ぬえの能楽通信blog

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活動報告書(2014.10.30~11.02)

2015-01-21 19:43:48 | 能楽の心と癒しプロジェクト
能楽の心と癒やしプロジェクト
第24次被災地支援活動
(2014年10月30日~11月02日)


 〔活動報告書〕

【趣旨と活動の概要】

 東日本大震災被災地支援を目指す在京能楽師有志「能楽の心と癒やしプロジェクト」では、能楽の持つ邪気退散、寿福招来の精神を被災地に伝えるべく、2011年6月よりすでに23度に渡り岩手県釜石市、陸前高田市、宮城県石巻市、気仙沼市、南三陸町、女川町、東松島市、仙台市、大崎市、登米市および福島県双葉町の住民が避難していた旧埼玉県立騎西高校避難所にて能楽を上演することによって被災者を支援する活動を行って参りましたが、このたびプロジェクトメンバーのうち能楽チームの八田、寺井およびゲスト能楽師の熊本俊太郎は、去る10月30日~11月2日の4日間に渡り宮城県・七ヶ浜町、多賀城市、および気仙沼市にて仮設住宅慰問、ならびに仮設商店街を訪問して能楽の上演を行いました(※注2)。

今回の活動は寺井のスケジュールが合わなかったため後半はゲスト能楽師の熊本俊太郎氏が初めて参加致しました。また特筆すべきは、やはりプロジェクトの3年半におよぶ活動の中で、はじめて七ヶ浜町および多賀城市の仮設住宅での上演が実現したことでしょう。同市町での活動のコーディネートは仙台市在住の梅津周子さんがその労を担ってくださいました。梅津さんは気仙沼市民でプロジェクトの協力者である村上緑さんにご紹介頂きましたが、気仙沼を中心に、人と人との繋がりがプロジェクトの活動の幅を拡げていることを実感致します。

この時期、公営災害住宅の建設が計画より遅れ、当初2年間の予定だった仮設住宅の設置が、宮城県の場合5年にまで延長された、というニュースに接しました。是非の議論が続きながら建設が始まった防潮堤、また東京オリンピックの開催決定による競技施設の建設などにより、建設作業員の不足や資材の高騰が起こったことが公営災害住宅の建設が遅れる原因になっているとも仄聞しております。一部では抽選が始まったとも聞く公営災害住宅ではありますが、仮設住宅の解消にはまだまだ道は遠い、というのが実感です。

また気仙沼では旧「鹿折復幸マルシェ」が移転した「鹿折復幸マート」にてはじめての上演をさせて頂きました。毎々お世話になっています「鹿折復幸マルシェ」は、1年ほど以前から始まった地盤沈下した地域のかさ上げ工事により期限を区切って移転営業する事になり、「鹿折復幸マート」として再オープンしたのですが、仮設商店街から仮設商店街への移転もまた他に例がないと思います。この地区にはかつて震災遺構として残すか解体かで揺れた巨大漁船「第十八共徳丸」がありましたが、1年ほど前に解体された後は「マルシェ」のお客さんが1/20に激減したとも聞いております。「マート」への移転によって、ある程度賑わいがある内湾地区に近づいたことで、新たな発展に繋がることを祈念しております。

【出演者】
八田達弥、寺井宏明(能楽の心と癒やしプロジェクト)
ゲスト能楽師 熊本俊太郎
【協力者】(敬称略)
 村上緑/梅津周子/高橋信行/東日本大震災圏域創生NPOセンター/NPO法人アクアゆめクラブ七ヶ浜町応急仮設住宅総合サポートセンター/ 多賀城市社協復興支えあいセンター/鹿折復幸マート/㈱五十番タクシー
【主催】
 能楽の心と癒やしプロジェクト

【活動記録】(敬称略)

10月30日(木)

八田のみ未明に 東京を出発
仙台市秋保等にて打合せのあと多賀城市に移動、今回七ヶ浜町および多賀城市の仮設での活動をコーディネートしてくださった梅津周子さんに会い、翌日の活動の移動方法などを下見。および2か所の仮設住宅の事務所に挨拶。
10月31日(金)

早朝 夜行バスで到着の寺井宏明および気仙沼から到着の村上緑をピックアップ、七ヶ浜町の七ヶ浜中学校第2グラウンド応急仮設住宅へ。

◎「能楽の心と癒やしをあなたに」10:00~11:30
会場:宮城県七ヶ浜町 七ヶ浜中学校第2グラウンド応急仮設住宅 集会所
出演:八田達弥・寺井宏明
内容:能「羽衣」の略式上演(15分)・能楽ワークショップ(60分)
参加者:約20名

終了後すぐに撤収して多賀城市の多賀城公園野球場仮設住宅へ。

◎「能楽の心と癒やしをあなたに」15:00~16:30
会場:宮城県多賀城市 多賀城公園野球場仮設住宅 集会所
出演:八田達弥・寺井宏明
内容:能「羽衣」の略式上演(15分)・能楽ワークショップ(60分)
参加者:約15名

装束の着付け体験は毎度のことながら、七ヶ浜町では大いに盛り上がりを見せた。また多賀城市では参加者は少な目ではあったが、お隣の仮設住宅の住民さんもお見えになった模様。早朝から準備に取りかかり、それでも開演までの時間に制約があったため七ヶ浜町では面や扇などの展示は行えなかったが、多賀城市ではやや準備時間に余裕があったため展示品を陳列することができた。

なお寺井はこの2か所の仮設住宅での活動のみ参加となったため、村上緑が「羽衣」の装束の着付けを習得し、気仙沼での上演の際に手伝うことになっていた。

終了後、寺井は別件の催しのため仙台へ移動、村上は気仙沼へ帰宅。八田は高橋信行氏が主宰する「東日本大震災圏域創生NPOセンター」のお世話になり宿泊させて頂く。この日は秋保や気仙沼でそれぞれ復興事業に携わる方々が集っており、会食しながら意見交換を行うことができた。

11月1日(土)

この日は活動なし。
八田のみ気仙沼に移動し、個人的な能楽ワークショップを行う

11月2日(日)

この日の活動のため東京から夜行バスで駆けつけてくれた笛の熊本俊太郎を早朝にピックアップ。
休憩場所がないため、早朝より市内被災地域を案内。朝食後「鹿折復幸マート」楽屋入り。

◎「能楽の心と癒やしをあなたに」13:00~14:00
会場:宮城県気仙沼市 鹿折復幸マート 駐車場
出演:八田達弥・熊本俊太郎
内容:能「龍田」の略式上演(15分)・控室にて能楽ワークショップ(60分)
参加者:約30名

ここのみ「龍田」を上演したのは、活動した時期がおおよそ宮城県の紅葉の時期に重なったため。ただし七ヶ浜町と多賀城市では「羽衣」を上演したが、これは初めて活動する場所では最初に「羽衣」の上演から始めることが半ば慣習化しているため。

前述のようにこの日の公演では村上緑に装束の着付けの大役を担って頂いた。当地での活動では装束は八田がほぼ一人で自分で着付けるのだが、鬘などどうしても自分で着るのは難しいものもあり、手助けが必要となる。通常はプロジェクト・メンバーの寺井に手伝ってもらうのだが、今回はスケジュール上不可で、毎度プロジェクトの活動を支えてくださっている村上さんに上演の手助けを願うことになった。
気仙沼市内には知人も増え、この日も多くのお客さまにお集まり頂きありがたいことであった。当初は予定していなかったが、七ヶ浜町や多賀城市の仮設住宅での活動のためにせっかく展示品も持参したことでもあり、終了後控室にて能楽ワークショップを開催した。

終了後八田と熊本は帰京。熊本は今回はじめて被災地を訪問したので、帰途は沿岸部を通ることで被災地域の現状やすでに建設が始まった本吉町の防潮堤などを視察した。

【収入・支出】

プロジェクトの活動資金としては、前回活動の繰越金が127,421円あるほか、2件の募金2,000円を頂戴し、また活動中に1件の募金3,000円を頂戴しました。これによって繰越金を含めた活動開始時点での資金の総額は 132,421円となります。

一方支出は、スケジュールの関係から寺井および熊本の2名の笛方に活動に参加頂きましたが、いずれも夜行バスを利用して頂いたため、高額な出費には至りませんでした。また宿泊も今回は八田のみで、安価なビジネス・ホテルを利用したほか「東日本大震災圏域創生NPOセンター」の事務所に宿泊させて頂き、比較的支出は低額に抑えることができました。ボランティア事務所での宿泊は震災当初でこそ当たり前でしたが、ボランティア団体の撤退などにより近来ではその機会は極端に減りました。やはり専門の施設に宿泊するよりはるかに安価で、ご協力に感謝申しあげたいと思います。これらの結果、支出総計は 67,472円(交通費 51,598円、宿泊費 10,800円、印刷費 2,240円、雑費 2,834円)となり、次回活動の繰り越し金は差し引き64,949円となりました。(詳細は決算報告書を参照ください)

【成果と感想・今後の展望】
今回の活動で特筆すべきは、なんといっても七ヶ浜町・多賀城市という2つの町ではじめて活動を展開できたことに尽きます。コーディネートしてくださった梅津周子さんに改めて御礼申しあげます。
またかつて「鹿折復幸マルシェ」という名称だった仮設商店街が周辺のかさ上げ工事のため移転を余儀なくされ、新しく「鹿折復幸マート」としてオープンし、ここに出演できたのもありがたいことでした。
しかし「復幸マート」は仮設から仮設への移転であり、再び設置期間は限定されていることに変わりはありません。震災の記憶の風化が言われるなか、この移転に象徴されるように かさ上げ工事なども進んではいますが、一方では公営復興住宅の建設が遅れ、宮城県では仮設住宅の使用期限を5年に延長しました。仮設住宅で暮らす住民の精神的負担は深刻で、また仮設住宅そのものの老朽化も問題となりはじめています。まさに復興は端緒に就いたばかり、というのが正直な感想です。また他方では防潮堤の建設の是非をめぐっての議論が続き、被災地をめぐる情勢は複雑。プロジェクトの活動も仮設住宅が解消された時がひとつの大きな転換点になるのではないかと考えていますが、その時期はいまだ見えてこないのが実情でしょう。息の長い支援活動を今後とも継続していきたいと考えております。
今回も村上緑さんをはじめとして多くの方々にご協力を賜って活動ができました。改めまして御礼申しあげるとともに、今後とも皆さまの変わらぬご支援をお願い申し上げる次第です。

平成27年1月21日





                             「能楽の心と癒やしプロジェクト」

                               代表   八田 達弥

                             (住所)
                             (電話)
                              E-mail: QYJ13065@nifty.com