三木奎吾の住宅探訪記 2nd

北海道の住宅メディア人が住まいの過去・現在・未来を探索します。
(旧タイトル:性能とデザイン いい家大研究)

【与那国の家 「分棟」という南方的イエ概念】

2019年08月25日 07時13分28秒 | Weblog
北海道で住宅の情報を扱う仕事をしていると
逆に南方での家の成り立ちとか、発展形態とかに興味を持ちます。
いろいろな機縁が重なって、沖縄にはたびたび訪問「取材」してきた。
古民家として、中村家住宅などは5-6回見学している。
写真の「おきなわ郷土村」の古民家群も数回見学して来ています。
もちろん現代住宅も見学していますが、
現代住宅は衣食住すべてにおいてグローバル化が進んでいて
地域オリジナルの基底的「文化様式」とは変容している部分がある。
やはり地域固有のありようは、古民家から浮き彫りになってくる。
少なくとも、そこで暮らす人間のライフスタイルとしての重要な要素が見られる。
そういうものが知らず知らずに、現代住宅にも「色づく」ものでしょう。

この家は年代特定はなかったのですが、
与那国島で「かつて建てられていた」住宅の移築という説明。
写真下に「間取り図」も付けましたが、2棟の建物で居住空間が構成されている。
いわゆる「分棟」形式ですね。
現代の北国住宅では基本的に「外皮表面積」を最小化方向で考える。
それは、熱損失を最小化させるという合理性志向からの選択。
暖房が基本になるけれど、家の中の温度をコントロールするためには、
必然的になるべくシンプルボックスである方が合理的。
家の機能も、当然、あるボックスのなかに詰め込む方向で考える。
わざわざ機能ごとに棟を分けるという発想を持たない。
伝統的には馬小屋までも一体空間で取り込む「南部曲がり家」的方向。
しかし、人類の住宅の中には南方系で「分棟」という形式もまた多い。
この与那国の家では、植栽樹木や「ヒンプン」という
ウチソト仕切り装置内部のなかに「イエ」という結界領域があって、
「屋敷には主屋(ダ)、炊事場(チムヤー)のほか、周りに家畜小屋、
小さな野菜畑が配置されて一般的な与那国の農家」が構成されている。
大阪住吉では現代コンクリート住宅で安藤忠雄さんが家の中で
傘を差して室内移動する住宅を建てたことが、センセーションを呼んだワケですが、
ここでは食事をするたびに外部を通ることになる。
まぁ、ほとんど距離はないのだけれど、空気環境は外部と一体型。
平均気温では冬場1月でも18度前後、最低でも16度程度なので、
着衣程度で過ごせることが大きく、むしろ煮炊きする熱気と湿気を
通常生活とは完全に切り離す方が合理的であるという「暮らしの知恵」。
また一般的に敷地が90坪程度あり、菜園なども含めた空間が
「屋根はないけどイエ」という意識になっているのだと知れます。
だから、ヒンプンという住の装置が結界装置として機能するのでしょう。

寒冷地でもたしかに「敷地」概念はあるけれど、
ヒンプンというようなものが結界を構成するという考えは少ない。
それよりは、より重厚に「壁を作る」方向に向かう。
でも寒冷地人間にすると、こういうあいまいな住空間意識というものに
強く憧れを持つ部分がある(笑)。
こういう「融通無碍」な建築が、どういうライフスタイル精神を生むか
その、得も言われぬ「開放感」に強く惹かれるのです。
意思疎通が普通にできる言語文化を共有しているのに、
ここまで「イエ」概念に違いがあることに強く刺激されます。
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