第198回 2018年7月17日 「漆黒に浮かぶ金銀の輝き~京都 京ぞうがん~」リサーチャー: 映美くらら
番組内容
繊細な技術で知られる「京象嵌(ぞうがん)」。鉄板の表面に極細の溝を無数に掘り、その凹凸を利用して金銀の細かい模様をはめ込んでいく。仕上げに漆を塗り焼き付けることで、漆黒の中に金銀が輝く美しい仕上がりに。伝統の模様に隠された超絶技術は、虫眼鏡を使わないと見えないほど。さらに近年は、モダンなステンレス製まで登場。ペルシャから伝わり京都で花開いた繊細な技術を、女優の映美くららさんがリサーチ。
*https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/detail/?crnid=A201807171930001301000 より
「京象嵌」は1000年以上前からある日本で最も古い工芸品の一つです。
漆黒の漆に金や銀で模様を施していくのですが、その模様の大きさはわずか数㎜。
パーツの数は100以上。
接着剤を一切使わずに職人が、模様を全て手作業で一つ一つ打ち付けていきます。
その技術は進化を続け、モダンな「象嵌」もあります。
今回のイッピンでは、洗練された手仕事が生み出した美の世界を紹介しています。
1.霞(kasumi)(アミタエムシーエフ)
「アミタエムシーエフ」は、京都の伝統工芸 「京象嵌」の技術を用いた製品・特注品を製造しています。
アミタでは、「京象嵌」のおよそ3割が海外へ輸出されています。
象嵌師の奥田裕也さんは、海外の人に興味を持ってもらうことは嬉しいとおっしゃいます。
奥田さんに作業を見せていただきました。
「象嵌」のベースになるのは厚さ0.6㎜の鉄の板です。
そこに1㎜の間隔に数十本の細い線を刻んでいきます。
よく見ると、細かい溝が細かく美しく掘られています。
板の向きを変えたら、先程の溝に垂直に刻み、更に斜めにも刻んで、表面をギザギザにさせます。
これは布目のように見えることから「布目切り」と言います。
そこに金や銀を乗せていきます。
葉の形に小さく切って一㎜程にし、一枚ずつ鉄の布目の上に置き、細心の注意を払って、金槌で叩いていきます。
直径3㎝の中にはめ込む金は、何と100枚にも上ります。
布目を叩き過ぎると潰れてしまうので、模様だけをしっかり叩きます。
すると、布目に金が食い込んでしっかりと固定されます。
象嵌の「嵌」は「はめる」という漢字です。
全ての模様が入ったら、鉄の表面を腐食・錆止めをするために、漆を塗り、焼き付ける「漆焼き」をします。
その後、模様の上を「朴炭」(ほうずみ)という朴の木を焼いて作った硬い炭で磨いて、金銀を研ぎ出すという工程を数回繰り返し行います。
全体を研磨して仕上げた後、研ぎ出した金銀模様に細かい彫刻を施す「毛彫り」をして仕上ます。
京都の伝統工芸「京象嵌」の技術を活かして作られた「霞(kasumi)」シリーズ。
箸置きとペンダントがあります。
従来の京象嵌は、生地に「鉄」を使用していますが、「霞(kasumi)」は「ステンレス」を使用しているため、耐水性に優れています。
見る角度によって表情を変え、また淡く優しい色合いのため、日々の生活を豊かにしてくれると評判です。
アミタエムシーエフでは、七宝も取り扱っています。
また、沢山の方に京象嵌に親しんでもらいたいと、「京都ハンディクラフトセンター」を設立。
象嵌製作の実演や販売は勿論、象嵌作りの体験教室などもあります。
京都 ハンディクラフトセンター 京都都府京都市左京区聖護院円頓美町17
2.川人象嵌(高橋和男さん)
「象嵌」は、紀元前にペルシャのダマスカスが発祥と言われています。
その後、シルクロードを通って日本に渡ってきました。
江戸時代には刀の装飾に使われ、武士や裕福な町衆のステータスとして人気を博しましたが、明治に入り、武具への需要が無くなったことから、職人達は輸出用の工芸品を作るようになり、その超絶技巧な作品は海外からも絶賛されました。
北区等持院の「川人象嵌」(かわひとぞうがん)は、「京象嵌」の総本家と言われる「駒井象嵌店」(昭和20年廃業)で修業した初代・川人芳男が大正8(1919)年に独立創業した、90有余年続く京象嵌の老舗です。
「布目象嵌」の布目板に、謄写印刷に使う「謄写版」(とうしゃばん)を利用することで、象嵌製品の価格を抑えることで、工芸品や装飾具として広く普及させることに成功。
新しい感性で象嵌の可能性を広げていくと共に、先人達が育んだ技術を、現代に、そして未来へと引き継いでいます。
半世紀近いキャリアを持つベテラン職人の高橋和男さんは、人気の鳳凰をデザインしたブローチを作っていらっしゃいます。
布目を刻んだ鉄生地に、10分の1㎜以下の金線を叩いて埋め込み、ピンセットで金線を適度な強さで引っ張りながら少しずつ曲げて滑らかな曲線は作っていきます。
その上から漆を塗って磨くと、光り輝きます。
更に、鏨(たがね)を使って金銀にグラデーションを施すと、ツルツルの金の表面にぼかしが生まれます。
鳳凰のブローチを作るのに使うタガネは5つ。
それらを駆使して表情を加えていきます。
模様が完成すると、鳳凰に命が宿りました。
川人象嵌 京都府京都市北区等持院南町
3.ZINLAY(中嶋象嵌・中嶋龍司さん)
京都嵐山にある「中嶋象嵌」の三代目・中嶋龍司さんは、平成14(2002)年、祖父の喜代一さんに弟子入りし、平成20(2008)年には若手職人の登竜門と言われる「京もの認定工芸士」の認定を受ています。
祖父から受け継いだその技は緻密を極め、コンマミリ単位の作業がほとんどを占めます。
伝統的な細工物をはじめ、中嶋さんならではの「透かし」と言われる技法も取り入れ、海外や若い世代に象嵌を発信しています。
中嶋龍司さんは、現代風にアレンジした「京象嵌」も次々に生み出しています。
店内に並ぶ銀色に輝くアクセサリーは「ステンレス製」。
「京象嵌」には見えません。
お店で働いていらっしゃる奥様の中嶋みちるさんの指に光る指輪も夫の中嶋龍司さんが「ステンレス」を素材にして作った、
京象嵌の新ブランド「ZINLAY」のものです。
「ZINLAY」は、象嵌の「Z」、中嶋の「N」、象嵌の英語名の「INLAY」を掛け合わせた名前で、「伝統工芸」を昔ながらでなく、「粋」なスタイルとして身に付けて頂きたい、もっと身近に感じて頂きたい、そんな想いで生まれました。
中嶋さんが新しい試みに挑戦するのは、腕利きだった象嵌師の祖父の影響だそうです。
様々な技法を持つ祖父に弟子入りし、妥協しない職人精神を目の当たりにしました。
そして今、中嶋さんは若い象嵌師を引き連れて奮闘していらっしゃいます。
作り方には鉄と同じ、布目を刻んでいきます。
「鉄」は水気に弱く錆びやすい一方、「ステンレス」は錆びにくいという特長があります。
しかし「ステンレス」は「鉄」と違って硬いため、勝手が違ってきます。
強く叩かなければならない分、安定して線を入れにくいためです。
次に丸くかたどった大小の金銀をはめていきます。
7種類の水玉を配色を考えながら打ち込んでいきます。
最後に磨きをかけて、完成しました。
中嶋象嵌 京都府京都市右京区嵯峨天竜寺瀬戸川町10-3
嵐山昇龍苑2F 京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町40-8
*https://omotedana.hatenablog.com/entry/Ippin/Kyoto/Inlay より
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