平成27年(受)第1394号 不当利得返還請求事件
平成28年12月19日 第一小法廷判決
12月19日は3つも大きな事件の判断が出たので、あまり扱いは大きくはないですが、結構重要な事件です。
日経新聞では以下のように説明しています。
「事業実体なし」融資後に判明、信用保証は「有効」 最高裁初判断
中小企業への融資後に事業の実体がないことが判明した場合、信用保証協会による返済の保証が有効かどうかが争われた訴訟の上告審判決が19日、最高裁第1小法廷(大谷直人裁判長)であった。同小法廷は保証が有効で、同協会が債務を肩代わりすべきだとの初判断を示した。
同小法廷は判決理由で「金融機関が相当な調査をしても、事後的に中小企業の実体がないと判明する場合はあり得る」と指摘。こうした場合に「一律に無効とすれば金融機関が融資をためらい、金融の円滑化を図る信用保証協会の目的に反する」と述べた。
事業の実体がない中小企業への融資の信用保証をめぐっては、地裁や高裁で有効か無効かの判断が割れている。最高裁が判断を示したことで、今後の訴訟や融資の実務に影響するとみられる。
問題になったのは、2009年1月に北国銀行(金沢市)が地元の牛乳小売会社に融資した5千万円。同社は融資直前に第三者に事業を譲渡して実体がないことを銀行に伝えず、10年に破産手続き開始を申し立てた。
北国銀行は石川県信用保証協会と保証契約を結んでいたため、同協会が焦げ付いた約4900万円を代位弁済した。その後、実体がなかったことが判明。同協会は「実体がないと分かっていれば保証しなかった」として全額返還を求めて北国銀行を提訴した。
一審・金沢地裁判決は北国銀行が牛乳小売会社に関する調査を怠っていなかったと認める一方、「信用保証契約の重要な部分に錯誤があった」として契約が無効とした。二審・名古屋高裁金沢支部判決も同様に無効と認めて同行に全額の返還を命じ、同行が上告した。
第1小法廷は「事後的に実体がないと判明する場合を想定し、無効とする条項を契約に盛り込むことができたはずだ」などとして、保証は無効にできないと判断。二審判決を破棄し、信用保証協会の請求を退けた。北国銀行が逆転勝訴した。
同協会は上告審で「保証協会は金融機関の調査を尊重しており、不正な制度利用のリスクは金融機関が負うべきだ」と主張。判決は「銀行が相当な調査をすべき義務に違反した場合には保証協会は債務を免れることができる」との見方も示した。
融資を受けた会社は、経営状態が厳しい特定の業種を対象とした信用保証制度を利用していた。
債務保証協会がなんなのかわからない人には、企業法務ナビの解説の方が分かりやすいかと思います。
これってどうなんでしょうか。北國銀行の重過失なんでしょうかね。というか、債務保証協会も右から左へ書類を流すだけのいい加減な仕事をしていたとみられても仕方ないでしょう。
まずは、裁判所の事実認定から見てみましょう。
北國銀行と債務保証協会は,昭和38年9月,約定書と題する書面により信用保証に関する基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。
「保証契約に違反したとき」は,債務保証協会は北國銀行に対する保証債務の全部又は一部の責めを免れるものとする旨が定められていた。
牛乳等の小売業を営んでいた有限会社A(以下「本件会社」という。)から,平成16年から平成17年にかけて,4回にわたり融資の申込みを受け,いずれも被上告人にそれらの信用保証を依頼し,本件会社から保証委託を受けた被上告人との間でそれぞれ保証契約を締結して,本件会社に合計6930万円を貸し付けた。
借入金の借換え及び追加融資として5000万円の貸付け(以下「本件貸付け」という。)を適当と認め,同年12月11日頃,被上告人に対し,本件貸付けについて信用保証を依頼した。
本件会社は,平成20年12月26日,Bに対し,本件事業を譲渡した。
ところが、本件保証契約においても,契約締結後に主債務者が中小企業者の実体を有しないことが判明した場合等の取扱いについての定めは置かれていなかった。
本件会社は,平成21年6月,上告人を含む債権者に対し,破産手続開始の申立ての準備を始めた旨を通知し,その翌月以降,上告人に対する約定に従った弁済をしなかった。
にもかかわらず、北國銀行は平成21年1月9日,本件会社に対し,本件貸付けを行った。
この辺りどうしてそんなことがなされたのか、銀行の融資体制がどうなの?レベルの管理だったのでしょう。
とはいうものの、起こってしまった事件ですので、流れを見ていきましょう。
裁判所は、まず債務保証協会は本来の目的である牛乳販売業のために使われると思っていたから、その組織の目的である保証業務(信用保証協会法1条)を行ったと錯誤があり、企業実態がなければ債務保証契約は結ばなかったはずだと認めています。
金融機関は債務保証協会に、牛乳屋の事業を他社に譲渡して貸付先に実態がないと伝えなかったならば、本件免責条項にいう金融機関が「保証契約に違反したとき」に当たるとして保証債務の全部又は一部の責めを免れることができると解するのが相当である(前掲最高裁平成28年1月12日第三小法廷判決参照)。
として、結論は全員一致で
本件会社が中小企業者の実体を有することという被上告人の動機は,それが表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,本件保証契約の内容となっていたとは認められず,被上告人の本件保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである。
債務保証協会の契約は有効であるとしました。
第一小法廷判決
裁判長裁判官 大谷直人
裁判官 櫻井龍子
裁判官 池上政幸
裁判官 小池 裕
裁判官 木澤克之
でも、どうなんですかね。債務保証協会も銀行も定期的に保証先・融資先に訪問してませんか?私の知っているところでは、そうやってます。確かに、事業譲渡、破産手続き開始直後に借り入れを起こしているので、発覚しにくいのはありますが。まあ、実態ではなく法律しか見てないなという印象です。
しかも、破産手続き開始があれば両社ともすぐにわかりそうなものですが。このケースは、一般の視点で見れば両成敗にすべきものと思います。
平成28年12月19日 第一小法廷判決
12月19日は3つも大きな事件の判断が出たので、あまり扱いは大きくはないですが、結構重要な事件です。
日経新聞では以下のように説明しています。
「事業実体なし」融資後に判明、信用保証は「有効」 最高裁初判断
中小企業への融資後に事業の実体がないことが判明した場合、信用保証協会による返済の保証が有効かどうかが争われた訴訟の上告審判決が19日、最高裁第1小法廷(大谷直人裁判長)であった。同小法廷は保証が有効で、同協会が債務を肩代わりすべきだとの初判断を示した。
同小法廷は判決理由で「金融機関が相当な調査をしても、事後的に中小企業の実体がないと判明する場合はあり得る」と指摘。こうした場合に「一律に無効とすれば金融機関が融資をためらい、金融の円滑化を図る信用保証協会の目的に反する」と述べた。
事業の実体がない中小企業への融資の信用保証をめぐっては、地裁や高裁で有効か無効かの判断が割れている。最高裁が判断を示したことで、今後の訴訟や融資の実務に影響するとみられる。
問題になったのは、2009年1月に北国銀行(金沢市)が地元の牛乳小売会社に融資した5千万円。同社は融資直前に第三者に事業を譲渡して実体がないことを銀行に伝えず、10年に破産手続き開始を申し立てた。
北国銀行は石川県信用保証協会と保証契約を結んでいたため、同協会が焦げ付いた約4900万円を代位弁済した。その後、実体がなかったことが判明。同協会は「実体がないと分かっていれば保証しなかった」として全額返還を求めて北国銀行を提訴した。
一審・金沢地裁判決は北国銀行が牛乳小売会社に関する調査を怠っていなかったと認める一方、「信用保証契約の重要な部分に錯誤があった」として契約が無効とした。二審・名古屋高裁金沢支部判決も同様に無効と認めて同行に全額の返還を命じ、同行が上告した。
第1小法廷は「事後的に実体がないと判明する場合を想定し、無効とする条項を契約に盛り込むことができたはずだ」などとして、保証は無効にできないと判断。二審判決を破棄し、信用保証協会の請求を退けた。北国銀行が逆転勝訴した。
同協会は上告審で「保証協会は金融機関の調査を尊重しており、不正な制度利用のリスクは金融機関が負うべきだ」と主張。判決は「銀行が相当な調査をすべき義務に違反した場合には保証協会は債務を免れることができる」との見方も示した。
融資を受けた会社は、経営状態が厳しい特定の業種を対象とした信用保証制度を利用していた。
債務保証協会がなんなのかわからない人には、企業法務ナビの解説の方が分かりやすいかと思います。
これってどうなんでしょうか。北國銀行の重過失なんでしょうかね。というか、債務保証協会も右から左へ書類を流すだけのいい加減な仕事をしていたとみられても仕方ないでしょう。
まずは、裁判所の事実認定から見てみましょう。
北國銀行と債務保証協会は,昭和38年9月,約定書と題する書面により信用保証に関する基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。
「保証契約に違反したとき」は,債務保証協会は北國銀行に対する保証債務の全部又は一部の責めを免れるものとする旨が定められていた。
牛乳等の小売業を営んでいた有限会社A(以下「本件会社」という。)から,平成16年から平成17年にかけて,4回にわたり融資の申込みを受け,いずれも被上告人にそれらの信用保証を依頼し,本件会社から保証委託を受けた被上告人との間でそれぞれ保証契約を締結して,本件会社に合計6930万円を貸し付けた。
借入金の借換え及び追加融資として5000万円の貸付け(以下「本件貸付け」という。)を適当と認め,同年12月11日頃,被上告人に対し,本件貸付けについて信用保証を依頼した。
本件会社は,平成20年12月26日,Bに対し,本件事業を譲渡した。
ところが、本件保証契約においても,契約締結後に主債務者が中小企業者の実体を有しないことが判明した場合等の取扱いについての定めは置かれていなかった。
本件会社は,平成21年6月,上告人を含む債権者に対し,破産手続開始の申立ての準備を始めた旨を通知し,その翌月以降,上告人に対する約定に従った弁済をしなかった。
にもかかわらず、北國銀行は平成21年1月9日,本件会社に対し,本件貸付けを行った。
この辺りどうしてそんなことがなされたのか、銀行の融資体制がどうなの?レベルの管理だったのでしょう。
とはいうものの、起こってしまった事件ですので、流れを見ていきましょう。
裁判所は、まず債務保証協会は本来の目的である牛乳販売業のために使われると思っていたから、その組織の目的である保証業務(信用保証協会法1条)を行ったと錯誤があり、企業実態がなければ債務保証契約は結ばなかったはずだと認めています。
金融機関は債務保証協会に、牛乳屋の事業を他社に譲渡して貸付先に実態がないと伝えなかったならば、本件免責条項にいう金融機関が「保証契約に違反したとき」に当たるとして保証債務の全部又は一部の責めを免れることができると解するのが相当である(前掲最高裁平成28年1月12日第三小法廷判決参照)。
として、結論は全員一致で
本件会社が中小企業者の実体を有することという被上告人の動機は,それが表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,本件保証契約の内容となっていたとは認められず,被上告人の本件保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである。
債務保証協会の契約は有効であるとしました。
第一小法廷判決
裁判長裁判官 大谷直人
裁判官 櫻井龍子
裁判官 池上政幸
裁判官 小池 裕
裁判官 木澤克之
でも、どうなんですかね。債務保証協会も銀行も定期的に保証先・融資先に訪問してませんか?私の知っているところでは、そうやってます。確かに、事業譲渡、破産手続き開始直後に借り入れを起こしているので、発覚しにくいのはありますが。まあ、実態ではなく法律しか見てないなという印象です。
しかも、破産手続き開始があれば両社ともすぐにわかりそうなものですが。このケースは、一般の視点で見れば両成敗にすべきものと思います。