ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

しずかに流れるみどりの川

2018-12-20 18:09:05 | 読書
 ユベール・マンガレリ『しずかに流れるみどりの川』





 父と息子の物語。

 息子はまだ小さいのに、母の影がない。

 父は仕事がうまくいかない。

 そして貧しい。

 父はたっぷりの愛情を息子に注ぎ、息子もそのことを理解している。

 
 とても薄い本だけど、頭の中で膨らんで、その何倍もの厚みの本を読んでいるかのよう。

 息子になり、父になり。


 表紙に描かれた緑の濃淡は、底の見えない物語の深みに誘う危ない色。

 少し怖く、忘れられない。


 装丁は後藤葉子氏。装画はクサナギシンペイ氏。(2015)


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曲芸師のハンドブック

2018-12-18 17:50:02 | 読書
クレイグ・クレヴェンジャー『曲芸師のハンドブック』





 2008年に出版されたこの本は、いま新刊では手に入らない。

 クレイグ・クレヴェンジャーの著作も、翻訳されたものがほかには出ていない。


 本棚の奥にしまったまま、この本のことはずっと忘れていた。

 本棚から「発掘」して読んでみると、本当にこれはいい本を「発掘」したとわかった。

 しかし周囲を見回すと、この本は、地中深く埋もれたまま化石になってしまっていた。


 曲芸師の話ではないし、膝がありえない方向に曲がっている、表紙の男の話でもない。

 薬物中毒も、書類の偽造も些末なことだ。

 本筋は愛だ。この小説の中心には愛が流れている。

 秘密に気づいたとき、ページを戻して読み返してみると、そこここに愛の断片が見えてくる。(2017)





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赤い猫

2018-12-16 19:01:31 | 読書
仁木悦子『赤い猫』





 表紙を初めて見たときに、少しレトロな印象を持った。

 それはどこからくるのだろう。猫のイラストか、タイトル文字か。

 いずれにしても、50年代から70年代にかけて書かれたものなので、古い雰囲気がよく似合う。


 9本の短編ミステリー。

 謎解きは難しくなく、わりとあっけない。

 そして、どれも優しさに包まれている。殺人のような犯罪は起こるのだけれども。

 軽い気持ちで楽しく読んで、忘れた頃にまた読んでもいい。


 イラストはアイハラチグサ氏。デザインはアルビレオ。(2018)
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東の果て、夜へ

2018-12-14 19:59:36 | 読書
ビル・ビバリー『東の果て、夜へ』






 帯を外してカバーを眺める。

 赤い文字で惹句がびっしり詰まった帯は目に痛く、外すと一気に静寂が訪れた。

 誰もいないガソリンスタンドの写真。

 手前の道路が白く見えるのは靄か、雪か。奥の山の斜面も白いので、雪だ。

 地元のスタンドというより、どこか見知らぬ土地に来た気分。

 左右いっぱいに広がった「夜へ」「果て、」「東の」の文字が、まだ旅の途中という思いにさせる。


 少年たちの奇妙な旅。

 これから人を殺しに行くという。

 不安定な人間関係と、心もとない情報。案の定、トラブルだ。

 人生に疲れ果てた大人のような1人の少年は、ときおり子どもっぽさを露呈する。

 この小説に希望が見える気がするのは、その一瞬だ。


 何度カバーを見ても、そのたび「夜へ果て東の」と読んでしまうので、最後までタイトルを正確に覚えられずにいたが、この本のことは忘れずにいよう。

 ほぼ完璧な小説なのだから。


 デザインは鈴木久美氏。(2018)


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冬の日誌

2018-12-12 21:41:52 | 読書
ポール・オースター『冬の日誌』『内面からの報告書』








 2冊とも、同じ位置に英語のタイトル、著者名などが金文字で押されている。

 手帳、あるいは高級な日記帳のように。

 「日誌」と「報告書」。帯には「回想録」とある。

 著者の64年の人生を振り返ったものだが、いわゆる自伝ではなく、おおいに楽しめる読み物だ。



 ポール・オースターが64歳とは信じられなかった。

 この年齢は執筆当時のもので、いまは70歳を越えている。

 ぼくの中では、一番最初に読んだときの印象のまま、若いポール・オースターしかいなかったのだ。



 語られる出来事は、時間の流れに関係なく、まるで思いつくまま、筆の進むままに並べられている。

 自然な水の流れのように、淀みなく軽やかに文章に乗せられて読み進む。

 幼少期のことを、驚異的な記憶力でつづる。

 たとえそれが虚構だったとしても、十分に面白く、ぼくは満足だ。

 子どもの頃に見た映画のストーリーを語るところでは、一緒にその映画を見ているような気分になる。



 2冊のデザインの違い、帯の色。白と黒。

 外して並べると、どこもつながっていないのに一体化する。


 装丁は新潮社装幀室。(2018)



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