葉どおり、まさに芸術家の姿でしょう。
音楽も良かった。賛美歌も良かったし、アシーユ・パパンが妹フィリッパにレッスンする場面も、実はモーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」でドン・ジョヴァンニがツェルリーナを誘惑する場面でしたが、これもほんとに良かった。
たぶん、原作はもう少し違った側面を持ち、違った味わいの作品なのだろうとは思いますが、こうした形で映画化されるのを見ると、これはこれで優れた映像作品ではないのかと感じます。機会があれば、原作も読んでみたいものです。
(*1):
映画「バベットの晩餐会」オフィシャルサイト
【予告】バベットの晩餐会
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