平成30(行ヒ)299 措置取消等請求事件 令和元年8月9日
死刑確定者が親族以外の者との間で発受する信書につき刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律139条1項2号所定の用務の処理のために必要とはいえない記述部分がある場合における同部分の削除又は抹消の可否(積極)
ニュースには出てこなかったので、裁判所の認定から見ていきましょう。
1 本件は,死刑確定者である被上告人が,被上告人宛ての信書の一部について受信を許さないこととして当該部分を削除した拘置所長の措置は違法であると主張して,上告人を相手に,同措置の取消しを求めるとともに,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。
賠償金云々は裁判を始めるための手続きなので、図々しいと思わないでください。死刑執行を待つ人が、拘置所外からの手紙を100%渡していないので、全部見せろと訴えたようです。
2 「死刑確定者処遇規程」16条は,死刑確定者に対し,面会及び信書の発受が予想される者の申告を求め,所管の統括矯正処遇官は,当該死刑確定者と上記申告がされた者との間における外部交通の許否の方針について所長の決裁を受けるものとする旨を定めている。所長は,同条に基づき,同年7月31日当時,被上告人の親族38名,弁護士14名及び友人1名について被上告人との外部交通を許す方針としていたが,Aは,被上告人の親族ではなく,所長が被上告人との間の外部交通を許す方針としているその他の者にも含まれていなかった。
基本的には、見せる見せないは所長権限ですが弁護士と相談の上、親族からの手紙なら見せようということにしていたようです。
3 刑事収容施設法139条1項各号に該当せず,同条2項により受信を許すべき事情も認められないが,本件信書のその余の部分については,同条1項2号に該当すると判断した。・・・削除後の本件信書を交付した。なお,削除とは,信書の一部を物理的に切り取ることをいう。
今回は親族以外からの手紙が届いたので法に基づいて見せないと所長は判断しました。全く見せないというわけではなく、不適切部分を削除して見せたようです。
4 平成27年8月3日から同月14日までの間の1日当たりの通数は,受信が249~548通,発信が350~505通であった。
5 被収容者が外部から受ける信書は,被収容者が発する信書と異なり,使用可能な筆記具及び用紙に制限がないため,その一部について受信を許さないこととして抹消する場合,抹消すべき部分を判読不能な状態にするためには,同一色の筆記具を用いて塗り潰すだけでは足りず,数種類の筆記具を用いて塗り潰すなどする必要があった。
無茶苦茶な量ですね。139条は以下の通りになります。
第百三十九条 刑事施設の長は、死刑確定者(未決拘禁者としての地位を有するものを除く。以下この目において同じ。)に対し、この目、第百四十八条第三項又は次節の規定により禁止される場合を除き、次に掲げる信書を発受することを許すものとする。
一 死刑確定者の親族との間で発受する信書
二 婚姻関係の調整、訴訟の遂行、事業の維持その他の死刑確定者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため発受する信書
三 発受により死刑確定者の心情の安定に資すると認められる信書
2 刑事施設の長は、死刑確定者に対し、前項各号に掲げる信書以外の信書の発受について、その発受の相手方との交友関係の維持その他その発受を必要とする事情があり、かつ、その発受により刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがないと認めるときは、これを許すことができる。
原審は129条に反しない範囲で削除すべきだとしました。
(信書の内容による差止め等) 第百二十九条 刑事施設の長は、第百二十七条の規定による検査の結果、受刑者が発受する信書について、その全部又は一部が次の各号のいずれかに該当する場合には、その発受を差し止め、又はその該当箇所を削除し、若しくは抹消することができる。同条第二項各号に掲げる信書について、これらの信書に該当することを確認する過程においてその全部又は一部が次の各号のいずれかに該当することが判明した場合も、同様とする。
一 暗号の使用その他の理由によって、刑事施設の職員が理解できない内容のものであるとき。
二 発受によって、刑罰法令に触れることとなり、又は刑罰法令に触れる結果を生ずるおそれがあるとき。
三 発受によって、刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとき。
四 威迫にわたる記述又は明らかな虚偽の記述があるため、受信者を著しく不安にさせ、又は受信者に損害を被らせるおそれがあるとき。
五 受信者を著しく侮辱する記述があるとき。
六 発受によって、受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき。
2 前項の規定にかかわらず、受刑者が国又は地方公共団体の機関との間で発受する信書であってその機関の権限に属する事項を含むもの及び受刑者が弁護士との間で発受する信書であってその受刑者に係る弁護士法第三条第一項に規定する弁護士の職務に属する事項を含むものについては、その発受の差止め又はその事項に係る部分の削除若しくは抹消は、その部分の全部又は一部が前項第一号から第三号までのいずれかに該当する場合に限り、これを行うことができる。
これに対して最高裁は
(1) 刑事収容施設法は,死刑確定者の信書の発受について,親族との間においては,これを許すものとする(139条1項1号)一方,親族以外の者との間においては,重大用務処理のため発受する場合(同項2号)又は発受により死刑確定者の心情の安定に資すると認められる場合(同項3号)にこれを許すものとし,それ以外の場合には,その発受の相手方との交友関係の維持その他発受を必要とする事情があり,かつ,その発受により刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがないと認められるときに,これを許すことができるものとしている(同条2項)。
刑事施設の長は,死刑確定者が親族以外の者との間で発受する信書につき,重大用務処理のために必要な記述部分のほかに,そのために必要とはいえない記述部分もある場合には,刑事収容施設法139条1項3号又は同条2項によりその発受を許すべきものと認められるときを除き,同条1項に基づき,同部分の発受を許さないこととしてこれを削除し,又は抹消することができると解するのが相当である。
・・・本件記述部分の内容は,時候の挨拶並びに被上告人に対する謝意及び激励であって,重大用務処理のために必要なものとはいえず,刑事収容施設法139条1項3号又は同条2項に基づきその発受を許すべき事情もうかがわれない。 結論 これを削除したことについて,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるとはいえない。
第二小法廷全員一致でした。
裁判長裁判官 三浦 守
裁判官 山本庸幸
裁判官 菅野博之
裁判官 草野耕一
当然ですね。それでも若干、時候の挨拶ぐらいはという気もしなくもないですが、諸外国では脱獄の暗号通信にも使いますので、本当に重要なところだけ、かつ親族にに限定しても悪くはないのではないでしょうか。