ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

天国の南

2018-12-10 17:16:35 | 読書
『天国の南』(ジム・トンプスン)





 表紙のモノクロ写真は、古い映画の一場面のようだ。

 銀色の英文字は、角度によっては光って見えにくくなるので、一瞬、劣化した、本当に古い本だと感じてしまう。

 でも、ジム・トンプスンの新刊。

 古書店でなく、新刊書店で見つけたのに、いまこの作家の本が新しく出版されたのが信じがたく、古本を手に取るような気分だった。

 読み進めていくうちに、これは個性的な犯罪者の物語ではないのだとわかってくる。

 想像していた世界と違う。

 ぶっきらぼうな中に、ときおり、真っすぐな気持ちが見えてくる。

 まるで21歳そのままの文章。

 ジム・トンプスンは、こんな物語も書いていたのか。

 軽い造本もいい。

 膝を立てて床に座り、片手で本を開く、そんな格好がきっと似合う。

 写真はドロシア・ラング、装丁は黒洲零氏。(2018)
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愚か者

2018-12-08 18:09:11 | 読書
車谷長吉『愚か者』





 『夫・車谷長吉』(高橋順子著)を買ったけれど、車谷長吉を読んだことがなかった。

 でも、一冊だけ本を持っている。その『愚か者 畸篇小説集』を本棚から出してみた。

 黒い函に入った本。

 その表紙を見て、なぜこの本を買ったのか思い出した。


 函の表1側に、タイトルを印刷した紙が貼ってある。

 そこにはキャッチコピー、さらに価格とバーコードも入っている。

 こんな変わった表紙をほかに知らない。

 下のバーコード部分の背景は白だが、上3分の2は黒。

 その中でタイトルは薄い黒で、全体の中でもっとも目立たない。

 むしろ「お前も勉強しないで、あそんでいると、くるまたにさんみたいになってしまうよ。」という白抜きのコピーの方が目に飛び込んでくる。

 本を抜き出していくと、水彩の自画像が出てくる。

 青々した頭、真っ赤な頬、焦点の定まらない瞳。

 それが天地いっぱいに、本の背側ぎりぎりに入っている。

 全部出してみると、人物画は端に寄っていて、しかもタイトルなどの文字はなく、ほとんどは白い紙のまま。

 黒い函とのコントラストに、もうこの本に満足してしまう。


 絵は自画像かと思っていたが、味のある題字ともに村上豊氏の作。

 装丁は鈴木成一デザイン室。


 読んでみると、この本一冊では、とても車谷長吉を読んだとはいえないと感じる。

 深い穴に落ちてしまうか、ここで踏みとどまるか。(2017)


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代書人バートルビー

2018-12-06 18:54:00 | 読書
メルヴィル『代書人バートルビー』





 国書刊行会のこの本は、函入りで、手に収まる幅の、縦に長い変わった判型。

 表紙の装飾は、本だというのを忘れてしまう不思議な空気を生み出している。

 多分、不思議さは、どれがこの本のタイトルなのか、すぐにはわからないことにも起因している。

 一番大きな太い明朝体は「メルヴィル」で、次に「バベルの図書館」、さらに「代書人バートルビー」と「J・L・ボルヘス」が続く。

 で、この本はメルヴィルが書いた『代書人バートルビー』。



 こんなこと言わずにすめばありがたい

 それならば言わずにいてくれればありがたいのですが

 でも言わなくてならない

 残念ながら聞きたくありません、でもわがままは言いません



 そんな、話。(2015)


函から出す




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ヤングスキンズ

2018-12-04 17:48:16 | 読書
コリン・バレット『ヤングスキンズ』





 カバーのイラストは、ぼくの好みとはいえない。

 周りの本とは違う、ちょっと変な感じが、逆に興味を引いたのかもしれない。

 それでも、書店の海外小説の棚でなければ、手に取ることはなかったと思う。


 7つの短編、アイルランドの地方都市に生きる若者の話。

 ちょっと暴力の匂いがしたり、本当に暴力をふるったり、心を傷つけるものだったり。

 どこにも行けない閉塞感が漂っている。

 その中に、ときおり繊細さが顔を出す。

 著者自身の気持ちが自然と溢れたのか、それとも巧妙に計算されているのか。

 いずれにしても、心に残る世界に変わりはない。


 読み終わってみても、イラストの違和感は解消されない。

 ヤングアダルトに届くイラストなのかもしれないが、間口を狭くしていないかと心配になる。


 装丁は水崎真奈美氏。装画は葉山禎治氏。(2018)



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そしてミランダを殺す

2018-12-02 18:55:06 | 読書
ピーター・スワンソン『そしてミランダを殺す』





 はじめのうち、凡庸な小説だと思ってしまった。

 しかし、読み進めるうち、それは徐々に変わっていき、やがて決定的に何か違うものだと知る。

 その後は「この展開、予想できるはずがない!」という帯のコピーを実感していた。


 章ごとに、違う人物のモノローグが続く。

 同じできごとが、異なる姿を見せる。

 その度に、語る人物に同調していく。

 人殺しの話だけど、それが悪に思えない。

 不思議な魔術にかかってしまった。
 

 カバーのタイトル文字は、ちょっと変わった組み方をしている。

 文字と文字を縦横に結ぶ細い線は、登場人物たちの関係を暗示しているのか。いや、考えすぎか。


 カバーデザインは鈴木久美氏。(2018)
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