数日前からの予想通り、あまり中身のない文科省副大臣等と神戸市教委幹部らとの面談が行われたようです。一応、下記のとおり、ニフティからニュース配信がなされています。
教諭いじめで副大臣らに謝罪 2019年10月15日 12時24分 産経新聞(ニフティニュース配信)
https://news.nifty.com/article/domestic/society/12274-436131/
また、「こういうこともありうるだろうなぁ」と思って、すでに何度か、自分のブログにも記事を書いています。そのリンクも貼り付けます。
もしも私が調査・検証作業を担当するなら&文科省の副大臣等は何をするために来るの?(神戸・須磨の教員間いじめ問題関連)
https://blog.goo.ne.jp/seisyounenkaikan/e/71f537a35fe0a3c23f816cb0a6fe0182
いま、神戸の学校でやるべきこととは?(教職員間いじめ問題関連)
https://blog.goo.ne.jp/seisyounenkaikan/e/858cae9d1fbbf6e1ca2d020332eb86a8
神戸市の小学校で起きた教職員間「いじめ」の問題について
https://blog.goo.ne.jp/seisyounenkaikan/e/6a41a634011c59d48a8926969539709d
さて、このニフティニュースの記事を読んでいただければわかりますが、実際に文科省の副大臣らが神戸市教委に伝えたのは、「子供たちの指導を行うべき教員がこのような事件を起こすとは信じがたい。原因究明と事実解明を行い、厳正な処罰を含めた対応をしてほしい」ということのようです。
もちろん、記事になっていない部分で、もっと突っ込んだ要望を出している可能性はあります。ただ、この記事で文科省副大臣が言っている程度のことであれば、神戸市教委としては「言われなくてもわかっている」ということでしょう。
一方、この記事についている画像を見て、「ああ、これが文科省のやりたかったことか」とあらためて気づきました。文科省の副大臣らに対して神戸市の教育長らが頭を下げて、謝罪している写真をマスコミが撮って、ネット配信しているんですよね(もともとは産経新聞の記事を、ニフティニュースとして流しています)。
この画像を見て率直に私が思ったのは、か弱き庶民をいじめる「悪代官」を、「ご公儀」が成敗しにきたという絵柄です。
ここで「文科省がきつく、神戸市教委を叱りおいた」という絵柄をつくって、マスコミとSNSなどを通じて流布すれば…。実際はもともと神戸市教委が関係教員の処分を考えていても、「文科省がやらせた」みたいなかたちになって、「手柄」になりますよね。また、世論的にも「文科省、よくやった」と「拍手喝采」です。
ただ、ある意味「ご公儀」は「悪代官」に「かような不届き者、始末せい!」とだけ言い残して、去って行ったとも言えるわけです。よく考えてみると、タチ悪いですね、この「ご公儀」も。そう考えたとき、簡単に拍手喝采、できますか?
というのも、この「ご公儀」は「かような不届き者」さえ「始末」しておけば、あとは「悪代官」に対して何か具体的な改善をしろとは言っていない。つまり「トカゲのしっぽ切りで逃げろ」と言って帰ったようなものです。「それって、どうなんだ?」「文科省自身は何も責任を負わないのか?」と言いたくなりませんか?
つまり、この記事から読み取れるのは、文科省の副大臣らは神戸市教委側に、関係教員の厳正な処罰「だけ」を求めて帰っただけだ、ということ。
文科省としても、今回の神戸市教委側との面談を通して、たとえば被害にあった教員に対して謝罪し、回復に向けてのサポート体制を構築することを約束するとともに、本気で当該の学校や神戸市教委の持っているさまざまな課題を改善し、学校への信頼回復に向けて全力で取り組むことをバックアップすることを約束して帰ることだってできたはずですが…。
でも、少なくともこの文科省の副大臣らには、そういう地道な教育課題の改善や被害にあった教員への謝罪・回復に向けた支援等々には「まるで関心がない」ということを、この記事からは読み取れます(先述のとおり、記事になっていないところではもっと他の事も言っていた可能性も否定できませんが)。
ということで、私としてはこのニフティニュースの記事どおりのことを文科省が言っただけだとすれば、予想通り「なにしに来たの、文科省?」というしかない結果になった、ということです。
なお、このか弱き庶民をいじめる「悪代官」を成敗しに来た「ご公儀」というストーリーづくりは、実はこの間、マスコミ報道とSNSのリンクで、着々とつくられていたなあ、という印象があります。なにしろ以下のとおり・・・。
・神戸市垂水区の中学生いじめ自死の再調査報告書が出た(今年4月)
・そのいじめ自死の再調査開始前に発覚したメモ隠蔽問題などをふまえて、神戸市教委の組織風土改革のための有識者会議の報告書が出た(今年9月)
・その有識者会議報告書がでる少し前に、「危ないことはもう止めてほしい」という趣旨での運動会の組体操問題に関する市長のツイッター上での発言が流れた(今年9月)
・このようなかたちで「神戸市教委や学校は市長の要請になかなか応じない」「神戸市教委も学校も不祥事がいろいろ起きている」という先行的なイメージがあるなかで、例の教員間いじめの報道があって、被害にあっている場面の動画等々がSNS上で拡散された。それが10月初めのこと。
・この10月初めの時期というのは、大津中2いじめ自死事件で、中学生の子どもが亡くなった時期とも重なる。となると、マスメディアは7年目の節目の報道を何らかのかたちで行う時期でもある。そこへ、教員間いじめの報道を投げ込んだ感がある。
・また、ちょうどこの10月初めのこの時期に、大津中2いじめ自死事件以後、いじめ防止対策推進法の制定に動いた超党派議連の勉強会が、今後の法改正をにらんで動き始めるという報道もあった。こことも、教員間いじめの報道がリンクしているようにも見受けられる。
・ちなみに、神戸の話やいじめ防止対策推進法の話と直接関係あるかどうかわかりませんが…。宮城県石巻市の大川小学校の訴訟のことで、原告である遺族側の主張を認めるかたちでの最高裁判決が先週出ました。
このような次第で、もしも「10月初め」のこのタイミングを意図的に狙って、誰かが教員間いじめの問題をマスメディア上で取り上げさせるべく動いたとしたら・・・。そんなことすら、私は脇から見ていて、想像してしまいました。もちろん、過剰な想像かもしれないのですが。
ただ、このタイミングで教員間いじめの問題が報じられて、か弱き庶民をいじめる「悪代官」のようなイメージが神戸市教委に付けられ、それを成敗しにくる「文科省」という構図がつくられた。その構図に合わせて、文科省が神戸市教委を成敗する絵柄をつくって、画像にして配信する。そして、それを見た人が何らかの溜飲を下げているとしたら…。これこそ、まさに「劇場」型の政治ですね。
そして、その「劇場」に、ネット右翼系の人びとはここぞとばかりに市教委を攻撃し…。また、左派やリベラルな人々は「あの組体操への対応に象徴される市教委が~」と、ネット右翼系の人とは別の論理で教育委員会を攻撃し…。気づけば、日頃は別の問題では意見の対立しあう両者が、この問題ではとにかく「市教委が~」という一点で合流し、マスコミ報道やSNSでの発言を加速していく、と。この数日、そんな流れが形成されていたように思います。
私はその盛り上がりがたいへん気になって、この間「嫌だなあ」と思ってブログ等々を書き綴っていたのですが。要するに両方とも「市教委憎し」みたいな感情を駆り立てられていた、という風に見えた次第です。なにしろ、このような何かを「憎し」と思って、多方面から負の感情を駆り立てられる流れって、気を付けておかないと全体主義的な風潮へとつながりかねないですから。
でも、このような「劇場」での盛り上がりが、当該の学校や神戸市教委の抱えてきたさまざまな問題を解決するのかどうか。また、被害にあった教員への謝罪や回復に向けてのサポートにつながるのか。当該の学校の再生に向けた地道な取り組みにつながるのか(ここには、その学校に通う子どもや保護者たち、地域住民のみなさんへの謝罪と信頼回復も含まれます)。こうした本質的な課題への対応については、「おそらく、この劇場の盛り上がりは、その本質的な課題の解決とは、直接にはつながらないでしょう」というしかありません。
むしろ「劇場」への対応よりも、以前、このブログにも書いたような地道な、なおかつ本質的な課題解決の作業を、学校現場レベルで数年かけてでもやりぬくこと。このことのほうが、被害にあった教員への謝罪や回復に向けてのサポートにもつながるのではないでしょうか。少なくとも、私はそのように考えます。どんな対応が本質的な課題解決につながるかは、この間に書いた私のブログ記事(上記3本)を参考にしてください。
そして、同じ「劇場」をつくるのであれば…。個人的には時代劇のような「悪代官」を「ご公儀」が成敗する物語ではなくて、せめてプリキュアの物語にしてほしいです。プリキュアの物語には「悪いことをする側にはそれに至った事情がある」と考え、敵と和解し、敵を改心させて味方にしていく話が何度も登場します。今回の件も、たとえ一定の懲戒処分はやむなしとしても、加害教員の事情・背景を探り、反省をせまっていくようなアプローチも必要かと思うのですが。
ということで、そろそろ「悪代官」を「ご公儀」が成敗するという「劇場」は、ここでいったん終わりにしましょう。また、ここからは、たとえば被害にあった教員への謝罪と回復に向けたサポート、当該の学校の教育活動の再建と信頼回復に向けての地道な取り組み(先述のとおり、ここには当該の学校の子ども・保護者・地域住民への謝罪等々も含まれます)、そして加害教員への事情聴取と反省に向けた取り組み、そして懲戒処分等々、ひたすら「実務」にこだわった取組みをすすめてほしいものです。マスコミ報道も、そういう「実務」をアシストする方向へ、「劇場」づくりから流れを転換してほしいと思います。