ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

喜びと悲しみと

2020-06-10 14:31:36 | 能楽
新型コロナウイルス問題で ぬえとしても、もう3カ月も舞台からも教室からも離れてしまいました。もちろんこんなに能から離れてしまうのは初めての経験ですが、師匠も先輩も初めてのことだそうです。

能楽師も「リモート稽古」で教室の維持を試みています。これも高齢の生徒さんは難しかったり、通信にどうしてもタイムラグが生じて難しい面もありますが。。そんな中、ようやく国の「緊急事態宣言」が解除され、尚早と言われながらも都が自粛緩和の「ステージ2」に移行したことで、教室だけは少しずつ再開の兆しが見えてきまして、ぬえも先日は伊豆の「子ども能」のお稽古を3カ月ぶりに復活する事ができました!

久しぶりの子どもたち。なんかちょっと見ないうちに背が伸びたような。
でも彼らも入学式や始業式だけ形ばかりやって、あとは自宅待機の日々だったそうです。そしてこの日お稽古を再開したけれども、この子たちには現在のところ出演の目標がないのです。。

いやそれどころか。。新中学生にとっては恒例の卒業記念公演になるはずだった4月の鎌倉公演が中止になったばかりか、その前にも去年の秋の地元での公演が台風の直撃によって中止になった経緯があり。あまりの不運。

この日から始まったお稽古も、次の公演の目標も不確定なまま同窓会のように集まって、上演曲目を忘れないように稽古を重ねることに致しました。





全員マスク姿で、なんとも異様な様子ですけれども。。 三密の回避にはまだ改善の余地ありですね。。

それでも中学校に進学した子には心ばかりのお祝いをあげて、稽古のあとは ぬえ所蔵の扇をたくさん持参して子どもたちに見せてあげました。上演の機会がないなら、その間にもっと能の基本的な型を教えたり、面装束に触れる機会を持つのでも良いですね。子どもたちも楽しそうで、ぬえも楽しませて頂きました!

さらに ちょうどこの時期は野生のホタルが見られるのを思い出して、夜になってから子どもたちの有志を誘ってホタルを見に行きました。少し蒸し暑いくらいが理想的なのですがこの日は夕方から涼しくなって、ホタルも ちらほらと舞う程度でしたが、なんか子どもたちとバカな話をしながら楽しみました!

。。さて。

この日、楽しみにしていた子どもたちのお稽古の前に、ぬえは伊豆でお葬式に参列しておりました。

指折り数えた子どもたちとの再会の直前に ぬえにもたらされたのは。。 もう10年も前に子ども能のメンバーだった女の子の訃報でした。

衝撃。この子のことはよく覚えています。まだ20歳すぎのはず。。亡くなった理由もわからないまま、お通夜と葬儀の日だけが伝えられたのですが、そのご葬儀は、まさかの、3カ月ぶりの子どもたちのお稽古のその日でした。

情報が少なく参列は無理だろうと諦めてはいましたが、伊豆に向かう前日に自分で検索を重ねた結果、式の場所と時間が判明して、短時間だけなら参列することができる、と気づいたのが夜中。翌朝早く起きて、この子が10年前に子ども能で活躍していた頃の画像を急いでCDに焼いて伊豆に向かいました。もう。。喪服を出す時間はなく。。

お葬式では、成人式のときのものか10年も見なかったこの子がいつの間にか美しく成長して、晴着姿で写った遺影が。。当時もちょっと大人びた感じのあった子でしたが、笑顔が素敵な写真でした。まだ23歳だったそうです。。

あ! 入口には今どきのお嬢さんらしくマスコットや仲間と一緒の写真が飾られていて。。その真ん中には子ども能で主役を勤めたときの写真が誇らしげに飾られていました。



この子が2年前から地方金融機関にお勤めをしていた事は弔辞などでようやくわかりましたが、誰に事情を尋ねることもできず、時間がきたので式の半ばで、受付に画像CDを預けて子ども能のお稽古に向かいました。

翌日、お父様からわざわざ会葬のお礼のお電話を頂きました。
気の毒とは思ったけれどご事情を伺ってみると、突然の心臓発作が原因とのこと。。前夜まで普通に家族と会話していたそうなのに。。電話口でお父様、泣いておられました。。

ぬえがどうやって葬儀のことを知ったのかお尋ねになりましたので、当時の子ども能のメンバーからお知らせが届きました、とありのままをお答えしました。ぬえに教えてくれた子は故人とは同学年ですが、子ども能に参加していた頃も違う小学校に通っていて、わずかに中学校の3年間だけは同じ中学に通っていたはずです。あとで聞けばこの子もその後高校に進んでからは故人と連絡も取っていなかったそうですが。。子ども能を卒業してもこのように ぬえと通信を続けている子も何人かいて、この度も知らせが ぬえにまで届いたのでした。

こうやって繋がりがある子のうち誰かから、いずれ結婚式のご招待を頂く日が来るかなあ、なんて楽しみにしていたのに。。まさかお葬式が先に来るとは思いませんでした。。

そういえばこの子には、同じく小学生時代に子ども能をやっていたお兄ちゃんがいて。。これも葬儀では見違えましたが、お父様によればいつの間にか結婚していて、葬儀では隣にお嫁さんも参列していたとのこと。。

いずれお孫さんができる日が来れば、ご両親にも幸せが訪れますね。。

ちーちゃん、安らかに。
あの頃しか知らないけれど、君は ぬえの宝物でした。