これまで数々の畑沢の石仏を紹介してきました。たった一体の馬頭観世音を残して、全ての調査が終了したと思っていましたが、5月8日に思いがけない場所で石仏を発見しました。他のどんな郷土誌にも出ていなかった石仏です。
畑沢の奥にある沼澤の林の中にありました。ここは、大戸C氏の氏神が祀られていた場所の一角です。この石仏は高さが1m足らずの小さな石仏ですが、大変に珍しい石材で造立されています。畑沢では「立石石」と言われている立石山から産出する角閃流紋岩です。大変に硬い岩石で、普通はこの岩石では石仏を造立しません。でもたった一体だけ畑沢で造立された石仏があります。それが上畑沢の延命地蔵堂の境内に建てられている「湯殿山・象頭山」です。こちらは時の大金持ちである古瀬吉右衛門が、文化八年(1811年)に建てた7、8mの大石仏です。今回、紹介している小さな石仏とは対照的な石仏です。しかし、この二体の石仏には、大きさを除けば全体的な雰囲気に似かよったものを感じます。一つは、自然石に彫られていることです。硬い岩石ですので、余計な労力を使わなかったのでしょうか。次に「殿」を除いて他の字の形が似ています。
大戸C氏の家系は、代々、背中炙り峠にある「乳母木地蔵堂」の別当を務めてきました。通常、個人の家に「湯殿山」石仏はないようです。大戸氏の家とこの石仏には、どんな物語があったのでしょう。