オーディオ装置ではなく、コンピュータで音楽を聴く機会が増えています。一つの理由は、著作権の保護期間が過ぎて、公共の財産として公開される音源が増えてきたことです(*)。以前は、太古の歴史的録音が中心で、資料として調べるにはともかく、必ずしも聴いて楽しいレベルとはいえませんでした。ところが近年は、若い頃には現役盤として通用していたステレオ録音が、続々と公共の財産の仲間入りをしています。これまで、入手したくとも廃盤や品切れで涙を飲んでいたタイトルが、ネット上で自由に何度でもダウンロードできるのですから、ありがたい限りです。当方、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管の正規録音を集めようともくろみ、週末農業や散歩の際のおともにすべく、わざわざソニーのウォークマンを購入しているほど(*2)です。
さて、当方のパソコンのオペレーティング・システムである Ubuntu Linux 上では、RhythmBox というソフトウェアが標準装備となっておりますが、これのいいところは、何回繰り返して聴いているかを記録してくれるところです。この点は、いくら高価なオーディオシステムでも、たぶんできないのではないかと思います。たとえばシューマンの「Andante & Variations」は30回を超えていますし、ヴィヴァルディの合奏協奏曲集「ラ・チェトラ」も、二枚組を連続演奏できるからか、もうすぐ30回に迫ろうというところです。
そして、ただいま自宅で繰り返し聴く頻度が多いのが、ハイドンの交響曲第99番、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団の演奏、1957年の録音です。英国の興業主ザロモンがハイドンを招いて開いた演奏会が大人気で、二回目も大きな収入を手にします。その結果、ウィーンでようやく自由な暮らしを謳歌することができることとなった、第2期ザロモン・セットの最初の作品(1793年)とのこと。ベートーヴェンの、フレッシュで魅力的な第1番の交響曲までは、あと7年というところです。
楽器編成は、Fl(2)、Ob(2)、Cl(2)、Fg(2)、Hrn(2)、Tp(2)、ティンパニ、弦5部というもの。これまで、クラリネットを使っていなかったハイドンが、始めてクラリネットを取り入れた曲として有名なのだとか。このあたりは、むしろ後輩モーツァルトの影響とも言えます。
第1楽章:アダージョ~ヴィヴァーチェ・アッサイ。序奏付きソナタ形式。出だしが重厚ですが重たくない序奏部を経て、比較的速めのテンポで、たいへん充実した音楽を展開します。
第2楽章:アダージョ、ソナタ形式。優美な弦楽合奏に始まり、管楽器が音を添えます。転調によりドラマティックな部分を経て、再び優美な主題が再現されます。
第3楽章:メヌエット~トリオ、アレグレット。舞曲スタイルのメヌエット楽章です。英国の聴衆にも受けたことでしょう。
第4楽章:フィナーレ、アレグロ。軽快で、かつ堂々たるフィナーレです。
セルのハイドンは、一見して生真面目なスタイルながら、明快で推進力があります。そして、トランペットはけっこう華やかに炸裂させながら、オーケストラ全体の響きのバランスのコントロールが実に見事だと思います。ハイドンの音楽を、おもしろく聴くことができる、たいへん優れた演奏だと感じます。こういう演奏が録音として残され、時が過ぎて公衆の財産となったことを喜びたいものです。
■ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団
I=8'32" II=5'24" III=6'15" IV=4'15" total=24'26"
(*):
ジョージ・セル指揮ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」がパブリックドメインに~「電網郊外散歩道」2010年2月
(*2):
散歩のお供に~ウォークマンE(4GB)の使用感~「電網郊外散歩道」2010年2月