おとのくに♪♪

生徒さんのピアノレッスンで感じたこと、考えたこと、コンサートの感想などポツポツ綴っています。

英雄ポロネーズ エディション研究 ⑨

2023年08月24日 | エディション研究

いよいよ最終回です。
あと一息お付き合いくださいませ。


略語
FE フランス初版
GE ドイツ初版
A 自筆譜ファクシミリ
m. 小節


【校訂報告 ✐౽】
m.148,150(譜例13) GEは、これらの小節の始まりのE♭がナチュラルになっている。FEは、m.148と150がE♭で、149と151がEになっている。この版では、148と150に対応する144と146がE♭の為ここもE♭とし、149と151に対応する145と147がE1である為、ここをEとした方が適切ではないかと思われ、そのようにした。



譜例はm.148。


曲の流れの中で対応する小節を見てみます。Es音は青文字、E音は赤文字です。
GEは148&150がE音。 FEは148&150がEs音。パデレフスキー版はFE と同じ。

短調と長調のコントラストが美しい部分です。
これを経て誇らしげなあのテーマが戻ってきます。形式上のコントラストもある部分です。

自筆譜ファクシミリもm.148はEs音です。その他もFEと全く同じです。上の楽譜はエキエルですが自筆譜と同じです。FE、パデレフスキー版とも同じです。

m.148がE音のミクリはm.150ではEs音になっています。
ミクリ版を使われるときには、ここは修正が必要になると思います。



【校訂報告 ✐౽】
GEには、左手の4番目の和音のC1がない。



ここは華麗なコーダに入る直前の小節です。


自筆譜ファクシミリは次のようになっています。最後から3つ目の左手の部分です。


C音はどこにもありません。加線が鮮明に見えています。
エキエルもC音はありません。パデレフスキー版にはC音が入っているので、使う時には注意した方が良さそうです。


m.143からのホロヴィッツのバスラインの繊細な表現。84歳の時の演奏です。


以上です。


今回は校訂報告全てを載せてはおりません。
演奏上、気になるところを抜き出してみました。

また、校訂報告の翻訳は私自身のものです。
言い回しがわかりにくいところがありましたら申し訳ございません。


昔はなかったエキエル版が登場したことで、曲の印象が部分的に変わったり、弾きやすくなったりしているかもしれません。

版の比較をしてみて、エキエル版が必ずしも自筆譜通りに再現していないことがわかりました。
今は自筆譜のファクシミリ(自筆譜を写真で撮ったもの)が以前より入手しやすくなったので、疑問に思ったら確かめてみると確信が持てます。

自筆譜と違う時に、それによってどう音楽に違いが生まれるかも考えると楽しいものです。


おしまい ✐౽

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

英雄ポロネーズ エディション研究 ⑧

2023年08月23日 | エディション研究

略語
FE フランス初版
GE ドイツ初版
A 自筆譜ファクシミリ
m. 小節


【校訂報告 ✐౽】
m.141(譜例12) FEは、右手最後の2つの音を16分音符で書いている。m.133は、FE、GEとも16分音符である。GEのB2は、B2が32分音符、次に32分休符、そしてA2を16分音符で書いている。この版はミクリ版に従ったものである。新しい版では、別のリズムになっているものがある。その別のリズムとはm.133のリズムである。この他に、Klindworthはこのパッセージ(m.133,137,141)を32分音符、16分休符、16分音符のリズムで書いており、は16分音符、16分休符、32分音符で書いている。


校訂報告を含め表にしたものが下の譜例です。


Klindworthとは、ドイツの作曲家、ヴァイオリン奏者、音楽教師。ヴァイマールでリストの指導を受けたそうです。モスクワ音楽院ピアノ科教授に就任し、ロシア滞在中にショパンの学術校訂版を完成させているそうです。学術校訂版というのはおそらく批判校訂版のことだと思います。つまり原典版。楽譜の校訂者として著名な人物だったようです。

Burgnoliとは、イタリアの作曲家、ピアニスト、音楽学者。アントン・ルビンステイン・コンクールでバルトークを破り作曲賞を受賞。フィレンツェの音楽院の教授になり、ピアノ教育、ピアノ技術に関する著作があるそうです。リコルディから彼が校訂したショパンの楽譜が現在も出版されています。


表だけではどの部分かピンとこないと思いますので楽譜を一部載せます。

m.132-133

校訂報告では、最後の2音について書かれています。

この楽譜はエキエルです。2音とも16分音符で書かれているものが最も多いです。 自筆譜も2つの16分音符。


m.137

最後の2音は16分音符。 自筆譜も同様。


m.140-141

ここで初めて変化する最後の2音。 エキエルは32分音符が先 です。自筆譜も同様。



自筆譜がどうであろうと、 ここはパデレフスキー版で耳にしている人が圧倒的に多い、この魅惑の16分休符を無くすわけにはいかない! という人が多いのではないかと・・


ホロヴィッツの演奏です。3連符の後に注目。


アルゲリッチ


アヴデーエワ、チョ・ソンジン、小林愛実さん、牛田くんを聴いてみましたが、お若い方も魅惑の休符入りでした。
聴いた中では、反田さんだけエキエルの通り。つまり自筆譜通りでした。

弟子のミクリが最後が32分音符ならそれでヨシ! と個人的には思います。
私はこの曲のここが一番好きです。ホロヴィッツ最高


今回はここまでです。 ✐౽
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

英雄ポロネーズ エディション研究 ⑦

2023年08月22日 | エディション研究

略語
FE フランス初版
GE ドイツ初版
A 自筆譜ファクシミリ
m. 小節


【校訂報告 ✐౽】
m.81-82(譜例10) FEは、アルペジォを下から続けて書いている。
GEは、右左分けて書いている。m.101はどちらの版もアルペジォを分けていない。




エキエルはm.81-82もm.101-102も下から続けて書いています。


自筆譜ファクシミリはこのようになっています。m.81-82です。


2つ目のアルペジォまでは右左分かれているように見えます。
もしかしたら3つ目もそうかも・・
最後もそうかも・・

ということで、どちらなのか確定できません。

ん?小節線の書き方が・・
もしかしたらショパンの癖かもしれません。
線を続けて書かないのは。


m.101-102は次のようになっています。

2つ目までは確実につながっています。3つ目だけ区切れて見えます。

最初の印象が大事なのかと思わせますが、m.81は最初の2つは区切れています。その結果、区切っているということにしたのかわかりませんが、m.101-102も区切っている版があります。

ショパンはおそらくどちらも下から続くアルペジォを書いています。


パデレフスキー版で勉強した昔の演奏家はアルペジォを分けていますし、エキエルで勉強した若めの演奏家は1本のアルペジォにしている傾向があります。

表現にどのような違いが生まれるか考えて演奏出来れば良いのだと思います。

アルペジォを分けるとシャープさが出ます。つなげると勇壮な感じが出るように思います。


再度言いますが、自筆譜ファクシミリを見る限りでは、おそらく全て1本のアルペジォをショパンは書いたと思います。

楽譜というものは、このような線が1ミリくらい離れているか否かで 表現するものが変わってきます。


1本線のアヴデーエワ


左右分かれたパターンのアルゲリッチ
アルペジォが左右分かれているということは、両手同時。


今回はここまでです。 ✐౽
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

英雄ポロネーズ エディション研究 ⑥

2023年08月21日 | エディション研究

略語
FE フランス初版
GE ドイツ初版
A 自筆譜ファクシミリ
m. 小節


【校訂報告 ✐౽】
m.64(譜例7) 
FEは、2番目の和音にB♭が書かれていない。
GEは、走句が最後の和音より始まっている。FEでは、この小節の後から2番目の和音より走句が開始されている。






まずはB音に関しては自筆譜ファクシミリにこの音は書かれています。
エキエルもB音はあります。

走句の開始をどこから始めるかについて。

こちらは自筆譜ファクシミリ

走句の2番目と3番目の間に最後の和音があるように見えます。

コルトーは2番目の音から始めるよう書いてあります。
エキエルは3番目の音から開始。

パデレフスキーは1番目の音から始めるので一気に弾き切る感が出ます。
2番目から始めると最初の音が前打音の扱いになります。
3番目から始めると複前打音のように聞こえます。1拍目4分音符の後の装飾音と同パターンのようになると思います。

この部分は生徒さんから質問を受ける可能性のある箇所です。
このパッセージの始まりを左のどこと合わせるのかと。

弾き方はひとつではない、が答え。

わかっていることは、ショパンの自筆譜では2番目と3番目の間に左の最後の和音があるように見える。


どこを左の最後の和音と合わせるかでニュアンスが異なるので、どれを選択すべきか考えて決めると良いと思います。


最後の和音と1番目が同時のギレリス
アルゲリッチ、アヴデーエワ、ホロヴィッツなどこのパターンが多いです。

3番目の音から開始のソンジン



今回はここまでです。 ✐౽
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

英雄ポロネーズ エディション研究 ⑤

2023年08月20日 | エディション研究

略語
FE フランス初版
GE ドイツ初版
A 自筆譜ファクシミリ
m. 小節


【校訂報告 ✐౽】
m.58-59(譜例5) 
FE(ミクリ版も同様)は、58,59小節の左手の最後の8分音符がF-A♭ではなくF-Gとなっている。





エキエルは、F-Asです。


自筆譜ファクシミリはこのようになっています。

1小節前のF-Gと同じ書き方に見えます。問題の箇所もF-Gで書かれていると思われます。

このあとの m.62-63 に右手が1オクターブ高くなり現れます。
その時の左手はF-As-Fです。

これを考えると、エキエルやパデレフスキーのF-Asは納得できます。

この部分は f-mollで、和声がF-GはⅡ7、F-AsはⅣ7です。
どちらもサブドミナントと考えると大した違いはないかと単純に思ってしまいますが、弾いてみると結構違います。音楽のキャラクターが全く異なります。

この一音で、2小節後に出てくる1オクターブ高くなったものとの表現に違いが生じます。


こちらはミクリです。私はこの楽譜で弾きましたが、この音は意味があると思い弾きました。



【校訂報告 ✐౽】
m.61(譜例6)FEは、最後の2つの8分音符にB音が書かれている。




こちらはヘンレ版にある校訂報告で、パデレフスキーには載っていないものです。

自筆譜ファクシミリB音はありません。


エキエルもB音は入っていません。
メロディーに第3音があるので、伴奏との重複は和声法的にありえません。それに弾きにくいです。
パデレフスキー版をお使いの方は、ここは注意された方が良いと思います。


パデレフスキー版通り左手F-As、Bありのブレハッチ(自筆譜はF-G、Bなし)


F-AS、Bなしのホロヴィッツ

ミクリパターンは見つけられませんでした。



今回はここまでです。 ✐౽
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

英雄ポロネーズ エディション研究 ④

2023年08月19日 | エディション研究

略語
FE フランス初版
GE ドイツ初版
A 自筆譜ファクシミリ
m. 小節



【校訂報告 ✐౽】
m.50-51 54-55(譜例4) 
FEは、50-51小節の間の右手のC2にタイがついている。GEでは、このタイがついていない。54-55小節では、FEはE♭2とG2にスラーがかかり、GEではE♭2にタイがついている。
ショパンは、両方の和音に共通する音をタイで結んだと思われる。





譜例の楽譜がいずれも段が変わる所にあり、スラーとタイがたいへん分かりづらくなっており申し訳ございません。

一番上はm.50-51で、C2がタイ。
二番目のものはm.54-55で、Es2がタイ。
三番目はm.54-55で、Es2とG2にスラー。

エキエルは、
m.50-51 タイなし
m.54-55 Es,Gにスラー
m.51、55の最初の和音で4つの音を鳴らすようになっています。

自筆譜ファクシミリを見ると、
m.50-51 Cに線は付いていますが次の小節には何もありません。一つ目の赤い矢印)m.51が次の段に書かれているので書き忘れの可能性があります。(二つ目の赤い矢印
m.54-55 Esにタイ三つ目の赤い矢印) このタイは明瞭です。



自筆譜を見るとパデレフスキーの校訂報告にある共通する音をショパンはタイで結んだのではないかという解釈になるかもしれませんが、タイにすると弾きにくいです。

エキエルで譜読みをした曲が私はないのですが、自筆譜にあくまで忠実に再現された版だと思っておりました。しかし、これまでのところ必ずしもそうではないという印象です。弾きやすさやも加味されているかもしれません。


共通音をタイで弾いているブレハッチ。パデレフスキー版はこの部分はショパンの意図を組んでタイにしています。


エキエル通り、m.51、55の最初の和音で4つの音を鳴らしスッキリの反田さん



今回はここまでです。 ✐౽
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

英雄ポロネーズ エディション研究 ③

2023年08月18日 | エディション研究

略語
FE フランス初版
GE ドイツ初版
A 自筆譜ファクシミリ
m. 小節



【校訂報告 ✐౽】
m.28(譜例3) 
FEとGEには、最後の和音にC1が書かれていない。




最初に訂正です。
譜例のL.HにC音が入った方にGEを書いてしまっていますが間違いです。GEもC1音が入っていない下のグループです。


パデレフスキーの校訂報告には左手の和音のことしか触れられておりませんが、右手も版による違いがあります。ヘンレ版の校訂報告には右手のことも書かれています。



まずは左手を見てみます。

最後の和音にC音が ないものとあるものがあります。


まとめると、m.28は、
C音なし A、FE、GE、ヘンレ、ミクリ、コルトー
C音あり パデレフスキー
m.44、76は、
C音なし FE、コルトー
C音あり A、GE、パデレフスキー、ミクリ

エキエルは、自筆譜に忠実にm.28なし、m44、76あり。多数派と同じです。

同じような箇所なのに、m.28は「なし」が多数m.44,76は「あり」が多数
本来、どちらも「なし」多数か「あり」多数になるはずです。

これはどういうことでしょう。



この左手は、右手の前打音と関係していると考えている版が見られます。
右手を見てみましょう。

ヘンレ版の校訂報告には、FEは前打音にa2が書かれている、とあります。

自筆譜ファクシミリはどのようになっているかというと、a音は全てなしです。それに従っている版が大多数です。右手に関しては多数派が一方に絞られています。

パデレフスキーとミクリは考えてる様子が窺えます。
ミクリは、m.28 右a2あり+左C1なし、m.44、76 右a音なし+左C音あり。
パデレフスキーは全てa2なし+C1ありパターンです。



この事態を生んだのは、自筆譜のm.28によるものと思われます。
右aなし+左Cなし
m.44、76は、
右aなし+左Cあり

エキエルは自筆譜通りです。


結局、どう選択するか。

左手にCがある方が豪快だと思います。
下のパターンはCを省くことで根音Desと第7音Cがぶつかることを回避したのかもしれません。

ショパンは右手は前打音a音なしで一貫しています。次のdesの時にaを同時に弾くことで厚みが出ます。

m.28の左C音を弾くか弾かないかの選択になるわけです。 
そのあとのユニゾンスケールが1回目は短いので、あえて1回目のm.28の左手にはCを入れず響きを多少シンプルにした可能性が考えられます。

そのように自分では解釈して自筆譜と同じにしてあるエキエルで行くか、1回目は単なる書き忘れと捉えパデレフスキーのように3回とも豪快に行くかの2択かと思います。

どれを選択しようが、そこに理由があれば良いわけで・・


今回はここまでです。 ✐౽
結構、頭の中がグルグル🌀しました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

英雄ポロネーズ エディション研究 ②

2023年08月17日 | エディション研究

かつて自分で訳したパデレフスキー版の校訂報告を使い、違いを見ていくことにします。

略語
FE フランス初版
GE ドイツ初版
A 自筆譜ファクシミリ
m. 小節


【校訂報告 ✐౽】
m.16-17(譜例1) 
この版(パデレフスキー版)では、GEのフレージングに従う。FEではm.16の終わりまでスラーが続いている。




上のヘンレグループの楽譜のコピーは、段が分かれていたものを隣に貼り付けています。
スラーはm.17の最初の音まで続いています。

エキエルは、ヘンレグループと同様です。

自筆譜のファクシミリを見ると、m.17の最初の音までスラーが続きその音から次のスラーが書かれています。Elisionです。
譜例の上の方にあるヘンレグループと同じです。


【校訂報告 ✐౽】
m.26(譜例2) 
GEでは、この小節とm.42の終わりが次のように書かれている。


m.74とm.164では、16分音符・16分休符、8分音符で書かれている。




左手3拍目をm.26、42、74、164とも、8分音符で統一している版と、16分音符+16分休符・8分音符に統一している版があります。しかし、GEは前半8分音符、後半16分音符になっています。

エキエルは8分音符に統一。

自筆譜のファクシミリは、m.164以外は8分音符、 m.164は16分音符・8分音符です。m.26の3拍目ウラの8分音符の前が黒く消されているのが見えますが、前後の音符は書き直した様子はなくはっきりとした8分音符です。

m.26

m.164



m.74は一瞬16分音符に見えますが、よく見ると中央のC音の加線です。
GEはそれを見間違えたのかもしれません。

m.74



GEと自筆譜ファクシミリをまとめると、このようになります。



いずれも、あの長いユニゾンのスケール4小節前の部分です。
フレーズを一瞬一度閉じるそのバスのリズムをどう捉えるかです。 現代では、版によってどちらかのパターンに統一して書かれているので、自分の考えで選択して良いと思います。

ショパンはおそらく、8分音符で統一したかったのではないかと思います。その方が安定感があり、力強いです。
m.164は右手の旗の16分音符につられて書いてしまったのかも・・?


今回はここまでです。✐౽


この曲を実際に弾いている最中ですと、この版の比較は興味が湧くかもしれません。
そうでない方は、いつかご気分が向いた時にでもお読みいただければと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

英雄ポロネーズ エディション研究 ①

2023年08月15日 | エディション研究

久し振りにエディション研究をしたいと思います。

前回は2020年にJ.S.バッハのインヴェンションNo.1についてしました。

今回はショパンの英雄ポロネーズです。


バッハの時もですが、このポロネーズも学生の時の必修科目だったエディション研究で発表したものです。

当時はエキエルの存在はなく、現在日本で出版されているパデレフスキーのライセンス版も存在しておりませんでした。

友人と2人で組んで発表しました。
校訂報告は、英語が得意な友人は何故かヘンレ版のドイツ語、英語が得意ではない私がパデレフスキー版の英語を訳しました。

(確か友人のお父上が大学教授でドイツ語が大丈夫というので、わからなかったら教えてもらうと言うのでそのようなことになったと記憶しています。昔は翻訳アプリどころかパソコンもなく、その前の時代のワープロもなく、すべて時間をかけ自力でしていました。)


゚・*:.。. ☆☆.。.:*・゜

使用楽譜は、
・ヘンレ
・パデレフスキー
・コルトー
・ミクリ

ショパンの初版は英、仏、独の3国同時出版であることがひとつの問題です。
この段階で既に国によって違いが生じています。その違いが原典版の校訂報告にはきちんと書かれています。


何回かに分け、版による違いを見ていきたいと思います。

久し振りに見ましたら、結構違うものだと思いました。
今回はエキエルも加えて見ていきます。


゚・*:.。. ☆☆.。.:*・゜


版の比較を見る前に、この曲が作られた頃のショパンについて。

作曲されたのは1842年。創作の絶頂期です。
出版は1843年。作曲されたのは1842年。1839年から1843年に出版された作品は、全生涯を通じ最も高い位置を占める作品たちです。


1839年出版 | 24の前奏曲
1840年出版 | ピアノソナタ第2番、バラード第2番、スケルツォ第3番
1841年出版 | バラード第3番、ノクターン第13番、ポロネーズ第5番、幻想曲
1843年出版 | バラード第4番、スケルツォ第4番、ポロネーズ第6番

この後は、1845年 | ソナタ第3番、子守歌、1846年 | 幻想ポロネーズ、舟歌、1847年 | チェロソナタ、と作品は減り、マズルカ、ノクターン、ワルツが増えていきます。

英雄ポロネーズが作曲された1842年。
プレイエル楽堂で公開演奏会が開かれています。

プログラムは
Andante spianato
Mazurka As dur, H dur, a moll
Ballade As dur
Etude Op.25-1,2,12
Prélude Des dur
Impromptu Ges dur

公開演奏のあった2月21日、ショパンの最初の師Živný先生が死去。ショパンにバッハやモーツァルトを教えた先生です。ショパンは自分で初めて譜面に書いたポロネーズをこの先生の誕生祝に贈り、先生の下を卒業しています。

4月には幼友達マトウシンスキーが肺結核で亡くなっています。
その1週間後、サンドと共にノアーンへ。サンドは友人らも招き、ドラクロワは4週間滞在しています。

英雄ポロネーズについてショパンは、「グローショーの戦いのようだ」と言っています。グローショーとは、ポーランドのために戦っている亡霊のような勇士たちの活発な舞曲のこと。

亡霊のような勇士・・
序奏部の音楽が理解できる気がします。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライセンス版について(Edition vol.10)

2020年01月10日 | エディション研究
インヴェンションNo.1を2つのファクシミリ版を基に、原典版・実用版と比べてきました。

楽譜を見ていると時々疑問に思うことに出合います。
「これ、ほんとに合ってるの?」と。

ひとつの曲でも色々な版があり違いがあるのはこれまで書いてきたようなことがあるからです。

自筆譜(ファクシミリ版)の段階で既に解釈が異なる事態が生じたり、何人かの弟子の書いた筆写譜がそれぞれ違かったり、よくわからない実用版を底本にした実用版が作られたり・・

何を資料にして作られたかが校訂報告に明記されている版でしたら信用して良いと思っています。少なくとも原典版にはそれは書かれています。

その校訂報告。英語、ドイツ語またはフランス語で書かれていることが多いです。
私が学生の頃はどの版も全て外国語でした。

しかし、現在はライセンス版なるものが存在し日本語で読むことができます。
パデレフスキー版の日本語が出現した時には驚きました。コルトー版もそうでした。

このライセンス版。なにかと申しますと、その出版社の古いバージョンを譲り受けたものです。譲り受けたは正しくないと思いますが、改定されたものができたので古いものはいらなくなったから使っていいよ、となったものです。使ってよい期間は定められている場合があります。そりゃそうです。心血を注いで新版を作ったのに永遠に古い版が発刊され続けていたら評判を落とします。

インヴェンションのライセンス版はベーレンライターとウィーン原典版があります。

ベーレンライターは、1971年版を全音とヤマハが2010年まで日本語訳で出版する契約を結びました。10年前に切れているので在庫のみです。

ウィーン原典版は元々ショット社とユニヴァ―サル・エディション社の共同版です。
音楽之友社が1970年版の旧版(校訂者:Edwin Ratz/Kari Heinz Füssel)と契約しています。現在、ウィーン原典版は新版のLeisinger校訂が主です。旧版はC-dur,E-dur,F-durの3曲を発刊しているのみです。

要するに日本語訳のあるライセンス版は本家の50年前の版であるということです。
そこをわかって使う必要があります。新版は2005年(ベーレンライター)、2007年(ウィーン原典版)に出ています。
長く新版が作られなかったヘンレは2015年に新版ができたようです。これは知りませんでした。先程調べたらそういうことになっていました・・
そういえば10年位前に、ヘンレが色々な作曲家の新しい版を作り始めたと読んだ記憶があります。

最新版の内容が大きく異なることはないと思いますが、新しい資料が出現して変わったところもあるわけです。指使いを考えた人が変わることもあります。
それでも校訂報告を日本語で読めるのは便利です。

ご興味のない方にはつまんないです・・という内容を10回にもわたり書かせていただきました。
お読みくださりありがとうございます。

実はこの「エディション研究」の内容は、学生の頃に必修の科目だったのです。もう30年以上前になります。
先生が学生に教えるものではなく、毎回学生が調べたものを90分授業で発表する形態で行われた授業でした。先生は発表後解釈のアドヴァイスをされました。

曲は年間で何をやるか決まっていて、それぞれ好きなものを選びました。
校訂報告を翻訳し、すべて手書きで書き、資料として皆が分かりやすいように作って配布しました。
生徒数が少なかったので年に2回発表した記憶があります。
この経験は今も大いに役立っています。自分で調べたり考えたりしたものを形にすること。わかりやすく伝えようとすること。

さて、今回のエディション研究はいったんこれで終了します。
手元にインヴェンションがあと数曲と、他の作曲家のものもあるので、いつかご紹介できたらと思います。

えーっ、また~?なんて言わないでください・・

生徒さんのためにも質の良い楽譜を選びたいと思いますので。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インヴェンションNo.1 版による指使いの比較(Edition vol.9)

2020年01月08日 | エディション研究
原典版、実用版の指使いを比べてみたいと思います。

最初の所を少しだけ。3小節目をご覧ください。

ベーレンライター(2005年)↓

ヘンレ(1979年)↓

ウィーン原典版(2007年)↓

園田さん↓

ランツホッフ↓


【3小節目】
㋑ベーレンライター、ヘンレ、井口さん、園田さん、ツェルニー、ブゾーニ
㋺ウィーン原典版
㋩ランツホッフ

一番滑らかに弾けるのは㋑グループです。

㋺は意識して歌えると思います。4拍目の「C」で「2」を使うことによりそのあと「5」の指を使うことになります。㋑はスイスイ弾けてしまうので、それを避けたければこのパターンかもしれません。

㋩はモチーフに合わせた指使いです。ランツホッフはこのような視点でフィンガーリングを考えているように思います。

個人的な意見ですが、子供たちにバッハを使うとしたら実用版の方が音楽をつかめるので良いと思います。
ただし、他の実用版を底本とした実用版ではいけません。
原典版を底本としたものに校訂者の解釈が加わったもの。校訂者は明記されていなければなりません。

日本のものでしたら園田さんが校訂したものが良いかもしれません。
私は長くランツホッフを使ってきました。

一人でもう少しやってこられる楽譜の方が良いと思い、市田儀一郎さんのものにした時期があります。しかし、テーマを書いて下さっているので、自分で見つける楽しみが奪われると思い、そのあとインヴェンションを弾かせたい生徒もいなく、どの版にするか考えることもしなくなっていました。

今回、園田さん校訂の版に興味を持ちましたので、全曲弾いてみて良さそうでしたら使いたいと思います。

園田さんで思い出しました。学生の頃、ステージの上で園田さんの平均律Ⅰ全曲の演奏を聴いたことがあります。
授業が終わってからダッシュでホールに行きましたら満席で、園田さんがステージに客席を作ってよいと仰るので近くで聴かせていただきました。
学生たちにとって平均律は常に弾いているバイブルのようなものでしたので、皆詰めかけたのでした。
楽譜を見ながら弾いていらっしゃいましたが、平均律全曲を生で演奏できる人がいるのかとあの頃は驚嘆しました。

おまけ
インヴェンションNo.13と平均律Ⅰ No.1プレリュードの初稿です。
W F Bachのためのクラヴィーア小曲集

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インヴェンションNo.1 実用版比較(Edition vol.8)

2020年01月06日 | エディション研究
曲全体を表にしてみました。



小さくて見づらいと思いますが、ご勘弁を。

楽譜は次のものを選びました。

初稿
清書譜
原典版ーベーレンライター(2005年発行)/ヘンレ(1979年発行)/ウィーン原典版/(2007年発行Leisinger校訂)ペータース版(ランツホッフ)
実用版ー春秋社(井口基成)/春秋社(園田高広)/ペータース版(ツェルニー)/ブライトコプフ(ブゾーニ)

この曲で問題になるのは冒頭と最後だと思います。

【1,2小節目】
自筆譜には初稿、清書譜共にプラルトリラーにもかかわらず、実用版を見ると園田さん以外はモルデントです。
どういうことでしょう・・

井口さんは旋律の動きからこの方が良いと書かれています。
あっさりこれだけの理由でそのようにされています。

モルデントで「A」が聞こえるのと、プラルトリラーで「C」が聞こえるのでは主音に解決する力が全く違います。私には「A」にするともったり聞こえてしまいます。一瞬Ⅱ度のように聞こえ、そのあとⅤ度の進行がなくⅠ度に進むので違和感を感じます。
そのⅠ度さえa-mollのⅠ度かと錯覚します。

子供の頃モルデントで弾いた私にはなんとなくその感覚がシックリきていませんでした。明るいはずなのに暗い・・
今考えるとa-mollかと思ったのに違うんだ、ということだったのだと思います。

【最終小節】
原典版は清書譜はフェルマータがオクターブに見えているだけと判断し、左手は全ての版で単音にしています。

それに対し、実用版はオクターブにしているものが多いようです。
日本の実用版は何を資料にしているのでしょうか・・
もしや、ツェルニー?

市田儀一郎さんの版を生徒に使っていたことがあるのですが、これはベーレンライターを底本にしていたと思います。
原典版と実用版の間という感じの楽譜です。
ディナーミクは書いていません。テーマが書かれているのが特徴です。
テーマは自分で見つけてほしいので、この版じゃない方が良かったなと思いました。

ランツホッフ校訂の版は、譜割りが見やすいので使っています。
同じ音域でもト音記号で書かれるのとヘ音記号で書かれるのでは感覚的に違うのです。ランツホッフはその点が滑らかに感じるように書かれています。シンフォニアも弾きやすく書かれています。

原典版には指使いも書いてくれていますのでそこも参考に選ぶと良いと思います。
ベーレンライターは指使いありとなしがあったと思います。

次回はその指使いを見ることにします。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

原典版は何から作られた?(Edition vol.7)

2020年01月05日 | エディション研究
原典版は作曲者の意図を理解するためのものです。

基本的に作曲者が書いたものしか書かれていません。
しかし、作曲者が書いた自筆譜が読みにくかったり、紛失していたりすることがあります。

原典版は何を資料として作成したか校訂報告に書かれています。

今回はそれをチェックしたいと思います。(J.S.Bachのインヴェンション)
ちょっと疲れる内容です・・
ー・-・-・-・-・-・-・-
【Bärenreiter】
この版の楽譜本体は「新バッハ全集Ⅴ/3巻からの忠実な再録である。
それは1723年のバッハ自筆の清書譜(ベルリンのドイツ国立図書館 mus.ms.Bach P610)を底本とし、1725年のハインリヒ・ニコラウス・ゲルバーの写本(現在個人所蔵)と、1723年頃に別の弟子によって書かれた写本(P219)からの装飾音を「付録」に掲げておいた。

【G.Henle Verlag】
1.1723年のバッハの清書譜(ドイツ国立図書館、ベルリンP610)
2.1720年1月22日から書き始めたW.F.バッハのためのクラヴィーア小曲集(エール大学、ニューヘブン)。W.F.バッハの手によるプレアンブルムe,F,G,a,hの筆写が残っており、プレアンブルムとファンタジアはおそらく1722年か1723年の春までは付け加えられていなかったと思われる。
3.W.F.バッハが所有していたバッハの無名の弟子が1723/24に筆写したもの(ドイツ国立図書館、ベルリン、P219)
4.1725年1月22日にバッハの弟子ハインリヒ・ニコラウス・ゲルバーがライプツィヒで筆写したもの(Gemeentemuseum's-Gravenhage、オランダ)

【Wiener uetext Edition】
A.清書譜、1723年のケーテン時代に書き始めライプツィヒ時代に最終校正した。31枚(17.5×24㎝)
(国立図書館、ベルリン―プロイセン文化所有―メンデルスゾーン資料館音楽部門、Mus.ms.Bach P610)
B.初稿、いわゆる、ヴィルヘルム・フリーデマンバッハのためのクラヴィーア小曲集。タイトルページ:Clavier-Büchlein/vor/Wilhelm Friedemann Bach/Cöthen den/22 Januar/Ao,1720 70枚(16.5×19㎝)
クラヴィーア小曲集は全て揃ってはいない。ファンタジア15(シンフォニア3番)13小節目、ファンタジア15(シンフォニア2番)が欠けている。(ニューヘブン、エール大学アービング ギルモアミュージックライブラリー 分類番号なし)
C.ベルンハルト・クリストフ・カイザーの写本、ケーテン1723年かライプツィヒ1723/1724? タイトルページ:ⅩⅤSinfoniés/pour le Clavecin/et/ⅩⅤ Inventionés/del Sigre/[nachträglich:Joh.Seb.Bach 32枚(15×21.5㎝)
(国立図書館 ベルリン―プロイセン―メンデルスゾーン Mus.m.s.Bach P219)
D.ハインリヒ・ニコラウス・ゲルバーの写本、1725年1月22日の日付とヨハン・セバスティアン・バッハによるいくつかの書き込み。16枚(19.5×31.5㎝)
(オランダ ハーグ音楽研究所 グラーフェンハーゲ Ⅲ/2/bachdoos/n.)
E.ヨハン・クリスティアン・キッテルの写本、1750年。インヴェンション8枚(34.5×21㎝)、シンフォニア(34×20.5㎝)
(国立図書館 ベルリン―プロイセン―メンデルスゾーン Mus.ms.Bach P1067(Inventionen)Bzw.P1068(Sinfonien))
ー・-・-・-・-・-・-・-・-
お疲れ様です。
なんだろう、演奏には関係ないと思いながらもお読みくださりありがとうございます。

ちょっとまとめてみますと、インヴェンションでよく使われている代表的な原典版(ヘンレ、ベーレンライター、ウィーン原典版)は次のものを資料として作成されたと言ってよいと思います。

1723年清書譜
1720年初稿
1725年ゲルバー写本
1723/24年カイザー写本

BärenreiterとG.Henle Verlagでは「別の弟子」「無名の弟子」とされている人物が、Wiener Uetext Editionでは「カイザー」と特定されています。

これらの原本がどこに所蔵されているかも書かれています。

私はPeters版のLandshoffが校訂した原典版を使っています。
Peters版はCzernyが校訂した実用版があり、これは冒頭のプラルトリラーがモルデントになっています。これは間違いです。

なのに、私が子供の頃使った全音はモルデントで、相当長い間この間違った装飾音が頭の中で鳴っていました。春秋社の井口さんの版もそうです。

最初に使う版はよく考えて選ばなければいけません。

次回は実用版を比べてみます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インヴェンション No.1 ファクシミリ版比較②(Edition vol.6)

2020年01月03日 | エディション研究
さぁ、お正月ですが、お勉強モードの続きです。

そんな気分ではないという方、新しい年はバッハからスタートするのはいかがですか?
今年はベートーヴェン生誕250年ですが、J.S.バッハは生誕335年、フリーデマン・バッハは生誕310年。バッハたちのイベントはありませんが、そこそこ切りのいい数字です。お祝いしてあげましょう!

では、インヴェンションNo.1の2つのファクシミリ版を比較します。

前回は楽譜全体を載せただけなので、細かいところを見ていこうと思います。
(m.は小節を表します)

【リズム】
初稿


清書譜


基本になるリズムがこんなに違います。

Henle版の校訂報告には、清書譜の3連符はバッハが弟子にこのように変化をつけることができると提示したかったのだろうとあります。
Bäremreiter版は初稿とは別の形として考えるべきだと3連符のものも載せています。
清書譜を見ると3連符の音符を後で書き足した感じがします。音符が小さめで線も細めなので。

清書譜を書いた頃、バッハはケーテンのレオポルト公の下で宮廷楽長を務めるかたわら、多くの弟子を持ち教育活動も盛んでした。
3連符は一種のリズム変奏の例として書き加えたものと考えられます。旋律線の柔らかさや残響時間の短さも考えたのかもしれません。
ー・-・-・-・-・-・-・-
【音】
◈m.19
初稿




左手4拍目ウラの「B」がナチュラルで「H」になっています。これは明らかにミスです。本気で「H」にしたとしたら次に「C」に進行しているはずです。しかし次の音は「A」です。
また、「BAGF」「DCBA」をゼクエンツと見た時にも「B」が適していると思われます。
        
◈m.20
初稿




清書譜




左手の1拍目ウラからの音型が上行形から清書譜では下行形に変わっています。3回連続のほぼゼクエンツに書き直されています。

そのあとは音域が1オクターブ違います。これは、右手と大きく離れていて音域的に問題があるとみて清書譜で書き直されたと思われます。
         
◈最終小節
初稿

清書譜


初稿は左手が単音、清書譜はオクターブ。
これは面白いところです。
清書譜のオクターブはフェルマータがそう見えているのではないかと原典版では解釈し、どの版も単音になっています。
ここの部分は、はっきり言って清書譜はわかりにくい!見えない!
左横にアルペジォらしきものも書かれているので、実用版ではこの記号を付けているものがあります。
ー・-・-・-・-・-・-・-
【装飾音】
◈m.6
初稿


清書譜


右手4拍目のプラルトリラーが清書譜で書き加えられています。
この装飾音の奏法がゲルバー写本にあります。

(初稿の5、6小節目のバスにある書き加えられたような音は長男に説明するために書いたと思われます。ここで通常のカデンツならこう終止すると。Ⅵ度を経過した方が断然良いです。バッハのセンス、素晴らしい!)
           
◈m.20
初稿


清書譜


右手4拍目のプラルトリラー。初稿では書かれていますが清書譜ではよくわからない縦線があります。原典版でもここは書いていないものもあれば、小さく書いているものもあります。

各カデンツのプラルトリラーを見てみます。
m.6 初稿なし/清書譜あり
m.14 初稿あり/清書譜あり
m.20 初稿あり/清書譜?

構成の区切りであるカデンツは統一した方が良いと思われます。
全てプラルトリラーありと考えて良いと思います。
ー・-・-・-・-・-・-・-
以上が初稿と清書譜の違いです。
原典版を見ても疑問だったことが、なぜそうなのかファクシミリ版を見るとわかると思います。自筆譜自体が全て正確というわけではないからです。

改めて初稿の演奏をお楽しみください

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インヴェンション No.1 ファクシミリ版比較①(Edition vol.5)

2019年12月30日 | エディション研究
1720年初稿と1723年清書譜のファクシミリ版を比較してみます。

1720年


読みづらいので書き直しました。

(数か所タイを書き忘れているところがあります

1723年




楽譜を載せただけで量が多くなってしまったので、中身については次回に致します。
ー・-・-・-・-・-・-
とても途中ですが、今年の投稿はこれで終了にしたいと思います。
今年も当ブログを訪れて下さりありがとうございました。

今年一番驚いたことは、ブログをお読みくださっているピアノの先生方にお会いすることができたことです。
自分が書いたものを度々読んで下さっている先生方がいらっしゃるとは想像しておりませんでした。そしてお会いする機会が訪れるとは夢にも思いませんでした。

どの先生方も温かくて熱心で、好奇心があって、生徒さんのレッスンへの労力をいとわない本物の先生方でした。
私も勇気づけられました。

ブログを書き始めた頃は自分しか読んでいないようなブログでした。
いつの間に多くの先生方の目に留まるようになったのかと不思議です。

来年も終わりのない旅を続けていけたらと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする