昨日の日曜休日は、早朝5時から7時半まで果樹園の草刈りに精を出し、シャワーを浴びて朝食。じきに雨が降って来ましたので、午前中はのんびり過ごし、午後から山形交響楽団第254回定期演奏会に出かけました。到着した午後2時半頃は、ちょうどロビーコンサートが始まったばかりでした。
今回のロビーコンサートのプログラムは、
B.H.クルーセル クラリネット四重奏曲第2番 ハ短調 Op.4 より
演奏:川上一道(Cl)、舘野ヤンネ(Vn)、成田寛(Vla)、久良木夏海(Vc)
というものでした。クルーセルという作曲家は、もちろん初めて。でも、すごくいい曲です。思わず引き込まれます。最初の案内を聴き逃したので、どこの国の人かわかりませんでしたが、後で調べてみましょう(*1)。
さて、本日のプログラムは、「ヒロイズムと幻想性」と題して、指揮の田中祐子さんの山響定期デビューとなっており
- 池辺晉一郎/小交響曲
- シューマン/ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
- ベートーヴェン/交響曲 第3番 変ホ長調「英雄」作品55
指揮:田中祐子、演奏:山形交響楽団、伊藤恵(Pf)
というものです。
恒例のプレ・コンサート・トークでは、例によって西濱事務局長と田中裕子さんの話から始めました。田中さんは、伊藤恵さんとシューマンのピアノ協奏曲を演奏するのが夢だったそうで、こんなに早く実現して嬉しいと語ります。西濱さんが、ベートーヴェンが「エロイカ」を作曲したのが34歳のとき、と紹介すると、田中さん、今の私は10歳ほど若いとサバを読んだすぐ後に、実は37歳です、と自分からバラしてしまいました(^o^)/
ほんとにエネルギーに満ちた田中さん、小柄な外見もあって、「フィガロの結婚」に出てくるケルビーノみたいです。もしかしたら、「フィガロ」を指揮しながら「ケルビーノ」を演じられる?(^o^)/sonna~
「実はスペシャルゲストをお呼びしていて」と西濱事務局長。登場したのは、池辺晋一郎さんでした。相変わらずお元気そうで、「N響アワー」の頃と少しも変わっていません。駄洒落も変わりなく、伝統的駄洒落保存会の名誉会長を勝手にご委嘱申し上げる次第です(^o^)/
その池辺晋一郎作品で「小交響曲」。1973年に編成を小さくして書かれた第二版によるもので、山響でも演奏可能ということで、田中さんがぜひにと取り上げたものだそうです。楽器編成は、8-7-5-5-3の弦楽5部が対向配置をとり、コントラバスは左奥、正面には Fl(2),Ob(2),Cl(2),Fg(2) の木管楽器が二列に並びます。そしてその奥に、Hrn(4),Tp(2),Tb(2) の金管楽器が配置され、右側にパーカッションとティンパニが陣取ります。楽器はいずれも現代楽器のようで、ピカピカのティンパニは4台(*2)も並んでおりました(^o^)/
音楽は、多彩な鳴り物も入って活発な第1楽章、無調的な緊張感のある第2楽章、そして第3楽章ではクラリネットの川上さんがアルトサックスに持ち替えて演奏するという印象的な場面もありました。
田中祐子さんの指揮ぶりも、パントマイムの名優みたいに切れ味の良い動きで、わかりやすかったのではなかろうかと思いました。
今回は、どうやら録音もしていたようで、天井から吊り下げたマイクが二組のほかに、パーカッション部とティンパニのところにも、マイクが立ててありました。
続いてはR.シューマンのピアノ協奏曲を、シューマン演奏の第一人者である伊藤恵さんの演奏で聴きます。この曲は、私のお気に入りの音楽(*3)ですので、ずいぶん前から楽しみにしていました。近年の山響定期では、萩原麻未さんとの第226回(2013年1月)(*4)以来三年ぶりに聴きますが、何度聴いてもうれしいプログラムです。
ステージの配置が変更されます。中央にグランドピアノが引き出された他に、現代のティンパニが片付けられた代わりに、バロック・ティンパニが登場します。楽器の配置は同じですが、編成はやや縮小され、ナチュラルタイプのHrn(2)とTp(2)に変わります。
ソリストの伊藤恵さんは、沖縄の海の色みたいなブルーのドレスで登場、大先生との念願の共演に、指揮者の田中祐子さんもだいぶ気を遣っているようです。でも、演奏が始まるとそれはそれ、これはこれ。テンポはソリストのものでしょうか、あまり速くなく、ピアノを美しい音でロマンティックに詩情豊かに鳴らすと、オーケストラも繊細かつ豊かな響きで応えます。木管の響きがことのほか魅力的で、とくにクラリネットがステキです。カデンツァも本当に自然で、何気なく弾いているようですが、実に幻想的な音楽となっています。中間の緩徐楽章でも、独奏ピアノが憧れに満ちた音楽をゆっくりと展開しますが、指揮者はバロック・ティンパニの抜けの良い音を的確に効かせているようです。終楽章まで、弦の澄んだ音、木管の透明感のある音色、金管のやわらかい音に魅了されながら、最後は盛り上がる迫力のコーダを堪能しました。良かった~!
アンコールは、偶然にも萩原さんと同じく「子供の情景」から「トロイメライ」でした。これまた素晴らしい演奏で、思わずため息が出ました。
15分の休憩の後、後半のプログラムは、お待ちかね、ベートーヴェンの交響曲第3番「エロイカ」です。楽器編成は、Fl(2),Ob(2),Fg(2),Hrn(3),Tp(2),Timpと弦楽5部(8-7-5-5-3)。配置は、コントラバスが正面最奥部に移動しています。
第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ。ゴツゴツしない柔らかい表現ながら、それが徐々に力強さを発揮してくる、というスタイルでしょうか。テンポは速めで、強弱や緩急のコントラストを強調しているようです。
第2楽章:葬送行進曲、アダージョ・アッサイ。この楽章では、田中さんは指揮棒なしで、背中を丸め、全身で表現します。不謹慎な言い方ですが、動物にたとえれば今まさに獲物に飛びかかろうとする猫科の動き。抜けの良いバロック・ティンパニの一打を効果的に使います。
第3楽章:スケルツォ、アレグロ・ヴィヴァーチェ~トリオ。速いテンポで軽やかに。始まりはロッシーニみたいですが、がらりとベートーヴェンになります。ナチュラル・ホルンの見事な表情付けも、ブラボーです!
第4楽章:フィナーレ、アレグロ・モルト~ポコ・アンダンテ~プレスト。集中した推進力を維持したまま終楽章へ突入しますが、やはり対比を明瞭につけるような表現です。たとえばピツィカートのところはゆっくり、はっきりと。1st-Vnと2nd-Vn、VlaとVcの4人のトップが奏でるテーマを全オーケストラが歌い始め、高揚感がホール全体に広がります。例の演歌みたいなところ(^o^;)も、リズムを活かして品良くまとめます。ClとFgをバックにObが歌うところが、好きなんですよ~(^o^)/
本当に、若いフレッシュなベートーヴェン、巨大化しない等身大のベートーヴェン、でも確かに革命的な作品、という感じがしました。
今回の演奏会では、ソロ・コンサートマスターの高橋和貴さんの隣に、犬伏亜里さんが座っていました。珍しいことと思っていましたら、いろいろ事情があったらしいのと、犬伏さんが伊藤恵さんのシューマンに、ぜひ出演したかったということらしい。なるほど、ダブル・コンサートマスターという贅沢な経験で、聴衆の一人として喜んだ次第。
終演後のファン交流会では、「雨が上がりましたね」「晴れてますね」という司会者と指揮者の発言に対して池辺さんが「太陽がテルサ」と受けて、集まったファンもどっと笑い声が出ていました。ワタクシめは、伊藤恵さんのCDを物色、シューマンの「ピアノソナタ第1番」他のCDを購入して、ルンルン気分で帰途につきました。
(*1):1834年、フィンランド生まれで、スウェーデンで活躍した人だそうです。YouTube にこんな動画がありました。
Bernhard Henrik Crusell - Clarinet Quartet No.2 in C-minor, Op.4 (1817)
(*2):ティンパニは、1個、2個と数えるのでしょうか、それとも1台、2台と数えるのでしょうか(^o^)/
(*3):
R.シューマン「ピアノ協奏曲イ短調」を聴く~「電網郊外散歩道」2007年10月
(*4):
山響第226回定期演奏会でシューマン、ブルックナーを聴く~「電網郊外散歩道」2007年10月