できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

大阪市教委「重点行動プラン」への意見(3)

2008-09-06 09:06:20 | 受験・学校

http://www.city.osaka.jp/kyouiku/press/h20/press080731.html

さっき(1)(2)を掲載した、「大阪市教育改革プログラム・重点行動プラン2008-2011(案)」(以下「重点行動プラン案」)への意見の続きです。これで3回目で、一応、このテーマに関する記事は今回の分でおわりです。(前回と同様、誤字なども適宜あるかと思うのですが、そのまま、引用しておきます。また、目立つように、意見募集で書いたことは黒字にしておきます。)

くり返しになるのですが、私はこの「重点行動プラン案」を読んで率直に思ったのは、「これを書くように指示された大阪市教委のスタッフは、かわいそう」ということ。

これは推測でしかないのですが、政府レベルの教育改革と、大阪市の行財政改革の枠組みに大きく制約されて、市教委として独自の施策を打ち出そうと思っても、「できることには限界がある」というのが、たぶん、これを書いたスタッフの率直な気持ちではないのかな? 

あるいは、これを書いたスタッフ自身が、ホンネのレベルでは、「教育が大事だの、学力向上が必要だの、徳育の充実だの、いろんな人たちがいろんなこと言って、大阪市教委レベルの制度や施策を変えるのはいい。だが、それがどんな結果を招いているのか。今までいろんな改革をした結果、学校や家庭、地域社会がどうなっているのか、自分らの目で一度、確かめてみろよ」と、書くように指示した側に言いたかったのではないか。(ついでにいうと、これと同じことはあの「教育非常事態宣言」を出した大阪府知事と、その意向を受けて、教育改革の担い手として、大阪府の行政や大阪府教委に送り込まれる人びとにも、私なら言いたいことですが。)

そんなことをふと、「重点行動プラン案」を読みながら、私は思ってしまいました。そして、この「重点行動プラン案」が実施されたあとの学校の教員や保護者、子どもたち、住民のみなさんはどうなるのだろう・・・・と、いろいろ、心配になってきました

<以下、前回、前々回の続き>

(12)「キャリア教育の推進」についても、これが職場体験・見学や、企業派遣の外部講師による講演程度で終わるのであれば、今までやってきたのとほぼ同じであり、これ以上、あまり効果は期待できないように思う。

 むしろ今、職業観や勤労観の育成にとってほんとうに必要なのは、働く人々の持つ諸権利についての学習であったり、就労に関する法的手続き等に関する学習ではないのだろうか。

 そのことは社会保障に関する権利学習や、政治・経済のしくみに関する学習、つまり、社会科や公民科(高校)の学習、総合的学習の充実ということともつながるものであると思うのだが。

(13)「高等学校の特色化」であるが、これは大阪府立高校の改革とも関連付けながら論じなければならないはずである。公立高校に進学を希望する大阪市内の中学校卒業者が、すべて大阪市立の高校に進学するとは限らないからである。

 だから、ここで述べられている高校改革の内容は、ある種うがった見方でもあるのだが、大阪市立高校、特に職業系高校や定時制高校の「再編・合理化」計画のように見えてしまう。

(14)「さまざまな社会教育資源の活用」であるが、これは先に(9)や(10)でも述べたとおり、「図書館、美術館・博物館、青少年施設等、数多くの社会教育・生涯学習施設を有しており、本誌は豊かな人的・物的資源に恵まれたまち」だという、大阪市教委の現状認識自体が問題ではないのか。

 青年センターや野外教育施設の整理・統廃合案が出されたり、青少年会館・児童館・トモノスが廃止されたりする状況のなかで、「よく言うよ」と思うのは私だけだろうか。

(15)「家庭・地域の教育力向上」についてであるが、「家庭教育に関する学習機会の充実」等については、こども青少年局所管の事業との連携・調整が必要ではないのだろうか。

 また、現在、市教委のどの部局が、どのような形で、家庭教育充実に向けての諸施策を責任もって担当するのだろうか。

 ちなみに、いまもなお社会教育法上、学校と家庭・地域の連携に向けての取り組みをおこなうのは、社会教育に関する国・地方公共団体の仕事である、と理解することが可能である(第3条)。

 さらに、「家庭学習の教材の開発・活用」とか「家庭学習の習慣化」以前に、子どもの養育にさまざまな課題を抱える家庭への支援施策の充実が必要ではないのだろうか。

 そのことは、「子どもをとりまく様々な課題への対応」というところで、「児童虐待の防止」という取り組みが挙げられていることにもかかわる。

 虐待のように、起きてしまった悲しい出来事の「早期発見・早期対応」の前に、子どもの養育にさまざまな課題を抱える家庭に対して、たとえば、スクールソーシャルワーカー活用事業の利用による家庭支援とか、保育所の取り組みや各種の子育て支援施策など、こども青少年局の事業からの積極的な支援が行われる必要があるとも思うのだが。

(16)「学校・家庭・地域が一体となった教育コミュニティづくり」であるが、はたして「はぐくみネット」がどこまで有効に機能しているのだろうか。

 すでに平成14年度から先行的に実施してきた小学校区があるのなら、そろそろ先行実施の事例などをターゲットにして、その成果と課題を検証すべき時期にさしかかっているのではないか。

 それ抜きに、全市的に「機能充実」といったところで、あまり説得力がないように思う。

 また、そういうことをこの「重点行動プラン」づくりに先立って行うことが、市教委がくりかえしこの文書でつかう「PDCA」のサイクルの出発点にあるべき取り組みではないのか。

(17)この「重点行動プラン」には、ところどころに、すでに先行的に他自治体で取り組まれているような教育改革の事例(たとえば大学生等対象の教員養成講座など)が盛り込まれているように見受けられる。

 だが、その参考にした他自治体での取り組みの成果と課題について、大阪市教委として独自の視点からの検証・検討を行ったのであろうか。あるいは、他自治体での先行的な取り組みに対して、批判的な意見や問題提起などは出ていないのであろうか。

 そういった点を十分に精査してこの「重点プラン」を作っているであろうことを、私としては切に願う。

(18)最後に、この「重点行動プラン」は、どう読んでもせいぜい「学校改革と、これをささえる家庭・地域社会、教育行政の改革プラン」にしか見えない。

 教育行政の仕事のなかには、社会教育・生涯学習や文化振興という仕事もあるはずなのだが、そこの部分では、大阪市教委はどのような改革を行い、どのような「重点プラン」をつくろうとしているのであろうか。

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