君はまだ
海を最初に見たときの感動を
覚えてるだろうか
ぼくが初めて海を見たのは
学校に上がるすぐ前の夏
売れない画家の伯父さんの
海辺の一軒家でだった
朝になって外に出ると
一面の澄み切った日本海と
両端に聳える白い岬の連なり
ぼくらは一日中岸壁沿いの道を
町へと出かけたり
景色のいい岩場へ行ったりした
「途中に蟹がいたよ」という従兄弟の言葉で
引き返して探していると
「死んでるからこの蟹はたべられない」と
伯父さんが言う
ポッチャーン
赤い甲羅の大きな蟹は
右に左に傾きながら沈んでいった
「母さん、沈んでゆくよ」
「馬鹿だね、死んだ蟹は食べらないんだよ」
足許では
ぬるぬるした黒い海草が
花のように
開いたり 縮んだり
遠い水平線に向かって
まるでさよならと言い続ける難破船たち
積丹半島行きの遊覧船が
ぽっかりぽっかりと その間を
煙を吐きながら去ってゆき
ハタハタなびく母さんのスカートに
夢中でしがみついては
遠い遠い沖の上の
空と雲とを見つめていたっけ・・
その日の夜 星もない浜辺で
酒臭い父に抱きかかえられて
真っ暗闇の海の中で手を離された
ー最初の遊泳ー
ほの暗い海の底には
幾千もの瞳がきらきら輝き
塩辛い水が
ぼくの涙だったのか・・
それとも 数え切れないほど多くの
溺死者たちの涙だったのか・・
海を最初に見たときの感動を
覚えてるだろうか
ぼくが初めて海を見たのは
学校に上がるすぐ前の夏
売れない画家の伯父さんの
海辺の一軒家でだった
朝になって外に出ると
一面の澄み切った日本海と
両端に聳える白い岬の連なり
ぼくらは一日中岸壁沿いの道を
町へと出かけたり
景色のいい岩場へ行ったりした
「途中に蟹がいたよ」という従兄弟の言葉で
引き返して探していると
「死んでるからこの蟹はたべられない」と
伯父さんが言う
ポッチャーン
赤い甲羅の大きな蟹は
右に左に傾きながら沈んでいった
「母さん、沈んでゆくよ」
「馬鹿だね、死んだ蟹は食べらないんだよ」
足許では
ぬるぬるした黒い海草が
花のように
開いたり 縮んだり
遠い水平線に向かって
まるでさよならと言い続ける難破船たち
積丹半島行きの遊覧船が
ぽっかりぽっかりと その間を
煙を吐きながら去ってゆき
ハタハタなびく母さんのスカートに
夢中でしがみついては
遠い遠い沖の上の
空と雲とを見つめていたっけ・・
その日の夜 星もない浜辺で
酒臭い父に抱きかかえられて
真っ暗闇の海の中で手を離された
ー最初の遊泳ー
ほの暗い海の底には
幾千もの瞳がきらきら輝き
塩辛い水が
ぼくの涙だったのか・・
それとも 数え切れないほど多くの
溺死者たちの涙だったのか・・