ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

気仙沼・旧月立小学校(仮設)にて上演

2016-03-03 13:40:48 | 能楽の心と癒しプロジェクト
(トップ画像は斉藤厚子さん撮影のものを拝借しました)

昨年の6月、気仙沼・唐桑半島の先端に位置する御崎神社での奉納を終えてから、今度は市の反対側。。岩手県・一関の方向に戻ってから北西に山間を分け入った先にある八瀬(やっせ)地区の旧・月立(つきだて)小学校に向かいました。

月立小学校には敷地の隅に今は使われていない旧校舎と仮設住宅があって、一方グラウンドをはさんで敷地の反対側には近代的な新校舎が建てられています。プロジェクトでは仮設住宅での上演を希望していたのですが、小さい仮設住宅のために集会所が備えつけられていないのと、旧校舎が大変趣のある建物なので、天候に恵まれれば仮設住宅に面した旧校舎の前で上演することになりました。

当日は快晴で、到着した月立小学校の旧校舎を見て、その建築の素晴らしさにびっくり。それもそのはずで、大正時代に建てられた旧校舎は国の登録有形文化財に指定されていました。





子どもたちの勉強には使われていないといっても、この旧校舎はセミナーやワークショップなど いろいろなイベントで活用されているようで、整えられた教室で着替えをして、午後4時から能『羽衣』を上演しました。







ちょっとした山奥という感じの所ではありますが、気仙沼市民の友人たちもたくさん駆けつけてくださいました。やはりこの雰囲気のある旧校舎の建物は市民の間にも有名なのでしょうね。ちょっと階段を下りるのが怖かったけど、仮設住宅の駐車場としてアスファルト舗装されて整備されている校庭にも降り立って舞ってみました。いや、気候もちょうど良くて気持ちの良いこと。今回の上演の話をまとめてくださった菊地隆太郎さんはこの月立小学校の卒業生で、当時はまだ旧校舎で授業を受けておられた由。うらやましいです~

終演後は控室として使わせて頂いた教室で能楽ワークショップをして、住民さんに楽しんで頂きました。







また片づけが終わったところで、ここでの上演の主催者である「八瀬・森の学校」のみなさんから、最近取り組まれて話題になっている「八瀬そば」をごちそうになりました。



この記事を書いているのがこの公演から9ヶ月近くも経った2016年3月のことなのですが、最近 この月立小学校が統合される計画であることを知りました。

昨年3月。。というから ぬえたちプロジェクトが活動したときには、すでにこの計画は発表されいたわけですが。。

気仙沼市義務教育環境整備計画(案)

この計画案によれば「月立小学校は,平成27年度の出生数や居所動向等の実態,通学路の整備を確認した上で,保護者並びに地域住民の理解を得ながら,平成29年4月までに新城小学校と統合します。」とのこと。

新城小学校? 新城といったら八瀬からはJR大船渡線を越えてずっと南方にあたる地域のはずだが。。と思って調べてみたら、両校の間は8kmも離れていました。シミュレートしてみたら、車でも30分かかる道のり。。

震災後の被災地で、校舎の損壊や住民の減少により統廃合された学校をいくつも見てきました。八瀬は山間部の地域なので津波の被害はなかったので、ちょっと被災地地区と状況は違って、これは少子化の影響が顕著に現れた結果でしょう。とはいえ、今後は通学には大変な苦労がつきまとうことになります。

一方、被災した学校が再建されるまでの間、海から離れた近隣の学校の校舎を間借りしたり、よその学校の敷地内にプレハブの仮設校舎を建造したりして運営されてきた(現在でもまだその状態が続いている学校もあります)、いわば「仮設学校」の児童生徒は、居住地域から毎日バス等で集団で登下校せざるを得ないため時間に制約を受けるなどの原因によって、他の地域の児童生徒と比べて学力が低くなる傾向が見られる、といった問題は以前から指摘されてきました。

。。これは被災地だけの問題に限りませんね。ぬえも国内各地の学校公演の中で きびしい現状もいくつか見てきました。全校児童が20人弱の小学校。。学校の玄関・昇降口に掲げられた5つの校歌のレリーフ。。これは5つの学校が統合された事を意味していました。ということは遠く離れた、本来は違う学区に所属するはずの子どもたちが、統合されたこの一つの学校に毎日通学しているのです。通学バスが整備されていても、通学にかかる時間のロスはいずれ大きな影響を生み出す可能性があります。そのうえで被災地ではさらに、高台移転やら災害公営住宅への引っ越しやら、毎日めまぐるしく町の状況が変わっていく。。落ちついて勉学に集中できる環境が整うことを心より願っています。