「宗教に揺れるイタリア -移民の急増、イスラムとの向き合い方-」に参加しました(2017.10.21)@星美学園短期大学公開講座
雨の中(選挙の前日)行ってきました星美学園公開講座!
1. 注視/攻撃されるイスラム
まずは2015年1月に起きたシャルリ・エブド事件について この事件のあとにイタリア国内のムスリムへのインタビューをした際のコメントをご紹介いただきながら ムスリムとの関連づけがおのずとなされているのではないかとの指摘
まず人口約605万人のイタリアでのムスリム人口は 人口の3~4% 160万人程度とのこと
ここでローマにあるヨーロッパ最大のモスクをご紹介いただきました
出身国や地域は多様性に富んでおり 一枚岩の集合体ではないところが トルコ移民の多いドイツや北アフリカ移民の多いフランスとは違う点など またイタリアでは1990年代から入り始めており まだ移民2世は学齢期が多い等を伺いました
次に 「北部同盟(Lega Nord→Lega)」の 国内のムスリムを対象とした攻撃的な発言 そして ネオ・ファシストをルーツに持つ「国民同盟(Alleanza Nazionale)」(2009年に解散)のイスラム嫌悪発言についてご紹介いただきました
2. イタリアの排外主義の展開について
ここでは 移民の受け入れと法整備の展開の流れについて お話いただきました
アニメ「母をたずねて三千里」をどーんとご紹介いただき(あっ なつかしい!!) 1861年のイタリア統一から約100年間は 2600万人の移民を アメリカ アルゼンチン等に送り出していた「移民送り出し国」だったこと
それが1990年代頃から急激に 移民受け入れ国に転換したこと
1971年に逆転し始め 12,2万人受け入れ 1997年100万 2007年300万 そして2017年の「外国籍市民」は504.7万人 人口の約8.3%にもなったこと
この中において「移民法」の整備はどうだったのかを見てゆきました
1990年のマルテッリ法から 1998年のトゥルコ・ナポリターノ法 そして2002年のボッシ・フィーニ法への流れをお話いただきました
トゥルコ・ナポリターノ法は 中道左派のプローディ政権下で生まれた 移民をイタリア社会の新たな構成員として包括する方向性を示唆しましたが 移民の急増に歯止めかける意図は実効性には乏しく 次にできたボッシ・フィーニ法は 中道右派政権下(ベルルスコーニ政権)で生まれたもので 移民を社会の不安要素との前提のもとに増加に歯止めをかけるものですが 実効性はやはり乏しいものでした
この北部同盟のいう 「貧しい南部に北部の富が奪われる」との持論ですが イタリアは欧州でも競争力は低く 南部が北部の市場となっているのではないかとの見解には聞く耳は持たないようです 90年代に移民が増加してから 治安悪化を理由に反移民を掲げますが 有用な労働力とみなす現実的な観点も織り込んでいて 治安・移民部は「移民に関する一般ガイドライン」を定めています
イタリアの排外主義に抗する動きとしては 内閣府に「反人種差別局」がありEU加盟国としてチェックが入ります また移民問題に取り組むNGOや 左派勢力 カトリック(カリタス等が有名)があり 特にイタリア統一150周年記念事業のひとつとして作られた「国立移民博物館(Museo Nazionale Emigrazione Italiana/MEI)」について 写真を見ながらご説明いただきました ローマのヴィットリオ・エマヌエレ二世記念堂の中にありましたが ジェノヴァに移転されるようです(移民を送り出した街でもあるし...)
そしてまた教皇フランシスコについてお話いただきました 彼がシャルリ・エブド事件のあとに語った言葉(表現の自由と同時に宗教の自由がある云々) 就任後の洗足式でムスリムの少年もいる少年院に赴き 宗教間対話に取り組む教皇フランシスコ... ローマのお土産屋さんで買ったバチカンのカレンダーも見せていただきました
教皇はアルゼンチン出身ですが 両親はイタリア移民で 教皇自らがよく電話をかけるので その電話対応のマニュアルもあるそうです! コンクラーベの時に一斉にローマ中の教会の鐘が鳴りだした時の感動をお話くださり こちらまで感動しました(#^.^#)
休憩をはさんで 次は3. 宗教と社会の位相です
共和国憲法(第二次大戦後に反ファシズムのもとでできた)の規定にもとづく「協約」のシステムについてご説明いただきました
カトリック以外の宗教・宗派が 国家と「協約」を締結し 宗教にかかるさまざまな権利が行使できます
「オット・ペル・ミッレ制度(1000分の8制度/Otto per mille)」に基づく税配分についても伺いました 所得税の0.8%を 宗教団体もしくは国庫に入れるかを選べるのですね カトリックを選ぶ人が相対的に多いようですが カトリック指定率は低下しているとのこと
ただイタリアは 共和国憲法/Costituzione della Repubblica italiana(1947年)と ラテラノ協定/Patti lateranensi(1929)の二重構造となっているため ラテラノ協定ではカトリックがイタリア唯一の宗教と取り決めているのでその矛盾が何十年も残っているのですね...ここで講師の先生の在ローマ中のさまざまなエピソードが入り イタリアの「おおらかさ」を実体験された興味深いお話に ついつい耳がダンボに(笑)
現状の政教協約(ヴィッラ・マダーマ協約/1984年)は「ラテラノ協約の改正」と位置付けられ カトリックの特別な位置づけについて見直しされています
一方 イスラムの諸団体は イスラム文化センター(Centro Culturale Islamico d'Italia) UCOII(Unione delle Comunità Islamiche d'Italia)等や イタリアイスラム教協議会等がありますが 求心力を持つ代表者が不在等の理由で 実は「協約」は未締結なのだそうです 移民の増加とともにカトリックに次ぐ第2の宗教へとなったのですが...
この辺の事情についてもお話いただきました
4. ナショナル・アイデンティティの位相
よく知られていますが イタリア人としてのアイデンティティよりも 自分の街のアイデンティティの方が強いため (郷土愛/カンパニリズモ/campagnilismo) ナショナル・アイデンティティの不在があります
その不在を穴埋めしうる要素として カトリックが根付いたイタリア社会(カトリック=イタリア・アイデンティティ) また 国境を越えた世界的広がりをもつカトリック その他の矛盾をも含めたお話を色々としてくださいました
イタリアの非カトリック化もそのひとつで 離婚法(1970年代)や人工妊娠中絶法(1978年)等 世俗化の流れに押されていっていますね
* ここで思い出しました! 映画「眠れる美女(Bella addormentata)」でも 「エルアーナ事件」がきっかけとなった尊厳死の法案がテーマとなっていましたね
そしてまた カトリックの非イタリア化もだんだんと進みつあります 大戦後の直近3代の教皇は非イタリア人であり キリスト教徒にヨーロッパ人が占める割合も低下する見通しで 南米は現状維持 サブサハラ地域(アフリカのサハラ砂漠以南)の伸びが見込まれるそうです
また 公立学校での十字架設置をめぐっての欧州人権裁判所の判決などもご紹介いただきました
というわけで 移民というよりは イタリア社会の状況を反映したイスラムへの向き合い方についてお話いただきました
続く質疑応答では 1.経済が移民排斥と関係がある中 なぜ南部ではなく豊かな北部に移民排斥が多いのか?について 南部は失業率が高いので移民は北部(工業地帯)を目指してくる (ちなみにイタリアの失業率は アルバイトやパートについている人も失業者にカウントするそうで 日本とは違うそうです)
2. イタリアの諸政党について 3. 難民の増加について これは海難事故の報道もあり (ランペドゥーサ島など) 難民は独・仏を目指してくるが 地理的にも海路ではまずイタリア そして今イタリアの難民施設はパンク状態で 巡視船も予算がなくEUに支援を求めている というお話をしていただきました 本当に年を追うごとに難民が増えてゆく中 何ができるのか...考えさせられるお話をいただきました
講座に出てお話を聞くと 今まで断片的だった知識が 全体的に形を整えて頭にすっと入り そのあとこうして色々調べてゆくと とてもよくわかるようになるのです
また イタリアも2018年3月4日の総選挙を経て さらに様変わりしていますね...
2018年度の公開講座は こちら
* 写真は ヴァチカンのピーニャの中庭 (2008年の語学留学の時の)
イタリア語ランキング
にほんブログ村
雨の中(選挙の前日)行ってきました星美学園公開講座!
1. 注視/攻撃されるイスラム
まずは2015年1月に起きたシャルリ・エブド事件について この事件のあとにイタリア国内のムスリムへのインタビューをした際のコメントをご紹介いただきながら ムスリムとの関連づけがおのずとなされているのではないかとの指摘
まず人口約605万人のイタリアでのムスリム人口は 人口の3~4% 160万人程度とのこと
ここでローマにあるヨーロッパ最大のモスクをご紹介いただきました
出身国や地域は多様性に富んでおり 一枚岩の集合体ではないところが トルコ移民の多いドイツや北アフリカ移民の多いフランスとは違う点など またイタリアでは1990年代から入り始めており まだ移民2世は学齢期が多い等を伺いました
次に 「北部同盟(Lega Nord→Lega)」の 国内のムスリムを対象とした攻撃的な発言 そして ネオ・ファシストをルーツに持つ「国民同盟(Alleanza Nazionale)」(2009年に解散)のイスラム嫌悪発言についてご紹介いただきました
2. イタリアの排外主義の展開について
ここでは 移民の受け入れと法整備の展開の流れについて お話いただきました
アニメ「母をたずねて三千里」をどーんとご紹介いただき(あっ なつかしい!!) 1861年のイタリア統一から約100年間は 2600万人の移民を アメリカ アルゼンチン等に送り出していた「移民送り出し国」だったこと
それが1990年代頃から急激に 移民受け入れ国に転換したこと
1971年に逆転し始め 12,2万人受け入れ 1997年100万 2007年300万 そして2017年の「外国籍市民」は504.7万人 人口の約8.3%にもなったこと
この中において「移民法」の整備はどうだったのかを見てゆきました
1990年のマルテッリ法から 1998年のトゥルコ・ナポリターノ法 そして2002年のボッシ・フィーニ法への流れをお話いただきました
トゥルコ・ナポリターノ法は 中道左派のプローディ政権下で生まれた 移民をイタリア社会の新たな構成員として包括する方向性を示唆しましたが 移民の急増に歯止めかける意図は実効性には乏しく 次にできたボッシ・フィーニ法は 中道右派政権下(ベルルスコーニ政権)で生まれたもので 移民を社会の不安要素との前提のもとに増加に歯止めをかけるものですが 実効性はやはり乏しいものでした
この北部同盟のいう 「貧しい南部に北部の富が奪われる」との持論ですが イタリアは欧州でも競争力は低く 南部が北部の市場となっているのではないかとの見解には聞く耳は持たないようです 90年代に移民が増加してから 治安悪化を理由に反移民を掲げますが 有用な労働力とみなす現実的な観点も織り込んでいて 治安・移民部は「移民に関する一般ガイドライン」を定めています
イタリアの排外主義に抗する動きとしては 内閣府に「反人種差別局」がありEU加盟国としてチェックが入ります また移民問題に取り組むNGOや 左派勢力 カトリック(カリタス等が有名)があり 特にイタリア統一150周年記念事業のひとつとして作られた「国立移民博物館(Museo Nazionale Emigrazione Italiana/MEI)」について 写真を見ながらご説明いただきました ローマのヴィットリオ・エマヌエレ二世記念堂の中にありましたが ジェノヴァに移転されるようです(移民を送り出した街でもあるし...)
そしてまた教皇フランシスコについてお話いただきました 彼がシャルリ・エブド事件のあとに語った言葉(表現の自由と同時に宗教の自由がある云々) 就任後の洗足式でムスリムの少年もいる少年院に赴き 宗教間対話に取り組む教皇フランシスコ... ローマのお土産屋さんで買ったバチカンのカレンダーも見せていただきました
教皇はアルゼンチン出身ですが 両親はイタリア移民で 教皇自らがよく電話をかけるので その電話対応のマニュアルもあるそうです! コンクラーベの時に一斉にローマ中の教会の鐘が鳴りだした時の感動をお話くださり こちらまで感動しました(#^.^#)
休憩をはさんで 次は3. 宗教と社会の位相です
共和国憲法(第二次大戦後に反ファシズムのもとでできた)の規定にもとづく「協約」のシステムについてご説明いただきました
カトリック以外の宗教・宗派が 国家と「協約」を締結し 宗教にかかるさまざまな権利が行使できます
「オット・ペル・ミッレ制度(1000分の8制度/Otto per mille)」に基づく税配分についても伺いました 所得税の0.8%を 宗教団体もしくは国庫に入れるかを選べるのですね カトリックを選ぶ人が相対的に多いようですが カトリック指定率は低下しているとのこと
ただイタリアは 共和国憲法/Costituzione della Repubblica italiana(1947年)と ラテラノ協定/Patti lateranensi(1929)の二重構造となっているため ラテラノ協定ではカトリックがイタリア唯一の宗教と取り決めているのでその矛盾が何十年も残っているのですね...ここで講師の先生の在ローマ中のさまざまなエピソードが入り イタリアの「おおらかさ」を実体験された興味深いお話に ついつい耳がダンボに(笑)
現状の政教協約(ヴィッラ・マダーマ協約/1984年)は「ラテラノ協約の改正」と位置付けられ カトリックの特別な位置づけについて見直しされています
一方 イスラムの諸団体は イスラム文化センター(Centro Culturale Islamico d'Italia) UCOII(Unione delle Comunità Islamiche d'Italia)等や イタリアイスラム教協議会等がありますが 求心力を持つ代表者が不在等の理由で 実は「協約」は未締結なのだそうです 移民の増加とともにカトリックに次ぐ第2の宗教へとなったのですが...
この辺の事情についてもお話いただきました
4. ナショナル・アイデンティティの位相
よく知られていますが イタリア人としてのアイデンティティよりも 自分の街のアイデンティティの方が強いため (郷土愛/カンパニリズモ/campagnilismo) ナショナル・アイデンティティの不在があります
その不在を穴埋めしうる要素として カトリックが根付いたイタリア社会(カトリック=イタリア・アイデンティティ) また 国境を越えた世界的広がりをもつカトリック その他の矛盾をも含めたお話を色々としてくださいました
イタリアの非カトリック化もそのひとつで 離婚法(1970年代)や人工妊娠中絶法(1978年)等 世俗化の流れに押されていっていますね
* ここで思い出しました! 映画「眠れる美女(Bella addormentata)」でも 「エルアーナ事件」がきっかけとなった尊厳死の法案がテーマとなっていましたね
そしてまた カトリックの非イタリア化もだんだんと進みつあります 大戦後の直近3代の教皇は非イタリア人であり キリスト教徒にヨーロッパ人が占める割合も低下する見通しで 南米は現状維持 サブサハラ地域(アフリカのサハラ砂漠以南)の伸びが見込まれるそうです
また 公立学校での十字架設置をめぐっての欧州人権裁判所の判決などもご紹介いただきました
というわけで 移民というよりは イタリア社会の状況を反映したイスラムへの向き合い方についてお話いただきました
続く質疑応答では 1.経済が移民排斥と関係がある中 なぜ南部ではなく豊かな北部に移民排斥が多いのか?について 南部は失業率が高いので移民は北部(工業地帯)を目指してくる (ちなみにイタリアの失業率は アルバイトやパートについている人も失業者にカウントするそうで 日本とは違うそうです)
2. イタリアの諸政党について 3. 難民の増加について これは海難事故の報道もあり (ランペドゥーサ島など) 難民は独・仏を目指してくるが 地理的にも海路ではまずイタリア そして今イタリアの難民施設はパンク状態で 巡視船も予算がなくEUに支援を求めている というお話をしていただきました 本当に年を追うごとに難民が増えてゆく中 何ができるのか...考えさせられるお話をいただきました
講座に出てお話を聞くと 今まで断片的だった知識が 全体的に形を整えて頭にすっと入り そのあとこうして色々調べてゆくと とてもよくわかるようになるのです
また イタリアも2018年3月4日の総選挙を経て さらに様変わりしていますね...
2018年度の公開講座は こちら
* 写真は ヴァチカンのピーニャの中庭 (2008年の語学留学の時の)
イタリア語ランキング
にほんブログ村