
今日の森は良い香りに満ちていた。
初めてかぐ匂いだった。
なんとなく緑茶を炒るような、そんな香りだった。
足元の美しい緑のコケはふかふかで、その上を歩くのはまるで雲の上をあるくようで気持ちが良い。
茸たちがあちこちに顔を出して賑わっていて、彼等が伸び上がる音がしそうなほどだ。(多分夜更けには音が聞こえるに違いない)
ビニール袋や籠に収穫物を一杯に詰めて歩く人達が通り過ぎる。
横目にどんな茸を採ったのか見ると、見たことはあるが食べた事の無い茸が籠にぎっしり詰まっている。
膨らんだビニール袋を両手に抱えた人の後を辿って見るとどんな茸を収穫したのかがわかる。

(ふうむ、この茸も食べられるのか。。。?ひょっとして間違えてなどいないのだろうな?)
茸を目指して移動してゆく人達を私はキノコ亡者と呼んでいる。
キノコ亡者は森の中をゆっくりと右に左にゆらゆらと、ひょいとしゃがんでは立ち上がって遠目には亡霊か壊れたからくり人形のように動く。
私もたまにキノコ亡者の仲間に入って"ゆらゆらひょっこり"を繰り返す。
一足ごとに下生えの細い枝がぽきぽきぱきぱきと乾いた音を立てる。
良い音だ。
緑の布団に美しい茶色や白のキノコが眼に鮮やかだ。
枯れ始めた羊歯、ツリフネ草の赤く染まった茎が美しい。
うつむいてうろついていると自分のいる場所が不確かになってくる。
明るい時間だから不安は無いものの、夜の森ならきっとパニックになるに違いない。もっとも夜中に森に来る事は無いけれど。。。
カメラを握る手がそろそろ冷たくなって、帰り道を探す。

Tubifera ferruginosa クダホコリ 今日の一番はこの変形菌







