写真は、札幌市南区の「旧黒岩家住宅」です。
この建物は、開拓初期、札幌から有珠(伊達市に近い噴火湾沿いの街)への
「本願寺道路」という幹線道路が開かれて、
その旅客のための宿泊・休憩所として利用されたものです。
道路管理というのは、権力の本質に近いのでしょう。
こういった用途の建物というのは、歴史的に数多く建てられてきたのですね。
律令国家成立の頃から、国家というのは、
このような「通信手段・交通手段」を整備して管理する、というのが
基本的な目標になっていると思います。
権力の側からすると、自らの意志を浸透させる手段として
欠くべからざるものなのでしょうね。
従って、この建物は住宅というよりは旅館・ホテルの機能に近いのでしょう。
ただし、この建物はずっと個人所有であり、
個人が国家から、その機能を果たすように委任されていた、ということなのでしょうね。
近代・現代における「特定郵便局」のような存在だったのでしょう。
国家公務員ではないけれど、
安定的な保証を国家から与えられていた存在だったのだと思われます。
今日では、開拓しつくされクルマ社会になって
こういう存在って、想像力を働かせるのも難しいのですが、
札幌を一歩出れば、草深い未開拓地であり、
そこに一本の道が通っている、という状況だったのでしょう。
陸路での荷物運搬は馬を使用して行われたのでしょう。
そういう道すがらに、ちょうど、札幌市中心部から1泊目程度の
距離の位置に、この建物が建てられていたのですね。
1日の人間の移動は徒歩の場合、12~13km程度が多い、
という研究成果が、人類研究者からあったと聞きましたが、
この旅宿はそういった位置にあります。
それくらいの距離にあって、写真のようなたたずまいでこの建物に出会う。
ちょうど、この時期には北海道ではこんなたたずまいが見られる。
ことしの紅葉、ここにきて鮮やかな赤が際だってきています。
紅葉がよくない、というのではなく、遅いのかも知れませんね。
そんなもみじが朝方の雪にふりそそいで、
日本的な白壁と木の外壁とのコントラストを見せている。
一日の徒歩旅行の末にこんな風景の場所で
疲れを癒すわけですね。
今日のわたしたちも、なにげなくこういった雰囲気に癒やしを感じる。
こういう感覚は、日本人的な、ある普遍性に立ち至っているのでしょうか。
玄関にはいきなり石造りの薪暖房装置が据えられていて、
来訪者を「あたたかく」迎えてくれています。
北海道に暮らすものとしては、なによりも暖房がごちそうであり、
それを提供することが、コミュニケーションの最大要素。
建物内部には4室ほどの畳部屋がありましたが、
それぞれに囲炉裏が暖房装置としてしつらえられています。
そういう、刷り込まれたような民族的体験が、
こういう雰囲気の外観からも一気に伝わってくるのではないでしょうか。