日本に1兆円規模の建設費を掛けて素粒子加速器を建設しようという計画がある。これが出来れば、138億年前の宇宙の状態が分大きな期待が寄せられているが、費用がかかりすぎて期待する成果が出るか不明だからという反対論も科学者の中には多い。
北上山地に建設が構想され、地元が誘致活動を進めている次世代の大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」で、宇宙誕生時のビッグバンに匹敵するエネルギーを素粒子レベルで再現し、宇宙の根源的な成り立ちに迫る狙い。1兆円近い建設費が課題。各国の費用負担の見通しは立たず、日本政府は誘致を正式決定していない。
ILCは2本の加速器を直線上に並べて電子と陽電子を両側から放ち、真ん中で衝突させて素粒子レベルの反応を調べる装置。138億年前のビッグバンに匹敵する高エネルギー状態の再現を目指す。
粒子の衝突エネルギーは2500億電子ボルトで、目的の一つである「ヒッグス粒子」を作って詳しく調べる実験は可能だが、より高いエネルギーで現れる未知の素粒子を検出できるかどうかは不透明。
自然を調べる装置「加速器」
自 然や宇宙の本当のところを知るためにはそれらを構成している基本単位を知るということがとても重要になったのです。この基本単位を知るための道具が加速器 です。加速器を使って自然を調べた結果、生活をまかなっているものは、たった3種類の基本粒子でできていることが判明しました。それを学者はアップクォー ク、ダウンクォーク、電子と呼びます。星から地球のなにからなにまで、この3つの粒でできていることがわかったのです。それでは、人類はもう全てがわかっ てしまったのかというと、面白い事に、どうもこの自然・宇宙にはそれ以上の粒子を作る能力があることが、やはり加速器を使った研究からわかりました。
能ある宇宙は爪隠す
宇 宙というのは普通には3本の爪しか見せていないのですが、加速器で実験ができるところでは、その他の爪を見せてくれるのです。現在までに確かめられたこと は、電子やアップクォークやダウンクォ−クのように「もの」となれる12種類の基本粒子があり、それらの「もの」の運動状態を変えたり粒子を変化させたり する4種類の「力」というものも、対応する基本粒子の働きのおかげであるということです。この考えを標準理論と言います。そして、最近見つかったヒッグス 粒子も基本粒子として存在することが確認でき、宇宙全体は17種類の基本粒子から成り立っていることがわかりました。繰り返しますが、通常目にする「も の」は、この内の3種類の基本粒子からしかできておりません。宇宙の本当のところを知るためには、加速器でその他の基本粒子を実験室でつくりださないとわ からないのです。
奇妙な粒子「ヒッグス」
では、宇宙の本当のところは、この17 種類の 基本成分・素粒子からできていると考えてよいのでしょうか。実は、ヒッグス粒子もようやく、宇宙が持っている能力のあらわれであるとわかったにすぎませ ん。ヒッグス粒子はものを構成するものでもなく、力を伝える粒子でもなく、ひとつだけぽつんと標準理論の中で存在している粒子です。標準理論になくてはな らない存在ですが、一方、その性質が他の粒子とあまりにもかけ離れていて奇妙でなりません。
そこで、宇宙の仕組みがそんなに奇妙ではない ようになっているために、ヒッグス粒子の仲間がいるのではないかとか、もっと基本的な粒子から構成されているのではないかとか、あるいは、その奇妙さをう ちけすために科学者が超対称性粒子と呼ぶ、もっと数多くの基本粒子が存在するのではないか、などが考えられています。
常識はずれの粒子「トップ」
さ らに、通常のものをつくっているアップクォークやダウンクオークの仲間で、ノーベル賞を受賞した小林博士、益川博士によってその存在が予測され、実際に存 在することがわかっている、トップクォークも常識破れの存在です。これまでクォークの仲間は全部で6種が確認されていますが、そのなかで異様に重いので す。あまりにも異様に重いので、なにか訳があると考えられています。しかし、これまでの加速器では頻繁につくりだすことができなかったため、その詳細な性 質がまだわかっていません。
宇宙を解くカギ「ヒッグス」と「トップ」を調べるのに最適な加速器ILC
つまり、標準理論にあらわれる素粒子たちは、ぎりぎりようやく確認ができただけで、その詳細がわかっていないこともあり、理論自体がひどく不思議なのです。宇宙が本当のところどうなっているのかを知るためには、今はヒッグス粒子とトップクォ−クを攻めればよいのです。
そ こで計画されているのがILCです。ILCはヒッグス粒子とトップクォークを詳細に調べるための最も現実的な加速器施設です。ILCでも新しい素粒子の発 見が期待できます。新しい素粒子は、これまでに人間が気がつかなかった宇宙の本当のところを直接教えてくれる存在ですから、新粒子発見はもちろん期待する ところです。しかし、あらかじめどれだけのエネルギーなら確実に発見できると予測することは至難の技です。しかし、今の標準理論ではっきりしていること は、ヒッグス粒子とトップクォ−クが本当のところを知るための鍵であり、ILCは確実にその奇妙さに迫ることができることです。研究者はその奇妙さのなか に、より奥深い宇宙の本当が隠されていると考えています。ILCで宇宙のより奥深い本当のところがわかったら、賢い人間のことです、それを有効に応用して いくことでしょう。ILCが明らかにする宇宙の本当のところを応用した50年後、100年後の人類のことを想像すると、とても楽しみです。