よく晴れた秋の日曜日、山響こと山形交響楽団の第312回定期演奏会を聴きました。今回は、小林研一郎さんの指揮、瀬崎明日香さんのヴァイオリンで、次のようなプログラムとなっています。
- コダーイ「ガランタ舞曲」
- サン=サーンス「序奏とロンド・カプリチオーソ」 Vn:瀬崎明日香
- サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」 Vn:同上
- ドヴォルザーク「交響曲第8番」
小林研一郎 指揮、山形交響楽団
いつもは、指揮者が登場して西濱事務局長とトークをするのですが、今回は何か趣向があるようで、左奥に使わないはずのピアノが置いてあります。指揮者に代わって登場したのは、今回の独奏者の瀬崎明日香さん。先ごろ逝去された山形交響楽協会会長の三井嬉子さんの思い出や、指揮者のコバケンこと小林研一郎さんのことなどを話しました。それから指揮者の小林さんが紹介されて登場、というよりも、話しながらピアノに向かい、コダーイのガランタ舞曲の旋律を紹介した後、フルートの知久翔さん、オーボエの柴田祐太さん、クラリネットの川上一道さんの三人に吹いてもらい、その魅力を話します。続いてホルンの勇壮な旋律とチェロの聴きどころを紹介、なるほど、あまり知られていない曲目の魅力を紹介して親しんでもらおうということなのだな。コバケンという愛称で親しまれている理由がわかりました。川上さんを山本さんと間違えた小林さんのおちゃめさも、苦笑しながらちゃんと手を挙げた川上さんも、筋書き通りにはいかない本番の面白さかも(^o^)/
それで、第1曲め、コダーイの「ガランタ舞曲」です。作曲家の石川浩さん執筆のプログラムノートによれば、この曲は「1933年に創立80週年を迎えたブダペスト・フィルハーモニー協会の祝賀行事のために書かれた作品」だそうで、2017年に飯森範親さんの指揮で聴いて以来(*1)、実演では二度目となります。楽器編成と配置は、左から第1ヴァイオリン(10)、第2ヴァイオリン(8)、チェロ(6)、ヴィオラ(5)、その右にコントラバス(4)と、ヴァイオリン群を増強、ヴィオラが少ないけれど、コントラバスも増やしているようです。正面奥にフルート(2)、オーボエ(2)、その奥にクラリネット(2)、ファゴット(2)、その奥にトランペット(2)、木管の左にホルン(4)、正面最奥部のティンパニの左にトライアングル、スネア・ドラム、グロッケンシュピールのパーカッションが並ぶ、というものです。
出だしのチェロの哀感を持った旋律が勇壮なホルンに引き継がれて曲が始まると、ダイナミックで美しい音楽となります。フルートからオーボエ、クラリネットと見事に引き継がれる例の部分も本当に魅力的で、リズムも響きも多彩な音楽・演奏に魅了されました。聴衆も爆発的な拍手、でも指揮者が言うとおり、「こんなスゴイ演奏には起立して表すべき」でしょう。スタンディングオベーションでした。
この後、独奏者の場所を取るためにヴァイオリン・パートを左に少し下げますが、楽器編成と配置は変わらず。左袖から独奏者が登場、少し緑色がかった水色のドレスで、瀬崎明日香さんの登場です。指揮者は先の「ガランタ舞曲」では暗譜でしたが、今回はスコアを置いているようです。サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」は、「序奏と気まぐれなロンド(輪舞曲)」というような意味でしょうか、スペイン風というかジプシー風というか、エキゾティックで高度に技巧的な音楽で、思わずリズムに乗せられてしまいます。大きな拍手に続き、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」を演奏します。オーケストラが哀愁を帯びて開始すると、独奏ヴァイオリンがやっぱりジプシー風の「あの」旋律を奏します。どうしても独奏ヴァイオリンに聴き惚れてしまいますが、寄り添うオーケストラの美しさも特筆モノです。とりわけ瞑想的なところ、弱音部の繊細な響きは素晴らしかった。
聴衆の大きな拍手に応えて、アンコールはドヴォルザーク「ジプシー歌曲集」から「我が母の教え給いし歌」を無伴奏で。今回はジプシー音楽との関連をテーマにしたということでしょうか、独奏ヴァイオリンがロマ出身のソプラノ歌手のように歌い、こちらも素晴らしかった。
ここで、15分の休憩です。
後半は、ドヴォルザークの交響曲第8番。楽器編成は、Fl(2,うち1がピッコロ持ち替え)、Ob(2,うち1がイングリッシュホルン持ち替え)、Cl(2)、Fg(2)、Hrn(4)、Tp(2)にTb(3)とTubaが加わります。弦は1st-Vnの最後尾に瀬崎明日香さんが加わり、なんとも豪華な 11-8-5-6-4 という編成。バランス的に弦の中低域パートには負担がかかるのかもしれませんが、ゲストの参加に楽員の皆さんの志気は高まっているようです。私の大好きなドヴォルザークの8番、お天気の良い果樹園で仕事をするときに聴きたい曲のナンバーワン、しんねりむっつりするのではなくて、やっぱり開放的に持てる力を存分に発揮するのが合うのかもしれないと思わせる爆発でした! 音楽の心を届けるのは客席だ!と言わんばかりに客席の方を指差しながら指揮する姿に、音楽と楽員をコントロールするのではなくて、あるいはひそやかにコントロールしながらも、演奏者の自発的な気持ちを引き出すのがコバケン流なのだなと感じさせる演奏でした。ブラーヴォ! スタンディングオベーションでした。
山響の定期演奏会には珍しく、アンコールがありました。山響との共演を約束していた三井嬉子さんを偲び、約束を果たしましたよと「ダニーボーイ」を。その後、三井さんは山響がしんみり終わるのは喜ばないだろうからと、ドボルザークの交響曲第8番、第4楽章の最後の爆発をもう一度! 楽員の皆さんも手を振ってお別れしました。ほんとに良い演奏会でした。
この前、写真撮影が解禁となるタイミングが事務局から明示されましたので、少しだけ撮影してみました。指揮者の指示でホルンセクションが起立し、聴衆の拍手を受けている場面です。いいなあ。写真を見ると思い出されます。
(*1):
山形交響楽団第264回定期演奏会でコダーイ、ニーノ・ロータ、ブラームスを聴く〜「電網郊外散歩道」2017年11月