寒波の前触れのような雪がちらつく中、山形テルサホールで山形交響楽団の第250回定期演奏会を聴きました。会場に到着したときには、すでにロビーコンサートが始まるところでした。曲目はモーツァルトのホルン五重奏曲 変ホ長調 K.407で、演奏は八木健史(Hrn)、中島光之(Vn)、倉田譲・田中知子(Vla)、茂木明人(Vc)という顔ぶれです。弦の四人は山形弦楽四重奏団の定期演奏会などでお馴染みですが、八木さんのナチュラルホルンの演奏をじっくりと間近に見るのは珍しく、音楽を楽しみながら、またとない機会とじっくり観察しました。要するに、管をくるくると丸めただけのホルンの音程を作るために、吹き方だけでなく、朝顔に突っ込んだ右手で空気の流れを調節しているのですね! な~るほど!
16時の開演前に、例によってプレコンサート・トークがありました。今回の指揮者のミハウ・ドヴォジンスキさんに西濱事務局長がインタビューする形です。お魚と寿司と日本酒「出羽桜」が大好きなドヴォジンスキさんは、首席客演指揮者としての三年間の契約を終えて、山形の聴衆の皆さんへ感謝を伝えたいと話し、客席から大きな拍手が贈られました。
ドヴォジンスキさんといえば、2009年12月の第201回定期でエルガーの「エニグマ変奏曲」にシベリウスの交響曲第2番等を振ったこと(*1)や、2013年12月の第233回定期でマルティヌーのチェロ協奏曲にショスタコーヴィチの交響曲第9番を指揮したこと(*2)などが強い印象を残しています。オーケストラをバランスよくコントロールして、しなやかな響きを作り出す指揮者、というイメージを持っています。今回も良い演奏会になるのでは、と期待して来たところです。
さて、本日の曲目は、
- ボロディン/歌劇「イーゴリ公」序曲
- ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 op.26 Vn:成田達輝
- チャイコフスキー/交響曲 第1番 ト短調 op.13「冬の日の幻想」
ミハウ・ドヴォジンスキ指揮、山形交響楽団
というものです。
第1曲目、ボロディンの歌劇「イーゴリ公」序曲では、楽器編成は次のようになっています。ステージ左から右へ、第1ヴァイオリン(8)、第2ヴァイオリン(7)、チェロ(5)、ヴィオラ(5)、その右にコントラバス(3)という通常配置、正面奥にピッコロ&フルート、オーボエ(2)、次の列にはクラリネット(2)、ファゴット(2)の木管楽器、さらにその奥にホルン(4)、トランペット(2)が並び、最奥部にはティンパニとトロンボーン(2)、バストロンボーン、チューバの金管楽器が配され、コンサートマスター席には犬伏亜里さんが座ります。演奏は金管楽器の重々しい音から始まり、やがて弦楽器が主体となった活発な音楽に変わっていきます。途中の甘く懐かしいような響きも美しく、ロシア音楽の香りを味わいました。
続いて第2曲目、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番です。
独奏者の成田達輝さんが登場します。後方の重量級金管部隊が退き、楽器編成は Fl(2),Ob(2),Cl(2),Fg(2),Hrn(4),Tp(2),Timp.に弦楽5部となります。第1楽章の開始は、ティンパニが静かに鳴る中でフルート、クラリネット、ファゴットの木管楽器とホルンに導かれて、ソロ・ヴァイオリンが低音を響かせたのち、レシタティーヴォ風に中~高音域を鳴らします。わーお! ヴァイオリンの音がほんとにきれい! それに弓が弦から離れる際にも、充分に歌っている。こういうのは実際に聴かないとわかりません。ほとんど前奏曲といった趣きの第1楽章に続き、第2楽章はいかにもロマン的な緩徐楽章です。緩やかですが、力強く魅力的な旋律が展開されます。思わずため息が出そうな音楽です。第3楽章:弱音から次第に盛り上がるオーケストラに乗って、独奏ヴァイオリンがリズミカルに登場、躍動的で情熱的な第1主題と、叙情的な第2主題とが展開されます。ほんとに絢爛豪華な、という形容がよくあてはまる、ロマン派協奏曲の典型のような音楽ですので、美音のブルッフというご馳走をたっぷり賞味することができました。
聴衆の拍手の中で、アンコールの前に成田さんがちょっとご挨拶。「実は私の本籍は山形市で」え~っ!「父と母が第二公園の近くのアパートに住んでいて、私はそこで三歳まで過ごしました」おやおや!「昨日も、山長そばでラーメンを食べて来まして」なんと! そうでしたか!
ローカルなご挨拶に沸いたところで、アンコールを三曲も大サービス(^o^)/
会場に表示された記載によれば、
- J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番より 第1曲:プレリュード
- J.S.バッハ 同 第3曲:ガヴォットとロンド
- パガニーニ 24のカプリース 第1番
というものでした。1992年生まれの古楽世代らしく、生き生きとしたバッハが良かった~。技巧的なパガニーニは、唖然とするような見事さでした。
15分の休憩時間には、富岡楽器の販売コーナーで独奏の成田達輝さんのCDを購入し、カプチーノを飲み、トイレで知人と挨拶代わりの雪談義を交わし、と大忙し。
第3曲めは、チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」です。ヴァイオリンがひそやかにさざめく中で、フルートとファゴットで音楽が始まります。ヴィオラも加わり、ロシア風の音楽が展開されていきます。交響曲とはいうものの、がっちりと構築的な音楽ではなく、むしろロシア民謡風の魅力的な旋律を次々と聴かせてくれるような音楽です。第1楽章での4本のホルンのハーモニーや、トランペットの執拗な同音反復など、チャイコフスキーらしいといえばらしい。やわらかな響きの第2楽章で、ヴァイオリン群とFl,Ob,FgのTopのアンサンブルもステキです。第3楽章では、軽やかなスケルツォらしく、指揮者は踊るように体を揺らして指揮します。ホールの効果もあり、山響は小規模な編成としてはよく鳴るオーケストラだと思いますが、ドヴォジンスキさんはバランスよくコントロールされた音を聴かせます。終楽章では、はじめの序奏部こそ「歩くようにゆったりと、悲しみをもって」という指示のとおりですが、やがてバスドラムやシンバルも加わり、トロンボーンなど金管部隊もバリバリと咆哮し、力強く華やかに終わります。いや~、良かった!
盛大な拍手に迎えられて、何度もステージに呼び出されたドヴォジンスキさんに、花束が贈られます。贈呈役は、最近は通訳にも進出した(^o^)第1ヴァイオリンの今井東子さんでした。ドヴォジンスキさんは、大きな花束を感謝をこめてコンサートミストレスの犬伏亜里さんに贈り、舞台を去りました。
チャイコフスキーの音楽、とくに初期の曲にはそれほど親しみを持っていませんでしたが、ドヴォジンスキさん指揮する我らが山響の演奏で、交響曲第1番の魅力にあらためて目を開かれた思いでした。
終演後のファン交流会では、ソリストの成田達輝さんの山形ローカルネタが再び披露され、たいへん盛り上がりました。カナダの篤志者から楽器を貸与されたこと、素晴らしい楽器に触発されて、今年はベートーヴェンを研究したいと話してくれました。うーむ、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聴いてみたいのは同感です。個人的には、技巧を披露しつつ現代的な抒情を奏でるという意味で、プロコフィエフの協奏曲なども聴いてみたい気がします。
続いて指揮者のドヴォジンスキさんが登場、今井東子さんが通訳をつとめました。山響との演奏会では、シベリウスやショスタコーヴィチの交響曲を振った演奏会が印象的だとのことで、新進気鋭の若手として初めて得た首席客演指揮者というポストが、現在の活躍につながったことになります。今後、さらに大きく活躍してくれる指揮者だと思いますが、山形とのご縁を今後も保ってもらいたいものだと願いながら帰途につきました。帰路は、雪降りでした。
(*1):
山響第201回定期演奏会~ポーランドからの俊英~を聴く~「電網郊外散歩道」2009年12月
(*2):
山響第233回定期演奏会でドヴォルザーク、マルティヌー、ショスタコーヴィチを聴く~「電網郊外散歩道」2013年12月