「冷や汁/すったて」
主な伝承地域 川島町、入間地域、県北
主な使用食材 野菜
歴史・由来・関連行事
それぞれの地域でとれる野菜や魚を使い、日本各地様々な場所で独自に発展してきた郷土食「冷や汁」。中でも埼玉の「冷や汁」は、稲作の裏作として小麦の栽培が広く行われた“うどん文化”のある土地ならではの、うどんのつけ汁として食べられてきた。かつて農作業は手作業が基本だったため、稲作を行う農家では田植えから収穫までの時期はとても忙しく、朝から日暮れまで時間を惜しんで作業に明け暮れていた。農繁期に作るのに手間がかからず、栄養もある「冷や汁」は重宝された。四方を川に囲まれ、肥沃な土地を持つ川島町では、古くから稲作が盛んで、「冷や汁」のことを「すったて」と呼び、農家の定番の食だった。「すったて」とは、野菜などの具材をすりばちですり、「すりたて」を食べていたことに由来する。「冷やし汁」「つったて」とも呼ばれる。
食習の機会や時季
収穫したばかりの野菜と、冷たい水を使い仕上げる「冷や汁」は、夏の炎天下で農作業をする人々から親しまれていた料理。タンパク質が豊富で塩分も補給できるみそで味付けし、キュウリや大葉、ミョウガといった夏野菜を加えることで、食の進まない暑い日でもさっぱりと食べられる。
飲食方法
すり鉢でごまとみそを合わせて、キュウリや大葉、ミョウガなどの清涼感のある野菜をたっぷりと加えて一緒にする。最後に冷たい水を注いで混ぜる。川島町の「すったて」では、野菜もすり鉢ですり合わせるのが特徴。うどんだけでなく、ご飯に豪快にかける食べ方もある。
保存・継承の取組(伝承者の概要、保存会、SNSの活用、商品化等現代的な取組等について)
農家だけでなく一般家庭の夏の一品として作られる。県内の飲食店では地元の食材を使い、麺やつけ汁に独自のアレンジを加え提供している。川島町のマスコットキャラクター「かわべえ」は、すったて用のすりこぎ棒を持ち、おわんをイメージした服を着ている。
*https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/33_3_saitama.html より
「すったてでまちおこし (埼玉県川島町)」 2014年04月13日更新
川島町の自慢のB級郷土料理は「すったて」。これは、簡単に言えば、冷たい味噌汁にうどんを入れたようなもの。「冷汁うどん」という地域もあるが、川島町では「すったて」と呼んでいる。
昨年9月に秋田県横手市で26の地域(団体)が参加して開催されたB級ご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」に、2日間で26万7000人もの人でにぎわった。このイベントに代表されるように、いまB級ご当地グルメで地域おこしをしようという動きが日本各地で見られている。
多くの地域は、イベントでその地域の食や町をPRし、関連商品の発売や観光集客に結び付けようというものだが、B級グルメがブームになる前から、純粋にB級の郷土料理を使ってまちおこしをしている地域がある。埼玉県川島町だ。
川島町の自慢のB級郷土料理は「すったて」。これは、簡単に言えば、冷たい味噌汁にうどんを入れたようなもの。「冷汁うどん」という地域もあるが、川島町では「すったて」と呼んでいる。
すり鉢で胡麻をよくすってから、味噌とみじん切りのタマネギ、大葉を加えて胡麻とすり鉢で合わせる。そこに輪切りのキュウリやミョウガを合わせた後、冷たい井戸水か出汁で伸ばした中に氷を浮かべ、茹でたうどんをつけて食べる。 ちなみに宮崎県にも「冷やし汁」というのがあるが、こちらは「あじ」などの魚を材料としており、微妙に異なっている。
◆氷を浮かべた味噌汁?!
この「すったて」に目をつけたのは川島町商工会。経営指導員を務める宮下成和さんが、B級グルメを活用した地域活性化を目指している。
宮下さんは元々は名古屋の出身だが、平成14年に川島町出身の奥さんと結婚したのを機に同町に移り住んだ。ある日、義母が作ってくれたすったてに魅了されてしまった。それまで熱い味噌汁しか知らなかった宮下さんにとって、氷を浮かべた味噌味の冷汁につけて食べるうどんはとても新鮮だったからだ。
「すったてでまちおこしをしよう」と思い立ってからの行動は早かった。まずは埼玉県庁に提案書とともに補助金の要請を出した。この要請が通り、平成19年3月に町内の約50店舗の飲食店に対して、すったてでの地域ブランド化プロジェクトを案内し、メニュー化を打診する。そして16店舗のプロジェクトへの参加が決まったのだ。続いて試食会や説明会、地域ブランドの講習会を精力的に開催し、参加メンバーの意欲向上と基本知識の習得にも注力した。
◆スタートは16店から
各店は味や器、提供方法などにそれぞれ工夫をして、同年6月中にはすったてをメニュー化した。それに合わせるように、商工会はののぼりを制作したり、「すったてMAP」を作成したりするなど、PRに取り組んだ。
こうした努力が実を結び、6月21日にはNHKの首都圏向け番組「こんにちは いっと6けん」で、すったてが特集として取り上げられた。すると、提供店の問い合わせや作り方の紹介依頼、激励のメッセージなどが数多く寄せられたのだ。さらに8月初旬には大型ショッピングセンターの敷地の一部を借りて、すったての試食会を実施し、2日間で約2000食を無料で配布した。
こうした活動は内外へのPRという効果もあるが、町内での活動の周知を高めて、テンポや関係者のやる気を起こさせる面で、特に大きな効果があった。 もちろん、ランチのオーダーのほとんどがすったてになった店や、新しいお客が土日に押し寄せた店など、各店の活性化にもつながり始めた。
◆季節限定から、冬の商品開発へ
ところが、宮下さんには新たな悩みも浮かんだ。つまり、すったてとは夏の食べ物であって、冬は注文する人がほとんどいなくなることだ。
そこで、冬場の名物料理として、これまた川島町に伝わる郷土料理「呉汁」をベースにした「かわじま呉汁」を完成させた。これは、すりつぶした大豆と、里芋の茎の皮をむいて天日で乾燥させた「芋がら」、10種類以上の野菜を土鍋か鉄鍋で煮込んで提供するものだ。
つまり、冷汁で食べるすったては夏限定とし、販売は5月から9月。そして1ヶ月の準備期間を経て、11月から3月にはかわしま呉汁を販売するのだ。
◆都会に一番近い農村
ところで川島町の地域活性化計画の構想は、なにもすったてだけに終始するわけではない。川島町のキャッチフレーズは「都会に一番近い農村」である。そのためには「農村らしいものはなにか」を考え、「都会に近い農村」としての強み(武器)を明らかにして、それを活用した商品やサービスを具現化することが重要だった。
川島町の場合、それが田舎暮らしや野菜作りに憧れる都会在住の人々を対象とした、農業の体験イベントなどを随時開催し、交流人口を増加させることにあった。すったても、昔の農作業の中で食べたように、そのイベントの中で食べられるようにすることと、川島町を知ってもらい、足を踏み入れてもらうための機会作りという二つの狙いがあった。 ただ、飲食店を集めて提供するだけでなく、他の地域で真似のできないような統一の付加価値を付けて展開していくことが「地域ブランド化」には重要なポイントである。
B級グルメは、その地域に根付いている郷土食を、一般大衆に受け入れられるようにするもの。単なる食のイベントを目的としているのではなく、食をきっかけに町が元気になるような新たなビジネスモデルを作ることが重要だ。 すったてはその語源どおり、すりたての風味豊かな企画ではあるが、ここには川島町の目指すべきコンセプトが溶け込んでいるのだ。
(文章:ブランド総合研究所 田中章雄)
*https://news.tiiki.jp/articles/1878 より