創立50周年の記念年を過ぎて新たに百周年を目指す、山響こと山形交響楽団の新シーズンの幕開けとなる第308回定期演奏会を聴きました。今回のプログラムは、
- 尾高惇忠 「音の旅」(オーケストラ版、抜粋)
- ショスタコーヴィチ チェロ協奏曲第1番 変ホ長調 Op.107 矢口里菜子(Vc)
- チャイコフスキー 交響曲第4番 ヘ短調 Op.36
広上 淳一 指揮、山形交響楽団
というものです。発表されたときから楽しみにしていましたので余裕を持って出かけたはずでしたが、なんと! 駐車場がどこも満車です! 山形テルサの駐車場も、やまぎん県民ホールの駐車場も、ワシントンホテルの駐車場も、駅ビルの駐車場も、どこもみな満車! 仕方がないので、最後の手段でちょいと料金が高いけれども確実に空いている可能性の高い霞城セントラルの屋内駐車場にしたら、なんとかセーフでした。事情を聞いてみると、どうやらやまぎん県民ホールで開かれているミュージカル「ジキルとハイド」の影響らしい。そっちか〜!
さて、山形テルサホールに入り、プレコンサートトークを待ちます。今回は西濱事務局長と広上淳一さんの掛け合い漫才になるかと思ったら、むしろ「広上淳一、大いに吠える! オーケストラは街の顔、コミュニティの中核だ!」の巻でした。広上さんによれば、オーケストラはその街の人が育てていくもので、その街やその国の品格を表す。むしろ、都市の顔、コミュニティの中核と言ってよい。中には政治や経済界の影響力のある人でも、オーケストラはベルリン・フィルやウィーンフィルがあればよいとさえ言う人がいるが大きな間違いで、むしろ成金的傲慢さに通じるものと言うべき。日本国内にプロのオーケストラは38団体あるが、山響は今や世界的レベルになっている。リップ・サービスでも何でもなく、山形の人たちはそのことを誇ってよい。オーケストラは1つでも潰してはいけないのだ、とのことでした。全く同感です。
ステージ上はいつもの編成よりもかなり拡大されたもので、指揮台を中心にして左から第1ヴァイオリン(10)、第2ヴァイオリン(8)、チェロ(5)、ヴィオラ(6)、コントラバス(3)、要するに 10-8-6-5-4 の弦楽五部となっています。コンサートマスターは、高橋和貴さん。正面奥にはフルート(2)、オーボエ(2)、その奥にクラリネット(2)、ファゴット(2)、この木管セクションの左側にハープとチェレスタが配置され、木管群の奥にはホルン(4)とトランペット(2)、さらにその後方、ステージ最奥部にはティンパニを中央に、右手にトロンボーン(3)とチューバ、左手にパーカッションがずらりと並びます。内訳は、シンバル、バスドラム、スネアドラム、サスペンド・シンバル、シロフォン、グロッケンシュピール、です。この編成で演奏されるのが尾高惇忠「音の旅」抜粋です。もともとは14曲からなるピアノ連弾用の作品なのだそうですが、オーケストラ版では新たに1曲を加えて15曲としたもので、その中から5曲を選んで抜粋したもの、だそうです。第1曲「小さなコラール」、第2曲「森の動物たち」、第4曲「優雅なワルツ」、第6曲「エレジー」、第16曲「フィナーレ〜青い鳥の住む国へ〜」というもので、もちろん初めて耳にしましたが、昨年秋に広上淳一さん指揮で初演された、なんだか可愛らしい面もある佳曲と感じました。
ステージ上は一部の配置が変更され、第1ヴァイオリンがやや左に移動してソリストのスペースを空けて、ここに独奏チェロが来ます。楽器編成は、10-8-6-5-4 の弦楽5部に、Fl(2:うち1はPicc持ち替え)、Ob(2)、Cl(2)、Fg(2:うち1はCont.Fg持ち替え)、Hrn(1)、Timp.、Cel. というもので、かなり異色のものです。深い緑色のドレス姿で登場したチェロ独奏の矢口里菜子さんは、小川和久さんと共に山響のチェロ首席奏者で、今回は矢口さんが抜けたためにチェロ(5)という形になっているようです。ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番は、実演では2006年9月の第175回定期演奏会で、工藤すみれさんの独奏で一度だけ聴いています(*1)。このときもたいへん興味深く聴きましたが、さて今回の演奏は;
第1楽章、アレグレット。特徴的な忙しないようなリズムで始まり、オーケストラもこれに応じます。矢口さんの集中がスゴイ。聴き手にもピリピリと伝わります。ホルンも独奏的に働き、緊迫感を高めます。
第2楽章、モデラート。弦楽合奏が重々しく奏される中に、弔いの歌のようなホルンの音が響きます。チェロが瞑想的な旋律を奏で、クラリネットが深い音を聴かせます。オーケストラも悲歌を歌い、チェロとチェレスタの静かなかけあいの緊張感! ティンパニの遠い轟きの中で静かに終わりますが、休みを入れずにそのまま次の楽章へと移っていきます。この第3楽章が独奏チェロの長大なカデンツァで、多彩な技巧を駆使しつつ表現されるのは、多くの視線の中にあって一人奮闘する高揚感なのか、苦闘する孤独感なのか、それとももう少し別のものなのか。ここもアタッカで次の楽章へ。第4楽章、アレグロ・コン・モト。冒頭の主題をしつこく繰り返しながら聞かせるショスタコーヴィチ節は、ある意味、何かに追われながら逃げているようなスリリングな展開でした。いや〜、オーケストラも独奏チェロも、良かった〜!
聴衆の拍手に応えて、矢口さんのアンコールは「鳥の歌」でした。カザルスが国連で演奏したときと同じく、鳥たちがピース、ピースと歌っていると伝えたかったのでしょうか。
休憩の後、3曲めはチャイコフスキーの交響曲第4番です。この曲は、チャイコフスキーにとっては夫人との離婚問題で自殺未遂まで引き起こすほどの失意の時期を経て、フォン・メック夫人の経済的・精神的な応援によりようやく回復期に入る頃の作品です。基本的には暗いトーンが流れているのですが、その中でも印象的な工夫が織り込まれ、個人的にはチャイコフスキー作品の中でお気に入りの音楽となっています。
楽器編成は、10-8-6-6-4 の弦楽5部、チェロが6になったのはショスタコーヴィチでソロを聴かせた矢口さんが定位置に戻ったから。演奏家もなかなか大変です。木管が Picc(1)-Fl(2)-Ob(2)-Cl(2)-Fg(2) となっており、ピッコロはFl(2)の持ち替えではなくて小松崎さんが担当。金管は Hrn(5)-Tp(2)-Tb(3)-Tuba とこちらも増強。最奥部正面にティンパニ、その左側にバスドラム、シンバル、トライアングルのパーカッションが位置しています。第1楽章、今回の演奏で気づいたことは、ティンパニがほとんど常にバックでリズムを刻んでいること。そういえば、プログラムでも常磐紘生さんが★(首席奏者)になっています。そういえば、今回のプログラムでは3曲ともティンパニが大活躍していることに今更ながら気づいた次第。第2楽章、弦のピツィカートの中でオーボエが主題を奏し、これがチェロに移ってやがて弦楽合奏になっていきますが、このときの木管の、あるいはホルンやトランペット等のバックがほんとにすてきです。
第3楽章、終始、弦楽セクションが弓を置いてピツィカートで奏されますが、広上さん、踊るように指揮をします。こういうところ、チャイコフスキーはかなりアバンギャルドだったのかもしれません(^o^)/
もう一つ、コントラバスの piz. はやっぱり迫力が違います。そして Ob の一声でガラリと変わり、弦楽セクションがお休みで管楽セクションの出番となるあたりの切り替えも、チャイコフスキーはかなり割り切ってる気がする(^o^)/
第4楽章、ここは何と言ってもシンバルの大爆発! 決して明るい曲ではないけれど、カッコいい音楽です。いつもの山響よりも拡大されたパワフルな響きで、こうした伸びやかな演奏もいいものです。広上淳一さんの面目躍如といったところでしょうか。良かった〜!
しかし、昨年と比べて今年の定期会員数が100人も増え、某ミュージカルの山形公演とぶつかっても定期演奏会がほぼ満席になるというのは、山響の評価と人気がいよいよ高まってきているということだな。これはたいへん喜ばしいことです。次回の定期演奏会も楽しみです。
(*1):
山形交響楽団第175回定期演奏会を聴く〜「電網郊外散歩道」2006年9月