できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

「公的良心の喚起者」ということば(神戸での教員間いじめ問題関連)

2019-10-29 23:28:10 | 受験・学校

兵庫県川西市の子どもの人権オンブズパーソン条例の第7条(オンブズパーソンの責務)の第1項では、オンブズパーソンが「子どもの利益の擁護者及び代弁者」及び「公的良心の喚起者」として、子どもの人権に関する相談に応じたり、子どもの人権案件の調査等を行ったりするなど、「公平かつ適切に」職務を遂行することを定めています。

この「公的良心の喚起者」について、『ハンドブック子どもの人権オンブズパーソン』(川西市子どもの人権オンブズパーソン事務局編、明石書店、2000年)では、次のように説明しています。

「今日の大きく変化する社会のなかで、おとなやおとな社会が子どもたちの現実に的確に対応していくには、人格を持つ個人として子どもを尊重するまなざしを、まずおとな自身が持つことが必要だといえます。子どもをおとなに服従させ従属させる存在としてみたり、おとなの目的のための手段のように子どもをみなすことでは、とりわけ今日の社会においては、子どもの現実を受け止めることも、子どもの最善の利益を求めていくことも、きわめて困難であるといえます。

ここでいう「公的良心」は、子どもへの、このようなおとなのまなざしの根幹にあるものとして述べるところのものであり、対等な人間として共感的に子どもにかかわろうとするなかで、おとな社会が本来的に保持し共有しうる良心と呼べるものです。

したがって「公的良心」は、あくまでも子どもの最善の利益を図るために、主としておとなやおとな社会に求めるところのものであって、オンブズパーソンは、これを条例第1条(目的)および第2条(子どもの人権の尊重)の精神に根ざして、広く喚起する情報発信者であるといえます。」

なんだか、なにがいいたいのか、よくわかるような、わからないような…。そんな文章ですね。

実は私も川西オンブズ在職中は、正直なところ、この「公的良心の喚起者」の説明は「よくわからない」と何度思ったかわかりません。

ただ、川西オンブズで就職してから20年、退職してからだともう18年たちますが、最近になってこの「公的良心の喚起者」という言葉の意味が、なんだか自分の身に染みてきたなあっていう実感があります。

それは具体的に言いますと…。たとえば、今回の神戸・須磨の小学校でおきた教員間いじめ事件でいうと、「加害教員を一日も早く処分せよ」みたいな声が盛り上がるなかで、おとな社会の誰もが「その学校に通い続けている子ども」の今後のことを忘れているようなとき。そんなときに、おとな社会が勝手に加害教員の処分の話で盛り上がっていることを戒め、もう一度「いまもなおその学校に通い続ける子ども」のことに思いをはせ、そこから学校の再建策をいっしょに考えようと呼びかけるような営み。それがまさに「公的良心の喚起者」としての営みではないか。そんな風に、私、思うようになったのです。

さて、残念ながら本日、例の神戸市長が提案した市職員の分限処分条例改正案が、市議会本議会で可決されてしまいました。あれだけ「的外れだ」とか、「他の市職員へのおどし、いじめだ」とか、いろんなことを私はこのブログで言い続けてきましたので…。この結果はたいへん、悲しいというか、残念だというしかありません。

ただ、直接、その市議さんからも連絡をいただいたのですが、ある会派の市議さんたちは、私の書いたこのブログの記事を読んだりして情報を集め、市長の提案する条例改正案に対して、堂々と反対意見を述べたのだそうです。それも「加害教員の処分ばかり議論しているが、本来は当該の学校に通う子どもや保護者たちの意見を聴いて、それに即して学校の再生をはかるべきではないのか?」という意見を述べられたとのこと。これを聴いた市長や他の市議さんたちがどういう反応を示したのか、知りたいところです。

あるいは、実際に条例改正案が可決されたものの、付帯条項付きだそうです。付帯条項がつくということは、一応はこの条例改正案を可決するが、でもその内容にいろいろと問題があって、そのままでは使えない、もっと検討すべき事項があるということを、市議会として確認をしたということです。

「だったら、可決成立させるなよ…」と、正直なところは思いますが。

でも、先の反対意見の存在といい、付帯決議がつくことといい、「今回限りのことだから…」「今回の事件は異例のことだから…」みたいなことで、なんとか条例改正案を急いで通そうとした市長に対して、市議会としてかなりクギを刺したということだけは言えます。また、少なくとも「条例改正案は通したけれども、道義的にはもはや、ボロボロ」という状態に神戸市長、陥ったのではないかと思います。

そして、このプロセスのなかでもわかるとおり、実は市議さんたちの間にも子どもたちのことを思う「公的良心」は潜在的にあって、それがいま、何らかの形で花開きつつあるのではないか…と思ったりもします。あとは、市議さんたちの「公的良心」が今後、どこまで、どんな形で花開くのか、それをしっかりと見守り、よりよく花を咲かせることができるようにお手伝いしたいと考えています。また、今回、何かの事情で反対票を入れられなかった会派の市議さんたちも、ここからご自身なりに「公的良心」を花開かせて、あらためて「子どもたちにとって何が最善か?」を考えていただければと思います。

と同時に、実は今日、ある神戸市内の保護者の方からお手紙を頂戴しました。その方は私のブログを読まれていた方で、神戸・須磨の小学校で起きた教員間いじめ事件をめぐる議論に対して「何か、この流れはおかしい、ちがう」と思っていたそうです。でも「何かおかしい、ちがう」と思っていたことに対して、ご自身のことばではうまくいえない。そんなときに、私のブログを読んで「そうそう、これが言いたかったこと」と思われたとのことでした。

こんな感じで、きっとこの保護者の方以外にも、私のブログを読んで「そうだ、こっちが大事なことなんだ」と思われた方が何人かいらっしゃると思います。そういう方々のなかにも、まさに「公的良心」のタネは眠っていて、それが今、花開こうとしているのではないか…と思います。

以上のような次第で、今後もこの教員間いじめ事件のこと、垂水区の中学校でのいじめの重大事態再調査のこと等々、神戸の学校で起きていることを含めて、引き続き、私なりに「公的良心の喚起者」としての道をいろいろと模索していきたいと思います。今後とも、どうぞよろしくおつきあいください。

なお、あす以降も神戸での教員間いじめ事件のこと等々に関連して、できるだけ毎日、ブログの更新をしていきたいと思います。ただ…。今週はあさって10月31日から学園祭の時期に入って、留学生や日本人学生のサポーターとともに模擬店を出す予定になっていまして…。もしかしたら2~3日、更新が途切れるかもしれません。「そういう事情だ」とご理解ください。



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起きた教員不祥事よりも、そのあとの「対策」の方が「危険」なこともある。

2019-10-29 06:29:44 | 本と雑誌

私がうちの大学の教員になって間もないころに、大学院時代の指導教授+先輩たちとの共同研究の成果をまとめて出した本。この本の読書会を続けてきてもう4年になるんですが…。いよいよ今日で終わります。

その本は、『日本近代公教育の支配装置―教員処分体制の形成と展開をめぐって―』(岡村達雄編著、社会評論社、2003年(改訂版))です。今はもう古本屋などでしか入手できないと思います。

タイトルからもわかるとおり、この本は近代日本の教員処分、特に小学校教員の処分に関する歴史的な研究の本です。

この本の「ネタ」集めで、私は主に1920年代以降の敗戦前の教員処分の事例を古い教育雑誌・教育新聞などから拾ってくるという作業をしていたのですが…(それが大学院生時代の研究課題のひとつです)。

そのときに、たとえば今でいう不倫をしてかけおちをする教員とか、校内で教員間の紛争や校長や教員との紛争が起きて、「ケンカ両成敗」で双方とも転勤した事例とか。

あるいは校長をいじめてやろうと思って「御真影」や「教育勅語」を校舎の片隅に隠した教員とか。教え子を殴って保護者から「訴えるぞ」と言われた教員とか。

そういう事例を数多く、古い教育雑誌や教育新聞の記事で見聞きしました。

なので、例の神戸・須磨の一件についても、私はこの本が対象としたくらいの長い教員の歴史的な枠組みで見たら、「そんなことは、起きてほしくはないけど、どこかで起きる」くらいにしか思ってません。

むしろ、こういう教員不祥事のあとに「同じことが二度とあってはならない」といって、行政が教員処分体制を必ず強化する。そっちの方が「タチが悪い」と。なにしろ、その強化された教員処分体制をつかって、「赤化」教員の追放・処分なども行われていったり、教員の思想転向を迫っていったりもするわけですから。

あるいは一方で不祥事を起こして問題視される教員が居れば、他方で教員「美談」がつくられる。それもまた「タチが悪い」と。なにしろ1930年代あたりから、たとえば学校が火事になって焼けたりしたときに、自ら大やけどを負っても「御真影」や「教育勅語」を取りにいった校長や教員は、当時の新聞などでの「美談」の対象になるのですよね(もちろん、それ以前からも何人か居たのですが)。

なので…。私が今、神戸の一件でいろいろと発信していることのウラには、こういう大学院生~(川西オンブズ)~大学教員初期の研究成果がある、とご理解ください。



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