『隔離か/共生か ―近世ヴェネツィアのゲットーとユダヤ人― Segregazione o simbiosi? Ghetto ed ebrei di Venezia nella prima età moderna』と「ボーダークロッシングス展 —行き来する、その先へ—子どもと自然とデジタル/Sconfinamenti Incontri con soggetti viventi / Paesaggi digitali」に行ってきました(2025.1.24)@イタリア文化会館
2025年の「記憶の日」(Giorno della Memoria) では ヴェネツィア・ゲットーについて リッカルド・カリマーニ著『ヴェニスのユダヤ人 ゲットーと地中海の500年』(名古屋大学出版会、2024年)の監訳をされた鹿児島大学教授 藤内哲也氏による講演会が開催されました
近世ヴェネツィアにおけるゲットーと そこに暮らすユダヤ人の諸相 キリスト教徒との関係性などについて紹介しながら ゲットーという空間が帯びることとなった社会的・文化的な性格や機能について考察してゆきました
『ヴェニスのユダヤ人 ゲットーと地中海の500年』とその原書 他書籍の展示
1516年3月 ヴェネツィア政府はゲットー・ヌオーヴォ(Ghetto nuovo)と呼ばれる小島にユダヤ人を強制的に集住させることを決定しました
以来 18世紀末の共和国滅亡の時まで ユダヤ人はゲットーに隔離されることになります
ゲットーには長期にわたってユダヤ人の身が居住させられていたことから ユダヤ人の信仰や文化 生活慣習が保持される一方 キリスト教徒との日常的な接触や知的交流も展開されました
このような状況を私たちはどのように理解することができるのでしょうか (案内文より)
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著者のリッカルド・カリマーニ(Riccardo Calimani)氏は1946年生まれで ご家族は1517年のヴェネツィア・ゲットー (Ghetto di Venezia) 成立当初から住んでいたそうです
ピンクがゲットー・ヌォーヴォ 緑がゲットー・ヴェッキオ ヌォーヴォの方が先に建てられました
ゲットーは 金融業を営むユダヤ人の経済力を利用したいものの 一方でユダヤ人を排除したいヴェネツィア政府による妥協の産物でした
夕方にはゲットーの門が閉められて夜間は外に出られません
黄色いバッジと帽子を被る事を義務付けられていました 居住のための特許状は定期的に更新しなければならず不安定でした
金融業以外にはつけず 利子もヴェネツィアでは低かったそうです
ドイツ人商館( Fondaco dei Tedeschi) トルコ人商館(Fondaco dei Turchi)等 外国人商人のための居住施設もご紹介いただきました
コンタクトゾーンとしてのゲットー
ゲットー内ではキリスト教徒との接触や交流がありました キリスト教徒の家政婦等から強制洗礼をされた赤ん坊の例や 勧誘されてキリスト教に改宗したりということがあり いくつかの例をご紹介いただきました 緊張をはらんだ関係ですね
レオーネ・ダ・モデナ (Leone da Modena) は モデナで成功した家の出のラビで キリスト教徒も彼の説教を聴いて感激したとあります
ベネツィア貴族との結びつき またパトロネイジの関係がありました
息子のトラブルを和解させたり 裁判官を買収したことがばれそうになり逮捕を恐れて逃げたり等人間的ですね...
女性詩人サラ・コッピオ・スッラム (Sarra Copia Sullam) は 文学サロンを主宰しており キリスト教改宗を迫られるも拒否したとのこと
また ギャンブルにのめり込んだり 錬金術に成功するもヒ素中毒で早世するなどの例をご紹介いただきました
最後は 共生をもたらす前提や実態は?について 1797年にヴェネツィア共和国がナポレオンによって滅ぼされゲットーも撤廃され 門も撤去されました
マラーノ(やむなくキリスト教に改宗したユダヤ人)として 行き交う相手によって帽子をかぶり直す等が紹介されました
共生とは単純な形ではなく 時代や社会ごとで異なり それを理解するために多元的な関係を知ることが大切とのしめくくりでした
続く質疑応答では 他の街でのゲットーについて
フェッラーラ ローマ アンコーナ フィレンツェ シエナ等が紹介されましたが もともと古くからユダヤ人が住んでいる地域を囲んで門を作りゲットーとしたとのこと もともとマイノリティは固まって住むのですね
一方リボルノでは自由に居住できてシナゴーグもあったそうです
また ゲットー(ghetto)の語源について gettare 鋳造する との説とその反論等をご紹介くださいました (スペイン語でユダヤ人街はjuderia)
「すべての人々は 敬意をもって扱われるべきである」とのカリマーニの本の冒頭の言葉が 世界で色々起きている今 心に響きました
開催のお知らせは こちら
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「ボーダークロッシングス展 —行き来する、その先へ—」を観てきました(2025.1.18~2.1)@イタリア文化会館エキシビションホール
夕方5時半までは こちらを観ていました ずっと昔にワタリウム美術館で同様の展覧会「レッジョ・エミリア 驚くべき学びの世界展」(2011年)をやっていたことを思い出しながら...
北イタリア発祥の創造的な思考を育む教育「レッジォ・エミリア・アプローチ」は 1990年代にアメリカ版ニューズウィーク誌に「世界で最も先端的な幼児教育」として取り上げられたことを発端に高く評価され 近年より一層の注目を集めています
今の子どもたちは生まれながらにデジタル・ネイティブです デジタルと自然とのかかわりを様々な観点から試してゆく試みに惹かれました 保育関係の若い方たちが熱心に観ていました
自然とデジタルの関係性についての研究事例
植物をマイクロスコープで観ると違う世界が😲
開催のお知らせは こちら
この日は早めに行き図書館にも立ち寄り 17:30まで展示を観て 講演と質疑応答終了の20:15までおり 用意された内容もすべて聞けてよかったです😊
素晴らしいイベントを開催してくださいましたイタリア文化会館様に心よりお礼申し上げます