9月初旬にひいた「ひどい風邪」が、健康診断で肺に影があるとして精密検査の勧告を受けて、実はマイコプラズマ肺炎であったことが判明しましたが、マイコプラズマとはどういう存在か、またマイコプラズマ肺炎とはどういう病気なのか、よくわかっていませんでした。そこで、雨降りで農作業ができない農休日を利用し、備忘録ノートに要約しながら調べてみました。信頼できるであろう情報源としては、岩波の『生物学辞典(第4版)』と国立感染病研究所のWEBサイト(*1)です。
まず、マイコプラズマとはどういう存在か。
- Mycoplasma は、ウィルスと細菌の中間的な位置に置かれている一群の微生物。19世紀末に初記載され、20世紀はじめに命名された。ウィルスとは異なり、人口無細胞培地で発育できる。
- 最も小さいゲノムサイズを持ち、DNA のA(アデニン)T(チミン)含量が64〜77%と高く、タンパク質合成の際に通常は読み込み終止コドンであるTGAがアミノ酸のトリプトファンをコードするという特徴がある。タンパク質合成の場であるリボソームを構成するrRNA(リボソームRNA)の一次構造などから、クロストリジウム属細菌に最も近縁とされる。
- 細胞壁がなく、3層からなる細胞膜で包まれ、目玉焼き状の集落を作るのが特徴。特異抗体により人口培地中で発育阻止を受ける。
- 広く自然界に分布し、各種動植物、下水などからも分離される。ヒトの口腔に常在するものや動物、鳥類に由来のものでヒトに肺炎あるいは関節炎を起こすものがある。
なるほど。細胞壁がないということは、細胞壁生合成の回路を阻害することで薬効を示すペニシリンやセフェム系等のβ-ラクタム系の抗生物質(*2)は効かないということだな。しかし『生物学辞典』の文字は小さくて、老眼鏡をかけてもそろそろ厳しくなってきているようです。
それでは、マイコプラズマ肺炎という病気についてはどうか。
- 肺炎マイコプラズマによる感染症で、患者からの飛沫感染と接触感染により拡大し、感染には濃厚接触を要する。地域での感染拡大の速度は遅い方である。
- 病原体は侵入後、粘膜表面の細胞外で増殖を開始し、のど、気管、気管支、肺胞などの粘膜上皮を破壊する。とくに気管支、同繊毛上皮の破壊が顕著で、粘膜の剥離、潰瘍を形成する。
- 潜伏期は通常2〜3週間で、初発症状は発熱、全身の倦怠感、頭痛など。初発後3〜5日で咳が始まり、解熱後も3〜4週間と長く続く。声がかれ、耳痛、咽頭痛、消化器症状や胸痛が見られることもある。
- 喘息様気管支炎を呈することが多く、喘鳴が見られることも多い。中耳炎、膵炎、肝炎、溶血性貧血など合併症をともなうこともある。
- 血液所見では白血球数は正常または増加、赤沈は亢進、CRPは陽性、AST、ALTは一過性で上昇。
- 感染により特異抗体が産生されるが、生涯続くものではなく、徐々に減衰していく。ペニシリンやセフェム系などβ-ラクタム剤は効果がない。マクロライド系やテトラサイクリン系、ニューキノロン薬剤が用いられる。例えばエリスロマイシン、クラリスロマイシンなど。
なるほど。心当たりがあります。初発時期が9月初旬ということは、その2〜3週間前というと、お盆の時期にあたります。この頃、地域の花火大会を実施するために多くの人と接する機会が多く、マスクをしないことも少なくなかった。たぶんその頃に感染してしまったのでしょう。
また、細胞壁を持たないためにペニシリンなどβ-ラクタム系の抗生物質が効かない代わりに、細胞膜がむき出しですので石鹸や合成洗剤など界面活性剤に弱い。接触感染に対して手洗いが有効だ、ということがわかります。粘膜細胞の外で増殖し始めるわけなので、うがいも有効だということでしょう。マスク、うがい、手洗い等の古典的予防策は、マイコプラズマ肺炎の予防に関しても有効だということだな。
(*1): マイコプラズマ肺炎とは〜国立感染症研究所
(*2): 抜歯手術後に処方された抗菌薬サワシリンについて〜「電網郊外散歩道」2024年7月