「よこすか海軍カレー」
「海軍カレー」
海軍カレー(かいぐんカレー)とは、大日本帝国海軍(1872年-1945年)の兵食に由来するカレーライスである。
日本でカレーライスが普及したルーツといわれることもあるが、実際には海軍の兵食のカレーは民間のカレーの普及に比例したものであり、これが発祥というわけではない(#海軍カレー、海自カレーについての誤った伝説)。
本記事では、海上自衛隊(1954年-現在)の食事に由来する海自カレー(かいじカレー)についても述べる。
歴史
大日本帝国海軍では、1884年(明治17年)より、脚気対策のため給食が洋食化された。(詳細は「日本の脚気史#海軍の兵食改革」を参照のこと)。
1889年(明治22年)11月25日海軍省達第四四九号において、厨夫学術検査規格が定められ、三等厨夫の項目に、“「ライスカレイ」ノ仕方”があげられている。
1889年(明治22年)11月29日海軍省達第四五四号『五等厨夫教育規則』において、五等厨夫が学ぶ科目の1つに、“「ライスカレー」ノ仕方”があげられている。
海軍カレーがレシピとして確認できる最も古い文献は、1908年(明治41年)に舞鶴海兵団が発行した『海軍割烹術参考書』であり、チキンライスとともに「カレイライス」が掲載されている。
1918年(大正7年)に海軍教育本部から発行された『海軍五等主厨厨業教科書』には「ライスカレー」が掲載されているが、レシピは『海軍割烹術参考書』の「カレイライス」とあまり変わっていない。
1932年(昭和7年)に海軍経理学校が発行した『海軍研究調理献立集』には「浅利のカレーライス」「伊勢海老カレーライス」「チキンカレー」など様々なカレーが掲載されている。
海軍カレー、海自カレーについての誤った伝説
伝説の中には誤りを指摘されている事項がある。下記にその類型を示す。
誤り1:日本式カレーは海軍がルーツ
高森直史によると、海軍でのカレーの普及は民間でのカレーの普及に比例したものであり、「日本式のカレーは海軍がルーツ」といった説には根拠がないと述べている。同じく高森直史は、海軍の兵食にカレーが取り入れられたのは、民間でカレーが広がりかけていた昭和初期のことではないか、と推定している。
日本でもっとも古くにカレーがレシピ本に登場するのは、明治5年(1872年)に刊行された「西洋料理指南」においてであり、同じく明治5年刊行の「西洋料理通」にも、カレーライスの作り方が掲載されている。
明治6年(1873年)には陸軍幼年学校でライスカレーが供されていたことの記録がある(カレーライス#旧日本軍・自衛隊)。
誤り2:海自での金曜日のカレーライスは海軍からの伝統
海上自衛隊では、毎週金曜日の昼食にカレーライスを食べる慣習がある。この慣習について「金曜にカレーを食べるのは帝国海軍以来の伝統である」との説明がしばしばなされるが、それは誤りであると高森直史は指摘している。元統合幕僚会議議長であった佐久間一(海上自衛隊OB)は、水交会の機関誌「水交」平成25年(2013年)新春号において、「物事は誤って伝えられることがあります。卑近な例でありますが、海上自衛隊の金曜日の昼食の献立がカレーライスであるのは、海軍以来伝えられてきたのだという向きがありますが、それは事実と異なっております。」と述べている。
誤り3:週末のカレーは曜日を忘れないようにするため
「週末(金曜日または土曜日)にカレーを食べるのは、長期間の海上行動時でも曜日を忘れないため」と説明されることがあるが、誤りである。説明として面白いので誰かが言い出し、尾ひれがついて広まったものである。1960年(昭和35年)に2等海士として海上自衛隊に入隊した高森直史は、「半年間、横須賀教育隊で過ごしたが、隊食にカレーが出たのはほんの数回だったように記憶する。昭和35年(1960年)ごろの海上自衛隊のカレーとはそんなもので、その記憶からも「金曜カレー」はウソであることがわかる。」と述べている。
1977年(昭和52年)に海上自衛隊に入隊し海上幕僚長や統合幕僚長を務めた河野克俊は、「海上自衛隊ではもともと、土曜の昼食がカレーであった。土曜の午後は休みになるため昼食の調理を簡単に済ませる必要があり、カレーがその条件に合っていたからである。その後、土曜が休日になったので、土曜昼食のカレーがスライドされて金曜昼食のメニューとなった。航海中でも曜日を忘れないように金曜日または土曜日にはカレーを供したというわけではない。」という趣旨の証言をしている。
海上自衛隊で金曜日の昼食にカレーライスが供されるようになるのは1985年(昭和60年)ごろ以降のことである。海自における週休二日制が普及して、週末は土曜日ではなく金曜日という観念が定着し、訓練や日課等を加味して”金曜日の昼食はカレー”を定番料理とする艦艇部隊が増えたからである。その過程で「海上自衛隊で特定の曜日にカレーを食べるのは、長期間の海上行動時でも曜日を忘れないため」との誤った説明がなされるようになったに過ぎない。
誤り4:よこすか海軍カレーは日本のカレーライスのルーツ
横須賀が海軍カレーの発祥の地であるとの説は、誤りである。カレーライスの歴史に詳しい小菅桂子は、横須賀や呉に明治大正の昔から軍隊カレーの食堂があったという話は聞いたことがない、としている。
現在の海自カレー
海上自衛隊で食されているものは「海上自衛隊カレー」「海自カレー」とまとめて呼ばれる。各艦艇・陸上部隊ごとに独自のレシピが伝えられているため、作られるカレーは各艦艇・陸上部隊ごとに異なり、単一の味・レシピは存在しない。各艦艇・陸上部隊で独特の隠し味がある。海上自衛隊は、「海上自衛隊レシピページ」上において、各艦艇・陸上部隊のカレーのレシピをウェブサイトで公開している。
YouTubeでの「防衛省 海上自衛隊 公式チャンネル」において、大日本帝国海軍の『海軍割烹術参考書』に掲載されている「カレイライス」を現代風にアレンジ・再現した「元祖海軍カレイライス」のレシピが動画で公開されている。
護衛艦や陸上基地(航空部隊等)のイベントに合わせて、一般市民にも食べてもらう企画が、広報効果になったと考えられる。
なお、海上自衛隊にて隊員らに支給されるカレーライスは、支給対象者が厳密に定められており、支給対象外の自衛官がたとえ「味見」と称して食べることも禁止されている。実際に京都府舞鶴市の第23航空隊や青森県むつ市の大湊地方総監部などにおいて、この違反事案があったとして、懲戒処分が行われたことを2022年3月に防衛省が発表している。
文献に残るレシピ
印刷された日本海軍の最古のカレーレシピとして間違いないと思われるのは、明治41年(1908年)に舞鶴海兵団が発行した教科書『海軍割烹術参考書』に掲載されている「カレイライス」のレシピで、下記の通り。これは海軍が独自でつくったカレーのレシピではない。当時民間でもつくられていたようなレシピと変わりない。
材料
牛肉または鶏肉、人参、玉葱、馬鈴薯、塩、カレイ粉、小麦粉、ヘット(牛脂)、米、スープ 添え物として漬物(チャツネなど)
作り方
1.まず米を研いでおく。
2.肉、玉葱、人参、馬鈴薯を賽の目に切る。
3.ヘットを敷いたフライパンで小麦粉を煎り、きつね色になったらカレー粉を加え、スープで薄めのとろろ汁の濃さに延ばす。
4.2の肉野菜を炒め、3に入れて火に掛けて弱火で煮込む。馬鈴薯は玉葱・人参がほぼ煮えてから入れる。
5.先ほどの米をスープで炊く。炊き上がったら皿に盛る。
6.4で煮込んだものを塩で調味し、皿に盛ったごはんに掛けて供する
7.供する際「チャツネ」などの漬物を添える。
初メ米ヲ洗ヒ置キ牛肉(鶏肉)玉葱、人参、馬鈴薯ヲ四角ニ恰モ賽ノ目ノ如ク細ク切リリ別ニ「フライパン」ニ「ヘット」ヲ布キ麥粉ヲ入レ狐色位ニ煎リ「カレイ粉」ヲ入レ「スープ」ニテ薄トロヽノ如ク溶シ之レニ前ニ切リ置キシ肉野菜ヲ少シク煎リテ入レ(馬鈴薯ハ人参玉葱ノ殆ンド煮エタルヰ入ル可シ)弱火ニ掛ケ煮込ミ置キ先ノ米ヲ「スープ」ニテ炊キ之ヲ皿ニ盛リ前ノ煮込ミシモノニ塩ニテ味ヲ付ケ飯ニ掛ケテ供卓ス此時漬物類即チ「チャツネ」ヲ付ケテ出スモノトス
— 海軍割烹術参考書 1908年(明治41年)
炊飯やルー作りに使う「スープ」に関する記述がないが、牛骨やテール、鶏ガラなどをくず野菜とともに煮て、濾したもの(簡易ブイヨン)を使ったと推察される。
よこすか海軍カレー
かつて旧海軍の横須賀鎮守府が置かれ、現在も海上自衛隊横須賀基地が置かれている神奈川県横須賀市は、街おこしのために1999年(平成11年)5月20日「カレーの街」を宣言、カレーの街よこすか推進委員会を発足した。「よこすか海軍カレー」の名称を使用できる店舗は、海軍割烹術参考書のレシピをもとにしたよこすか海軍カレーの定義を満たしていると認定された店舗としている。キャラクター「スカレー」を起用し、「カレーの街よこすか」というウェブページを設け、京浜急行電鉄とコラボレーションしたキャンペーンを行っている。海軍カレーによる街おこしは、鎮守府が海軍カレーを採用していたことから、カレーライスは横須賀から全国に広がったと横須賀市が捉えたためである。しかし、これは史実ではない(#誤り4:よこすか海軍カレーは日本のカレーライスのルーツ)。
横須賀市以外でも、小麦粉を煎ったものを混ぜたカレー粉が市販されているので、家庭でも容易に作ることができる[注釈 9]。よこすか海軍カレーは原則として、カレーライス・サラダ・牛乳の3点をセットで提供する。
2010年8月、『よこすか海軍カレー』のスピンアウト作品として『すこやか軍艦カレー』が横須賀市内で販売開始された。
大湊海自カレー
かつて旧海軍の大湊警備府が置かれ、現在は海上自衛隊の大湊地方隊が置かれている青森県むつ市でも、護衛艦で食べられているカレーをご当地グルメとして普及させようという試みが行われている。2017年2月6日に、むつ市とむつ商工会議所、大湊地方総監部との間で事業連携協定が締結された。提供されるのは市内の10店舗で、護衛艦8隻と地上2部隊のレシピが各飲食店に伝授される。3月2日には提供する店舗の抽選がむつ市内で行われ、各店舗で提供するカレーが決定した。
呉海自カレー
帝国海軍の呉鎮守府が置かれ、現在も海上自衛隊呉地方隊が置かれている広島県呉市では、呉市役所と呉地方隊が協力して、2015年から「呉海自カレー」が同市内の飲食店30店舗(2018年3月現在)で提供されている。呉海自カレーは、呉地方隊に所属する各艦艇・陸上部隊(以下「艦艇等」)のカレーについて、艦艇等から飲食店にレシピを伝授し、各店舗で忠実に味を再現するもの。提供されるカレー(例:「護衛艦Aカレー」「潜水艦Bカレー」)が各店舗で重複しないシステムである。
飲食店へのレシピ伝授については、艦艇等の調理員が各店舗に赴いて実地指導を行う。最終的には艦艇等の司令や艦長が各店舗が作ったカレーを食べて「忠実に再現されている」ことを認定し、司令や艦長が交代すると改めて認定をやり直すしくみ。カレーの味と接客レベルを保つため、レシピを提供した艦艇等による「抜き打ち検査」が行われている。
派生
よこすか海軍カレーパン - 日本全国ご当地パン祭り第1回で優勝。
*Wikipedia より
よこすか海軍カレーとは
よこすか海軍カレーとは
明治41年に発行された「海軍割烹術参考書」には、当時日本海軍で調理されていた軍隊食のレシピが記されており、カレーライスの作り方についても記載があります。
当時のカレーレシピの要約
(材 料)
牛肉または鶏肉、人参、玉葱、馬鈴薯、塩、カレー粉、小麦粉、米
(作り方)
1.肉、人参、玉葱、馬鈴薯をサイコロのように細かく切り炒める。
2.フライパンに牛脂(ヘット)をひき、小麦粉を炒めてカレー粉・スープ・肉・野菜を入れ、弱火で煮込み、塩で味を整える。
3.ご飯にかけて漬物類(チャツネ)を付けて提供する。
当時は“カレールウ”などという製品はありませんでしたので、日本海軍のカレーは、牛脂と小麦粉・カレー粉から作る「手作りカレー」でした。 具材には人参、タマネギ、ジャガイモ、牛肉または鶏肉を使用していましたので、見た目には現代のカレーに近いものだったようです。 また、豚肉および豚脂(ラード)は使いませんでしたので、現代の私たちからすると“あっさりとした昔懐かしい味”のカレーだったようです。
海軍割烹術参考書のレシピをもとに、現代に復元したカレーが「よこすか海軍カレー」なのです。 原則的なルールを守った上で、各店舗では特徴を生かした味の海軍カレーを提供しており、45店(平成28年9月現在)のカレーが「よこすか海軍カレー」として認定されています。カレーの街よこすかでは、栄養バランスを考慮し、サラダと牛乳を必ず添えることが提供の際のルールとなっています。
「よこすか海軍カレー誕生」エピソード
平成10年12月、海上自衛隊地方総監の退官を前にお別れパーティーが海上自衛隊 田戸台分庁舎で開かれました。 その席上で総監が、「呉市と舞鶴市では、両市が本家争いをするなど、肉じゃがを“まちおこし”に繋げているが、カレーライスが庶民の食卓に普及したのは海軍のカレーにルーツがあるので、海軍の街である横須賀でカレー発信の地として、“カレー”を地域の活性化に利用してみては」という趣旨の話をされました。
この話を受けて横須賀市役所、横須賀商工会議所、海上自衛隊の3者で調査、検討がはじめられ、旧日本海軍で提供されていたカレーを現代に再現する方針が決定しました。 平成11年5月20日、横須賀市は「カレーの街宣言」を行い、「カレーの街よこすか推進委員会」が発足しました。
これが全国的にも初の試みとなる、横須賀市役所・横須賀商工会議所・海上自衛隊の3者が協力して行う「カレー」による街おこしのスタートとなったのです。
カレーの街よこすか推進事業のメインブランドは、海軍割烹術参考書(明治41年)に記載のある「カレイライス」の作り方をもとにして、現代に復元したカレー“よこすか海軍カレー”とすることが定められました。
カレーメニューの提供、商品の開発、販売は横須賀商工会議所に事務局を置く「カレーの街よこすか事業者部会」が担うこととなり、平成12年には「よこすか海軍カレー」の商標登録が認められました。
これにより、市内での海軍カレー提供の他、お土産用“よこすか海軍カレー”レトルトの製造販売、海軍カレー関連商品の販売もスタートし、加盟事業者は年々増加を続けています。平成11年の発足当時15社の協力によりスタートした“カレーの街よこすか推進事業”は、平成28年には登録事業者数90社を数えるまでになっています。
横須賀はカレー発信の地
明治初期、海軍・陸軍軍人の病死の最大の要因は脚気(かっけ)でした。 当時の日本海軍では白米中心で、たんぱく質やビタミンB1が不足した軍隊食が提供されていました。明治16年には脚気による罹患者数が1,632名、死亡者数が49名にも上り、軍内では早急に対策を打つべき深刻な問題となっていたのです。
明治17年、海軍軍医だった高木兼寛(後の海軍軍医総監)は軍艦筑波号による航海実験を行い「兵食改革」に着手しました。イギリス海軍で提供されていたカレー風味のシチューに小麦粉でとろみを付けて、ライスにかけたメニューを軍隊食に取り入れたのです。 このメニューはシチューの具材と小麦粉により当時の軍隊食に不足していた栄養分を補うことができるものでした。 その結果、明治18年には脚気の罹患者数は41名、死亡者数なし、という劇的な改善が見られ、脚気をほぼ撲滅することに成功したのです。
このときに採用されたメニューが現在の日本のカレーライスのルーツと言われています。
その後、カレーライスは兵役を終え故郷に戻った兵士たちにより全国に広まっていきました。 海軍とともに歩んできた街 “横須賀”。 横須賀はカレー発信の地なのです。 現在、横須賀市では、明治期のカレーを現代に再現した“よこすか海軍カレー”をメインブランドとして「カレーによる街おこし」を推進しており、全国に向けてカレーの情報を発信し続けています。
金曜日はカレーの日
海上自衛隊では毎週金曜日にはカレーライスを食べる習慣があります。 長い海上勤務・遠洋航海では、外洋の景色が変わらず、決まった曜日に勤務が休みとなるわけでないため、曜日感覚がなくなってしまいます。
これを防ぐため、金曜日に各艦船の調理員が腕によりをかけた美味しいカレーライスを提供する習慣が生まれたのです。 現在、この習慣は船上勤務に限らず全ての部署に広がり、金曜日にはカレーがメニューに組み込まれるようになったのです。
「カレーの街よこすか」では“金曜日はカレーの日”として、金曜日にカレーを食べることを推奨しています。カレーの街よこすか認定店でも、金曜日に大盛りサービス、半額サービス、割引サービスなどを行う店舗が多数あります。
*https://kaigun-curry.net/about より
*https://livejapan.com/ja/in-tokyo/in-pref-kanagawa/in-kanagawa_suburbs/article-a0003148/ より
「よこすか海軍カレースペシャル ビーフorチキン」は、お肉をビーフがチキンが選ぶことができ、牛乳とサラダ、薬味に加え、コーヒーまたは紅茶もセットでついてきます。「当時は、船内で紅茶やコーヒーをたしなむとき、ポルカやワルツの生演奏を聴きながら楽しんでいたそうです。それを再現すべく、店内でも専門家にセレクトしてもらったBGMを流しているんですよ。またスタッフの制服もレトロ感のあるデザインのものにしています」-「横須賀海軍カレー本舗」